月の死後にゲーム好きの高校生がデスノートを拾ったら 作:マタタビ
煜はクタクタになって家にたどり着いた。時計の針はすでに11時を過ぎていることを教えてくれた。煜の母親が玄関まで来た。
「煜!こんな時間までどこにいってたの?」
怒ったような安心したような声で尋ねる母親を見て少し心が痛んだ。
「ごめん、ちょっと友達の家に遊びにいって、気付いたらこんな時間になっちゃったんだ」
「それにしても連絡の一つくらいするものでしょ。心配したのよ、次からは気をつけね」
「母さん、本当にごめん」
「分かればいいわ。ご飯は机の上にあるから食べたら早く寝なさい。明日はテストでしょ」
煜はこれからのことを思うと本当に申し訳ない気持ちになった。だがやらねばなるまい、平和な世界には僕の力が必要だ。
「分かった、次からは気をつけるよ」
煜は靴を脱ぎ、母の横を通り抜けて自分の部屋に入った。扉を閉じて深呼吸をする。ごめんね母さん、僕は親不孝な子どもだ。でも僕にしかできないことなんだ。
そしてニア、君を生かしておくわけにはいかない。君は思っていたよりも恐ろしい存在だ。今まで悪人以外を殺したことはないし、殺したくはなかったが、僕が見つかってしまっては本末転倒。今回ばかりはやむを得ない。相手は世界一の探偵だ、だが負けるわけにはいかない。そのために何もかも犠牲にする覚悟はできている。それに煜には強力なパートナーができている。
「リューク、さっき話した作戦、ちゃんと覚えてる?」
僕は夜神月とは違う。彼には天才的な頭脳と類い稀な身体能力、そして人の心を掴む天性の魅力があったが、僕にはない。でも僕は夜神月が持っていなかったものを持っている。仲間だ。しかもただの仲間ではない、最強の味方だ。
「ああ、覚えてるさ。しっかりやってやるよ」
今までのどんなときよりも頭が冷たく冴え渡っていた。ニアとその部下を全員殺す。そのゲームが始まったのだ。
「じゃあ頼んだよ。僕はデスノートの所有権を」
煜は目を閉じた。
「捨てる!」
煜は目を開けた。
なぜこんなことをしていたんだろう?そうだ、確かアリスと山で...ダメだよく思い出せない。ああ、いけない明日は試験があることをすっかり忘れていた。早く勉強しないと。しかし体があまりにも疲弊していた煜は風呂にも入らずベッドに倒れこんだ。
「白雪姫は毒リンゴを食べさせられたとき、最初は警戒して手を出さなかったのですが、リンゴ売りに扮した王妃が半分食べてみせたところ、油断してリンゴをかじってしまったそうです」
ニアはうんざりした。最近Lが何をしたいのか分からない。ジェニファーからいい報告はまだない。大方、何もないのがLには退屈なのだろう。
「それがどうしたっていうんですか」
「いやね、その毒リンゴというのが半分は白色で半分は赤色なんです。そして王妃が食べたほうが白色、つまり毒がないほう。そして赤色のほうには毒が入っていた。でもなんで半分白くしたんでしょう?全部赤色でも問題なさそうなのに。まあ王妃はその時点では白雪姫に勝ったと言えるでしょうが知っての通り最後は不幸な人生の終わり方をしました」
「私ならどちらにしろ絶対に食べませんけどね。それに今はどうだっていいじゃありませんかそんなこと」
しかしLの表情は真剣に見えた。
「いえ、これは私が生前解けなかった謎のひとつです。でも死神になってから気づいたのですが白いほうにも毒が入っていた可能性がある」
「そうですか。白い毒リンゴの謎、解けるといいですね」
「ニアに託しましょう。いつか答えを聞かせてください」
なぜそんなくだらないことを考えなければいけないんだ。キラ捜査は報告待ちといえど、ニアは他にもいくつかの事件を掛け持ちしていた、Lの言葉に構う余裕はなかった。早くノートを見つけてしまえばいいのだが。そんなことを思った矢先、部屋のドアがノックされた。
「ニア、大変です!ジェニファーの死亡が緊急用の端末から知らされました!」
ジェニファーの手首には脈をとる腕輪をしている。ジェニファーが死ぬか、もしくはそれが破壊されるとニア達の元にそれが知らされるのだ。ニアは立ち上がった。ジェニファーが死亡?まさか殺された?本名を知られたというのか?
とにかく煜がNキラであることは間違いない。
「ジェニファーほどの者があれだけ慎重にことを進めていたのに」
ニアは驚きを隠せなかった。死神の目を持っていたのか?だがあれは使用者にとってもリスクの高い代物、それに殺されている犯罪者から見て持っていないと断定したのだ。だとすれば自分で気付いたのか。どうやら自分はあの少年を甘く身過ぎていたようだ。
「もうこちらの捜査はバレているでしょう。直ちに朝日 煜を確保しましょう」
ニアは思わず唇を噛んだ。
「ノートの所有権を放棄していたらどうしますか?」
捜査員が尋ねる。
「記憶が消えたからといって罪が消えるわけではありません。なんとしてでも我々でノートを手に入れ、記憶を復活させた上で自白をとります」
「わかりましたアンディに連絡して日本の警察と協力して直ちに朝日をとらえるよう伝えます」
煜はダッシュで家を出た。試験の日に限ってこんなギリギリに起きるなんてついてない。
昨日、夜遅くまで出歩いていたのが一番の原因だ。そんなことを思い出しながら角を曲がったときだった。突然後ろから目隠しをされ数人の男に体を縛り上げられた。
「何するんですか!?」
煜はパニックに陥って暴れたが、虚しい抵抗に終わった。
「朝日 煜を確保しました」
男の一人が誰かと連絡を取っているようだ。
煜はそのあとさらに猿ぐつわをかまされ、車に乗せられて移動させられた。
実際には1時間ほどだろうが何時間も座っているような感じがした。一体何が起こっているんだ?この人たちは誰だろう、僕はこれからどうなるんだろう、もう学校には戻れないのか、母さんと父さんにも会えなくなるのか、それらのことが頭の中をいつまでもぐるぐると回った。
車で移動したあとどうやら飛行機に乗せられ、体の自由を奪われたまま今度こそ何時間も座っていた。いつしか眠ってしまい、目覚めると今度はまた車に乗せられていた。
なんとかしようと口をもごもごさせるが一向に効果がない。もうダメだと煜が諦めたとき、車から降ろされ建物の内部に入っていくのがわかった。多分地下だ。そして体中を調べられたあとやっと目隠しと猿ぐつわが外された。
「ここはどこなんですか!?あなたたちは一体何者なんだ!?」
煜は周りの男に聞いたが、返事はなかった。
「ニア、どうやら記憶は失っているようです」
するとニアと呼ばれた男がスピーカー越しに無表情な声で返した。
「やはりそうですか。わかりました、独房に入れておいてください」
「わかりました」
煜は何が何だか全くわからないまま閉じ込められてしまった。一体なんなんだ?僕が何をしたっていうんだ。こんな仕打ちを受ける覚えはない。自分はただの平凡な高校生だ、煜はそう訴えたが男たちの目はとても冷たいものだった。
ニアは部屋に戻り、ドアを荒々しく閉めた。
「血圧が上がりますよ落ち着いてください」
黙れ、一からやり直しだ。また多くの人が死ぬ。これで落ち着いていられる方が異常だ。
「すぐに犠牲者が出るに違いありません。次はどんなやつがノートを手にするかによりますが、怪しいと思ったらすぐに身柄を確保し、持ち物を全て調べます」
「本当に落ち着いてください。また同じ失敗を繰り返すつもりですか?」
「じゃあ何かいい方法でもあるっていうんですか!だいたいあなたはキラ事件を解決するなんて言ってたくせにここに来てからこちらの捜査を眺めているだけではありませんか」
ニアは自分がこんなに取り乱していることに自分で驚いた。
「すみません、言い過ぎました」
下を向いたまま謝る。
「落ち着きましたか?」
「はい」
ニアはが返事をしたとき、誰かがドアをノックした。
「誰ですか?入って来て構いません」
失礼します、と言って入って来たのはアンディだった。
「本当に申し訳ありません!」
アンディはそう言うと床に手をついて謝罪した。
「私が奴の口車に乗せられ、すべて話してしまったせいで全部めちゃくちゃにしてしまいました。どんな形でも責任をとるつもりです」
アンディの肩が震えていることにニアは気付いた。
「頭を上げてください。今さら悔やんでも仕方がない」
アンディはそれでも罪滅ぼしのために何かできることはないかと聞いてきた。
「とりあえず本名を知られてしまったので、すでにノートで操られている可能性がある。23日間は独房で生活してもらいましょう。それがあなたに与える罰です、いいですね?」
アンディは尚も謝りながら了解したと返事をした。
それから3週間と数日後。デスノートの切り取ったページに死ぬ時間を書いていき、名前を書く欄だけが見えるように切り取った白い紙を上に被せる。こうして作り上げた署名簿を男は満足げに眺めた。
「おい、死神。これで本当に私に反対する市民が消えてくれるんだろうな」
「ああ、あとはあんたを辞めさせるための署名活動だとか言ってそこにそいつらの名前を自分で書かせればいい」
男はにやりと笑った、これで解職からは逃れられそうだ。男の名は神森 慎太郎、市議会議員だ。神森はいわゆる親のコネで今の地位まで上り詰めた。
だが小さい頃から親に甘やかされ、欲しいものはなんでも手に入るものと勘違いしている。ついには政治資金に手をつけ、その疑惑が今、世間で取り沙汰されているのだ。
「私に反対するものがどんな目に合うかわかれば、馬鹿どもも静かになるだろう」
「ああそうさ、あんたには俺がついてる」
「リュークとかいったな、本当に助かったよ何か褒美をやろう。何がいい?」
まるで王にでもなったかのような気分でリュークに聞く。
「じゃあリンゴをいっぱいくれよ」
「リンゴ?まあいいそんなものでいいならいくらでもやる」
こんなに安いものでこの力が使えるならこれほどいい話はない。神森は再びその顔に気味の悪い笑いを貼り付けた。この作戦を実行するのが楽しみだ。
「そうですか、はい、わかりました」
ニアは受話器を置いた。
「何か進展があったようですね」
その通り、進展はあった。だがニアの顔には喜びの色はなかった。
「今回の犯人は相当な馬鹿です、それどころか今までのデスノート所有者の中で最悪のクズですね」
ニアが受けた報告はまさに耳を疑うものだった。日本の市議会議員を辞めさせるための署名活動に参加したもの全員が死亡したというのだ。当然、疑わしいのはその議員、神森慎太郎だ。
「ちょうど神森は政治資金横領の疑惑がかかっています。かなり強引ですがそのための捜査だと言ってすぐにやつの周囲を調べさせるよう指示しました」
「そうですか、今回はすぐにノートも出てきそうですね」
だからと言って失われた命を取り戻すことはできない。それを分かっているからこそ次の犠牲者を出さぬよう、落ち込むのではなく冷静にノートを回収しなくてはならない。
2日後、再び部屋の電話が鳴り始めた。ニアが報告を受ける。少し驚きの表情を見せるが、すぐにまた二、三言指示を出すと電話を切った。
「忙しいですね」
Lがニアの顔を見て心配そうにした。
「ええ、神森の自宅を捜索したところ書斎の机の上にデスノートらしきものが見つかったそうです。しかもノートを触ったものには死神が見えたそうです。神森を逮捕し、ノートはこちらに送るよう指示しました。これで朝日にノートを触れさせて記憶を戻し、自供させれば今度こそ事件は絶対に終わる」
「そうかもしれません、ですが強く忠告しておきますが『絶対』という言葉ほど当てにならないものはありませんよ」
「そんなことはそんなことはわかっています」
そうそう言ってニアが自分の部屋を出たときアンディと廊下でぶつかりそうになった。
「おわっ!あ、ニア、すみません」
23日経っても死ぬことはなかったので捜査に復帰していたのだ。
「いえ、こちらこそすみませんでした」
ニアはすでに本部の部屋に向かいながらそう言った。