ラブライブ! 〜僕らは今のなかで〜   作:逸見空

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投稿不定期ですみません……。
今回はあまり内容は進みませんが、にこちゃんの気持ちになって書きました。


第十五話 LONELIEST BABY②

 あの後、にこは高坂穂乃果たちにバレたため急いでトンズラし、雨の中走って家まで帰った。

 家に帰ると、にこの可愛い妹たちであるこころとここあとこたろうが「おかえりなさい、お姉さま!」と言って出迎えてくれたが、にこの雨に濡れてびしょびしょな姿を見て、「どうしたんですかお姉さま!? そんな格好では風邪をひいてしまいます!」と言いながらすぐにタオルを持ってきてくれた。ああ、なんていい子たちなのかしら。さすがにこの妹たちね。

 にこはそのタオルで濡れた服を拭いて家の床に水がつかないようにすると、そのままお風呂に向かった。

 

 

 

 お風呂から出ると、にこは自分の部屋に直行した。あらためて見てみると、ピンク色がたくさんあるなんとも女の子らしい部屋だ。そして部屋の真ん中にある大きめのベッドに、トスンッ、と体を投げだす。

 ……疲れた。

 雨の中走って帰ってきたのもそうだけど、その前の、部室のことの方が重くのしかかってきた。

 ちょっときつく言い過ぎたかしら。あいつも……優羽も優羽で、にこのことを考えてくれている。それくらい分かる。分かってはいるのだけれど……にこはいつもこうだ。思えばあのとき——同級生の子たちとスクールアイドルを始めたときだってそうだった。にこがもっと上手に接することができていたら、彼女たちは部活を辞めなかったかもしれないし、にこもひとりになんてならなかったかもしれない。

 そして今回だって……。

 ああ、きっとあいつ、ガッカリしただろうな。こんなわがままで自分勝手なにこのことなんて、もう嫌いになっちゃっただろうな。せっかく……せっかく友達ができたと思ったんだけどな。

 そして気づけば、涙が自分の頬を伝っていた。鼻水も出てきて、もう自分では止められなかった。もう、なんなのよ、ほんと……バカみたい。一人で勝手に苛立って、怒って、落ち込んで……そして多分、今だってにこは期待している。あいつなら、優羽ならきっと、にこの気持ちを分かってくれているかもしれない——そんな自分勝手なことさえ期待している。そんなはずないのに……でも、もしかしたら、と。

 

 布団を涙で濡らしているうちににこはいつの間にか眠ってしまったようで、気づいたときにはもう朝だった。

 時計を見るとまだ五時だ。いつもならあと一時間は寝るのだが、もう寝る気にはならなかった。

 それからいつものように学校に行き、いつものように放課後になる。いくらにこが悩んだって、落ち込んだって、にこ以外のものはいつも通りに時間が進んでいく。止まっているのは、にこだけだ。

 にこは、なんだかもやもやした気持ちでなにも考えずに部室に向かう。あの部屋だけはにこの心が休まる安寧の地なのだ……が、そこで気づく。もしかしたら、また優羽がいるかもしれない……だったらやっぱり気まずいかも……でもでもやっぱりこのままっていうのも良くないし……いやいやでも——

 

「あっ、あなたは……」

 

 部室の扉の前で下を向いて考えていたとき、急に話しかけられて前を向くと、そこに立っていたのは、なんと高坂穂乃果たち、μ’sの六人だった。

 

「——シャアアアアア!!!」

 

「うわあっ!?」

 

 とっさににこは威嚇すると、彼女たちがひるんだ隙に部室に入って内側から鍵を閉めた。

 ふう、ひとまずこれで……いや、待てよ? そういえば部室には……。

 

「に、にこちゃん……どうしたの、そんなに慌てて?」

 

 声がして振り向くと、そこには案の定、優羽がひとりで座っていた。

 うう、どうしよう、やっぱり気まずいかも……。

 とりあえずにこは、

 

「な、なんでもないわ……」

 

 と、平然を装う。……本当はどうやってこいつと話せばいいか分からないし、μ’sの奴らからも逃げなきゃだし、これ以上ないくらいに心が乱れているのだけれども。

 ああそうだ、えっと、次の行動は……そうだ、窓から逃げよう!

 なぜそんなことを思ったのかは分からない。窓の鍵も閉めて入り口も閉めれば完全にあいつらからは逃げることができていたかもしれない。しかしにこは、なぜだか窓から逃げることを選択した。それは、ただ単に冷静な判断ができなかっただけかもしれないし、もしかしたら無意識で優羽と二人きりで部室にいるのを避けようとしたのかもしれない。どちらにしろ、すでににこは窓を開けて外に出ようとして窓枠に足をかけていた。

 しかし。

 

「ちょっ、にこちゃん!? なにしてるの! 危ないよ、そんなことしたら!」

 

 と、優羽が後ろから掴んで部室の中に引きずろうとしてきた。

 

「この部室一階だし、全然危なくないわよ! 早く離しなさい!」

 

「外に出たいなら普通に出ればいいじゃん! なんで窓から出るの?」

 

「う……うっさい! いいから離して!」

 

「い……いや……だー!」

 

「こ、こいつ——あっ!」

 

 と、瞬間。

 にこの手が滑り、窓から手が離れる。すると必然的に、引っ張っていて急にその相手が無抵抗になったことで優羽が後ろに倒れることになり、引っ張られていたにこは当然、優羽の方に向かって落ちていく。

 

 ドシーン!

 

 と、大きな音を立ててにこたちは床に打ちつけられた。

 うぅ、痛……くない? あれ? どうして痛くないの?

 そう思い下を見てみると、そこにはにこの下敷きになっている優羽が伸びていた。そしてにこは、伸びている優羽の上にまたがっている、そんな状況だった。

 ……これはまずい体勢だ。

 にこはすぐに察知した。すぐに優羽の上から退かなければ、誰かに見られたら一大事だ。鍵のかかった部屋で二人きり、しかもこんな体勢で……こんなことが知れたら、にこの学校生活は本当に終わってしまう……。

 にこにしては、とても冷静な分析だったと思う。ここで運命的な、ラブコメ的展開を狙わずに保身のことだけを考えたあたり、とてもにこらしいと言えるだろう。自分で言うのもあれだけど。

 が、しかし。

 そんな分析は、ハナから無意味だった。

 動こうとした瞬間、にこは気づく。——入り口が開いていることに。そして、そこに立っている六人に。

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

「では、説明してもらいましょうか」

 

 にこと優羽に向かい合うかたちで座っている園田海未が言う。

 現在、さっきの状況についての審問会が開かれているところだ。

 

「えっと、なんていうか……どこから説明すればいいか……これにはいろいろと経緯があってですね……」

 

「ほう? それはあなたとこの方が破廉恥な行為に及ぶまでの経緯ですか?」

 

 優羽が弁解をしようとすると、園田海未は冷たい声で鋭く言う。

 

「だいたい優羽、私はあなたがアイドル研究部に入ったなんて聞いてませんでしたよ。なぜ言ってくれなかったのですか?」

 

「それはその……タイミングがさ?」

 

「まったくあなたは……たまにそういうところがあるのが傷ですね」

 

「……ごめんなさい」

 

「それからですね、優羽——」

 

「まあまあ海未ちゃん、お説教はそのくらいで、ね?」

 

 園田海未がさらに言おうとしたところを、南ことりが止める。南ことりの声には園田海未も逆らえないようで、不満げながらも話をやめた。

 

 

「それにしても、アイドル研究部さんと優羽くん、知り合いだったんだね」

 

 高坂穂乃果が言った。

 にこは、その『アイドル研究部さん』という呼び方はなんだか嫌だったので、名前だけ名乗ることにした。

 

「にこよ」

 

「じゃあ、にこ先輩で」

 

「それにしても……」

 

「すごい部屋だにゃ」

 

「ええ……校内にこんなところがあったなんて」

 

 彼女たちはそう言いながら部屋を見回す。

 

「勝手に見ないでくれる」

 

 にこは少しトゲのある言い方をした。

 

「こ、これは……『伝説のアイドル伝説』DVD全巻ボックス! 持ってる人に初めて会いました!」

 

 と、棚を漁っていた一人——小泉花陽が驚いたような顔をして、その品を手に持ってこちらに詰め寄ってきた。

 

「そ、そう?」

 

 ほほう? こいつはアイドルの知識が多少はあるみたいね。

 

「すごいです……!」

 

「ま、まあね……」

 

 すると高坂穂乃果がボケーっとした顔でいう。

 

「へぇー、そんなにすごいんだ」

 

「知らないんですか!?」

 

 小泉花陽はそう言うと、デスクに置いてあるパソコンを開いて説明を始めた。

 ちょっとそれ、にこのパソコンなんだけど……。

 

「『伝説のアイドル伝説』とは、各プロダクションや事務所、学校などが限定生産を条件に歩み寄り、古今東西の素晴らしいと思われるアイドルを集めたDVDボックスで、その希少性から『伝説の伝説の伝説』——略して『伝伝伝』と呼ばれる、アイドル好きなら誰もが知ってるDVDボックスですっ!」

 

「花陽ちゃん、キャラ変わってない……?」

 

「とにかく! こんなものを持ってるなんて、にこ先輩……尊敬……」

 

 まあ、そこまで言われると悪い気はしない。

 ふと、その横に目を向けると、南ことりが棚の上にあるものをじっと見ている。

 

「気付いた? 秋葉の伝説のカリスマメイド、ミナリンスキーさんのサインよ。ま、ネットで手に入れたものだから、本物かどうかは分からないけど」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 ん? なにかしら、この感じ。なにかあるのかしら……?

 

「どうしたの、ことりちゃん?」

 

 その様子を見た高坂穂乃果は南ことりに尋ねる。さすが高坂穂乃果、南ことりの一瞬の童謡を見逃さなかったとは、なかなかの洞察力じゃない。

 

「う、ううん……とにかく、この人すごい!」

 

 誤魔化したわね。まあ、いいわ。

 

「……それで。何の用?」

 

 にこは改めて尋ねる。何の用で来たのかなんてわざわざ聞かなくてもわかるが、一応、社交辞令的な感じで聞いてみる。

 

「ああ、そうだそうだ」

 

 高坂穂乃果がそう言うと一同はさっきまで思い思いの行動を取っていたのをやめ、改まって席に座った。

 そして高坂穂乃果は言う。

 

「実は私たち、スクールアイドルをやってまして」

 

「知ってる。どうせ希に、部にしたいなら話つけてこいって言われたんでしょ」

 

「おお、なら話が早——」

 

「お断りよ」

 

「え?」

 

「お断りって言ったの。今日はもう帰って」

 

「え……で、でも——」

 

「いいから帰って!」

 

 そう言うと、にこは無理やりに六人を追い出した。そして一人残った優羽にも言う。

 

「あなたも、今日は……」

 

「……うん、分かったよ」

 

 優羽は素直にそう言うと、ゆっくりと歩いてドアの方へ向かう。そして静かにドアは閉まった。

 彼女たちが去って一人部室に残ったにこの脳裏に浮かんでいるのは、あのとき部を辞めていった四人の姿だった。

 

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