短編とボツその他   作:(^q^)!

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あなたは放置しているソーシャルゲームがありますか?

あるのなら気を付けてください。


ソシャゲのヤミ(短編)

 そのゲームをインストールした切っ掛けは、そのゲームとはまた別のゲームの連携報酬だった。AというゲームとBというゲームが連携する。Aで一定の実績があればBで一定の報酬を受け取ることができて、Bで一定の成果があればAで一定の報酬がもらえる。相互にハードルを設けることで報酬目当てに一定数のユーザーをシェアする。ソーシャルゲームでありがちなそんな手法によって自分はそのゲームをインストールした。

 

 切っ掛けは消極的なものだったのかもしれないが、その後は積極的にそのゲームをプレイしていた。少ないバイト代から多くの課金をした。時間も一定以上に費やした。イベントがあればその報酬はすべて取ったし、レアドロップもことごとく集めた。

自分以上にこのゲームをやり込んだ者はいないなんて大それたことは言えないが、少なくとも初心者だとか中級者に後れを取ることはない。そのぐらいに自分はこのゲームをやりこんでいた。

 

 転機、とソーシャルゲームに言うのは変な感じがするがそれが訪れたのは冬からだった。大学の三年生の冬ともなれば就職活動が本格化する。本当のことを言えば夏ごろからいろいろと準備をするのが賢明なのだろうが、自分はまあ何とかなるななんて楽観的な思考があってついに今まで最低限以上のことはやってこなかった。

その分のツケと言えばいいのだろうか。やることは多かった。企業研究、説明会、インターンシップなどをこなすために申込みやらなんやらと大忙しである。このころからそのゲームを今までのようにプレイすることはできなくなっていた。

 

 最初の綻びは時間だった。レアドロップなんていうのは運がどうこうという話ではなく、畢竟いかに試行回数を経たかということだ。回数こなすためには時間がかかる。その時間がない。そういったことからイベントでのレアドロップを手に入れることができなかった。

そんなことかと思う人もいるだろうが、この事実は自分にとってモチベーションを著しく下げた。ログインだけは欠かさなかったが、何回かのイベントはそもそも放置するということも珍しくなくなった。

 

 それから後は転がり落ちるようにそのゲームに対する興味というか情熱はなくなっていった。今までの課金がもったいないなんて考えも少しはよぎったが、まあそれはそれとして今やる気が起きるというわけでもないしなあという思いのほうが大きかった。

 

 そのまま春が来て、就職活動はもう会社がほぼほぼ決まるという頃。忙しさは冬の比ではなかった。エントリーシートや履歴書、面接、筆記試験。それらに時間をとられてゲームはログインすらしなくなった。

 

 そんな時期からだっただろうか。ふと、誰かから見られているんじゃないかという感覚が多くなった。

 

 履歴書を部屋で書いているとき。エントリーシートをパソコンで記入しているとき。面接対策の本を読んでいるとき。企業の情報を調べているとき。そういった、一人で何かしているそんな時に決まって誰かがそこにいるような感覚というか、見られている感覚がついて回るようになった。

 

 気のせいであることは何度も何度も確認している。振り返ってもそこは壁だ。一人暮らしの六畳一間なのだから誰かが隠れる余地なんてない。それはわかっている。だがどうしてもその感覚は拭いがたくこびりつく。

 

 夜もそうだった。ふと起きると夜の暗い中に誰かがいて、自分から見えないところからじっとこちらを見ているような感覚。部屋の明かりをつければ気のせいだとすぐにわかるがそれでもその感覚は現実としてあった。

 

 そんなことが積み重なって連日注意力は散漫で、顔も寝不足からかひどい状態だ。それでは通るものも通らず、面接に通ることはなくなっていた

 

 この時期から、ふと視界の端に何かが見えるようになった。最初それは何か小さいものが横ぎったと感じる程度だった。だが、だんだんとそれは大きなって、ついにはそれは人なんじゃないかと思えるくらいの大きさになっていった。

 

 それはいつも視界の端に現れた。焦点が合っている視界の端。何かが動く。そちらを見ると何もいない。だが、脳にはこびりついている。笑っていた誰かの顔。動いたその姿。女性、だと思わしきそれらは日ごとに頻度を増して現れるようになっていった。

 

 就職活動はボロボロだった。面接中もそれは現れて、視界をよぎっていく。そちらに気を取られる。夜も誰かが自分を見ているような感覚がこびりついて眠れない。意識が集中できない。ふらふらする。届くメールはお祈りばかり。周りは続々と内定を取り、自分だけ取り残される。焦燥。集中しようにもできない。イライラとするがそれの発散方法はない。

 

 そして八月終盤。夏も終わりかけだがまだ暑い。じっとりとしたこの空気は気温よりも感じる温度を高くさせた。胸の奥のじりじりした焦りもそれに拍車をかけている。どうしたらいい。どうすればいい。わからない。自分は頑張っているはずなんだ。だが、それが実らない。俺が悪いのではなくこの感覚が、誰かに見られているような状態が、視界を横切る何者かが悪いのだ。

 

 面接官にそう言うのか? ありえない。彼らがそれを言う人物に対して下す評価は決まっている。不合格だ。それ以外ないだろう。

 

 ガシガシと頭を掻き毟る。整髪料で指がややベタつくし、髪は不恰好に乱れるだろう。だがこの思いの行き場がなかった。はぁとため息をついて駅のトイレに入る。用を済ませて手を洗う。鏡に映る自分の姿は、落伍者と言ってもいい。それほどに疲れ切っているように思えた。

 

 駅のホームではぁとつく溜息は癖になっていた。どうせ今日の面接もダメだった。明日もその次の日もきっとダメ。クソったれ。

 

 企業からのメールが来ていないかとスマホを見ると、表示されていたのは時間だけ。特に何の通知も無い。そう思ったその時だった。

 

 “行動力が全回復したよ! 行ってみよう!”

 

 そんな通知が来た。自分が情熱を向けていたあのゲームだ。こんな通知は今までになかった。アプリ自体はまだ残っているので自動アップデートか何かで追加された新機能かな、なんて思って久しぶりにとそこにアクセスした。

 

 “お帰りなさい! 待ってました!”

 

 そんな在り来たりな文言で受け取ったのはカムバックログインボーナスという物で、名前の通り長期間の放置からログインするともらえるボーナスでありその後も継続してログインさせるためにもらえるものは日数に応じて豪華になる。このゲームについての思い出なんてものは、喜ばしいものよりは苦汁を飲んだことのほうが多い。レアドロップが出ないでクソゲーと思いながら思考停止で回し続けたような記憶や、オンラインマルチでいやな思いをした記憶だってある。

 

 ただ、このゲームをやらなきゃよかったと思うことはなかったし、今も思っていない。久しぶりにやるかなとがっつりやりこんで眠った今日はぐっすりと眠ることができた。

 

 その後も毎日がっつりとはいかないでも、ある程度の時間はそのゲームに費やすようになった。そうしていると誰かの視線や、視界をよぎる何かもいつの間にか無くなっていた。

ちゃんと取り組めば、内定をもらうことは苦労しなかった。そもそも九月だとか十月まで就職の窓口を開いている会社なのだから当然だろと思うかもしれないが、これまでずっと断られてきた身としてはどこだろうと合格が出るのは非常に嬉しい。その後も受ける会社はほぼ全て内定が出た。

 

 その中でもブラック企業ではない会社に連絡を入れて、それ以外の会社には丁重に断りの電話を入れた。電話越しに散々いろいろと言われたが、まあこの人たちとは今後かかわることなんてそうないだろうしという気分で適当な気持ちで受け流せた。

 

 内定が決まれば後はもう遊ぶだけだ。バイトは就活が本格化しだしたころに辞めているので懐はさみしいが、時間はたっぷりある。今までやっていなかった分の遅れを取り戻すためにひたすらにゲームをやった。

 

 そのまま卒業、入社を済ませて新人研修や慣れない仕事に四苦八苦としている内に、やはりゲームをする時間はなくなっていった。さらに言うとスマホも買い換えて今まで使っていたものは持っていはいるものの使うこともなく、新しいスマホにはそのゲームをインストールすることもなく、次第に記憶から薄れていった。

 

 入社から三年。このぐらいになると新人の教育を任せられるようになる。できるだけわかりやすく教えようといろいろ考えているうちに、昔自分がどうやって教わっていたかと思い返す。メモは手帳に取っていたが、ノウハウだとかすぐに確認しなくてはならないようなことはスマホのほうに保存していたはずだ。

 

 昔のスマートホンはまだどこかにあっただろうか。記憶をたどりながら部屋を漁るとやや埃をかぶったスマートホンが見つかった。懐かしい、機種も今と比べれば古く、機能も大したものではないし重い。もちろん電池が切れていて起動することはない。

 

 充電用の端子の規格は変わっていないようだったので今使っている充電器につなげると少しした後に電源が灯る。もちろんそのまますぐに起動しても間をおかずに電源が落ちてしまうことがわかっていたので、先に風呂にでも入ってしまおうと考え、その通りの行動をした。

 

 体を拭いている時だった。誰かが見ている。そう思えた。そういえば昔、就職活動をしていた時だっただろうか。この感覚を体験していた。いやな記憶がよみがえる。まさか、ぶり返したのか? そんないやな想像が脳を離れない。

 

 そそくさと着替えを済ませて、今日はさっさと寝てしまおう。そう考えるのは当然と思えた。

 

 昔のスマホを充電器から外して、現在使っているスマホを充電しようとする。古いスマホに触れた。

 

 “行動力が全回復したよ! 行ってみよう!”

 

 古いスマホの画面にそう表示されたのが見えた。

 

 この時感じたのは疑問だった。このゲームは一年か二年ほど前にサービスを終了した。そんなのを耳に挟んだ覚えがあった。もちろんその情報をちゃんと調べたわけではないし、本当にチラッと耳にした程度の情報なので誤報だったのかもしれない。それでも自分の中ではもう終わったものとして忘却の彼方にあったそれ。感じた疑問はそこに起因している。

 

 “行動力が全回復したよ! 行ってみよう!”

 

 なぜだろうその通知に指が吸い込まれていく。久しぶりに起動してみようかなという程度の考えで、指が触れた。

 

 “お帰りなさい! 待ってました!”

 

 画面はその通知の後に暗転し、右下にはNowLoadingの文字があった。

 

 “お帰りなさい! 待ってました!”

 

 もう一度そんな通知画面に戻ってしまったのでタップすると、画面が切り替わった。

 

 “もう はなさない にどと”

 

 

 

 ガンガンと頭は重く、体もそうだった。自分は一体どうしたんだ? 目を開けるとそこは暗い場所だった。電気がついていないのか明かりはない。しかし今自分は肌触りのいいベッドの上にいた。このようなベッドは自分の部屋にはなく、他人のものであることは自明。となればここは自分の部屋ではないということなのだが、なんでそうなったのかということについて全く記憶がなかった。

 

 最後の記憶は昔のスマホのゲームを起動したとかそんな程度。それがどうしてこうなった?

 

 まだあまりうまく働かない頭でそう考えているとギイと誰かが部屋の扉を開けたような音。それに、パチリというスイッチを入れたような音が鳴った。部屋は次第に明るくなり、目が慣れていないのでかなり眩しく感じられた。

 

「起きたんですね」

 

 声をかけてきた人物は女性であるようだった。少女ではない。ちゃんと年齢を重ねた落ち着きのある女性の声であり、短いながらも彼女の声は深くしみいるように頭の中に入ってきた。

 

「あ、ああ。ええっと、申し訳ないのですが、ここがどこか教えていただけないでしょうか」

 

 目がまだ慣れない中でそう言うと、女性はクスクスと笑った。

 

「この場所は、あなた様の場所ですよ? ……覚えていらっしゃらないのですか?」

 

 そう言った彼女の声は悲しげであると感じる以上に渦巻く他の感情があるかのように聞き取れた。もう目が慣れてきたのでぐるりと周囲を見渡すとそこにはほんのりと見覚えがあった。

自分が今居る位置からでは見覚えがあまりないように感じる。しかしその調度品だとか配置になんとなく既視感を覚えた。

 

「うーん、なんとなく既視感はあります。家具や装飾などに見覚えがあるような?」

 

「こちらからご覧になってください」

 

 近寄ってきた女性は綺麗な人物だった。黒い直毛の髪を後ろに結わえていて、服装は和服を着崩したような物だ。腰には刀のようなものを携えている。自分は家具や調度品だけではなくて彼女にも見覚えがあった。

 

 そんな彼女に手を引かれて部屋の片隅に行く。するとそこから見る風景は何度も何度も見た、ゲームのマイページの画面そのものだった。

 

「あなた様、ずっと、ずっと、ずっと見ておりました。お待ち申し上げておりました。これからはずっとずっとずっと、一緒ですよ」

 

 振り向いた彼女の顔は、いつか視界の端に移った笑っていた誰かの顔であったように思えた。




なんか思いついてしまったネタ
二時間くらいでサクッと書けた
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