ラブライブ! 〜僕らは今のなかで〜   作:逸見空

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どうも、こんにちは!
今回、園田海未ちゃんの弟という主人公を創らせていただきました。
この主人公が、他のμ’sメンバーたちとどのように関わっていくのか、僕自身も楽しみです。
あまり文書は上手くありませんが、暖かく見守ってくだされば幸いです。
よろしくお願いします。


第一章 ススメ→トゥモロウ
第一話 プロローグ


 遠ざかってゆく意識の中、僕は必死に叫んでいた。

 それは深い海に沈んでいくような感覚で、もう視界はなにも見えなくなっている。

 

「ありがとう……!」

 

 彼女は悲しそうに言った。しかし、その目は同時に、確かな希望を見つめているようでもあった。

 

「——!」

 

 僕は彼女の名前を叫んだ。いや、もう声に出ていなかったのかもしれない。しかし必死に叫び続けた。とどけ、とどけと、ただひたすらに叫び続けていた。

 ——そして。

 僕は意識を失った。

 

 ○ ○ ○

 

 目覚めると、朝の柔らかい陽射しが部屋を包み込み、白いカーテンから暖かい光が僕を誘っている。その光は四月になって冬はどこかに行ってしまったことを知らせ、そして新しい春の予感を感じさせる。

 僕は布団から起き上がり、そのまま考える。

 ……また、同じ夢だ。

 最近同じ夢を何度も見る。誰かが僕に手を伸ばしていて、僕はそれを一生懸命に掴もうとするが、なかなか届かない。そしてそのまま遠ざかってゆき、僕は彼女の名前を叫ぶのだ。

 しかも、何度も見ているはずなのに、彼女の顔、そして名前が思い出せない。

 いや、思い出す以前に、僕は彼女の顔と名前を知らないのかもしれない。

 

 僕はベッドから出ると、一階のリビングに降りた。

 味噌汁のいい匂いがする。

 

「おはよう」

 

 僕はキッチンにいる『彼女』にあいさつをする。

 

「あら、起きたのですか。おはようございます」

 

 そう言って『彼女』は返事をする。

 毎日の変わらない流れだ。

 ——園田海未。

 これがこの、キッチンで手際よく朝ごはんの用意をしている、真っ直ぐな長い黒髪とすらっとした佇まいが美しい、彼女の名前だ。

 そして、彼女は僕の姉でもある。

 

「今日も美味しそうだね」

 

「そうですか? ……ふふっ、ありがとうございます」

 

 姉さんはいつも敬語だ。一つ年下の僕に対してもそれは同じで、今でこそ慣れているが、小学生の頃は少しむずむずしたものだ。

 

「母さんは?」

 

「もう仕事に出かけてしまいましたよ」

 

「そっか」

 

 これもいつもと変わらないやりとりだ。僕たちの両親は毎朝早くから出勤して、夜は遅くに帰ってくる。なので家にいるときは、ほとんど僕と姉さんの二人だけだ。

 

「さあ、できましたよ。優羽(ゆう)、並べるのを手伝ってください」

 

「はーい」

 

 そう言って僕は、お茶碗と味噌汁、卵焼きの乗ったお皿を、二人で座るには少し大き過ぎるテーブルに運ぶ。

 僕——園田優羽は、今年から音ノ木坂学院に通う高校一年生で、一つ年上の姉、園田海未も同じ音ノ木坂学院に通っている。

 僕は特に取り柄もない、普通の高校生……だと思う。勉強もそんなにできず、運動も得意ではなく、どちらかといえば苦手だ。部活動にも入っておらず、趣味もない。本当にどこにでもいる高校生だ。

 

「では、いただきましょう」

 

「いただきます」

 

 そう言って僕と姉さんは、姉さんが作った美味しい和食朝ごはんを食べる。

 園田家では、朝は基本的に和食だ。毎朝姉さんが作るのだが、姉さんが母さんから和食の作り方しか教えてもらわなかったということもあり、そのような朝食形態になったのかもしれない。ちなみに昼も姉さんの作った弁当、夜は姉さんと僕が毎日交代で作っている。

 

「優羽、もう学校は慣れましたか?」

 

「うん、大丈夫だよ。なんだか姉さん、最近お母さんみたいだよね」

 

「そ、そんなことないです。弟の心配をするのは、姉として当然ですよ」

 

「そっか、ごめんごめん」

 

 そんなことを言いながら、姉弟二人のささやかな団欒の時を過ごす。

 

「……ふう、ごちそうさま」

 

「ごちそうさまでした……では、学校に行きましょうか」

 

「はーい」

 

 そうして片付けを済ませると、僕たちは制服に着替えて(姉さんはすでに着替えていたが)学校に向かう。

 外に出ると、少し肌寒い風が吹いていたが、春の陽光が穏やかに照っていた。

 姉さんは「いい天気です」と言いながら歩き出した。僕もそれについて行く。

 本当にいい天気だった。まるで、何かが始まりそうな……そんな予感さえした。

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 僕がこの四月から通っている音ノ木坂学院は、最近共学になったばかりで、それまではずっと女子校だった。

 そもそも何故共学になったのかというと、全校生徒の減少が第一の理由らしい。

 しかしその政策もあまり効果を発揮できず、僕たちの学年はとうとうクラスが一つだけになってしまった。そして共学といってもやはり女子が多く、今年に至っては男子は僕だけであった。

 

 僕たちが学校の校門付近までたどり着くと、ある二人の女の人がこちらに気づいたようで、大きく手を振ってきた。

 

「おーい!」

 

 近くまでいくと、

 

「おはようございます」

 

 と姉さんはあいさつをした。

 そして僕も、

 

「おはようございます」

 

 と言った。

 高坂穂乃果と南ことり。彼女たちは姉さんの親友で、幼稚園からの幼馴染だ。当然、その頃からこの三人は仲が良く、うちに来ることも多かったので、僕も良く知っている。

 

「おはよう、二人とも! 今日も仲がよくて良いねえ」

 

 穂乃果さんはそういうと、本当に羨ましそうにこちらを見てくる。

 

「穂乃果にも雪穂という可愛い妹がいるではないですか」

 

「ええー、全然可愛くないよー。だってケチだし、いっつも説教してくるし……」

 

「それはあなたが説教されるようなことするからです。だいたい穂乃果は……」

 

「あーん、海未ちゃんまで説教しないでよー!」

 

 そんな具合で、これまたいつものように二人の会話が繰り広げられる。これも毎回見ている光景だ。

 

「あはは……優羽くんのお姉ちゃんはやっぱりすごいね」

 

 ことりさんは僕に気を遣ったのか、そう話しかけてきた。

 この人は常に冷静なタイプで、この二人がなにを言い合っているときでも(実際は穂乃果さんが姉さんに叱られているだけだが)常に中立の立場をとり、ある程度のところで自然に止めてくれる、いわばバランサーだ。

 この人のおかげでいつも平和でいられることを、この二人も多分知っている。なのでことりさんが止めに入ったときは、必ずそこで話は終わりにしているようだ。

 

「まあ、いつものことですよね……」

 

「よく飽きないよねぇ……もう、二人とも、早く学校に入ろう?」

 

「ほ、ほら、ことりちゃんもこう言ってるんだから!」

 

「はぁ……まったく、仕方ありませんね……」

 

 そうしていつもの言い合いは終了。

 そして、僕たちは校舎に入ったのだが……。

 

 このとき、それは始まったのかもしれないし、すでに始まっていたのかもしれない。とにかく、この日から僕の、いや、僕たちの物語が動き出す。

 

 僕たちが校舎に入って一番に見たものは——『廃校』の二文字だった。

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 ——『廃校』と書かれた紙が、掲示板は廊下の壁に何枚も貼られていた。最初に見たときはまず意味がわからなかった。廃校? 廃校って、なんのことだろう……と思った。そして姉さんと顔を見合わせると、ようやくその意味を理解した。この学校がなくなってしまうんだと。

 

「そ、そんな……」

 

 穂乃果さんはそう呟くと、何かが飛んでいってしまったのか、その場で倒れてしまった。そんなに学校が好きだったのであろうか。

 

「穂乃果ちゃん!?」

 

 そう言ってことりさんは穂乃果さんを支える。

 しかし、これは僕も驚いた。なにせ、僕たち一年生はまだ入学してから一ヶ月も経ってないのだ。なのにこんな突然に廃校だなんて、あまりにも急ではないか。これでは多くの新入生の親から苦情が出てしまうものではないだろうか。

 するとことりさんが立ち上がって、「穂乃果ちゃんをお願い」と僕たちに言うと、彼女にしては今までにないくらい真剣な表情で廊下を進んでいく。

 

「ど、どこへ行くのですか、ことり?」

 

「ちょっと、お母さんのところに」

 

 そう言うと、ことりさんはさらにペースを上げて、行ってしまった。

 姉さんはまだ困惑の表情で立ち尽くしている。

 

「姉さん、大丈夫?」

 

「あ、ああ、すみません、あまりに急なことだったので……とりあえず、穂乃果を保健室まで連れて行きましょうか」

 

「そう……だね」

 

 そうして僕たちは、二人で穂乃果さんの肩を支えながら保健室まで運ぶと、とりあえず各々の教室へと向かった。

 

 ○ ○ ○

 

 教室へ行くと、やはり話題は廃校のことで持ちきりだった。

 何故廃校になるのか、廃校になったら自分たちはどうなるのかなどについての様々な憶測が飛び交う中、僕は無言のまま教室に入り、隅っこにある自分の席に着いた。

 あいさつはない。先ほども言った通り、この学年、つまりはこのクラスで、僕は唯一の男子だ。ここで、ラブコメだとかハーレムだとか想像する輩がいるかもしれないが、現実はそんなに都合のよいものではない。現実とは常に『ままならない』もので、冷静に考えて、たった一人の男子生徒である僕にわざわざ自分から話しかけようとするような奴はいないのだ。

 

「あっ、優羽くん、おはよう!」

 

 ……ただし、この星空凛を除いて。

 

「星空さん、おはよう」

 

 僕もあいさつを返す。それはあいさつをされたのだから当然だろう。「おはよう」と言われて「おはよう」と返す。ごく当然のことだ。

 しかし、この疎外感の中で(僕がただ一方的に感じているだけだが)星空さんがこうして毎朝あいさつをしてくれたり、話しかけてくれたりするのは、なかなか嬉しいことだ。心の中で感謝しておこう。

 

「ねえねえ聞いた? この学校、無くなっちゃうって……」

 

「あ、うん、今朝貼り紙を見てびっくりしたよ。まさか、廃校だなんて……」

 

「あーあ……凛、この学校好きなのになあ……」

 

「まあでも、僕たちが卒業するまでは存続するらしいし」

 

「うーん、でも、後輩はできないんだよね……やっぱり寂しいにゃ……」

 

「まあ……そうだよね……」

 

 そんなことを話しているうちに、一限目のチャイムが鳴り、先生が入ってきた。日直の号令とともに授業が開始されると、ざわざわしていた教室はすぐに静かになってしまった。

 

 先生が授業を展開していく中、先生には申し訳ないが、僕はただただ廃校のことだけ考えていた。

 実は、ことりさんの母親はこの学校の理事長だ。なので先ほどことりさんが言っていた『お母さん』とは、つまりは理事長のところで、理事長に廃校のことを聞きにいったのだろう。本当に、どうして廃校になってしまうのだろうか。

 ……とは言ってもある程度見当はついていた。

 入学希望者の減少。

 廃校の理由は、まずこれで間違いないだろう。これは数年前から言われていたことでもあるし、だいたい、僕たちの学年が一クラスだけしかできなかったという時点で既に御察しだろう。

 では今後どうなるかについてだが、これは貼り紙にも書いてあった。僕たちが卒業するまでは学校は存続、しかし来年度からは入学希望者は募らない、といった感じだ。

 ——まあ、妥当だろう。僕はそう考えていた。きっと、クラスのみんなや、学校の人たちも、多くの人がそう思っているはずだ。

 

 

 廃校になってしまっても仕方がない、そうやって僕たちは、諦めてしまっていた。だからここからは、少しでも美しく終わろう、そう考え始めていた。大多数の人がこの事実を受け止め、受け入れていたのだ。

 もしかすると、それでもよかったのかもしれない。そのまま有終の美を飾り、切なくも美しい思い出として心に残していく、そんな道もあったのかもしれない。

 ——けれど。

 この後、ある九人の女神たちが、立ち上がることになる。

 僕たちはこれから、その九人の女神たちが起こす奇跡に、巡りあうこととなるのだ。

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