楽して生きたいと思ったことが無い人はいないだろう。自分だってそうだ。だらだらしてるだけで金が入ってきて自由気ままに生きていけるならなんと素晴らしい事だろうと思いを馳せることは何度もあった。
そしてそうなってしまった。
気が付くと赤ん坊になっていて、すくすくと育った。転生という文字が頭に浮かんだのは仏教のある日本で生まれ育った所以かあるいはオタクだった所以か。定かではないがこの現象の名称はあながち間違いではないと思う。
死んだら転生するというのは世紀の大発見な気もするが、証明が難しいことも確かだ。下手にあーだこーだ言って面白一発屋みたいな扱いを受けるくらいなら黙っていた方が良いのだろうか。
いろいろ考えている内に気が付くのは、人格や思考、知識はしっかりあるのに、前世の自分の名前や、何をしていたのかという記憶などがあんまりないことに気が付いた。うっすらとあるにはあるが、それだってもう薄すぎて気が付かない程度の記憶である。またしても大発見。転生すると記憶は薄れる。
無駄なことばかり考えているのはしょうがないのだ。何もすることが無いのだから。
齢は五歳。幼稚園だか保育園に通ってもいいころだと思うのだが今世の家はリッチと言うやつらしく、お手伝いさんやらなんやらがいるおかげでそういうところに行く必要が無いらしい。金持ちの家なら幼いころからなんかいい感じの教育とか受けさせるのではないかとも思ったが、そうでもないらしい。せいぜい軽い運動をする以外はただひたすらに暇だ。本も絵本などばかりで何回も読み直すものでもないしテレビも無い。鼻歌歌ったり、でんぐり返しし続ける遊びくらいしかやることが無いのだ。
お手伝いさんが話しているのを小耳にはさんだ程度の情報なのだが、何でも我が家にはお飾りの当主と、それを支える優秀な頭脳集団がいるので、次期当主に求められるのは存在することと子供を残すこと以外にはないらしい。
そして自分の身分は次期当主とのことである。つまりは存在し、子供を残すこと以外の役割は望まれていないのだ。
それがわかった時に自分が感じたのは単純な歓喜だった。だらけてパコってればいいだけの人生が確定したのだ。頑張る必要が無く、堕落をとがめられない。人間としてどうなのそれはという思いが無いわけでも無いが、下手うってこの生活が崩れるのは避けたい。
今はそもそも何かやりたくてもできないわけだし、やりたいことが見つかった時に改めて考え直そう。それまではひたすらに、のんびりだらけよう。そう決めた。
そうしてのんびり過ごしている内に小学校に行く年齢になった。金持ちなのだし私立とかに行くのかと考えていたが、公立校に行くようだ。そこで学んだ社会常識には耳を疑うものがあった。
男性は家庭に入り、女性は外で働くのが一般的らしい。なんじゃそりゃと思うが一般常識らしく、流行っているドラマや漫画なんかもそう言う風潮だった。それに伴っているのかどうかはわからないが、男女の性質が逆さまになっていた。休み時間に外で元気に駆け回るのが女子生徒で、男子生徒はペチャクチャ何事かを話している。
ここで前世の知識間違ってるんじゃないの? という疑問と、本当に金持ちなのかという積年の疑問が湧き上がる。お手伝いさんとかいるのだしまあ金持ちなんだろうがゴロゴロしてるだけでいいという話はもしかしたら嘘かもしれない。未だに父や母に会った事も無いし、豪華なものとかを買ってもらったことも無い。まあ何かを欲しがったことも特になかった事が原因かもしれないが、誕生日くらいは何か贈るはずじゃないのか? 転生したこの世界でも誕生日のプレゼントという風習があるのは確認済みなのでわくわくして過ごしていたのだが、八歳の誕生日に至るまで一度もプレゼントは無い。仲良くなった小学校の友達からプレゼントをもらうことが出来たのでのでさみしい思いはしていないが、金持ちであることに疑惑を持つのは仕方ないだろう。
何より前世の知識である。常識にここまで差異があるのは果たしてどういうことなのだろうか。そもそも本当に前世知識であってるのか? 転生じゃなくて異世界に来ちゃったとかなの? 答えの出ないというか答えの無い問いなので考えるのをやめるが前世はあんまり気にしない方が良いかもしれない。
小学三年になる春。今自分が住んでいる場所は結構寒い。小学生らしく年がら年中半袖半ズボン! とはいかないくらいには寒い。新学期が始まって一週間が経過し、授業もボチボチ始まる頃。自分はいきなり拉致されたのだった。
あれぇ? なんでぇ? 金請求するにしたって親の顔知らんぞ。
天道グループの次期当主争いは苛烈を極めた。財界のみならず、政界や官界までをも巻き込んだ血で血を洗う凄惨な闘争は数年間続き、表沙汰にされることなくひっそりと終焉を迎えた。次期当主が確定し、幾多の後始末をつけた頃には次期当主が小学校に入学して二年経過していた。
ようやく次期当主の受け入れ準備が住んだと上層部が報告を受けたのだが、ここで大きな問題が発生した。次期当主は今に至るまでろくな教育を受けていないというのだ。
というのも、争いが激しかったために安全な場所に隔離したのはいいもの、その後の教育係の選出に時間を取られている間にさらに闘争が激化し、教育係の問題は先送りにされている内に忘れられてしまい、現場で働いていた世話係達も教育係が来ない事から次期当主争いに敗れたと考え世話はおざなりになっていたという。
入学した小学校も一般の公立校でしかも送り迎えなどの護衛も0であったという報告を聞いた時、担当者は夢であってくれと願ってやまなかった。とにかく関係各所に連絡を入れて次期当主の確保に成功したのは連絡があった二日後だった。
それと同時に、次期当主決定を各所に知らしめるパーティーの開催もその日だった。後継者問題が再燃しないように早めに事実を知らしめてしまおうという意図があった。当然、礼節などの教育が済んでいると考えてのスケジュールであったのだが、今となっては裏目でしかない。
それに、今まで散々放置してきていきなり後継者だなんやかんやと言って、幼い子供が素直に聞く可能性は限りなく薄い。
上層部は頭を抱えて悩み続けるのだった。
拉致されている最中に様々なことを話された。長く続いた後継者争いが片付いたこと。その結果自分が次期当主になったこと。今まで世話がおざなりだったのは上層部の本意ではなかったこと、などなど。
聞いてまず思ったのは次期当主って確定事項じゃなかったのかという驚きと、次期当主が食っちゃ寝の生活というのは嘘なのではないのだろうかという疑念だった。馬車馬のごとく働けとか言われたらどうしようと考えている内に飛行機に乗ることとなった。
本拠地が首都にあるらしく、そこに連れていかれるらしい。
電車でいいじゃん、と思ったが、目の前にある自家用ジェット機を見て考えが変わった。マジ一般人と同じ車両になんか乗れないよね。だって自分ヴィップですから。あんな狭い犬小屋になんて乗るわけないよ。
そんなふうに調子に乗っていたせいか、酔った。すいません電車のがいいっす。自分一般人です。空飛ぶ棺桶に乗るとか正気の沙汰じゃないわ。だいたい航空力学とか信用ならないしな。
文句を考えている内にどうやら到着したようだった。一時間ほどで着いたので軽く酔っただけで済んだが、もし本拠地が外国とかだったらもっと長い間地獄を体験することになっていただろう。
この時点で、連続する異常事態にハイになっていたのだろう。考えてもみてほしい。学校が終わった帰り道に拉致され、金持ちの家を継ぐ事になった話をされ、飛行機に乗って酔って、今である。時間は夜の八時。腹も空くし疲れているしでハイテンションになっていた。この後の事態を予測できていればこんなにウキウキしてはいなかったはずである。
「では、午後九時より会食の予定となっておりますので、それまではお寛ぎ下さい。衣装はこちらですべて整えますので、ご安心ください」
立派なホテルに案内されたと思ったら、立派な部屋に通されて、何やらご飯を食べるらしい。案内をしてくれた人が一礼をして出て行ったのを見てふわふわしていた気持ちがようやく地に足が付いた。
衣装を着替えなければならないということは、相当な立場の人とかいるのだろうか。スーツとか着るのか? 胃が重い。
自分は精神こそ前世の記憶の分大人びているのだが、だからこそというべきか、精神が感じた負担を子供の体が受け止めきれないことがよくあるのだ。例えば今みたいに、緊張で気持ち悪くなって吐き気がひどくなる。
呻きながら扉を開け、何とかトイレまで行く。昼食をとってからそこそこの時間が経っていたため吐瀉物は出なかったが、何回か嘔吐くと幾分か吐き気は納まった。口を漱ぎ、トイレから出ると何やら言い合う声が聞こえる。
不思議に思い、声の方に行ってみるとそこには何人かの女の子がいた。何やら言い合いをしているようである。部外者の自分が立ち入ると話がややこしくなるんじゃないかと考え、影からひっそりと話を聞いてみる。
「あんた最近調子乗ってない? なんなのそのドレス。私、この間のパーティーで目立つなって言ったわよねぇ?」
金髪の女の子がそう言うと、周りの女の子たちも口ぐち文句を言い出した。どうやら『最近調子こいてんなお前シメてやんなきゃ分かんねぇか?』的な話のようだ。怖い。
「……これは、お父さんとお母さんが用意してくれたんです。だから着ています」
頭に大き目のリボンを付けている女の子がそう答えた。どうやら一対多の構図のようだ。
これは、俗にいういじめとかそういう類の事なのだろうか。いや状況的にそれ以外考えられないのだが、多数側が悪とは限らないじゃないか。もしかしてやむにやまれぬ事情からこういう因縁をつけているということも考えられるのが現実である。
「あんたの事、最初会った時から気にくわなかったのよ……そうだ、あんたに相応しいかっこにしてあげるわ」
そう言うと、金髪の子はリボンの子を何人かで押さえつけて、手にハサミを持った。いや流石にまずいなと思い、止めに入る。
「……あれぇ? 迷っちゃったなあ……ん? 何してるんだ君たち」
自分の大根役者っぷりはさて置き、とりあえず止めに入った。女の子たちはビクリとして振り返り、こちらが一人だと知ると安心したようにため息を吐いた。
「何だ男か。すっこんでてよ」
何だ男か、という言葉を聞くたびになんとなくの違和感を覚えるのは自分のみだろう。
「ハサミをそんなふうに持っていると危ないよ。それにその子も離してあげなよ」
「うっさいわね! すっこんでろって言ってんの! これは私たちの問題なの! あんた関係ないでしょ!」
顔を赤くして叫ぶ金髪の子。周りもそうだそうだと騒ぎ立てる。さて、なぜ彼女たちがここまで強気なのかというと、ズバリ言うと彼女たちの方が純粋に身体能力が上だからだ。
前世とは違い、今世は女性の方が身体能力が高い。男も鍛えればまあまあの筋力を持つようになるが、それでもやっぱり女性の方が身体能力が高くなるのだ。小学校一年の時の体力測定で男子が女子に勝てるのは長座体前屈くらいだと知った時の驚きは忘れないだろう。
つまりは彼女たちは最悪実力行使が可能だと考えているために強気なのだ。とすれば、自分は実力行使に出られると困るわけである。そうならないために何とかしなくてはならない。
「そんなふうに乱暴はするものじゃないよ。危ないからやめようよ」
「だから! 男はすっこんでろって言ってんのよ!」
金髪の子は今にもとびかかってきそうだが、相手がか弱い男であるということが留まらせているのだろう。……か弱いという修飾語を男に使うことが来るなんて夢にも思っていなかった。
さて、そろそろ時間だろう。今の時間は八時半である。九時開始の会食に着替えをするとしたらもう始めなくてはいけないはずだ。だとすると、そろそろ迎えが来てもおかしくはない。大人が来れば流石にこの子たちも退散するだろう。
「君が止めるっていうならとっととすっこむよ」
「うるさいわね、いい加減にしないと本当に」
「ここに居られましたか。おや? 何をしていらっしゃるので?」
ついに助けが来た。先ほど自分を部屋まで案内してくれた人が通路の曲がり角からあらわれると、それまで怒っていた様子もなりを潜め、ぼそぼそと小声で何か言ってから退散していった。残ったのはリボンの子と自分である。リボンの子はこちらをじっと見たまま動かないのでこちらも特に何も言わずにじっと見ることしかできない。気分は猫に見つめられている時のアレである。先に目をそらした方の負けなので目をそらすわけにはいかない。
「よくわかりませんが、時間もあまりありませんのでこちらにいらしてください」
しかし案内人に手を引かれてしまった自分は転ばないように目をさらさざるを得なかった。なんてこった。
「あっ……」
去り際に女の子が何か言いたげな表情だったが、角を曲がってしまった自分はそれ以上分からないのだった。
部屋に戻ってきてまずはシャワーを浴びることとなった。学校帰りからそのままであったので汗などもかいているから当然である。その後は髪を少し切って整えられ、服もワイシャツやらなんやらといろいろ整えられた。
化粧も少しされ、もうなんというか着せ替え人形の気分を味わった。着替えている最中にいろいろと賛美された気がするがいかんせん頭に残っていない。疲れていたり初めてのことで混乱していたりということもあるのだが、今までの事を行ったのはすべて男性であるのが主な原因だろう。
考えてみてほしい。妙にカマっぽい男性数人に囲まれ、服を着せ替えられ、化粧をされる様を。しかもちょくちょく周りの男性同士でキャーキャー言っている様を。そこの話題が自分をほめる言葉だったとしても、良い印象を抱くだろうか。差別的な発言になるかもしれないが、自分は何より貞操の危機を感じる人間であるのでどちらかというと嫌悪感を抱くのだ。
そんな局所的な地獄から解放された先はまたしても胃が重くなるような場所だった。
着替えが終わり、ジュースを飲んでいると案内をしてくれる人が来て、パーティー会場まで案内された。そこまでの道のりは足におもりがついてるんじゃないかというほど重いものである。できればつかないでくれという思いを無視するかのように目の前に大きな扉が迫ってくる。両開きの高級そうな扉の前には一組の男女がいた。
男性は、なんというかさえない印象がある。三十歳行っているかどうかという年齢だろう。女性の方は、いかにも優秀ですという風貌をしている。年齢は男性と変わらないくらいだろう。
案内の人がお辞儀をしてから一歩後ろに下がった。
「御子息を連れてまいりました」
「おお、久しぶりだな……本当に、大きくなった」
男性の方は目に涙を溜めてそう言った。
もしかしてなのだが、父と母なのだろうか。だとすれば、どうしたらいいのだろう。
息子に会えるの心待ちにする男がいた。天道グループの当主である彼はウキウキしながらその時を待っていた。彼は息子が成長する様子を映像や写真でしか見たことが無かった。それはすべて息子の安全を考えた際に仕方のない事ではあるが、それでもやはりさみしかった。暖かさを、熱を感じたかった。
長きに渡る政争の最中にもその思いは無くなることは無く、終盤は息子への思いで頑張ったと言っても過言ではないだろう。
「わくわくするな」
「もう、あなたったら……そのセリフ、十回以上言ってますよ」
隣に立つ妻も夫をいさめてはいるものの、その胸の高まりを抑え切れてはいなかった。あったら何を話そう。何をしてあげよう。優秀な頭脳はいくつもの案を挙げるがどれも十分ではない様に思える。会わなければ分からないのだろうと結論付けた彼女の判断は正しい。
しかし、すべては前提条件が間違えていたのだ。
彼ら夫婦は当然、息子には様々な教育が施されていると考えていた。自分たちが息子を知っているように、息子も自分たちを知っていると思っていた。
すべては、足りなかったのだ。時間も。愛も。
ボツかもしれない理由
女の子がここで助けられたからってチョロっと甘くなるってどうなんだと思ってしまったから
プロット
金髪の娘とは高校とかで再開
いじめられてたやつは中学とかで再開
ほかのヒロインは特に考えていない
ただヤンデられるだけなストーリーかもしれない