【GE作者合同投稿企画】MMOだよ、神喰さん! 作:GE二次作者一同
上記の内容で連載しているアマゾナイトです。今話はRAGE BURST編におけるED曲「Tree of life」 を聞いたときの感動から産まれました。 少しシリアスな「聖域」における防衛班の話となりました。最近の春の陽気を感じながら是非「 Tree of life」を聴いて読んで欲しいです。 よろしくお願いいたします。
「ヒマラヤ山脈――」
遠くにそびえ立つ山を見つめながらブレンダンは言う。
「――昔写真で見たことがあるが、似ている気がする」
ブレンダンつぶやきに、横で足を伸ばしながら座っているタツミが答える。
「あー。なんかわかる。世界で一番高い山だっけ?」
「そうだな。ヒマラヤ山脈エベレスト山。アラガミの出現で世界の地形も大分変わってしまったというが……、今も最高峰であることは間違いないだろう。……俺は――」
そこで、ブレンダンは遠くを見つめたまま、ぐっ、と拳を握る。
「……いつか登ってみたいと思っている」
それを聞いて、タツミはこう思わずにはいられなかった。
(うわ……脳筋……)
小高い丘のてっぺん。
辺りは野原。所々に赤や黄色の小さな花が咲いている。
緑の大地に敷いたレジャーシートの上で、二人は他愛のない話をしていた。
――聖域。
この場所を人々はそう呼ぶ。
さんさんと照らす日の光を浴びて、木々や草花が青々と生い茂る。
聞こえてくるのは鳥の声。ザアとなびく風の音。
丘の下には澄み切った川がきらきらと光る。
二人が眺めているのは、聖域の外縁の山脈。荘厳な佇まい。
そこでは今なお終末捕食が進んでおり、穏やかに世界を塗り替えている。
聖域では、オラクル細胞が停止するため、アラガミが存在しない。
そのため恐らく世界で一番平和な場所といえる。
それほど世界は荒廃している。
ここを訪れた人間は、久しくこの星で見ることのなかった青い空と緑の大地に感動し、まるで天国に来たかのような錯覚に陥るだろう。
「んーーっ」
タツミは伸びをして寝転がる。
地面に身体を預けると、むっとした土の香りがする。
新鮮でありながらどこか懐かしい、柔らかな大地の感触。
周りの草花と同じように、暖かな光を全身で浴びる。
すると、食事をしたばかりだからか、なんだかぼんやりしてくる。
そう。
防衛班とヒバリ(タツミが必死で誘った)は今日、聖域にピクニックをしに来たのだ。
カノンとヒバリの手作り弁当にテンション上がったタツミは、特大おにぎりを皆の倍、胃に納めた。
――というわけで現在、食休み中。
今も残っているのはタツミの他にブレンダンとジーナのみ。
他のメンバーはすでに、行きたい場所へと向かった。
カレルとシュンは、薬草など、金になりそうなものを求めて探索へ。
ヒバリとカノンは、卵を分けてくれたリヴィの元へ。
タツミとブレンダンは他愛のない話を続け、その隣に正座したジーナは、瞑想するかのように目を閉じ、ゆっくりとお茶をすすっている。
寝転がったままのタツミが、ふと漏らす。
「なんか……。恐ろしく平和な気分」
「うむ。平和だな」
ポカポカとした陽気が布団のように身体を包む。
心地の良い、麗らかな時間。
長閑で、何もなくて、穏やかに完成された、平和なひと時。
「あー……。暮らしたい……」
「ここでか?」
「ああ」
そう言って、タツミは目を閉じる。
手足を大の字に広げ、身体を思いっきり地面に預ける。
このままここで暮らせば、安全な日々を過ごせるだろう。
それはなんと満ち足りたことか。
タツミは外部居住区で育ってきた。
思い出すのは、灰色の空の下見上げた、対アラガミ防壁。
いつ破られ、いつ侵入してくるかわからない。
常にそんな恐怖と隣り合わせ。
だから聖域にいると、安全というだけで、「今」の命が保証されているというだけで、自然と涙が溢れるくらいの無垢な喜びを抱く。
アラガミとの戦い。
例外なく全人類に課せられた責務からの解放。
ここには、道は無限にある。
想像してみる。
……自分がもしもここで生まれたなら。
学校に通ったり、友達と遊んだり、ゲームしたり、今日のご飯はなんだろうなんて考えながら、そんな当たり前の幸せを手に入れることができただろうか。
目を閉じる。
鳥の声。風の音。水のせせらぎ。
穏やかで気持ちいい。
眠りそう。
このまま溶けて消えてしまえそう。
…………。
……。
「……いや。こりゃ無理だな」
「ん、何だ?」
「ここに暮らしたい、って話。ちょっと俺には無理そう」
「また唐突に……どうしてだ?」
「うーん。なんか、合いそうにない」
そう言って、タツミは体を起こす。
「なんつうかさ。これまで必死に戦ってきたから……。唐突にこんなところに放り込まれても、やけにそわそわするというか……」
「馴染めそうにない、ってことか」
「そう……だな」
馴染めない……落ち着かない。
目を閉じて、寝転がって、その心地よさに身を委ねてしまえばいいのに、どういうわけか何かをしなくちゃいけない衝動に駆られる……。
「まあ、初めはそうでも、やがて慣れてくるだろ。……毎日命がけの戦場より、ここで暮らしてく方が……真っ当な生き方ができるはずだ」
ブレンダンはそう言う。
実際、タツミは聖域で暮らしてはどうか、と言われたこともあった。
年齢はすでに二十代後半。ゴッドイーターとしての活動限界が迫りつつある。
そろそろ引退した後の身の振り方も考えなければならない頃合い。
「俺は、ゴッドイーターでなくなったとしても防衛班でいたい。そう思う――」
タツミは、前にブラッドの隊長にも同じことを言ったことを思い出す。
だが、後になって考えてみると――
「――けど、あまりやれることってないよな……」
バカだから、事務仕事は無理。
教官やオペレーターも、タツミより上手い人は大勢いる。
「色んな仕事考えてみてもさ、やっぱ俺にできることって、命張って戦うくらいしかないんだよな……」
それを聞いて、ブレンダンは淡々と答える。
「……やれることがない、なんてことはないだろ。この聖域だったら農業や建築で力仕事が必要だ。ゴッドイーターを辞めても、体力のある俺たちができることは多いはずだ」
「それは、そうだな……」
「それに、これからの未来を思えば、この聖域の土地を開拓することはとても重要だろ?」
「……」
なぜか聖域で暮らすことを勧めているようにも取れるブレンダンの話は、彼らしく理論的で正しい。
だが、タツミの心にはまだ何かが引っかかる。
決して、聖域での仕事を軽んじているわけではない。
居住区の人たちが、聖域で暮らす時に安心して暮らせる場所を作ること。
それは防衛任務と同じ「誰かを守る」重要な仕事だと思う。
では、なぜ。
なぜこうも、自分が聖域で暮していくことを考えると、しっくりこないのか。
目を閉じる。
先ほどやったようにもう一度、微睡みに身を委ねようとする。
……しかし、まるで夜中にふと目が醒めてしまったときのように、妙にそわそわして、じっとしていられない。
「……っふぅー……」
今度は想像するだけではなく、理由を探る。
息を吐き、あぐらをかいて手を膝の上に乗せ座り直す。
自分を探る。
暗い海の底に、ずっと沈んでいくイメージ。
落ち着かない理由、その「根源」まで深める。
――何かに悩んだり、行き詰ったとき、タツミはいつもこうしてきた。
すると答えは案外すぐに見つかるものだ。
「――ああ……」
わかった。
聖域で暮らす自分が思い浮かばない、その理由が。
目を開ける。
いつの間にか太陽が雲に隠れ、辺りは少しだけ暗くなっていた。
「俺はもし、目の前にアラガミに喰われそうな人がいたら、きっとどんな状況でも助けようとする――」
タツミは話し始める。
「――じゃあ、アラガミに喰われそうな人が『目の前に』いなかったら。そしたら俺は助けない。……当然助けることはできない。見て、知ることができないのだから」
神機使いとして、これまで何人もの命を救ってきた。
それでも、壁の外に出ると、食い荒らされたヒトの「破片」を見つけることがある。
――いつも世界の理不尽を見て、こみ上げてくるものがある。
「でも、俺が助けた人と、知らずに死んでいった人の何が違ったのか、って考えると、何も違わない。どちらもこの世に生を受けて、必死に命を繋いできたはずなのに……。誰かはそれを『しょうがない』と言うけれども、俺はそう割り切れるほど大人じゃない。もっと自分が動き回っていれば……そう思って悩むばかりだ」
タツミの話を、ブレンダンは静かに落ち着いた眼差しで聞き続ける。
「今も、世界中でアラガミに苦しんでいる人がいる――だから、もし俺が聖域で暮らしたなら、どこかで泣き叫びながら助けを求める声を無視して、自分は安全圏で、何の命の心配もなく暮していくことになる。たぶん、その『差』から目を逸らせない……」
例え聖域での仕事が、未来のためになるものと分かっていても、自分が納得できなければ落ち着くことはない。
そう。俺は――
「――命を掛けない自分を許せない」
聖域にいても、心から安心することができない理由がこれだ。
そういう風に、タツミはできている。
そういう風に、育ってしまった。
ゴッドイーターとして、取りこぼした命が数多くあった。
防衛班として、時に非情な決断を下す時もあった。
そうした 思い、悩みが今のタツミを形作っている。
だから、これまで溜まりに溜まった「激情」と言うべき心の衝動と、切り離して生きる自分が考えられない……。
「それは、悲しいことだな……」
ブレンダンがポツリと漏らす。
「そうか?」
「そうだろ。だって、ゴールがない……」
ブレンダンは視線を彷徨わせながら、次の言葉を紡ごうとする。
だが、うまく纏まらないのだろう。少しだけ沈黙が流れる。
タツミは、なんだか暗い話になってしまったのが気まずくて、話題を変えようとする。
「そういう意味では、ゴッドイーター辞めた後の事まで考えているカレルって案外立派だよなー。病院建てたり、会社作ったり、そんな面倒そうなこと、俺にはぜってー無理だわ!」
「こっちとしては、もう少しゴッドイーターとしての仕事に打ち込んで欲しいところだがな……」
「まあ、そこは適材適所ってやつだろ……」
また沈黙。
会話が続かない。
何とも言えない微妙な雰囲気。
言葉通り、二人とも何も言えなくなる。
だが、その沈黙を破ったのは、これまで押し黙ったままずっと隣にいたジーナだった。
「――タツミらしくないわね。貴方、やれることがないからって何もやらない人だったかしら」
屋外でも凛と響くジーナの声に、タツミとブレンダンは思わず背筋を伸ばす。
「もう結論は出てるじゃない。貴方はどうしても命を張る戦場で、防衛班でい続けなきゃならない。なら、引退後もアラガミと戦い続けるしかないわ」
「いや……その方法が分からなくて困っているんだが……」
「フフ……最近色々あったから疲れているのかしら……」
厳しいことを言ったと思ったら、急に妖しく笑ったり……。
いつも通りだが掴みどころのないジーナの口調。
そして続ける。
「神機との適合率が低くても隊長を任せられるまでに至ったじゃない。道がないなら……、いいえ、道があっても自分から新しい道を切り拓いていくのが、貴方の強さでしょう?」
「……」
「ヒント……」
そう言って、ジーナはなぜか楽しそうに少しだけ目を細める。
「――この前レア博士とリッカが話していたのを聞いたのだけど。ゴッドイーターとゴッドイーターが神機兵に乗った場合ではどちらの方が強いか、調べたがっていたわ」
神機兵。
その言葉を聞くと、否応なくあの壮絶な戦いを思い出す。
あの戦いで、誰かを守ってアラガミを「喰らう」ことの、本当の意味を考えさせられた。
……しかし、今のジーナはそのことを言っているのではない。
タツミはジーナが言ったことを頭の中で咀嚼する。
無人型の神機兵は危険だと判断され使われなくなったが、有人型の神機兵は現在も後方支援などで使われている。
しかし、元々アラガミを討伐するために開発したのに、神機兵を戦場で使わないのは宝の持ち腐れ、と考えている人もいると聞いた。
――そうか。
もし、有人型神機兵の有用性を証明することが出来れば。
ゴッドイーターが引退した後でも、アラガミと戦うことができる!
「……ありがとう。ジーナ、ブレンダン」
そう言って、タツミは立ち上がる。
「……うっし! それじゃあ、早速リッカと相談してくる!」
駆け出すタツミ。
その行き先を、柔らかな日差しが照らし、暖かな風が吹く。
残されたブレンダンが呟く。
「あいつ、今日は整備班も休日だっていうことを忘れてないか」
「そうね。後でリッカに色々言われそう。……ところで、ブレンダンは随分と聖域での暮らしを勧めるのね」
「いや、別にそんなつもりじゃ……」
ブレンダンは真面目な顔のまま、ぼそぼそと言う。
「……ただ、タツミの奴、なんだか生き急いでいる気がして。……さっきは上手く言えなかったけど、俺は……そろそろアイツにも休んで欲しいと思ったんだ」
「……そう。じゃあ、私、余計なこと言っちゃったかしら」
「いや。結局はジーナの言う通りだ。タツミはその意志を曲げない。そして必要以上に悩んだり、踏ん張りすぎて壊れることもない。なぜなら……」
駆け出したタツミだが、小川の向こうで、たまたま会ったヒバリと話していた。
遠くからでもわかる。
見ているブレンダンが恥ずかしくなるほど、どぎまぎしながら話している。
その表情は、日々ゴッドイーターとして葛藤しながらも、確かな自分と居場所を知っている者の顔だった。
「帰る場所。暖かで心の全てがほどけるような場所。あいつはそれを知っているから――」
ザア、と風が吹き、草花を揺らす。
世界は未だ、暗闇と地獄の中にある。
しかし、この聖域には暖かな陽差しが差し込んでいた。
幾つもの奇跡と、幾人もの血と炎を犠牲に、辿り着いた結末。
数々の災厄に見舞われた極東支部の物語は、ここで一度終わる。
救えたもの、取りこぼしたもの、その全を灰に、生命の樹は成長する。
彼らは枝葉を伸ばす。
どこまでも続く青い空へ。
誰も知らない遥かな宇宙(ソラ)へ。
その先へ――。
受け継がれる次の物語へ――。