月の死後にゲーム好きの高校生がデスノートを拾ったら 作:マタタビ
「夕斗くーん、朝ですよー」
夕斗はその声を聞いて目を開けた。まず最初に目にあったのはアイスの顔のドアップだった。
「おい」
「ん?」
「どけろ」
夕斗が冷たくそう言うと、アイスはふわりと透明な翼で羽ばたいて体から降りた。
「ちょっと、どけろってひどくない?朝起こしてって頼んでるのは夕斗なのに」
スマホを見るとピッタリ6時半だった。いつも6時に目覚ましをセットしているがそれでも起きられないことがよくあった。
「だからってのしかかれとは言ってないだろ馬鹿」
寝起きの不機嫌さも相まって口が悪くなるのはいつものことだった。
「のしかかってるんじゃないよ」
「じゃあ何なんだよ」
「なかなか起きないからたっぷり一分間目覚めのキスをしてるだけです」
なぜか自信満々で胸を張りながらかました衝撃のカミングアウトを聞いて夕斗は洗面台にダッシュした。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「次やったら二度と口聞かねえぞ人外」
夕斗はゆすいだ口を乱暴に拭いた。
「なんでよ、それはいやだ。ごめんなさい」
それから謝り続けるアイスを無視して朝の準備を終え、夕斗は学校に向かった。
通学路で前方に煜の姿を見つけて夕斗は心を躍らせた。まだ煜は夕斗に気づいていないようだ。夕斗はほくそ笑んだ。今のあいつは、油断している。今ならいける。息を殺し、すぐ後ろまで近づき、
「ひっかるくーんおっはよーう!」
夕斗は煜に抱きついた。
「うわっ!やめろよ気持ち悪い、びっくりしたじゃん」
「そんな冷たいこと言うなよ。それよりさー今日来るって言うアメリカ人の転校生、超かわいいらしいぜ!」
夕斗は数日前に部活仲間から仕入れた情報を煜に教えた。
「ふーん、そうなんだ」
煜の返事はあまり気乗りしないものだった。
「なんだよその反応、嬉しくねーの?」
「だってそんな可愛い子僕たちには見向きもしないよ」
諦めたような悟ったような口調で煜は呟いた。
「たちは余計だよ、たちは!」
夕斗は笑いながらそう言った。煜が転校生に興味がなさそうで少し安心した。教室について煜と話しているうちにチャイムが鳴った。夕斗にとって一番楽しい時間の終わりを告げるチャイムは忌々しいものだった。
「もうホームルーム始まるのかー」
夕斗はしぶとく煜のとなりの席に座っていたが、早く戻らないと怒られるよ、と煜に言われて仕方なく自分の席に戻った。
担任が教室に入ってきて転校生を紹介することを伝えた。呼ばれて入ってきた転校生はまるで人形のように整った顔立ちだった。自己紹介して照れるように、はにかむのを見て、夕斗はあざといな、と心の中で呟き、鼻で笑った。そうしてふと煜の方を見たとき、ヒヤリとした。煜の目があの女に釘付けになっていた。
「ええ、じゃあ君の出席番号は3番だから、朝日の隣だ」
煜の隣だと?許せん。なんとか異議を申し立てねば。
「ええー俺の隣にしてくれよ先生!」
「だったら朝日と結婚でもして苗字を変えるんだな」
担任が茶化してそういうとクラスに笑いが起こったが、夕斗はそれどころではなかった。
煜が顔を赤くしてあの女と喋っている。それが許せなかった。なんとしてでもあの二人を引き離さねばならない。夕斗は心の中で強く決意した。
「はぁ」
部活が終わり、仲間と別れて1人で家に向かう途中、夕斗は思わずため息をついた。
「どうしたの?元気ないわね」
能天気にアイスが話しかけてくる。いつもなら鬱陶しいが、今日だけは愚痴を聞いて欲しかった。
「そりゃため息もでるだろ。煜のあの惚けた顔見たかよ。あの女絶対に許さねえ」
「ちょっと目が血走ってるよ。そこまであの煜って子が好きなの?」
やや引き気味でアイスが疑問を口にする。
「ニンゲンって男は女を好きになって、女は男を好きになるもんだと思ってたんだけど」
「うるせえ、愛に性別は関係ないんだよ!俺は煜が好きで、煜は俺のものなんだ!」
「うわぁ」
「なんだよ」
「なんか、すごいね」
こんな奴にどう思われようと知ったことではなかった。とにかく、夕斗は煜にあのアリスとかいう女を諦めてもらえる作戦を考えることにした。
「どうすればあいつと煜を引き離すか考えるぞ」
「そんなに引き離したいならノートであの子を殺しちゃえば?」
アイスの目が妖しく光る。
「そうだな、もちろんそれは最終手段として最初から視野には入れてある」
「…」
「どうした?」
夕斗は黙ってしまったアイスを見返した。
「いや、ちょっとあんたが怖かっただけ」
こんな奴に怖いと言われればおしまいだなと考えつつも、家に着いた夕斗は第1の作戦を思いついた。
「まずあの女に煜の駄目なところを教えて幻滅させる。そうすれば煜への興味も失って、煜も諦めるだろう」
「まあ、頑張ってねー。私はいつでも夕斗の味方だからなにかあったらいつでも言ってね」
語尾にハートマークが付きそうな甘えた声でアイスがそう言ったのを夕斗は聞き逃さなかった。
「そのことなんだけどさ、アイス。俺は明日から土日の間部活で煜の様子が分からないからあの女が煜に近づいてないか見ておいて欲しいんだけど」
「え、それは…」
アイスが珍しく露骨に嫌そうな顔をした。
「どうした?嫌なのか?」
「嫌っていうかさ、煜も持ってるんだよね」
持っている?どういうことか夕斗にはよくわからなかった。
「夕斗と同じようにデスノートを持ってるの、それで私と同じような死神があの子にもついてるのよ」
朝に続いて夕斗にとってショッキングな事実であった。
「え、じゃあ、ああいうノートは何冊もあるってことか?それにお前死神だったのかよ」
「あ、いや、私は天使だよ?でも、夕斗の言うようにデスノートは何冊もある、人間界に存在できる冊数は決まってるけどね」
煜もノートを持っていたなんて、夕斗はそこまで考えてある恐ろしい可能性に思い当たった。
「なあ、もしかして今起こってるキラの粛清って、煜がやってるのかな」
「んー、分からないけどノートを使えばできることは確かだね」
「だよな、じゃあもし俺がノートを持ってるってことを煜が知ったら…」
それ以上言うのは恐ろしくて、とても言えなかった。
「でも、まだ煜がキラだって決まったわけじゃないじゃん」
煜についてる死神は前のキラについていた死神と同じやつだけど、とはとても言えず、アイスは気休めを言った。
「私がそれも含めて見てきてあげようか?」
あまりにも夕斗が落ち込んでいるのでそう声をかけてしまった。
「ああ、頼んだもちろんあの女のことも気をつけてくれよ」
「了解!」
「それとさ、煜にも死神がついてるって言ってたけどそいつには見つからないの?」
「その点は大丈夫!私は死神の中でも特殊で透明化できちゃいますから」
「ふーん、やっぱりお前死神なんだな」
アイスがカマをかけられたと気づいたときにはもう遅かった。
「あ、だから私はあくまでも天使だよ?」
「分かったってとりあえずこの土日は頼んだぞ」
夕斗は笑いながらそういうと、勉強机に向かって今日の復習を始めた。