史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト   作:紅河

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追記 12月15日 一部、台詞変更。


BATTLE.49 青年の信念

「黒鉄一輝君、君は……もう既に、剣術をマスターしてると言っていいね。体術や身体能力、経験、気に関してはまだだけど、剣術だけで言えば、その極みに近付いている」

 

 彼を見据え、言葉を放つ。

 憧れの人物からの賞賛に、嬉しさと驚きが身体の中で渾然一体になる。

 それと同時に他者に自分を認められたという何よりの瞬間でもあった。

 

「え!?どういうこと?」

 

「真琴さん、白浜さんの言ってることってホントなんですか!?」 

 

「ああ、事実だ。しかも一輝は特定の誰かに教わったわけでも、師事をしているわけでもない、ほぼ独学だ。独学で彼処まで到達している」

 

 

 その事実に〝黒鉄一輝〟という男の実力を改めさせられた。

 

「君くらいの歳になると、一つ上のレベルに進む武術家なんてポンポンと出てくるものさ!アッハッハ!」

 

 ただ一人、兼一が笑いだす。

 

「白浜さん、笑ってますけどこれって凄い事ですよね?」

 

「ええ、多分ね」

 

 アリスがそれに肯定する。

 

「僕には才能はありませんでしたから「魔導騎士の才能、だね?」」

 

 一輝が言うまでもなく、兼一が遮る。

 

「え!?」

 

「マコト、白浜さんに話したの?」

 

「いんや?俺は何も?」

 

「僕も伐刀者を弟子に持つ者として、多少は詳しいつもりだよ。けど新宮寺さんや、君達ほど詳しいわけじゃない。だけどそんな僕でも分かる、君には魔導騎士の才能はない」

 

 兼一はハッキリと口にする。

 才能はないと・・・。

 

「そう、です。僕にはありませ「けど!君には武術家のとしての才能がある」」

 

 兼一がまた、遮る。

 しかし、今度は誉め言葉のようだ。

 

 

「しかも、一部の人間にしか真似できない技もあるみたいだね」

 

「きっと、あれのことですよね?」

 

「そうよね??マコト」

 

「俺に確認すんな。お前達が考えてることで合ってるから」

 

「戦いの最中、それに気付いたというの?」

 

「技も使ってないですよね?」

 

「師匠は特別、人間の思考を読み取るのに長けてる。これは推測だが、一輝と握手した時から感付いてはいただろうな」

 

 その真実に驚きを隠せない、ステラ、珠雫、アリスの三人。

 驚くのも無理はない。普通に考えて握手だけでここまで読み取るなんて有り得ないことだ。

 

「そ、そんなに早く!?」

 

「あぁ。多分な」

 

「真琴ー!それであってるよー!」

 

 大声で此方に話し掛ける兼一。

 

「へぅえ!?」「あら・・・!」「う、嘘でしょ!?」

 

「ハハ、やっぱ師匠には聞こえてたか」

 

「い、今、私達が会話してた内容・・・」

 

「全部聞こえたっていうの?」

 

 珠雫が言った。

 

「そういうもんなんだよ、達人級(マスタークラス)はな。俺らの常識は一切通じない」

 

 もう少し詳しく言うと、兼一達と真琴達がいる位置からは数メートル離れている。

 真琴を含む四人は壁際に居るのだから。

 しかも、そこで小声で会話していたのだ。聞こえるのはどう考えてもおかしい。

   

「いや、しかしその歳でよくここまで辿り着けたね。本当に凄いよ。一輝君」

 

「・・・僕、一人ではこれませんでしたよ」

 

 一輝の目には何か、秘めているのが見えた。

 兼一は〝それ〟を知っている。

 〝それ〟を持って、ここまで生き残れてきた。

 その〝何か〟で数多の武術家を屠り、人を変え、友を作り、家族を作った。

 それが『白浜兼一』の生きてきた証。

  

 

「・・・何かあるのかい?」

 

「僕がここまでこれたのは、貴方の弟子である真琴と切磋琢磨してきたから。ステラや珠雫、大切な人がそばにいてくれたから・・・。

 

  そして、ある人に言われた、〝自分を諦めるな〟って言葉。それがあったからここまでこれた、だから貴方とこうやって対峙出来てる。偉大な貴方の前に立てている!」

 

 その奥の瞳には熱く燃え盛る炎が・・・!

 嵐の中、決して倒れない一本の大樹が・・・!

 それは、白浜兼一が良く知っているモノ。

 それ無くして、白浜兼一は語れないから。

 

「・・・それが、君の〝信念〟なんだね」

 

「はい!」

 

 青年の力強い肯定。

 先を行く者として、兼一の答えは決まっている。

 

「なら、その決意、僕に見せてくれ!」

 

「行きます!」

 

 そこから、長い攻防が続く。

 一時間?それとも二時間だろうか?

 一人の武術家と一人の伐刀者の戦いは長期戦を余儀なくされた。

 

 かたや、剣戟の嵐。

 かたや、回避の連続。

 

 何度となく行われた。

 レベルは果てしなく離れている。

 弟子クラスと特A級の達人級(マスタークラス)

 弟子クラスが達人クラスに勝負を挑むというのは自殺と同じ。

 だが、これは組み手。命の危険性はない。兼一は活人拳の武術家。

 己の命を賭して他者を活かすのが活人拳の理だからだ。

 

「ぐぅ・・・今のはいい一撃だ。危うくかするところだったよ!」

 

 一輝がトップスピードを最大に、兼一へ己の技を打ち放つ!

 それは、❮第七秘剣―雷光❯。

 相手が見えない速度で刀を振るうという速度重視の攻撃で一輝のオリジナル剣技の一つ。

 兼一に最初に見せた、蜃気狼もその一つだ。

 雷光で兼一の左腰辺りから、右肩へ狙ったが、兼一に躱されてしまう。

 

「イッキの連撃がここまで当たらないなんて・・・・」

 

「ええ、完璧に避けられています・・・。でも・・・」

 

「でも?」

 

 珠雫の言葉にアリスの頭には疑問符が浮かぶ。

 

「お兄様、凄く嬉しそう・・・」

 

「ニヤニヤ、笑ってるわ・・・。ホント、男ってば・・・」

 

「仕方無いさ、ああいう生き物なんだから」

 

 

 

 

 

 

「(ここまで来たけど、でももう体力の限界だ・・・!)」

 

 長期戦の影響か、一輝の体力が尽きかけていた。

 しかし、お相手の兼一にはその様子はない。更に付け加えるとするならば、汗一つかいていなかった。

  

「(ラストスパートをかけるにはここしか・・・!仕合までの時間も考えて、あれは使えない、なら!!)」

 

「ハァ!!」

 

「こ、これは!!(この激しい気当たりは、やはり❮動❯の気!)」

 

「イッキ!!」

 

「どうやら、勝負をかけるようだな」

 

 脳のリミッターを外し、感情を爆発させて闘う❮動❯の気。謂わば、危険な獣を身体に飼っていると同義。

 一歩間違えれば、その()が外れっぱなしになり、人とは呼べない化物と化す。それが❮動❯。

 

 一輝は切り札である、〝一刀修羅〟を編み出したと同時にこの動の気にも触れることとなった。

 脳のリミッターを外すことは決して容易ではない。兼一の妻、風林寺美羽でさえ、それをコントロールするのに兼一の力添えが無ければモノに出来なかった。

 だが、この青年には自分自身を諦めないという信念しかなかった。いやそれだけがあった。諦めないということだけが、この動の気を有するに至ったのだ。

  

「(兼一さん、貴方は本当に凄い人だ・・・。戦ってみてそれが分かった。この人の強さは力強い信念とそれを支える大切な人、そしてなによりあふれでる優しさからくるもの・・・。

 この人に勝てないことは僕が一番分かっている!だからせめて、一矢報いたい!)」

 

 一輝がまたしても先に動く。

 最初に見たときよりも、もっと速く相手に突撃する。

 それは一筋の閃光のように・・・。

 

「(この人に勝つにはもう一度、あの手を!)」

 

 すると、一輝は跳躍する。

 最初に仕掛けた攻撃とと同じ様に高く跳ぶ。

 

「だ、駄目よ!またカウンターがふぐっ!・・・」

 

「黙って見とけ」

 

 真琴がステラの口を手で塞ぐ。

 

「(何か思い付いたようだね、なら迎え撃つ!)」

 

「(技が劣っているなら、その先へ!誰も辿り着けない、僕だけの技の先へ!!)」

 

 隕鉄が兼一、目掛けて振り下ろされる。

 

「まさか!これは!」

 

 一輝の身体がぶれ始めたかと思うと、その身体が二つに分身し兼一へ襲い掛かる!!

 

 

「一輝め、蜃気狼を土壇場で進化させやがったな!」

 

「ハァ!」

 

 コンマ数秒後に一輝の二太刀目が振り下ろされる。

 兼一も驚くこの虚実は、人の反射神経を逆手にとった技だ。相手の優れたセンサーが有していればいるほど、技に引っ掛かってしまう。それが虚実。それが、一輝の❮第四秘剣―蜃気狼❯。

 ステラ達には決まったと確信する。

 

「・・・❮第四秘剣―蜃気狼❯!」

 

 二つの分身はカウンター攻撃によって梅雨と消えた。霧のように・・・。

 

 そして、兼一の死角へ・・・。

 

 

 渾身の突きが兼一の身体へ一直線!!吸い込まれるように、ぐんぐんと延びてゆく。

 

 

 あと、数メートル。

 あと、数十センチ。

 

 あと、一歩というところで兼一がスッと振り向き、その腕を掴みとる。

 

 身体と身体が接する超至近距離にまで近付く。だが、健闘虚しく、隕鉄は兼一の右頬を抜け、一輝の腹部には蹴りが入っていた。

 

「実に惜しかった。二つの分身が虚だったとは、恐れ入ったよ・・・。だけど、少しばかり目に頼りすぎてたね」

 

「そこまで!勝者、梁山泊〝白浜兼一〟!!」

 

 黒乃の無慈悲なゴングが会場に広がる。

 しかし、負けたというのに一輝は何処か満足気だった。

 

「良い組手をありがとう、黒鉄一輝君」

 

「いえ、こちらこそありがとうございました!貴方とこうして戦えたなんて夢のようです・・・。❮いつかきっと❯貴方に追い付きます、その時はまた戦って頂けますか?」

 

 ❮いつかきっと❯

 この言葉につい、自分を重ねてしまう。

 弟子だったあの頃に・・・。

 

「ああ!勿論だとも!!ここまで出来るとは思わなかった!その信念を忘れずに、これからも自分の道を迷わず進んでくれ」

 

「ハイ!」

 

 二人は会った時と同じ様に堅い握手を交わした。

 

「お疲れ様、イッキ!」

 

 終了したのを確認し、皆が二人の元へ近付いてくる。

 

「お疲れ様です、お兄様。これタオルです」

 

「あぁ、ありがとう珠雫!」

 

「あれが、達人級の実力なのね・・・。一輝がまるで赤子のようだったわ・・・」

 

「良い経験になっただろ?」

 

「ウフッ、確かにそうね」

 

「一輝君」

 

 皆で談笑していると兼一から声が掛かった。

 

「あっはい」

 

「君の真っ直ぐな瞳を見ていると、昔の僕を思い出すよ」

 

「え?」

 

「美羽さんと共に駆け抜けた、あの頃を・・・。そして、あの人も・・・」

 

「あの人?」

 

「兼一さーーーん!!」「お父様ーーー!!」

 

 一輝達はその兼一の言葉に考えを巡らせていると、会場に聴いたことのない声が耳を駆け抜けた。

 

   




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次回更新予定日は12月21日~22日の17:00~21:00の間とさせて頂きます!
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