【GE作者合同投稿企画】MMOだよ、神喰さん! 作:GE二次作者一同
投稿作品「ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊」
※やや鬱描写注意です。
ふとベッドの横に立てかけてあるカレンダーと目が合った。
別にいいのに、と言ったのに駄目です! そんなの殺風景じゃないですか! と少し怒ったように言った銀色の髪にベレー帽の彼女が半ば強引に置いていったものだ。
月が替わっていることを確かめ、日にちを確かめて、気づく。
アレからもう一か月も過ぎたんだな……と。
▼▼▼
その昔。
古代ローマ帝国で、皇帝が兵士たちに結婚することを禁止した。
理由は士気の低下を恐れてのことだという。
愛する者ができた人間は、死を恐れるようになった。
その結果戦うことに、つまり『死ぬかもしれない』ということに対して恐怖を抱くようになった。
そんな禁令に歯向かい、恋人たちの結婚式を執り行ったのが聖ヴァレンティーノ。
殉教し、聖列に加わった彼の記念日が2月14日。
それがバレンタインの起源であった――らしい。
が。
「……あのー……アリサさん、コレは一体なんでしょーかー……?」
「……チョコです」
かつて日本と呼ばれた極東地域では、チョコレート、というカカオ豆にバターにミルクに砂糖を溶かし込んで作られた菓子を贈る習慣があったらしい。今の物資不足の世界じゃチョコレートは超貴重なカロリー源だったりする。
だが、今アリサが持っているソレはお世辞にもチョコレートと呼べるのか否か非常に議論が起こるのではないかと思われる品物だった。
「……えっと」
「チョコです」
「……食べ物……?」
「チョコレートです」
「……」
「チョコレートです」
アリサはチョコレートだと言ってきかない『ソレ』は、やはりチョコレートには見えなかった。
それどころか、食べていいのか本当に食物なのかつか食べて大丈夫な代物なのか、から考える必要がありそうですらあった。
明らかに食っただけで健康を害しそうだ。
ユウはアリサの顔をちらり、と見た。
アリサはここ数年でさらに艶やかさを増した雪のような肌を僅かに紅潮させ、多分極限まで磨いた蒸留水はこんな色をしているんだろう、薄く青い目を上目遣いに見上げている。その表情を見て悟った。
……あぁ、アリサ頑張って作ったんだなーー……と。
「……アリサ」
「チョコレートです」
実際、アリサが『錬金術師』だということは自他共に認めるこの世界の摂理にして不変の真理であった。
一瞬にして小麦粉を炭に、食物を練炭に変えることができる。
それをもう何年も前からユウは知っているし、極東支部の人間ならやはり誰でも知っている。
勿論、アリサ自身も例外ではない。
そのくせ、頑張ってみようと思ったのだ。
やたらめったらにあがいてみた結果なのだ。
下手だとわかっていても、才能ないと思っていても必死こいて作った結果なのだ。
バレンタインにチョコを渡す、という行為をしたかった――という理由だけで。
だったらコレを受け取らない奴は男じゃない。
「うん、ありがとアリサ」
「え、ちょ……ま、待ってくださいユウ!!」
先ほどまでほぼ涙目で「チョコレートです」としか言わなかった桜色の唇が真っ白に整った歯列をのぞかせた。何か言いたいようで、でも何を言っていいのか分からないようで、「あの……その……」だとか「いや、違うんです……これは……!」だとかをしきりに繰り返している。
普段テキパキと山積みの書類を捌くだけの能力を誇る彼女だがまるで言葉を忘れたかのようにああでもないこうでもないと口にしてはひっこめるという行為を繰り返していた。
そうゆうところは出会った頃とちっとも変らない。
あぁ、もう、かわいいなぁ――――と、ユウはごく自然に思った。
「これ……その……お腹壊す……かも……!」
「えー? 壊さないでしょ。アリサの作った『ボルシチ』を食いつないできた俺の鋼の胃袋なら平気でしょー」
「ちょ……! 何言ってるんですか! アレはその……最近はマシになりましたし!」
「はいはいわかってますよアリサさん。大丈夫だって、これしきの物体Xでくたばる俺じゃないって」
「……物体X……て……」
「だって俺たち神様まで食べちゃうゴッドイーターでしょ?」
「……まぁ……そう……ですけど……」
アリサはちらり、とユウの腕を見た。
その腕には無骨な大きな腕輪が装着されている。
まるで巨大な手錠――実質首輪が見て取れた。
「でもユウ……その……無理しないでください」
「えー? 劇物渡しておいて何言うセリフかなー?」
「あー……か、観賞用です!! 観賞用!! そ、そうコレは観賞用なんですよ!!」
尚、表面はなぜか虹色に光る油のようなものが浮いており、かつ黒かった。地獄のように、ただひたすら黒く、そして固そうであった。
一番似ているものは何かと問われれば長い時間をかけて冷え固められた深成岩だとユウの脳内データベースはそう結論を出した。
だが、それでもアリサが一生懸命作ってくれたものだ。
貰って嬉しくないわけがない。
だから口元が無意識に綻んでいるんだ、と認めざるを得なかった。
「じゃあホワイトデーはお返しかな」
「え? あ、あぁそうですね!! ホワイトデーのお返し楽しみにしてるんですからね!」
「……あーハイハイ。現金な人だなーさてはソレが目的だったのかなー?」
「そうじゃないですけど……でも三倍返しは基本ですから!」
「うわぁ、一か月で3倍になるなんて凄い暴利」
「人のことを悪者みたいに言わないでくださいよ! ドン引きです!!」
「わかってるってば。わかってるよちゃんとします」
「……さっさとそう言えばいいんですよ。まったく。……ホワイトデーのお返し、絶対ですからね、私、」
待ってますからね。
激痛に耐えかねたユウが何度目かの発作を起こす。
周りには生命維持のための機械や計器が沢山設置されており、そこから伸びたチューブが体中に繋がれている。
荒く細い息を繰り返す先にゴッドイーターの証だった巨大な腕輪が嵌った手が見えた。
そこには、もう数か月前から存在するまるで蜘蛛のような大きな黒い痣がくっきりと浮かび上がって、増殖し、腕から肩、首の付け根を通って顔のまで広がっている。
黒蛛病。
極東支部を中心とした世界中で広がる死病。
ユウはこれにもうずっと感染していた。
▼▼▼
その日、クレイドルとしての任務は、なかったはずだった。
久しぶりの長期休暇だった。
数年ぶりに帰る故郷。突然帰ったらみんな驚くかな、なんて思っていた。
結果としてはソレが失敗だった。
たまたまサルベージに出ていたのだろう人々がアラガミに襲われていたのを見過ごせなかった。
降下し、アラガミを駆逐したまではよかった。
が、その後の赤い雨には気づけなかった。
どうしようもなかった。
逃れる方法も術もなかった。
赤い雨を浴びた。
だから当然のように発病した。
びくん、びくん、と手足が、体が跳ねた。
息ができなかった。
大きく開けた口は酸素を求めるが、何も気管を満たすことはない。
ひゅう、という人が最後に出す音。
何度も何度も聞いたことがある音が自分の口から漏れていることに気づいた。
……そっか、ここで終わるのか。
この病に侵されたときからすでにわかっていたことだった。
自分は死ぬ。
思っていたよりも恐怖はない。
だから自分のことはひどくすんなりと、あっけないほど、簡単に受け入れることはできていた。
だが頭の中を満たすのは、たった一人の恋人のことだった。
また一人にしてしまう、と思った。
せめて感染さないようにはした。
ユウ以上に動揺し、泣く彼女を宥めて、何とか触れてこようとする手から逃れて、ぽろぽろと流れ落ちる綺麗な涙を拭うことも諦めて。
感染してからは、ずっと激痛に苛まれていた。
鎮痛剤や鎮静剤などといった薬は、日頃から回復錠を多用するゴッドイーターに効果はなかった。
痛みや苦しみで意識を手放し、また痛みで目が覚める、気絶と覚醒を繰り返す中、必死な延命作業はひたすら続いていった。
ここであなたに死なれたら皆が沈んでしまう。
『英雄』を死なせたくないから、それこそ滑稽なまでに延命作業だけが続いた。
そのせいで苦しむ時間が長くなったのか、短くなったのかはユウには分からない。
死にたくない。
死にたくないなぁ。
悲しくはない。
後悔はない。
怒りも絶望もなかった。
いや、嘘だ。
本当はある。
もっと用心しておけばよかった。
帰らなければ、いや、帰る日をたった一日ズラしていれば良かった。
ルートを変更しておけばよかった。
雨に濡れなければよかった。
苦しい、痛い。
息ができない。
痛い。
もうどこが痛いのかもわからない。
寒い。
もう楽になりたい。
沢山の思いが押し合ってへし合って、ユウの頭の中を占拠しようとしていた。
だが、そんなことよりも、もっともっと大きな思いが確かにひとつだけ存在した。
会いたい。
もう一目だけ、会いたい。
どうせ死ぬのなら、死ぬ前に、たった一目でいい。
もう一度だけでいい。
せめて最後まで、
どうか命の尽きる瞬間まで、ただ最愛の人の顔が見たくて見たくてたまらなかった。
もはや酸素を求めるためだけに開く口が、パクパクと開閉した。
「あ……ア…………サ……」
最後の息が減っていく。
声を出すという行為の代償として肺に残った最後の酸素が消費される。
それは確実に命を削る行為だった。
人生最期の数分間のうち、数十秒を失っていくことだった。
それでも、求めずにはいられない。
「ア…………リ……サ……」
好きだった。
どうしようもなく、好きだった。
ホワイトデーを楽しみにしていると言っていたのに。
ずっとずっと待たせていたのに。
ごめん、アリサ。
ごめん。
もう傍にはいられない。
何も掴めないのに、病に侵され痣だらけになった真っ黒になった腕をただ伸ばす。
ゴッドイーターの婚姻は規制がかかっている。
人体にオラクル細胞を投与した神機使いの力は高確率で胎児に遺伝する。
現に、ゴッドイーターチルドレンと呼ばれる子供たちは生まれながらにして偏食因子を持つという。
だから以前は禁じられていたし、今でもかなり厳重な規制がかかっている。
婚姻数は年間で何組まで、と限られておりフェンリル本部で管理されており、組織に従順で模範的な神機使いのみが婚姻を許可されるようになっていた。
それは、まるで、古代ローマ帝国で婚姻を禁じられた兵隊たちのようだった。
そして、ユウの前に聖ヴァレンティーノは現れなかった。
自分が死ぬことは怖くなかった。
ただ、愛しい人を遺していくことが、怖くて怖くて、悲しくて、切なくてたまらなかった。
だからコレはただの印にすぎない。
何があるわけじゃない。ただ、渡したかった。どうしても、どうしても、渡しておきたかった。一人にする、残していく恋人に、最後に伝えておきたかった。
だってずっと待っててくれてたから。
ずっとずっと待たせていたのだから。
ごめん。アリサ。
三倍のお返しになるかどうかはわからないが、fcだけなら多分、余裕でクリアできているだろう。
ホワイトデーに用意していたのは、小さな箱だった。
中にはなんてことのない。
ただ、同じ意匠の込められたお揃いの指輪を用意していた。
ごめん、アリサ。
伸ばした指は何も掴めず虚空を欠いた。
歪んだ視界の先には何もなく、ただ空しく白い壁と、日付を書いたカレンダーだけがあるだけだった。
最後の吐息が喉から漏れる。
世界が端の方から真っ黒に染まっていく。
ごめん。
渡したかったな。
待たせてたのに。ごめん。
とりあえず景気付けに神薙ころしておきました。
それはさておき、GEOの舞台となるヒマラヤ支部の人たちには是非頑張ってもらいたいと思います!
ゴッドイーターの世界は本当に本当に苦しいことが多いと思います。
悲しいことも多いと思います。
理不尽な悲劇や不条理が沢山あると思います。
だけど、人にはそれを乗り越える確かな力があるのだと信じています。
その力を、人が何度でも立ち上がろうとする力を、希望を信じて、戦ってほしいですね!
今までの主人公たち――加賀美リョウや霊代アキさんや神威ヒロ君。そして空木レンカ。
ついでにギースやシルバの分まで繋いで行ってもらいたいなーと思います!
最後になりましたが、バジルさん。
今回はウンバボ族に変わって統括ありがとうございました!
ウンバボ族よりずっとずっと上手でしたよ(嫉妬に燃えながら)
他の参加者様、及び短編を読んでくださった読者の皆様にも感謝を。
GEOに幸あれぇえええええええええ!!