合宿襲撃事件から数日のこと。
俺は校内の学生食堂へ来ている。
そして、俺の相席しているのが黒鉄家のローレライこと、黒鉄珠雫だった。
「んで、どうしたんだよ急に、呼び出しなんて」
「すみません、クロスレンジで頼れるのが真琴さんしかいないものですから」
「ん?クロスレンジ?答えは見付かったのか?」
「いえ、それが・・・。何と無くなんです。自分の中では曖昧というかなんというか」
端切れが悪い珠雫。
真琴が以前出した〝答え〟の自信がないようだ。
「なるほど。その中途半端な自分をなんとかして欲しいってことか」
「はい」
「今日って確か、上級生との模擬戦なんだろ?」
「はい、これからです」
「なら、模擬戦で俺との修業の成果を出してみろ。そこで通用するなら申し分ないだろ。それでもダメってんなら、その模擬戦のあと相手してやるよ」
「真琴さん、ありがとうございます」
「別にいいって、礼なんて。友人を助けるのは当たり前だからさ」
「は、はい」
私は真琴さんの中ではまだ友人なんですね・・・。
って、私は一体何を・・・?
とりあえず、真琴さんに返さなくちゃ。
「それでは、宜しくお願いします」
近衛真琴さん。
活人拳のお弟子さんで、お兄様の元ルームメイト。
お兄様が心を許している数少ない人。
まさかお兄様があんな笑顔を他の人に見せるだなんて・・・。
今までは考えられなかった。
私に媚びを売る胸糞連中ばかりだったし。男だけでなく、女性も多かったけど。男がそれを上回る感じだった。
私はそんな人達に愛想を尽いた。そんな事あったから人を嫌いになったし、好きにもならなかった。お兄様のことしか見えなくなった。
でもそんな私でも認めた人がいる。
私が唯一認めた男性。
それが真琴さん。
私のために戦闘の助言をしてくれたり、戦闘稽古だって。でも手加減はしてくれないけど・・・。
真琴さんは私の、私の信念を理解してくれた・・・。私の信念は世間には認められないと、常人には理解されないとそう思っていた。
『「一輝は家族に愛されずに産まれて来た。俺は一輝がどんな扱いをされてきたのか、一輝から話を聞いただけだし、直接見たわけじゃないから分からない。けどお前は、その実情を見てきたお前は! そんな兄の為に全ての愛を捧げよう、家族の愛も、女としての愛も! こんな覚悟を持てる奴は、中々居るもんじゃねぇ。お前が一輝と同じくらいに大切だと思える人間が増えれば、お前はもっと強くなる! だから、頑張れ」』
まさか、こんな事を他人から言われるなんて。思ってもみなかった。
ここから、私の真琴さんに対する評価がどんどん変わっていった、そんな気がする。
それも、良い方向に。
私が・・・。
私が、お兄様以外に認めた初めての男の人。
この感情が、好き?
これが、恋なのかしら?
いえ、違うわ!
私が愛しているのは、ただ一人。
お兄様のみよ。
実の血が繋がった、黒鉄一輝という男のみよ。
だから、この感情は嘘。
あり得ないモノよ。
今、私が感じているモノはまやかし。嘘、偽り・・・。
私はその何かを押し殺し、真琴さんと会場へと向かった。
私は、この戦いを乗り越えなければならない。
だって、私の次の選抜相手は・・・。
破軍学園、序列第一位、❮雷切❯〝東堂刀華〟なのだから・・・。
◇◆◇◆◇
「いやぁ・・・すげぇ戦いだったよなぁ!」
「ああ!まさか、一年が会長と渡り合うなんてよ!」
珠雫と刀華の対戦直後。
校内では、生徒達の数々の称賛が溢れでていた。
それも、その筈だ。
入り立ての一年が現破軍学園最強の伐刀者、東堂刀華と互角の戦いを見せたのだ。
称賛しないの方がおかしいというものだろう。
「深海の魔女も中々やるもんだな!俺、会長が負けちまうかと思っちまったよ!」
「それな!」
そう。生徒達の言葉通り、黒鉄珠雫は敗北を喫することとなったのだ。
刀華との初戦は互角だった。
珠雫の❮凍土平原❯から始まり、珠雫、お得意のロングレンジでの戦い。
本来ならば、水では電気には勝てないのが当たり前だった。
しかし、それは珠雫の前では意味を成さない。
何故なら、珠雫が魔力制御の達人だからだ。
珠雫の真骨頂はなんと言っても高度な魔力制御だ。超純水であるならば、雷をも通さない。ただし、超純水を精製し続けるというのは極めて困難だ。脳が焼ききる程の魔力を維持し続けなければならないからだ。
だが、珠雫はそれが出来る。
珠雫にとって雷は弱点ではないのだ。
その魔力制御を活かし、それを戦いに用いるのは当たり前だ。
真琴とクロスレンジの特訓をしていたのは弱点をカバーするため。いくら魔力制御があっても、相手に接近されあっという間に近距離を制圧されてしまっては無意味。それを強化するための特訓だったのだ。
しかし、真琴との修業をしてはいたが、雷切の前では無に等しい。
練磨が違うから。
経験が違うから。
その差は数ヶ月程度の短期間では埋まらない。
もし、珠雫が天才で、刀華が才能に驕っていたとするならば、勝てる可能性はあっただろう。
だが、それはない。
あるはずがない。
刀華は自分の才能に驕る人間ではないから。
高みを目指して努力をし続ける人間だから。
そんな人間に勝つには、もはやバグの様なモノでもなければ勝つことは難しい。それか、相手の努力を超える、努力しかないのかもしれない。
そして、その中盤。
珠雫がクロスレンジを怠っていたツケがとうとうやって来た。
珠雫が数多のロングレンジで弾幕を刀華に浴びせていた。
巨大な氷塊、氷の雨、水の弾丸、様々な伐刀絶技を駆使し、応戦していた。
相手の刀華はというとそれに対しては、応えるように雷で応戦。
序盤こそ互角のように見えたが、時間が経つにつれ、刀華がその力を示していった。
刀華は強力な雷を出し続けるだけでいい。
水の弱点は雷なのだから。
それなら、容易いこと。
しかし、珠雫はそうはいかない。
超純水は超純水の高濃度を維持し続けなければ雷を通してしまう。だから、スピードに差が出始めて来たのだ。
徐々に圧倒されていく、珠雫。
しかし、珠雫も負けるばかりではなかった。
ロングレンジでの読みやその深さでカバーし、何とか戦いを維持していた。
そして・・・。
「しかも、会長に初めての傷を負わせるとはな」
この言葉通り、刀華が今大会初の被弾を珠雫から受けた。
珠雫がスピードで圧倒され続け、クロスレンジに移行され始めたころだった。
刀華が接近の手段として❮抜き足❯という技を使用した。
抜き足とは・・・、古武術の歩法と呼吸の合わせ技で成り立つ体術のこと。
抜き足を用いることで、術者の存在を相手の無意識に滑り込ませ、認識を阻害させる技のことだ。
これを使用出来るのは、熟練の武術家のみだ。
刀華は抜き足の使い手である、南郷寅次郎に師事している。教え子である刀華も使用出来るのだ。
これを用いて珠雫に近付き、一閃、その太刀を振るった。
最初こそ珠雫は驚き、戸惑いを隠せなかった。だが、それは直ぐに消え去る事となる。
何故なら、それは初見では無いからだ。
真琴との修業で脅威的なスピードには見慣れ始め、未熟だった観察眼が鍛えられたのだ。結果、珠雫はカウンターを捩じ込む事に成功したのだ。
刀華の一太刀を水で編んだ分身で躱した。しかし、それは刀華には当然読まれていた。何せ、❮閃理眼❯がある。
これは刀華自らの電磁を用いて、相手の脳が発する微弱な伝達信号を感じとり、相手の心理を読み取る技。
強力な眼で攻撃を躱し、攻撃を浴びせた。
だが、それすら相手を深く読んだ珠雫は、地面からの氷の槍を刀華にぶつけたのだ!
意表を突かれた刀華は完璧に躱す事が出来ず、太股に傷を負ってしまった。それが珠雫の必死の抵抗だった。もし、真琴との修業を受けていなければ負わせられなかった傷。刀華に大して一矢報いたのだ。
だが、珠雫も躱すと同時に攻撃の魔力制御をしていたからだろう、完璧に回避できず右の二の腕に一つの切り傷を受けていた。
両者、同時の被弾ではあったが、傷は珠雫の方が大きかった。
だが、会場は盛り上がり、初の刀華の被弾に実況にも熱が入る。
ここからどう展開するのか、ワクワクと期待が一気に会場を包み込んだ。
珠雫の伐刀絶技❮白夜結界❯でラストスパートにかける。ステージが霧に包まれ、会場の多くの生徒達は戦闘を視認出来なかった。真琴のような優れた武術家であるならば、把握は出来ただろう。霧の中で何が起きてどうなったか、理解できただろう。
しかし、珠雫の善戦虚しく、結果は敗北。刀華の勝利で幕は閉じたのだ。
◇◆◇◆◇
観戦を終え、自室で何やら真琴が携帯を取り出した。何処かに電話を掛けているようだ。
「もしもし、俺様だ」
電話口から偉そうな声が聞こえる。
「もしもし、真琴ですけど総督ですか?」
「ああ、真琴かぁ。何だ、俺様は今年のファンタで忙しいんだが?」
「分かってますよ、だからこの時間に電話したんですから」
「そうか、いつもは書類やら会議やらで忙しいからな」
「政治家ですものね」
電話口に話すこの男の名前は新島春男。
兼一の苦難を共にした、もう一人の立役者、それがこの男、新島春男だ。
真琴の師匠である兼一の悪友で何かと役に立つ出来る男。ただし、その顔は宇宙人と悪魔を掛け合わせたような顔つきだ。
そして今は政治家で日本の国内に進出している新白連合財閥の総督である。
真琴の幼少期、弟子入りしてからちょくちょく梁山泊でもお世話になった人物で、真琴は師匠ほど新島のことを嫌ってはいない。頼りになるなぁ程度ではあるが。
何故、真琴がこの人物に電話をしたのかというと・・・。
「総督、ちょっと調べて欲しい人がいるんですけど・・・」
「何だ?お前と兼一には借りがあるからな、聞いてやる」
「ありがとうございます。赤座守という男なんですけど、調べて貰えますかね?」
赤座守。先日、合宿襲撃事件を企てたとされる犯人である。しかし、その確証はない。一輝から話を聞いて真琴なりに分析した結果、その答えに行き着いただけだ。だからこそ、確信づくために調べるのだ。
今後の生活に影響を及ぼす可能性もない訳じゃない。もし仮に、この男がまたこのような事件を起こすのなら、一輝達には防ぐ手段がない。今のうちに、調査、対策を打っていれば、何かと対応出来るだろう。そのための依頼だった。
「赤座守、聞いたことのある名前だな。待ってろ、俺様が贔屓にしている探偵事務所がある。そこに頼むとしよう、連絡も直接そこから来るように手配してやる」
「助かります」
「結果が出た次第、真琴に連絡が行くだろう。期待して待っていろよ」
「はい、宜しくお願いします。赤座守・・・。俺の大事な友人に手を出したことを後悔しろ」
いかがでしたか?
楽しんでいただけたでしょうか?
刀華と珠雫の対戦はまるまるカットか悩みましたが、このような形にしました。
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