自分の部屋で座布団に座っていた。目の前には見慣れた机があり、普段終えてあるノートパソコンやらテレビがないことや、その他の家具がないことを除けば自分の部屋そのものである。
というか、机とカーペットと座布団以外が無い自分の部屋といえばその通りである。着ている服は灰色のスウェットだった。これまたいつもの部屋着である。
そして机の対面には一人の人物がいる。輪郭がはっきりしない上にピントが合っていないようなぼやけ方をしているので容姿などはわからないが、身長は自分と同じくらいで白髪なのだろうということがなんとなくわかる。
「こんにちは」
今のこの状況に疑問がないわけではないが、しかし目の前にいる人を無視するのも気が引けて挨拶をしてしまう。なんで自分の部屋にいるのかを聞いたほうが良かったかもしれないなと言葉を発してから思ったが今さらだった。
「ああ、こんにちは」
返ってきた声は年を重ねたものだった。落ち着きがあり、深い。
「ええっと、いくつか聞きたいことがあるんですけど」
「何かな?」
年上に対する敬意というのもあるし、初対面の人に砕けた口調で話すのもなんだか変な気がしたのである程度かしこまった言い方になってしまう。とは言え、聞き方によっては無礼であったはずの言葉に対する返答は穏やかなものだった。この人不法侵入じゃないのかと考えていたが毒気を抜かれてしまい、こちらもあまり気負わずに質問をする。
「あなたはいったい誰なんですか? 何故、この部屋にいるんですか?」
「私は****。ああ、君達の言葉でいうところの神というやつだ。この部屋は君が落ち着ける場所ということでこういう見た目になっているが、実際は君の部屋ではない。厳密にいえば、ここは私の部屋なので私はここにいる」
「はぁ、そうなんですか」
神? 神というのはあの神だろうか。啓示を与えたり奇跡を起こす人類の上位存在的な神であるのだろうか。にわかには信じられないし、不信感が増す。
「あなたが神だとして、なんで俺の前に現れたんです?」
ひょっとして、ムハンマドとかキリストとかブッダみたいに宗教を創始することになるのだろうか。神の子、俺。とかなるのだろうか。だとしても、現代社会では宗教の創始とかかなり難航する上にできたとしてもカルト扱いがいいところじゃないのか? 一番ありえそうなのは箸にも棒にも掛からずただのイタい人として扱われる可能性だ。
「時間は結構あるのだし、ゆっくりと説明しようか」
そう言って神は話した。三時間ほどぶっ続けで話し、こちらもようやく相手が本当に神なのだと確信できた。そして自分がここに呼ばれた理由も理解できた。
「それにしても、“イレギュラーで死ぬ”なんてことがあるんですね」
「まあ、システムも完璧ではないので極たまに君みたいに零れ落ちることがあるんだ」
時たま起こるイレギュラーによって俺は強制的に死んだらしい。イレギュラーというのは神が運営するシステムに起こる不具合のようなもので、それが起こる原因などがわからないために起こったらその時に対処するようにしているらしい。こういう事態は前例もちゃんとあるのであとはマニュアル的に対処されて次の世界に死んだ当時の姿で転移させるらしい。
「願い事は三つまで。叶えられる願いは自身に関することのみ。願いを増やす願いや神に匹敵する力などは不可。……これ注意書きであるってことはこういう願いもかつてあったんですか?」
「そうだね。そしてその通りに叶えたら後始末が大変だったから注意事項として記載されることになったんだよ」
……。ん? あれこれって……。
「いくつか質問いいですか?」
「ああ、いいよ」
「極たまにですけど、俺みたいにイレギュラーで死ぬ人がいるんですよね? その人たちにも同じように三つほど願いを叶えさせて次の世界に転移させたってことですか?」
「そうだね。最初に願いを増やす願いをした人以外には一律で三つの願いを叶えてもらって転異って形になるかな」
「例えばなんですけど、最強の剣とそれを扱える体が欲しいって言ったら願いは二つになりますか?」
「そうなるね」
「最強の剣って言っても何をもって最強にするのかとか、最強であるための条件だとかで剣に付与される能力って一つではないですよね? 一つの願いで結果的に複数の能力が付与されることになると思うんですけどこれは可能なんですか?」
「ふむ。願い自体は一つなので、結果としていくつか能力が付与されたとしても願い一つ分ということになるね」
そして、願われたら禁止されていないことは叶えるようになっている。
「参考にしたいので、今までの人たちの願いっていうのを聞かせてもらってもいいですか?」
「ああ、いいよ。君の前に来た人はね――」
神がいくつか前例を聞かせてくれて、なるほどそういう願いもあるのかと納得をした。参考になる。俺の頭ではとても考え付かないような願いもあり、すごいなあと感心するほかない。
「願いが決まりました」
「おお、そうか。じゃあさっそく、聞かせてもらおうかな」
「俺の七つ前の人の願いをそのまま俺に叶えてください。俺の三十五つ前の人の願いをそのまま俺に叶えてください。俺の八十四つ前の人の願いをそのまま俺に叶えてください」
「え? あ、ちょ」
願いを言うと同時、座っていた場所から円形の文様が現れる。三つの円がそれぞれ三つに分裂し、回転しながら上に浮き上がっていく。それぞれの円から俺に力が流れ込む。
「この願いでも願いは三つにカウントされるんですね。いやー、よかった。うまくいかないんじゃないかっていう疑問もあったんですが、どうも杞憂だったようで」
そう言って笑うと、先ほどまで明るかった声を幾分か落とした返答がある。
「……これだからイレギュラーで死んだ奴は嫌なんだ。どいつもこいつもこちらの裏をかこうとばかりしてくる。まあ、システムで叶ってしまった以上こちらでそれを不可にすることはできない。
だが、よく聞けよ。お前が何か問題を起こせばこちらで対処することになるんだからな?」
「対処、問題。
いくつか聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「……ああ、お前が送られるまでの間に答えられるだけならいいよ」
「なんであなた方は人間を管理しなかったんですか? システムとかで運営してるって言いましたけど直接統治したらよかったじゃないですか。システム的に死ぬ人は死因がその通りになるように殺したらいい。そうやって直接的に運営したらイレギュラーがどうとか考えないで済むんじゃないですか? なんでわざわざシステムなんてものを介して運営してるんです?」
「……あっもう転移する時間みたいだから送るわ。じゃあの」
神は妙に早口にそう言うと、俺を囲んでいた円が狭まり始める。
「え、ちょっと! 答えれるでしょ」
「時間がない!」
やがて円が体に触れると、そこから先が消えてなくなる。恐ろしい光景だ。これは実際は転移とかじゃなくって殺されてるんじゃなかろうか。体の一部分が消えているせいかなぜか声も出せなくなり、音も聞こえなくなった。円が眼前に迫る。ぎゅっと目をつぶると、ほどなくして暗くなった。
何秒か経過したのだろうか。不意に光を感じる。目を開くと、目の前には壁があった。触るとぼろぼろと表面が崩れ落ちる。おそらくどこかの部屋の中にいるのだろうと思い、外に出ることにした。薄暗いが、同じくぼろぼろの天井から光が差し込んできているので道がわからないほどではなかった。幾分か進むうちに階段があった。上ると、木の蓋のようなものがある。それを押し上げると埃が舞い散り、むせる。やがておさまったのでそのまま階段を進むとようやく外に出れた。瓦礫と茶色い地面が目に飛び込んでくる。俺は今どこかの廃墟にいるようだ。
見渡す限り同じ光景ばかりで、人の居る様子はない。ひとまず体の確認をすると、自分の体ではなかった。これは叶えた能力のうち、八十四つ前の能力である“優れた容姿”と“優れた肉体”あたりが関係しているのかもしれない。せっかくの転移なんだしというイメチェン感覚で変えてしまったのだがまあいいだろう。この世界の美的感覚が自分のそれと合致するかはさておき、体のほうは軽い。そして自由だ。
その場で飛び上れば何mも高く飛べるし、体の可動域やキレも信じられない。人体の限界を軽く超えているんじゃないかというほどのすごさだ。そしてそれを余すことなく認識できているのは同じく八十四つ前の能力である“優れた頭脳”が関係しているのかもしれない。
次に、七つ前の能力の確認をしてみる。能力は“吸収”“放出”“変化”だ。吸収はあらゆるものを吸収することができ、放出はあらゆるものを放出することができ、変化はあらゆるものを変化することができる。ただし変化は一日しか続かないし、変化させたものを変化させることはできない。
吸収はかなり便利な能力で、吸収できる量に上限はないし、プールできる量にも上限がない。条件付きで吸収するものも選べる。この能力を一つの願いとして叶えさせた先人は偉大だ。しかしなぜこの人は変化に一日なんて言う制限や二重に変化できないなんて制限を設けたのだろう。よくわからんがいくつかの能力が叶う上でのデメリットが必要だったのだろうか。しかし俺にはそういった兆候や何かがない。何故だろう。
こいつだけ、能力にデメリットを設けていたのだ。そして能力も申し分なく強い。しかし、ほかの能力だって同じくらい強くてしかし制限を受けない。
と思ったが、よくよく考えればこの能力は“自身に関することのみ”という制限を外れている。変化させる対象が自身以外にもあり得るから時間制限や二重変化の制限があるのだろう。願いに制限をかけてまでこの願いを叶えたかったのか。そう思うと、この変化の能力は果てしないポテンシャルを秘めているような気がする。逆に放出は吸収ありきの能力にしか思えないが、シナジーが組まれている以上何かあるのかもしれない。
ひとまず、スウェットのままでいるのも変な気分だったので変化でジャージに変える。靴は靴下を変化させて運動靴にした。さっと走って人里まで行きたいなあと考えて、太陽のある方向に向かった。
ボツ理由
とにかく主人公を強くしてしまった結果困難な状況を考え付かなかった
プロット
この後はフォールアウトとかマッドマックスみたいな崩壊世界で無双するのかもしれない