海未ちゃんと優羽のまったりデート回です。
「優羽ー、まだですかー?」
「うん、ちょっと待ってー」
オープンキャンパスでのライブが終わり、その次の日曜日、休みの日だった。
オープンキャンパスでのライブは大成功で、アンケートの結果も大変良く、廃校の決定はもう少し延期されることになった。
とりあえず、一つの大きな壁は乗り越えたのだ。
「ごめんごめん、おまたせ」
「それでは行きましょうか」
そうして僕たちは一緒に玄関を出る。そう、今日は姉さんと二人でお出かけなのだ。
○ ○ ○
「ピクニック?」
「はい、ピクニックです」
それは昨日、姉さんが唐突に提案したものだった。
いまどき「ピクニック」なんて言葉を聞くことも滅多になくなった。
ピクニックとは、つまりはどこか公園なんかに行ってそこでお弁当を食べて、そしてそのまま帰ってくるという、そんな感じだろうか。
しかもあの姉さんがピクニックなんて、なにか裏があるのではと少し疑ってしまう。まあ、姉さんは裏があることなど全然言わないのだけれども。だとしたら、ただの思いつきだろうか。なんだかそれも違う気がするが、まあいいだろう。
「いいけど、どこに行くの?」
「それは……まだ決めてませんが」
ほほう、姉さんが計画も立てずに何かを提案してくるとは、珍しい。
「じゃあ、北公園にしようよ。あそこなら広いし、芝生もあるし、お弁当を食べるにもちょうどいいだろうし」
北公園とは、ここから歩いて三十分くらいのところにある、かなり大きな公園である。日曜日だと基本的には人がいっぱいいて、にぎやかなところだ。
「はい、優羽がいいなら、そこにしましょう」
そんなわけで、僕たちは北公園に行くことになった。
○ ○ ○
外は雲ひとつない青空で、本当に絶好のピクニック日和である。ときどき車が通るくらいの細い道路に沿って、僕たちは北公園に向かっていた。
「でも、姉さんと二人で出かけるなんて、何年ぶりだろうね」
「そうですね。昔はよく一緒に遊びに行ったものです」
「なんていうか……懐かしいね」
「ええ」
姉さんは長い髪を風になびかせながら、背筋を伸ばして凛とした様子で歩いている。
ほんと、僕の姉であることが不思議なくらい、完璧な人だと思う。たまに少し抜けているところもあるが、そこもまた姉さんの良いところでもあるのだろう。もしも僕が弟でなければ、きっと僕は姉さんに惚れているに違いない。
そんなことを思いながら歩いていくと、いつのまにか北公園に着いてしまった。
「人がたくさんいてにぎやかですね」
「そうだね。どこで食べようか、お弁当」
「そうですね……あ、あそこなんてどうでしょう?」
そう言って姉さんが指差したのは、ちょうど二人分空いているベンチだった。
「いいね、あそこにしよう」
そして僕たちはそのベンチに座ると、早速持って来ていたお弁当を間に広げた。
お弁当は二人で作ったもので、おにぎりに玉子焼きにウインナーに唐揚げに……と、いろいろ入っていてとても美味しそうだ。
「じゃあ早速……いただきまーす!」
そうして僕はまず姉さんの作った唐揚げを一口に頬張った。
「んー! 姉さんの作った唐揚げ、すごく美味しいよ!」
「そうですか? ……ふふ、ありがとうございます。では私も……うん、優羽の作った玉子焼きもとても美味しいです」
「そ、そう? ……うん、ありがとっ」
そんな感じで僕たちはお弁当を減らしていき、あっという間に完食してしまった。
「ふー、お腹いっぱいだよー。ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
弁当箱を片付けて、僕は背もたれに寄りかかった。
上を向いてみると本当に良い天気で、なんだか眠くなってしまいそうだった。
「ねえ、姉さん」
「はい? なんでしょうか」
「今日はどうしてピクニックに行こうだなんて言いだしたの?」
「ふふっ、そんなの、優羽と一緒にお出かけしたかったからに決まってるじゃないですか」
姉さんは微笑んで言う。
「もう、まじめに答えてよ……」
「私はいつだってまじめです。ただ、強いて言うなら、そうですね……優羽がいつも頑張ってくれているから、そのお礼がしたかったんですよ」
「お礼? 僕、別にそんな、お礼を言われるようなことなんてしてないと思うんだけど……」
「いえ、たくさんしていますよ。私は知っています」
「そう……なのかな」
「はい。そうなのです……優羽、本当にありがとうございます」
「や、やめてよ姉さん……」
なんだか照れくさくなって、僕は急いで違う話題を探すが、なかなか話題がない。すると、姉さんからこれまた意外な話題が飛んできた。
「そういえば優羽、好きな人は出来ましたか?」
「え? どうしたのいきなり……うーん、今はいないかな……」
僕は特に慌てることもなく、冷静に答える。だって本当にいないし。
「今はいない、ですか……では昔はいたのですか?」
「うーん、どうだろうね……あんまりそういうの、分かんないや」
「そうですか……なんだかつまらないです」
「つまらなくて悪かったね……そういう姉さんはどうなの?」
「私ですか? 私はいませんよ、今も昔も」
「ほんとにー? でも中学の頃はしょっちゅう誰かに告白されてたよねー?」
「あ、あれは……でも、全部断りましたから」
「そっかー、じゃあほんとにいないのか」
「はい、嘘はつきません」
「ふふ、それは知ってるよ」
楽しい会話が続く。ずっとこの時間が続けばいいのに、なんて思うほど楽しい時間だった。
「……いい天気ですね」
「うん、そうだね……こんな天気だと、なんだか眠くなっちゃうよね……」
「寝てもいいんですよ? ほら、私のひざを貸してあげます」
「い、いいよそんな、高校生にもなってお姉ちゃんの膝枕なんて……」
「そう……ですか……」
姉さんは少ししょんぼりした顔になる。
ああ、もうそんな顔されたら……
「……で、でもやっぱり、貸してもらおうかな……?」
「! 是非どうぞ!」
パァッと明るくなった姉さんは、自分のひざをポンポンと叩く。
「じゃあ……遠慮なく……」
とは言っても遠慮がちに、僕は姉さんのひざの上に頭をのせる。あ、なかなか気持ちいい……ちょっと恥ずかしいけど……でも……。
そんなことを思っているうちに、僕は眠ってしまった。
○ ○ ○
「……うーん」
「おや、起きましたか」
……うん、おはよう……どれくらい寝てた?」
「だいたい二時間くらいでしょうか」
「そんなに!? ごめん、姉さん、重かったよね」
そう言って僕は頭を避けた。
「いえ、そんなことはありませんよ。優羽が気持ちよさそうに寝ていたので、私も少し寝ていましたし」
「そっか……ありがと」
「いえ」
ふと向こうの空を眺めてみると、もうだいぶオレンジ色に染まっていて、本当に時間が過ぎていることが分かった。
「そろそろ帰ろうか」
「ええ、そうですね」
そうして、僕たちは荷物を持って帰路に着いた。
行きがけにも通った細い道路を二人で歩いていく。遠くでカラスが鳴く声がする。
「優羽」
「なに?」
「今日は、その……楽しかったですか?」
「うん、とっても」
「そうですか……よかったです」
「また来ようね」
「はい——もちろんです!」
姉さんは笑顔で頷いた。