俺と私のマゼラン雲航海日誌   作:桐山将幸

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二ヶ月半、長いんだか短いんだか。
とにかく、なんとか投稿できました。
短めですがお楽しみいただければ幸いです。



喰らい合う『英雄』!!ブラックホール連星の決戦!!【1】

 右舷には赤く燃える巨星、前方には輝く円盤に包まれた暗黒の塊。

 星系全体に薄く立ち込めるガスは、宇宙の黒さを許さず、赤色に輝いている。

 

 「……これが観光や調査航海ならどんなに良かったことか」

 

 俺の呟きは闇に溶ける。

 ────そうだ、俺は今、『たった一人』でこの宙域に居る。

 各要員として分割された『我々』は居るものの、かつて人間であった時に感じていた意思の力と心の温かみは消え失せている。

 

 「宇宙……そこは最期のフロンティア、これは提督アキラ・クロガネが22世紀において任務を続行し、未知なる生命と文明を求め人類未踏の宇宙を勇敢に旅した物語である……と」

 

 実際は概ねその反対だ。

 宇宙は恐怖と脅威に満ちていて、おとなしく人類を住まわせてくれる気などない。

 私の任務は防衛目的とはいえ戦争と殺戮以外の何者でもなく、既に終了している。

 未知なる生命と文明は恐怖の対象であり潜在的な脅威、そして恐るべき敵の養分以外の何者でもないのだ。

 それは次元を、世界を跨いでも……変わることはない。

 

 「唯一正しいのは、勇敢に旅しているってところくらいか」

 

 ────どうだろうか、本当に、純粋な気持ちで宇宙を旅することができたとしたら。

 未知の文明と友好関係を築くのもいい、大艦隊で打ち破り支配してもいいし、……外交の火花を散らし、宙族を差し向けあう陰湿なやりとりをするのも悪くないだろう。

 

 「だが、我々はもう知ってしまった」

 

 異種族がもたらす恐ろしい結末を────脳裏に浮かぶ、赤い星────を。

 我々自らが秘める、我々の本性そのものとも言える、創造物────脳裏に浮かぶ、青い空間、琥珀色の空間────を。

 

 「さあ、異星人の英雄よ」

 

 小マゼラン雲を守る、勇者よ、お前が、俺の知る通りの男なら、かならずここに─────

 

 

 「────知る、だと?」

 

 

 うつろな問いも、また闇に溶けた。

 

 

 

 「全艦、正常にゲシュタムアウト」

 

 白い巨艦、”ドメラーズ三世”の艦橋にて、静かに声が響く。

 

 「よろしい、警戒体制を敷きつつ、星系中央のブラックホール連星に接近せよ」

 

 「しかし閣下、それでは、わざわざ難所を選んだ敵の思う壺なのでは……」

 

 『無論、敵がここを選んでいたらのことですが……』と付け加えたハイデルンは、敬愛する司令官の判断に疑問を挟むことへの気後れからか口を噤んだ。

 

 「分かっている、だが────やつもまた、我々の牙から逃げることはしない」

 

 強力な指揮官同士、何か通じるところがあるのだろうか……と、ハイデルンは考え、それ以上何も言わず、隊形の再編を指揮し始める。

 星系に充満するガスの影響を避けるため低速で(といっても、読者諸兄姉が生きる21世紀において最も高速な宇宙船と比して数百倍以上の速度)で進むドメル艦隊の前に、ブラックホールと恒星が織りなす威容としか言い様のない風景が、ゆっくりと顔を見せた。

 それと同時に、肉眼よりはるかに優れたドメラーズ三世の光学センサーには、相対すべき敵手の姿が捉えられていた。

 

 「……前方、100光秒、この星系にないスペクトルで発光する物体あり」

 

 「メインスクリーンに回せ」

 

 まず見えたのは、赤だ。

 ぼやけた赤に、ぼやけた赤黒がにじみ、くすんだ黄色が浮かぶ。

 

 「あれは……」

 

 「ガス、及び恒星スペクトルを補正し再出力します」

 

 滲んだ赤が引き、まず見えたのは緑だった。

 赤の塊に、緑が浮かび、金が霞んだ。

 

 「既存データに該当艦種ありません、しかし、あれは────」

 

 ────あれは、どう見ても。

 ブリッジ要員すべての緊張が高まる。

 

 「外壁のスペクトル、敵『戦艦』に一致、全長不明、全幅、詳細不明ながら、『戦艦』級の全長を上回っています、全高はそれ以上……、おそらく、敵の新たな……」

 

 「目標、赤色の巨大艦艇を敵の新たな旗艦と認定、以後、『巨大戦艦』と呼称する」

 

 言いよどんだ観測手につなぐように、ドメルが宣言した。

 

 「巨大戦艦は本艦に近い速度で、星系中央部に進出中、周辺には、『ゲシュタム・エミッタ』二隻、更に『ゴースト』四隻、『ヒューマノイドミサイル艇』三隻」

 

 ゲシュタム・エミッタ────空間を波打たせる奇妙かつ強力な攻撃を行う、金色の棘状構造を持った大型母艦。

 ゴースト────解析困難な技術で爆発性の分身を作り出す小型母艦。

 ヒューマノイドミサイル艇────どういうわけか人の形をした大型のミサイル艇。

 いずれも、ガミラスにはない設計思想及び技術を持った驚異的……かつ、脅威的な艦艇だ。

 

 「その他小型機については、未だ映像解析不可能です」

 

 「────すでに、母艦を後にして、『亜空間潜航』を行っている可能性もある、か」

 

 すなわち、突如眼の前に敵戦闘機が現れ、あの戦艦の砲撃に匹敵するエネルギー砲を一斉射、こちらの出鼻を挫いたところで、ゆうゆうと本隊が進撃し我が艦隊を撃滅……という、最悪のビジョンはすでに目の前にある、ということだ。

 

 「司令、先に開発した、ゲシュタム・コアの射出作戦……実行の時期は、いつになさるのですか」

 

 はやった若年士官が、スクリーンを見つめたドメルに尋ねた。

 

 「馬鹿、お前────」

 

 「いい、ハイデルン……、だが言うことは同じだろうな」

 

 疑問符を飛ばす若者に、ドメルはきっぱりと言った。

 

 「最高の武器というものは、隠しておくことにも意味があるものだ」

 

 

 

 独立艦隊旗艦、地球連合軍バイド生命体種族識別コードB-BS-Cnb”暴走戦艦”コンバイラの艦内においても、前方に浮かぶ自らの敵手を認識しつつあった。

 

 『前方90光秒に敵の艦影を感知、一種のみ明らかに未知の艦艇の存在を認める』

 

 光学観測では緑色の粒が浮かんでいるようにしか見えない『艦隊』の中央、ひときわ大きい白色の艦が、目を引く。

 

 「兵装の分析は可能か?」

 

 『現状では困難です、しかし、目立った構造物がない船体から、おそらくは純粋な戦闘艦であり、その能力は既知のガミラス戦闘艦艇を相似拡大したものに相当することが予想されます』

 

 「うむ、では、白色の艦艇を敵の旗艦と認定、艦種を『巨大戦艦』とする」

 

 白色の船体、せり出した艦橋、幅の広いインテーク部。

 正面から見える全幅はかつての旗艦ボルドに匹敵する。

 提督の目にはそれが、これまでのガミラス戦艦とは根本的に異なる……言うなれば、これまでになく『本格的』な戦艦に写った。

 

 (蛮族との最前線に来て、ようやく出てきた……というわけか)

 

 『敵前衛、本艦の射程圏内まで、およそ5分です』

 

 「よろしい、アンフィビアンを亜空間潜航させ、敵前方に待機させろ、ノーザリー各艦は本艦の背面に下がり、その上でデコイを放出しろ」

 

 『了解!』

 

 (鬼が出るか蛇が出るか、敵も、ここまで来てただ殴り合う気もあるまい────)

 

 距離が近づくにつれ、提督の『目』にもくっきりと敵の姿が見えてきた。

 これまでの『戦艦』に倍する巨大さを持った白色の『巨大戦艦』一隻、『戦艦』四隻、『戦艦』に近い形態の未知の艦種────仮に『新型戦艦』とする────一隻、豪勢な装備の『巡戦』が五隻。

 ここまででも、これまでにない強力な艦隊であることが分かるが、これはまだ序の口である。

 

 『円盤型空母、4、水上型空母、3、重巡、15、軽巡、25、駆逐艦────多数』

 

 「────殴り合っても、あちらには十分勝算があるだろうが、な」

 

 距離が縮まるにつれ、隊形はより戦闘に最適化され、空母は盛んに艦載機を放出してゆく。

 

 「……想定はしていたが、予想以上にシンプルな回答だ」

 

 提督は、少し呆れた様子で呟いた。

 敵の航空戦力が味方の数倍の質を持つなら、10倍の量をぶつけてしまえばよい……、高い動員能力を持つ将にのみ可能な戦術は、その無茶な前提条件に報いるだけの圧を持って、彼を出迎えていた。

 

 「純粋な戦力で勝てたことなんて、ただの一度もない」

 

 自分が歩んできた軍歴は、そういうものだったはずだ。

 これまでの独り言よりもさらに小さく呟いて、提督は敵を見据える。

 

 「さあ、やろうか」

 

 

 

 エルク・ドメルはかつてなく緊張していた。

 彼にとって、戦いで緊張するなど、初陣を含め数えるほどしかないことだ。

 彼は、敵に与えられる恐怖を、正確な戦場の把握と、自らと将兵を奮い立たせるための勇気に変換できるタイプの人物である。

 

 (最初にガトランティスに触れた時、俺は恐怖を覚えた、ガトランティスは全く未知の敵であり、自分が学んだ戦術も、自分が経験した戦闘も、自分が巡らすどのような想像も及ばぬ相手のように思えたからだ)

 

 ドメルの軍歴────あるいは、近代ガミラスの歴史において、本当に未知の敵というのは数えるほどしかない。

 そもそも、大小ガミラスは関係の疎密はともかくとして、多くの星間国家が存在しており、超光速航法を入手していない文明含め、どの文明の存在も知らず、どの文明の存在も知らされていないといった文明はほとんどなく、軍備においてもそれは同様である。

 それ故、ガミラスはその拡大の初期において、十分に『ガミラス的で、かつ既知の文明に対し有効な武装を持った兵器群』を量産することで、当面の戦闘を乗り切る事ができていた。

 しかし、ガトランティスは違った。

 強力な文明はその猛威が知られており未知ではない、誰にも知られぬような文明ならば多少未知があっても力で押しつぶす事ができる。

 ガトランティスはそのどちらでもない、圧倒的な力と未知のヴェールを兼ね備えた、『強力な未知』……という、未知をもった文明であったのだ。

 

 (だが俺は、そのガトランティスとの戦いにも順応し、今ではその襲撃のほぼすべてをさしたる被害もなく撃滅出来るようになっている)

 

 ────しかし、それは。

 

 (それは、ガトランティス帝国が所詮はドクトリンといくつかの兵器体系が違う程度の差異しかない、いわば『同じ土俵』での勝負でしかなかったからだ)

 

 今は違う、今ドメルが相対している敵は、兵器どころか技術の形そのものが根本から異なる敵である。

 何が飛び出すか分からない。

 

 (絶対速度を保ったまま反転する戦闘機、機能以外は全く見分けがつかないダミーを射出する小型母艦、志向性を持った空間振動であらゆるミサイルを無力化する兵器、敵艦隊を亜空間に引きずり込む正体不明の装置……こちらもその片鱗程度は掴んでいる技術もあれば、完全に未知の技術もある、………次は一体、何を持ち出してくる、『貪食する群れ』の指揮官よ)

 

 次第にモニタの中で大きさを増す敵の母艦を見ながら、ドメルは自分の口元が歪んでいるのに気付いた。

 

 「さすがは閣下、あのデカブツを前に、笑っていらっしゃる」

 

 「俺は、笑っていたか」

 

 部下に指摘され、ドメルはバツが悪そうに、自負を兼ねた自嘲と、隠しきれぬ高揚を持って、無自覚な笑みを自覚的なものに変えた。

 

 「楽しみにしているのかもしれん」

 

 「ほう、何をです?」

 

 「決まっている、やつが一体何を持ち出してくれるのか、だ」

 

 

 

 バイド生命体は多種多様である。

 ある惑星を支配したのであれば、そこに存在したすべての生物種、すべての機械それぞれが別個のバイド生命体の種族を生じさせる。

 しかし、その中でも一握りの存在のみが、土着生物のレベルを越え宇宙全域で見ることが出来る強力なバイド体として知られることになるのだ。

 『提督』が指揮する(自分の一部として選ぶ)バイド生命体はすべてそのような強力なものだが……、B-BS-Cnb”暴走戦艦”コンバイラはその中でも、強大な旗艦として恐れられていた。

 その所以は────

 

 『敵前衛駆逐艦群、照準完了、データリンクでいつでも砲撃を開始できます』

 

 コンバイラが恐れられる理由は、その巨躯でも、充実した兵装でも、艦載機運用能力でもない。

 

 「敵艦隊全体をレーダーに表示しろ」

 

 地球文明全体でも屈指と言える、圧倒的なまでの索敵能力であった。

 

 スクリーンから白艦を押しのけ、ガミラス艦隊全体が表示される。

 前衛には駆逐艦、それに守られる形で戦艦が後方に構え、その間には重巡と軽巡、巡戦が構え、いつでも艦隊の脇腹から飛び出し騎馬突撃を行えるように待機中。

 中央で厳重に守られた空母群は艦載機の展開を終え、展開された艦載機は左右に別れ、両翼からバイド艦隊を攻撃すべく行動を開始している。

 

 『まさしく教科書通りといった感じの陣形ですね、ガミラスの教科書など読んだことはありませんが』

 

 「まあ、パターン通りで、かつもっとも妥当なセンだろう……だが、有効だ」

 

 『提督、敵の狙いは明らかです、飽和攻撃によってこちらの出鼻をくじきつつ側背を突き、半包囲に持ち込むことでしょう』

 

 駆逐艦、戦艦、巡洋艦、敵の戦力はすべてミサイル攻撃が可能であり、艦載機による突撃と合わせれば完全にこちらの迎撃能力を上回る事ができる、圧倒的物量による攻撃の前にはRであっても『受け流す』ことしかできないことを、敵は理解しているのだろう。

 

 「……タブロック、及びベルメイトを本艦両脇に配置、ベルメイトは敵艦載機隊の迎撃にあたれ、バイドシステム隊は1小隊ずつで敵の突入を妨害しろ」

 

 敵はこれまでの部隊とは異なり、前線で鍛えられた精強な部隊だ。

 そのような部隊の航空機隊を通せば、我が艦隊はめちゃくちゃにかき回されて再起不能になってしまうだろう。

 

 「もう一機のタブロックは本艦天舷後方に配置、ノーザリーは……指示あるまで、左右翼に寄せておけ、その他『腐れ』各機は任せる、戦闘の状況に合わせ流動的に運用せよ」

 

 『了解!』

 

 『敵艦隊、ミサイル発射隊形に移行しつつあります』

 

 「照準はどこまで付けられる?」

 

 『ミサイルであれば、隊列の半ばまでは』

 

 「よろしい、目標────敵旗艦、『巨大戦艦』、本艦のファットミサイル砲H及び、タブロックの中型ミサイルをすべて同時に叩き込め」

 

 

 

 ────戦闘が始まる、敵戦力は予想していた範囲を越えない。

 しかし……、何か、何かがおかしい。

 何かが起こっているのだ、致命的な何かが。

 

 「……戦場の違和感など、よくあることだ」

 

 小さく呟いて、俺は自分を納得させる。

 何があろうと、なかろうと、やることは変わらないのだから。

 いつも通り、やればいいだけだ。

 

 そうだ、ためらうことは何もない。

 ただ、目の前に罠があれば食らい付くし、目の前に敵がいれば破壊するだけだ。

 

 ガミラスを倒して、地球を護ろう。

 

 さあ、行こうか。

 

 

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さて、ようやくの原作キャラとの対面(?)です。
双方十分準備しての戦闘もこれが初めてになりますね。
はじめての試みですが、精一杯二人の名将の戦いを描いていきたいです。


さて、リアルでは色々ありましたね。
資料集の発売に、超合金ガミラス艦の発売、ノイバルグレイのメカコレも出ます。
2202本編は終われど、次なる戦いに備え、未だヤマトの火は消えていません。(2202小説版もまだ大分残っていますし)
まあ、私は実のところアシェット・コレクションズ・ジャパンの350分の1ヤマトを作り始めちゃっているので火が消えるとか消えないとかどころの話じゃないんですが……。


リアルは落ち着き気味になったし、なるべく今年中にでも完結したいなぁ……無理かなぁ……。

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