施設の行事は滞りなく進んだ。
一輝とうたさんが何か話していた様だが、俺は刀華の手伝いでそれどころではない。まぁ何か言われても一輝なら平気だろ。
そう言えば、ここは俺の預けれた施設ではないが、子供達はわりと好きだ。ここの子供達は特に。
俺の顔には消えない傷がある。
多くの子供達、いや、多くの人が俺の顔を見た瞬間にしり込みして警戒してしまう。
何処に行ってもそうだった。破軍学園でも同じく簡単に近寄ってはこなかった。
けど、この子達はそうじゃない。こんな俺をあっさり受け入れてくれた。自分達に何があったのか、それを理解しているからなのか、それは分からないけど、子供達から気に入られてるってのは分かる。
それが俺にはこの上なく嬉しかった。
こんな俺をあっさり受け入れてくれたのは刀華やうたさん、生徒会の皆さん、一輝達、そして、梁山泊の皆だった。
俺にとってこの人達と過ごす時間が何よりの幸せだ。
だから今の破軍が心地いい。ずっとこんな幸せが続くと良い・・・そう、思っている。
施設では子供達の笑い声、笑顔が絶え間なく続いている。どうやら具沢山カレーは成功のようだった。
一輝達も美味しそうに食べてくれているし、施設を任されている園長さんも喜んでくれている。
どうやら〝大成功〟と言っていいみたいだな。
それからは何事もなく終了。
破軍へ帰宅する準備を始めた。
ふと、携帯を見ると誰からかメールが来ている。
その差出人の名は鷹目京一だった。
◇◆◇◆◇
やたら広い一室。
そこに、デスクに一人佇む男性がいる。
顔を見るに四十代くらいだろうか?
ほうれい線に皺もあり、年相応と言ったところだ。
その男のデスクには多彩な機能を持つビジネスフォンが置いてある。サラリーマンとして重要な役割を持つのが電話だ。これ無しでは仕事が上手く回らない事だろう。
どうやらその男のビジネスフォンには液晶画面も搭載されている。小さいのを気にしなければTVのニュースなども見られそうだ。
その広い部屋に一本のコール音が小さくも響き、広がっていった。
佇む男性は電話を取る。
「はい、黒鉄です」
「お久し振り、新島春男だ」
偉そうに語るこの男は新島春男。
新白連合財閥総督、現内閣で防衛大臣を担当している男である。
何故この新島春男と皺のある四十代の男性が知り合いかというと、国際魔導騎士連盟に総理大臣などが仕事で入り、そこで新島にも度々会っていた。
「防衛大臣が何のようですか?」
「用って訳でも無いんだがな、あんたの部下についてだ」
「部下?」
部下と聞いて黒鉄の眉がピクッと動いた。
「・・・部下が何か?」
「その間、あんた、大体察しはついてるだろ?」
「・・・」
「その沈黙は肯定を意味してるぜ?」
「というか防衛大臣と“あの件”でなんの関係があるというのですか?」
「俺様は直接関係無いんだがな、俺の知り合いがあんたのお子さんと同じ学校に通っていてな、そいつに頼まれたのさ」
「私の?珠雫のことですか?」
「あんたのお嬢さんじゃなく、ご子息の方さ」
「・・・・・・・・・一輝ですか」
その口は重く、ゆっくりとその名前を発した。何か重い枷でもかかっているかの様に・・・。
「で、私に何をしろと・・・?」
「話が早くて助かるぜ。いやなに、簡単な事だ」
「?」
「あんたのご子息と面会して欲しい」
「!?、それは・・・」
「いけないのか?まずい訳じゃないよなぁ?ご子息こと黒鉄一輝君は落ちこぼれと言われながら、落第騎士として知られている。だが、それを払拭するかのように、代表戦では連戦連勝、父親として嬉しい限りのことじゃないか?褒めてやればいい、そうだろ?」
「・・・・・・一輝は」
「あの青年を問題なく高校生活と中学生活を送れたのはあんたが陰ながら支援をしていたからだろ?」
「貴方、何処まで・・・」
黒鉄が止めるも、新島の口は止まらない。
「だがしかし、少し問題が発生した。その青年は来日を果たしたヴァーミリオン皇国の御嬢さんと関係を持ったと噂が流れた。今は記者なんかそれで持ちきりだ、破軍学園側は対応に追われている」
「・・・・・・・・・」
黒鉄はまたも沈黙する。
「あの青年を国際魔導騎士連盟に呼び出して腹割って話して欲しい、ってことさ」
「・・・何を言っても引き下がるつもりはないのですね」
「俺様はな。真偽を確かめるって意味も含めていい提案だと思うが?」
「前向きに考えて置きましょう・・・」
「そうしてくれると助かる、ではまたな、黒鉄厳殿」
ブツッと電話が切られた。
「はぁ・・・面倒な事になったものだ・・・」
◇◆◇◆◇
時間が進み、辺りは夕陽が顔を出す頃となった。
俺達はバスで施設まで向かっていた。破軍近くのバス停で降りる。すると、珠雫やらアリス、加々美達が俺達の元へ駆け寄ってきた。
「せんぱーい!大変ですよぉ~!」
「ん?どうしたの加々美さん」
「何かあったの?」
「今、記者の方々が破軍に押し寄せてて」
「え?」「どうして・・・」
遂に、来たか・・・。
思ったより早かったな。
前もってコピーしておいて正解だな。
「こんな記事が・・・」
加々美から渡された記事には、一輝とステラが不純異性交遊を街中でしている写真が掲載されていた。
端から見た第三者として言わせて貰うが、二人は決してそんなことはしていない。健全なお付き合いをしている。
二人が付き合ってから間も無く、一輝から直接報告された。身近で信頼する人物には話しておこうということらしい。
その他の記事には黒鉄一輝は授業態度が最悪など、明らか捏造が見受けられる箇所が幾つもあった。
こうして、真琴達が話していると、高級そうな黒塗りの車が停車した。その車から一人のふくよかな男性が降りてきたのだ。
「おやおやおやぁ、ここに居たんですかぁ。黒鉄君」
「あ、貴方は・・・!」
「イッキ、誰よこいつ」
「この人は国際魔導騎士連盟、倫理委員会の赤座守。お父様の腰巾着よ」
一輝の代わりに珠雫が答えた。
しかし、その表情は憎悪に満ちたいた。
「黒鉄一輝君、その記事を見てるって事は大体察してるとは思いますがぁ、ご同行願えるかなぁ?事を荒らげたくはないでしょう?」
「っ・・・わかり、「ちょっと待ってくれます?」」
真琴が割って入ってきた。
「何かね、もう一人の落ちこぼれ君」
赤座のその目は一輝を見る目と同様、見下し、蔑みを含んだ目だ。その眼を持って、真琴を見つめる。
「一輝の側にいる人間なら誰しもが分かることだが、一輝はこんな人間じゃない」
周囲にいるステラや珠雫達がそれに頷く。
「それに、ここにあんたが改竄した証拠があるって言ったら?」
真琴が自らのズボンのポケットからUSBメモリを取り出した。
「何ぃ!?」
すると、見計らったように赤座の携帯電話のコール音が路上に鳴り響いた。
「今度は一体、何ですか!?え?今すぐ戻れって・・・私に改竄した疑いがある!?わ、分かりました、今すぐに・・・」
「マコト、あんた何したのよ・・・」
「ぐっ・・・落ちこぼれのガキ風情がァ・・・!一体何をした!」
「さぁ?早く行った方が良いんじゃないですか?」
「この借りは何れ!失礼する!」
逆上しながら、赤座が車に戻ると急ぎで元来た道へ引き返していった。
「これで、一件落着だな」
俺が一息付こうとする。が、そうは問屋が卸さない
「真琴さん・・・」
最初に口を開いたのは珠雫だった。
「幾らなんでも手際良すぎですよ?読んでたんですか?」
「お前の想像に任せるよ」
「まさか、本当に改竄データがそのUSBに?」
「マコト、どんなマジックを使ったのよ!」
と、ステラや加賀美が続いて押し迫ってきた。
「まぁまぁ落ち着けって・・・」
「「「簡単に落ち着けませんって!」」」
「僕も同じ気持ちだよ。真琴、どういうことかな?」
「ざっくり言うと、コネだ!」
「「「ざっくりし過ぎよ(です)!!」」」
「詳しく説明しなさいよ!」
「説明は長くなるから、明日な。んじゃ!」
「「「ええええ!?」」」「あ、ちょっと真琴!」
「行っちゃたわね・・・」
「本当に何者なんですか、あの人は・・・」
「コネって言ってたけど、そんなに広いの?マコトの人脈って」
「流石の僕も、真琴の詳しい人脈は知らないけど、あの兼一さんを師匠に持つ人だからね。兼一さん側の知り合いで有名な探偵とかでも居たのかもしれないね」
「だからって仕事早すぎません?」
「まぁまぁ、真琴の言ってた通り明日を待ちましょ?」
「え、ええ。そうね」
一輝達の中に真琴の謎が一つ増えたところで、本日は解散となった。
ここから原作とは、ほんの少し違う話になっていきます。
ですが、大まかなストーリーは変わりませんのでご心配なく。オリジナル展開が挟みますが、宜しくお願い致します。
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