【GE作者合同投稿企画】MMOだよ、神喰さん!   作:GE二次作者一同

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【オリキャラ】【本編過去話】【ネタバレ】

投稿作品「GOD EATER The another story.」

だいさんかああああああああい!(うるさい
あ、初めましての人は初めまして。そうじゃない方、毎度毎度前書きと後書きがやかましい私です()
第一回コラボには参加したものの、その後名義変更しまして。あの時は終幕ノ余興名義でしたかね。

さて。今回は参加者でなく、主催者として動いておりました。参加してくださった皆様、心よりの感謝を送ると共に、今後とも変わらずの交流を送ることが出来るよう願っております。
いやー、しっかしね。忙しいですねこれ()
過去二回の主催者であるウンバボ族の強襲様から様々ご教授頂きまして、ようやくの開催でした。この場を借りて御礼申し上げます。

……なーんかお礼言ってばっかりですね……さっさと本編のお話をば。
今回のお話。短編として構築したものではありますが、上部記載の通り本編の過去話となっております。
まあぶっちゃけネタバレと言ってもどーでもいい位置みたいなもんげふげふ。
うん。こっち読んで本編行くも、本編からこっち読むもありだと思います。はい。
それでは、お楽しみいただければ幸いです。
↓ざっくり紹介
神崎神楽:本編主人公。孤児
柊修司:神楽を引き取った科学者
柊綾子:修司の妻


喰われ喰らった少女の物語【バジルの香草焼き】

2066年11月

 

「柊さんのお宅ですか?」

 

 あどけなさの残る、未だ童女と呼べる彼女はこの日、引き取り手の家を訪れた。

 

「今日からお世話になります、神崎神楽です。不束者ですが、どうかよろしくお願いします」

 

 彼女にとって、父の知り合いであると同時に自身を調べた相手であるその医師は、彼女の父同様研究者としての顔も持ち合わせていた。アラガミ化を中心に研究と実績を重ねていた彼にとって、彼女はある意味、最高のサンプルであると言って差し支えない。引き取るに当たってそれを目的にしていない道理はなく、かつ彼女を調べた身として、サンプル扱いに何ら抵抗を覚えなくなっていたとすら言える。人間が人間を調べるに思うところこそあれ、人でないものに一々頓着を挟む気はない。生命であると敬意を払うことはあろうが、そこまでだ。柊修司とはすなわちそういう研究者で、人間だった。

 よって、彼はある種の警戒心を持って出迎えたと言える。謂わば人間並みの思考回路を持ち、服を着た人類の敵を自宅で引き取るのだ。それは自分が彼女を独占するに好都合で、かつ条件でもあった。彼が引き取らなければ別の誰かがそうしたかもしれず、誰もせずともフェンリルが。フェンリルすらしなければ、野垂れ死ぬことすら待たずに殺されるのみであろう。してみれば、彼の行為は歪な目的を伴っていたとは言え、人助けの部類だった。当人は自覚せずとも、彼女はそれを感覚で理解している。

 

「いらっしゃい。待ってたわ」

 

 扉を開けたのは彼の妻であり、話しかけたのもそう。修司本人は土間の内で隠れるように笑顔を向けるのみである。

 それに怒りを覚えることは簡単だ。お前が引き取ると言ったのだろう、と。人でないことを理解した上で、お前は選択したのだろう、と。

 だが神楽は、自分にとってそれは些事、あるいは自らが耐えるべきことであると、そう考える。別にいい。むしろ、父の知り合いに引き取られたことを幸運に思おう。見ず知らずの誰かに引き取られるより、無機質に殺されるより、ずっと良い。少なくとも当面の生は保証されたではないか。何を思い煩う。

 

「さ。まずは上がってちょうだい。ここは支部から遠いから、疲れたでしょう」

「ありがとうございます。これでも体力はある方ですから、そうでもありません」

「そう?私なんて買い物で疲れちゃうから、羨ましいわ」

「そういうことなら任せてください。引き取って頂いて何もしないのもあれですし、家事も母に叩き込まれましたから、一通りは」

「あらま。ねえあなた。この子の爪の垢でも、うちの子に届けてあげない?」

 

 この間、修司は小さく瞠目していた。桜鹿……彼女の父から聞いた話から、また少なくはあるが自分が会った時も思いはしたが、彼女は早熟が過ぎる。女子は精神的な成長が早いとは言え、いかんせん規格外であろう。でなくとも家族を丸ごと失った直後にこれほど落ち着いているのは、つまり何だというのか、と。

 父からの学術的な教育、母からの生活面における指南、弟の相手をしたことでの成長、何より、コアとの同化による学習効率の飛躍的増進。理由や原因はいくつかあるものの、その大半において彼の知る外であり、必然的に彼女を異常と捉えることは無理のない事態だったろう。そもそも当人が持て余す変化によって、少々大きすぎる影響も出ていた。

 

「あ?ああ。見習わせたいね」

 

 曖昧に返事を返す彼へ、神楽は半ば畳みかけるように言う。ともかくも主導権を握る必要があると、本人の制御外から判断が為されていた。

 

「いくつか論文も拝見しました。父の研究と一部重なる点もあるようですし、もしよろしければそちらの手伝いも……」

「え?」

 

 記憶力、思考力の上昇。身体能力の向上。複数の対オラクル特性。

 同化したオラクル細胞はすでに幾多の影響を及ぼしており、子供のそれどころか、大人と比して全てが異常だったと言っていい。調べ、研究している身だからこそその異常は肌で感じられ、何か得体の知れない化け物でも見ているような、そんな錯覚に囚われる。

 だが当の彼女は何らおかしいと感じていない。言い得て妙だが、異常だから異常と気付いていないのだと、小さく理解する。

 

「ああ、うん。そうだね。お願いしようか」

「はい。任せてください」

 

 やめろ。そんな目をするな。お前は人間じゃないだろう。

 対話において、意味は言葉より声や動作から伝達される。彼が抱く感情は全て、神楽に内々に伝わっていた。

 そしてまた思考する。意識の埒外で進められるそれは、家族を失って四ヶ月後にその知り合いから嫌悪されるという状況において笑顔を貫けるほどに捨て去られた人心により、無機質に、効率的に、かつ精緻に遂行されていた。すなわち、恐怖と興味でもって確実に保護を行う駒にしよう、というもの。

 これらは本人は全くの無自覚であり、であるからなお質が悪い。彼女の性格上、気付いた時点でやめるはずの行動なのだが、そもそも気付かなければ意味はない。

 

「ここがリビング。そっちは台所に繋がってて、さっき通り過ぎた……そこね。そこが水場。神楽ちゃんの寝室は上にあるから、後で案内するわね」

「分かりました」

「一通りの家具とか着替えとかは揃えたから、足りないようなら言ってちょうだい。女の子なんだから、ちょっとはお洒落したいでしょう?」

「いえ。贅沢も言ってられませんから……あ、でも料理本とかはほしいです。まだ教えてもらってない料理もたくさんありましたから」

「そう。じゃあ、今度見てくるわ」

「ありがとうございます」

 

 案内される間も、一挙手一投足を微妙に調整し、修司には常に見られている恐怖、妻……綾子には、淑やかな良家の娘の印象、をそれぞれ与え続ける。僅かばかりの我が儘を言って見せ、遠慮しすぎという感触までは与えない。その上で家族と死に別れた現実を再認させ、小さくも確かな同情を煽る。

 

「それから……研究室とかは、この家に?」

「あ、ああ。地下に作ってある」

「地下ですか?ふふ。父と同じですね」

 

 恐ろしい。なんだこいつは。なんだこれは。こんなものが人間であってたまるものか。なぜ私はそれにも気付かず引き取った。死ぬ気か俺は。馬鹿じゃないのか。

 諸々の思考は、そういった畏れと後悔に叩き潰される。触れてはいけない何かを目の前にして、かつ退路を断たれた気分だ。これで彼も優秀な研究者の一人だから、妻が抱く彼女への印象が最高であることは分かっている。つまり、もはや追い出すことは適わない。およそ一般的な夫婦にあって亭主関白など実現困難であるように、彼らもまた妻に偏ったパワーバランスが発生している。

 

「あの、もしよかったらなんですけど、後で入らせてもらっても良いですか?」

「いやそれは……」

「良いじゃないの。別にたいした物があるわけじゃないんだし。だいたい、研究の手伝いをしてくれって頼んだのはあんたじゃないのさ」

「ああ、分かった分かった……」

 

 つまり、こうなる。

 

「開いてる時には入って良いよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、後ほど伺いますね」

 

 この日、少なくとも彼女が平穏に過ごす準備は完了したと言って良い。家庭と家計を取り持つ存在を味方に引き入れるとはそういうことだ。

 

「全く。あんたは相変わらず面倒ったらない」

「……」

 

 同時に修司の不穏な生活が幕を開けた。あるいは天敵の口の中で快適に過ごす生活。いずれにせよ、これからしばらくの間、彼が生きた心地と言うものを感じなかったことは確かである。

 

   *

 

 三ヶ月も経った頃には、神楽の噂は近所に完全に知れ渡っていた。

 柊さんとこに引き取られた子、とんでもない秀才らしいわよ。井戸端会議でちょくちょく話題となり、時には本人の前で展開されることすらあった。

 そういう時には決まって「そんなことないですよ」と言いながら、同時に少し嬉しそうである様子は、同世代の子供を持つ親はともかく広く可愛がられるものだったのだ。これもまた、打算なく行われた芸当である。

 彼女の異常性に気付いていたのはただ一人。

 

「お皿洗ってきますね」

「お願いね。洗濯物入れてくるから」

「あ、ご飯の前にこんでおきましたよ。日も短くなり始めてますし、そろそろ早めにしても良さそうです」

「あらま。まーた先越されちゃってるわ」

 

 妻と養女の会話を見ながら、修司はどこまでも落ち着かなかった。結局これまで神楽を研究所に入れたことなどなく、以前の数倍施錠に気を使うようになっていた。

 彼が気付いていた神楽の異常性。すなわち、動的知的を問わない学習能力の高さである。

 如何なるものにも慣れはある。料理、裁縫、洗濯、掃除、その他あらゆる行動で、引き取った当初は手際の悪さが見られたものだ。歳相応のお手伝いレベルまでだったはず。

 だが今、その技術は彼の妻に匹敵している。平均と比べても出切る方である彼女に、だ。この調子であれば十三になる前に超えることだろう。

 

「そうだ神楽ちゃん。市場で何か仕入れってあった?」

「とんでもない安値で上物の布がありましたよ。八百屋さんで手に入ったみたいで、皆さん見落としてますし、そもそもご主人が価値を分かっていないみたいです」

「狙い目だわね」

「はい。予約済みです」

 

 知識においても似たような状態が見受けられている。こうして日常的なものから、学問まで。ペイラー・榊博士の論文を諳んじている人間など、当人を除けば彼女以外いるまい。

 それら二つを実現するに至り、必要なものは才能と努力、あるいは別のもの。

 体中の神経細胞を模したオラクル細胞の配列、である。

 はっきり言ってしまえば、彼女は才能に溢れていたわけではない。それなりに器用であったにしろごく平凡な一少女であり一人の人間でしかなかった。努力によってそれなりのレベルは獲得出来ようが、一流になれる分野は一つか二つ。つまり凡人である。

 そこにオラクル細胞を加える。

 何もかもを学び、吸収する性質とは、言い換えれば何もかもが可能と言うことになる。この性質が判明した時、大半の科学者達は一笑に付した。すぐ絶滅するだろう、と。あまりに進化を重ね過ぎた結果、むしろ自身の生命活動を維持出来なくなっていく。そう結論付けたのだ。

 だが、現実は違った。一定で進化を止め、袋小路とも呼ばれる安定形質を維持する賢しさ。縦しんば提示された結論通りとなったにしろ、一度霧散するだけで再集合する不死身性。

 その上でさらに学習を重ね、袋小路からさらに進化し得る可能性を持つ。人間体で安定した神楽も例外ではなく、これからも人間離れを繰り返すだろう。

 彼はそれが恐ろしい。

 

「部屋に戻るよ」

「あの、修司さん。今日は……」

「……まだ危ない作業がね。任された以上、怪我はさせられないから」

「そうですか……すみません。我侭言って」

 

 父を失った。母を失った。弟を失った。アラガミによって、全てを失った。

 そして今、どこまでも人間を失いつつある。アラガミによって全てを失いながら、アラガミに成りつつある。

 では、アラガミに成りきった時、そこにあるのはいったい何か。なまじ知識を持つ分だけ彼は理解してしまい、ただどこまでも彼女が恐ろしくなる。

 いつか彼女が人間の敵と成るのではないか。恐怖の出所とはつまり、そこなのだ。

 彼はさらに半年ほど、彼女を研究室に入れることはなかった。

 

   *

 

 2067年9月

 平穏な日々が一年ほど続いた。ハイヴ単位で考えるなら、ここまでで二年ほどの穏やかな日常。

 その中で生きた心地のしなかった修司と、毎日のように家族が死んだ日を思い出す神楽。この二人を除けば、おおよそ平々凡々と誰もが生きていた。

 

「……あ……」

 

 神楽が声を上げた後、僅かな時間を置いてサイレンがけたたましく響き渡った。どれほど時が経ったとしても忘れられることはないであろう、大規模被害が予想される場合の、押し潰すような音。

 彼女はまず外に出た。建物の中でははっきり聞こえない場合もある。そしてもし近くまでアラガミが来ているのなら、逃げる方向に大きく制限のある室内は望ましいとは言い難い。

 続いて修司が玄関を開けた。彼も全く同じ理由からだ。だが神楽と違い、彼女を見るなり意識はそちらに傾けられた。

 どちらだ、と。

 いくつかのアラガミは群で行動する傾向がある。感覚器官の性質上集まっているだけとする説も生得的に群行動を行っていると言う説、どちらも存在するものの、この時の彼に前者の考慮はなかっただろう。アラガミとしてアラガミに呼ばれているのではないか、と、ただそう考えていた。

 

「おじさん!伏せて!」

 

 だから、と言って差し支えない。彼の反応は致命的に遅れていた。家の目の前にいたオウガテイルに気付かないほど、見えても聞こえてもいなかった。

 当然、そこから発せられる針にも。

 神楽から見たその光景は、皮肉にも彼女の父が見ていたものと同じだったろう。

 ……守りたい誰かが、死にそうになっている。両親の背を見て育った彼女に採ることの出来た行動は多くなく、かつ本当に見たことがあるそれはたった一つ。

 

「くぁっ……」

 

 突き刺さった針。ずん、と衝撃を味わいながら、どこまでも熱くなっていく。

 しかし、熱いとも痛いとも感じたのはごく一瞬のこと。脳内麻薬の分泌方法などオラクル細胞はすでに学んでおり、最高効率で単位時間あたりの限界量を噴出させている。

 

「なっ、は、早く逃げろ!」

 

 この時自分が発した言葉に彼は驚いた。人間ではない恐怖の対象へ、自分は今、逃げろと叫んだのだと。端的に言って意味が分からない。なぜそんなことを。

 頭の中がグシャグシャになった彼に対し、彼女はむしろ冷静に、しかし激して言う。

 

「おじさんが逃げてください!」

 

 瞬間、彼女が考えていたことはあくまで一つだけ。

 

「私はもう、誰かが死ぬのなんて見たくないんです!」

 

 体に突き刺さった針を抜く。滑らかとは言い難い表面に肉がこそぎ落とされ、忘れていた痛みが再度襲い来る。声を上げまいと噛みしめた奥歯から血が滲む。

 2066年7月7日。全てが終わった日からずっと、ただ二つだけを考えて生きてきた。生き抜いてやる。もう誰も死なないで。決意と懇願という差こそあれ、思考を埋めていたのはただそれだけのことなのだ。

 

「ああああああ!」

 

 過去に父を殺し、つい先ほど自身に突き刺さった針を返還する。眉間と思しき部分から頭蓋を貫通した後、その後ろのコンクリートを穿った。

 通常、その程度でアラガミは止まらない。もちろん磔としての意味はあるが、一時的にその場から動けないようにする、以上にはならない。

 今この時も例外ではなかった。元々は自己の細胞だけあって針が喰らわれることはないにしろ、秒単位でずるずると抜け出している。

 

「動かないでよ!」

 

 突き刺したまま針を抉り回し、コアを捻り抜く。普通の人間なら針に触れた時点で死亡し、神機使いですら不可能な芸当を、彼女は当たり前のように完遂した。

 周りを見回しても、神機使いはまだ来ていない。

 私がやらなければいけないのだ、と、どこかで思い込む。

 

「次!」

 

 数ブロック先、いくつかの家屋の向こう側でクアドリガが暴れている。見るなり針を抜き取って、彼女の足は動き出す。

 前でも横でもなく、上に。

 二階建て以上の建物はほぼないにしろ、どれも家の体を成す建造物は、彼女が足に力を込めて数瞬の後には眼下まで移動していた。平時ならおかしいと気付いただろうが、それを感じないように脳細胞を模したオラクル細胞が働いていた。

 オラクル細胞が働けば働くほど、人間でなくなっていく。本人すらまだ知らない。

 

「ぐっ!」

 

 慣れないがために跳び過ぎた勢いを、上部の直方体、ミサイルポッドに叩き付ける。針と足二本の衝撃がそれを破壊し、結局足場にならないまま落下する。

 痛い。記憶の中ではそう判定される高さだったが、今は着地と同時に横へ飛び退くことが楽に出来る程度でしかない。その速度にクアドリガは追い付くことが出来ず、何もない空間を前足で蹴り付けた上、敵の前に装甲はあれど最も弱い前面を晒していた。

 そこが弱いのだと、父から学んで知っている。

 

「っ!」

 

 繰り出したのは拳。彼女は気付かない。その拳に、自身のオラクルが纏わされていることに。

 前面装甲が一撃で粉砕され、破片が頬を掠めていった。コアにはまだ届かない。

 どころか、装甲の内側に隠されていた大型ミサイルが衝撃で爆発し、もろに巻き込まれる。

 

「きゃあああ!」

 

 爆発による衝撃と熱により一瞬意識が飛びかける。クアドリガ側も殴られた衝撃により体勢が大きく崩れ、当初は彼女を狙ったのであろうミサイルをあらぬ方向……

 逃げ惑う人々を含めたランダムな地点へ、狂ったように撃ち出した。

 

「……ぁ……」

 

 思い出したのは最悪の日。

 ああ、でも、あの日は何も出来ない間に全てが壊されていた。何かが出来るようになった時には、意識の欠片もなく誰もが死んだ地でアラガミの返り血を浴びていた。

 今は、何かが出来るのに。この手は何もすくえない。

 

「もう、もう……」

 

 指を獣の顎のように立てながら、爆発により抉れ飛んだ発射口に手を突き出す。五本の牙が突き刺さる。さらに突き立てる。握る。引き抜く。

 突き出す、突き刺さる、突き立てる、握る、引き抜く。

 突き出す、突き刺さる、突き立てる、握る、引き抜く。

 繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して繰り返して。その間にも、ミサイルはそこかしこへ降り注ぐ。

 

「もうやめてよ!」

 

 ようやくコアに辿り着いた時、彼女が周囲から感じていたのは炎の熱と瓦礫による砂煙と。

 血の香り。

 本来そう易々と感じないものだ。曲がりなりにも高熱を伴う爆発。傷口は焼かれ、大量に血が流れることはない。

 彼女は理解する。ここだけが襲われたわけではない。当たり前のことだったがしかし、戦闘の中で知るには未熟に過ぎた。大型種を倒した今でもそこかしこから悲鳴が響き、どこまでも陰々と響いていく。この程度で救えるものなど高が知れている。まだ小さいこの手が掬うことの出来るものは、ただただ少な過ぎる。

 

「あ……ああ……」

「っ」

 

 涙を堪える彼女の耳に、真後ろから声が届く。恐怖以外何も感じていないかのような、絶望にのみ塗れた声。

 アラガミがこんなところまで襲ってきたなんて、そりゃあ怖いだろう。彼女はそう考えて、声の主に近付いていく。

 

「だ、大丈夫?シェルターは……」

「来るな!」

 

 擦り傷だらけの少年はそう叫ぶ。すぐ近くに住んでいた男の子だ、と見て取りながら、彼女は差し伸べようとした手を引っ込める。

 

「来るなよ!化け物!」

「……えっ……?」

 

 ああ、どうしたんだろう?怖くて幻覚でも見ているのかな?怖かったよね。もう大丈夫だよ。

 言葉を紡ごうとするものの、自分でそれが逃避だと理解している。

 この子は私を恐れているんだ。早熟な精神は事実として受け入れる。

 

「あ、そ、その、ここ、危ないし、一緒に……」

「イヤだ!来るな!近寄んじゃねえよ!」

 

 それでも、自分が拒絶されているのだと分かっていても、近付いてしまうのは何故なのだろう。

 彼女を追って来た修司の結論は、至極単純で、至極ありきたりだが、同時に最もあり得ないとすら言えるものだった。

 

「……」

 

 現時点において間違いなく、神楽はアラガミだ。触れれば捕食される危険がある。

 だからこそ。ああ、そうであるからこそ彼は彼女の肩に触れ、首を振った。やめておけと言わんばかりに、純粋に人間である彼女がこれ以上傷つかないように。

 彼はここで始めて結論付ける。神崎神楽は人間である、と。少し早熟で、人間離れしたところがあるだけの、ただの弱い少女であると。

 

「おじさん……」

「そろそろ神機使いも来る。シェルターに行こう。綾子ももう着いている頃だ」

 

 本当に、ずいぶん馬鹿なことをしたものだ。修司の中に芽生えた次の結論はそれだった。何でもないただの女の子によくもまあこれほど長い間怯えていたものだ。本当に、馬鹿にも程がある。

 涙を流す神楽に、彼は泣くなと言わなかった。

 

「あの……」

「どうかしたか?」

 

 ふと、シェルターへの足が止まる。充血した目を義父に向けながら、彼女は告げた。

 

「私を、神機使いにしてください」

 

 この手だけでは小さ過ぎるから。

 修司が浮かべたのは、娘が独り立ちする時の、悔しいような嬉しいような父親の顔。

 彼は彼女へ、寂しそうに頷いた。




はい。我が家の主人公神楽のお話でした。本編では全く描いていない時間軸なので、ここが初出になったりします。
っていうか、あれですか。柊夫婦も初出ですか。なんかいろいろ増やしちゃったよおいおい()
そうそう。さくっと三人称視点にしてみましたが…どうなんでしょうねこれ。三人称だと文体が硬くなり過ぎるからあまりやらないようにしているんですが。
短く各々の心情描写やるとなるとこの形がベストだったがための文体です。はい。

しっかしねー。何て言うかもう、自分のポンコツ具合が分かると言いますか()
もー。ほんとにもー。皆さん上手いんですもん。ぶーぶー(うるさい
いやもう本当に、参加していただいてありがとうございました。私がやるかどうか、どころか、四回目があるかどうかも不明ですが、またコラボあると良いですねえ…
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