史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト   作:紅河

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BATTLE.58 施設にて

「真琴君だけだと足りなそうなんだ、力を貸してくれるかな?」

 

 生徒会室でうたさんに説明を受けた俺達は、後日、貴徳原財閥が運営する児童養護施設を訪れることになった。

 ここはその名の通り、身寄りのない子供達やある事情で親元に居られない子供等を親代わりに預かり、育てる場所だ。

 俺が預けられた施設も貴徳原財閥が運営する場所だった。と言っても俺は長く在籍しては居なかったが・・・。三ヶ月くらいだったか?そこにいた期間は短かったが、それでも温かな場所だったのは記憶している。

 

 子供達の遊んでいる風景を見ながら、そんなことを思い返していた。

 俺の子供時代はとても短く濃いものだった。何せ、俺と父と母との家族の時間は、たった八年間しかない。これだけの時間しか共に過ごせなかった・・・。

 当時の俺は無力で、親がいないと何も出来ない存在だったし、大人に、父さんと母さんに稽古をつけて貰ってたけど、全然勝てなかったし・・・。

 とある事件のせいで俺は家族を奪われた。昔はその事件を恨んだ。

 

 何故、俺の家族が死ななくちゃいけない・・・。

 当時の俺はずっと、父さんと母さんの名前を口ずさんでいたような気がする・・・。まるで、壊れた機械のようにずっと口ずさんでいた。

 

 けど、恨んでたって俺の大切な家族は戻っては来ない。人は神様じゃないから・・・。辛い現実を受け入れなければ前には進めない。

 自分のレールが大雪で猛吹雪で道が進めないのなら、足掻いてでも、道具を使ってでも、ただひたすらに進むしか方法はない。

 その長く苦しい雪道のレールがあるのなら、走るための武器が、今の俺にはある。

 

 それが梁山泊で学んだモノ。

 父から託された伐刀者としての能力と夢。

 母から受け継いだ空手と武術。

 

 これがあるから俺が前に進める。

 光の道を歩いて行ける。

 修羅道へ落ちずにここに居られる。

 

 だから、この道の邪魔をする奴は絶対に許さないし、向かって来たらぶちのめす!

 それがどんなにお偉いさんだろうがなんだろうが、俺が気に入ったこの場所を無くさせたりなんて、絶対にさせない。

 

   

 ◇◆◇◆◇ 

 

 

 

 

 

 子供達の楽しく騒ぐ声が響き渡っている。その遊び相手はどうやら、ステラや雷先輩や恋々先輩のようだった。

 ステラと子供達のレベルが近く感じるのは俺だけか?

 まぁいい。

 俺は俺の仕事をしよう。

 

 ステラ以外の面子は料理を担当だ。

 

 俺が野菜切り。

 一輝やうたさんも同じ。

 刀華が色々指示だしたりしながら進めている。

 子供達の人数も多いこともあって、材料は多目に用意している。切るのはその分、大変だけど。それほど苦ではない。

 料理は幼いころからやっているし、料理自体好きなからだ。最近は料理をする回数が昔より増えた気がする。

 増えた要因はたった一つ、俺のスイーツを食べる人が増えたからなのだが・・・。主に、アリスや珠雫、ステラなんかが該当する。

 

 まぁいい。 

 俺らが今、取り掛かっている料理はカレーライスだ。

 子供達に大人気の料理。

 大人でもカレーを嫌いな人など滅多にいるものではないだろう。

 今回の味付けは甘口だ。

 子供達には中辛や辛口だとどうしても食べにくい。甘口の方が受けがいい。昔の俺もそうだったし。

 

 カレーで最も重要なのはなんと言っても『具』だ。俺はこう思っている。

 と言ってもここからは俺個人の見解だ。ルーという人もいるだろうし、スパイスだという人も・・・。

 

 今回のカレー料理、振る舞う相手は子供達だ。

 その子供達の栄養も考えて、沢山食べられる具を重要だと・・・。

 カレーを作ると寄ってたかって子供達は野菜が嫌いだと作り手に申し立ててくる。これがカレーを作る時のテンプレだ。

 だが、野菜を取らなきゃ体が壊れてしまう。

 けれども、カレーならいくら野菜嫌いな子供でも大丈夫。それがカレーなのだ。

 カレーの味で大体は誤魔化せるからだ。今回はオーソドックスな市販のルーを使ったカレーを作っていく。

 

 まぁ、そろそろ材料の下処理が完了するが。

 

 

「まこ君、終わった?」

 

「粗方、ですかね」

 

「んじゃあっちお願い」

 

「了解です」

 

 二人が必要最低限の言葉のみで動いていく。まるで、熟年の夫婦が料理をしているかのように・・・。

 

「真琴、東堂さんと通じあってるかのようだ」

 

「ふふっ、二人が料理するといつもこんな感じだよ」

 

 生徒会副会長の御祓さんが得意気に呟いた。

 

「そうなんですか?」

 

「うん、真琴君のお菓子をご馳走させて貰う時とか、一緒になって作ってるよ。その時の刀華の楽しい顔といったらぁ・・・」

 

「こら!うた君!」

 

 東堂さんの叱責が御祓さんへ向けられた。

 

「ごめんごめん」

 

「全く・・・」

 

 あ、そういえば・・・。

 

「東堂さん、先日は有難うございました。珠雫が仕合で胸をお借りしたみたいで」

 

「い、いえいえ!こちらこそ。とても強かったですよ、妹さん」

 

「刀華に一撃喰らわせるなんてねぇ~!」

 

「あれには僕も驚きました」

 

「ええ、妹さんが被弾覚悟で攻撃するとは読みきれませんでした」

 

 自分の甘さを認める東堂さん。

 

「仕合で使用していた東堂さんの伐刀絶技ですが、僭越ながら・・・。眼鏡を外した方が精度を上げられるのでは?」

 

「ええ、その通りです」

 

「刀華以外に戦闘中眼鏡を外す人っているのかな?」

 

 御祓さんの唐突な質問に野菜を切り終えた真琴がこう答えた。

 

「居ますよ。俺の知り合いに眼鏡を外した方が強い武術家がいますから」

 

「ええ!?ホントに居るの?」

 

「いますよ」

 

「因みにその人の名前は?」

  

「朝宮龍斗です」

 

 朝宮龍斗?

 その名前・・・何処かで聞いたことのあるのような・・・。

 

「ちょっと待って、朝宮龍斗(あさみやりゅうと)って確か最近、テレビに出てなかった?可愛い女優さんとドラマやったとかで・・・」

 

 御祓さんが真琴に詰め寄る。御祓さんの真ん前で仕事をしている真琴。

 

「その女優さんって小頃音(こころね)リミって名前ですか?」

 

「確かそうだったと思うよ」

 

 東堂さんがそう補足した。

 

「なら、そうですよ。そのドラマは〝二つの顔〟ってやつですよね?」

 

「そうそう!不況の中ヒットを叩き出した作品で、普段はOLに身を包んだ主人公が実は日本の裏社会で動くエージェント!相手のエージェントとガッチガチの戦闘やOLでの厳しい現実と闘う、アクションとコメディを完璧に両立させた名作だよ!」

 

「うた君、詳しいね・・・」

 

「毎週観てるもん」

 

「そのドラマで主人公の会社とスパイの上司役、朝宮龍斗って人、僕の師匠の親友なので」

 

「えええええええ!?ホントに!?」

 

 それを聞いた御祓さんがいの一番に飛び付き驚いている。

 ずっと一緒にいた僕でさえ、それは知らない・・・。真琴の人脈は侮れないな・・・。

 

「んじゃ、今度会うときはサイン貰ってきてよ!」

 

「別にそれくらいだったら良いですよ」

 

「ってちょっと待って、朝宮さんってもしかして本物の武術家なの?」

 

 この話の流れでは普通に抱く疑問だ。それを東堂さんが真琴に投げ掛ける。

 

「ええ、龍斗さんは眼鏡をしてますけど、全力を出す相手の時は外しますよ。外すのは刀華さんと同じ理由でね」

 

「私と同じ」

 

「その人って伐刀者・・・じゃないよね?」

 

「まさか兼一さんと同じ、特A級の達人級?」

 

「そうだ。龍斗さんも達人級だ」

 

 その発言に思わず、この場に居合わせた全員が息を呑んだ。

 

「どおりで強いわけだよ」

 

「まこ君は戦った事はあるの?」

 

「何度か手合わせをさせて貰いました。けど勝ったことは数回しかないですよ」

 

「達人級に勝ったの・・・?」

 

「勘違いしないでください。勝ったって言っても組手の範疇ですし、もし本気で仕合ったら為す術なく敗北ですから」

 

「それにしたって凄いと思うけど」

 

「ありがとよ。とりあえず、話はこれくらいにして仕上げに入りましょう?」

 

 そう、真琴が僕達を促した。

 

 真琴にはいつも驚かされるけど、まさか芸能人と知り合いとは・・・真琴の、いや・・・。兼一さんを含め、梁山泊は恐ろしいところだ・・・。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ふぅ・・・。

 これで一段落かな・・・。

 

 私達のカレーが漸く仕上がった。

 あとは時間が経つのを待つだけ。

 料理してた木のベンチへ私が座ると・・・。

 

「お疲れ様、刀華さん」

 

 優しげな声で話し掛けきたのは彼だ。いつも真っ直ぐに人のために動く人。

 最近、その彼と私は両想いになった。

 

 きっかけの日からそれほど時間は経っていないけれど、充実した毎日を送っている。今日もこうして私の、私達生徒会の手伝いをしてくれている。

 

「二人っきりだから呼び捨てでいいんだよ?」

 

「誰かに聞かれちゃいますし」

 

「私は気にしないけど?」

 

「刀華さんは気にしなくても、俺が気にするんです。部屋とかならまだしも、ここではね」

 

 彼は頬を手で掻きながらそう言った。彼が頬を掻くときは決まって照れている時だ。

 私と二人っきりの時によくやっている癖だ。

 

「そう?まこ君がそうならいいけど」

 

「カレー、上手く出来ましたね」

 

「うん。黒鉄君やまこ君のお陰で早く出来たよ、ありがとうね」

 

「別に構いませんよ、これくらいなら。俺に出来ることなら何でも言ってください」

 

「うん。頼りにしてるよ」

 

 そう、隣に座る彼に自然と体を預けた。彼は何も言わず私を受け止めてくれた。

 

「ねぇ、まこ君の将来の夢って日本一の伐刀者になること、なんだよね?」

 

「はい」

 

「それを叶えたら、あとはどうするの?」

 

「あまり考えてないです。梁山泊に戻るかも知れませんし、このまま世界一を取るかもしれませんし、その時になったら考えます」

 

「そっかぁ・・・。もし、もし、だよ?私が・・・」

 

 そう言おうとした時、お昼を知らせる鐘が鳴った。

 

 それと同時に子供達もわらわらとやって来た。

 私と彼の時間は、お昼ご飯の時間に変わっていった。




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次回更新予定日は3月14日~15日の17時00分~21時00分とさせていただきます!

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