ラブライブ! 〜僕らは今のなかで〜   作:逸見空

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第三話です。にこ登場です。
僕はμ’sの中ではことりちゃん推しなのですが、まだことりちゃんを動かせていません……
しかしにこも好きなので、今回のにこを書くのは楽しかったです♪
ではどうぞ。


第三話 ダイヤモンドプリンセスの憂鬱

 今日の授業が終わり、放課後になった。僕は昼言われた通りに再び生徒会室のドアの前に訪れると、すでに東條さんが待っていた。彼女はおさげ髪が特徴的な、全体的にふんわりした人だ。ふんわり、というのもなかなか分かりにくいけど、その辺りはある程度想像に任せる。

 東條さんはこちらに気付くと、大きく手を振って来た。

 

「あ、園田くーん!」

 

「すみません、先輩、待たせちゃって」

 

「ええんよ。うちも今来たとこやし」

 

 ほな、行こか。と、東條さんは歩き出した。

 

「あれ、生徒会長は来ないんですか?」

 

 僕がそう言うと、また足を止めて前を向いたまま、

 

「うん」

 

 とだけ言った。

 なんだかまた変なこと聞いた……?

 そう思っていると、突然東條さんは振り向いて、

 

「もしかして、絵里ちのほうがよかったー?」

 

 と、にししっ、と笑って、からかうようにこちらを覗き込んだ。

 よかった、笑顔だ。

 

「い、いえ、そんなことは!」

 

 と、僕もおどけてみせる。

 

「それと、東條先輩ってなんか慣れないから、希って呼んでくれないかな?」

 

「はい、分かりました……希先輩」

 

「うーん……まあ、それでいっか。じゃ、行こ」

 

 そうして今度こそ、アイドル研究部の部室へ向かう僕たちなのであった。

 

 

 部室の前に到着すると、そこには『アイドル研究部』と書かれた紙が貼ってある、一つの部屋があった。その部屋に入るためのドアは見たところこの一つだけしかなく、そのドアについている窓からも、内側にあるカーテンのせいで中の様子は伺えなかった。

 希先輩はそのドアをコンコンとノックすると、まるで気軽に友達を呼ぶように部屋の中の人を呼ぶ。

 

「おーい、にこっちー? 新入部員つれてきたよー?」

 

 …………

 返事はない。

 誰もいないのではないだろうかとも思ったが、希先輩は気にすることなく呼び続ける。

 

「にこっちー、いるんやろー? 早く開けてー」

 

 …………

 まだ返事はない。

 やはり誰もいないのではと思って希先輩に言ってみたが、彼女は絶対にいるという。

 

「もう、仕方ないなあ、にこっちは……」

 

 そう言うと、希先輩は更に声を大きくしてドアに向かって言った。

 

「出て来んかったら、明日ワシワシするでー?」

 

 ワシワシ? なんだろうかそれは。少し気になるが、果たしてそんな脅しで出てくるのだろうか。

 と、そのとき。

 ガチャッ、と、鍵の開く音がした。

 そしてドアが少しだけ開き、一人の少女が顔だけ出した。

 

「やっぱりおるやん、にこっち」

 

「……何の用よ」

 

 いかにも不機嫌そうな顔で、彼女は希先輩を睨んでいる。しかし先輩は特に気にすることもなく、あの気楽な調子で続ける。

 

「新入部員を連れてきたんよ。こちら、園田優羽くんです!」

 

 そう言って希先輩は、僕を紹介した。僕も自分であいさつをする。

 

「あ、どうも。園田優羽です。よろしくお願いします」

 

「…………」

 

 彼女はなにも言わず、だだこちらを睨んでいる。

 そしてひと通り僕を睨み通した後、

 

「……ま、とりあえず入れば?」

 

 と、ひとまず僕たちを部室の中へ招いてくれた。

 

 部室に入ると、部屋中にアイドルグッズがあった。

 これ、部費で買ってるのかな、それとも私物?

 そんなことを考えていると彼女は、

 

「なにぼけっと突っ立ってんのよ。そこ、座りなさいよ」

 

 と、彼女の座っている向かい側、希先輩の座っている隣の席を指差して言った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 そして僕が座ると、彼女は愛想のない態度で言う。

 

「私は矢澤にこ。ここの部の部長よ」

 

 それだけ言って矢澤さんは、またむすっとしてしまった。

 …………

 沈黙の時間が流れる。

 ……………………

 何分経っただろうか。いや、多分実際には一分くらいしか経ってなかったのかもしれない。しかし、この沈黙はかなり長く感じられた。

 

「どうせ」

 

 そしてその沈黙を破ったのは、矢澤さんだった。

 続けて、矢澤さんは言う。

 

「そこのおせっかいな人に頼まれたんでしょ? この部に入部してもらえないか、名前を貸すだけでもいいから、とか言われて」

 

 うわっ、全部バレてる。この人が凄いんだろうか、それとも僕が隠すのが下手すぎるのだろうか。

 僕がなにも言えずにいると、

 

「……ほらね、やっぱりそう。悪いけど、私はそんな同情や哀れみで入部されるのなんてまっぴらごめんだわ」

 

「でもにこっち……」

 

「だいたい、希のやることはいつも余計なお世話なのよ。私はそんなことしてほしいなんて、全然頼んでないのよ!」

 

 矢澤さんの口調がだんだん激しくなっていき、それに反比例して希先輩の元気がなくなっていく。なんだか彼女の——矢澤さんの性格がだんだん分かってきた気がする。そして、この二人の関係も。

 

「……今日は帰って」

 

「……にこっち」

 

「帰って!」

 

「!…………」

 

「希先輩、今日は帰りましょう」

 

 そう言って僕は希先輩の手を引き、この部屋を後にした。

 

 

 部屋を出て、そのままの流れで僕と希先輩は校門まで一緒に歩いた。

 

「なんかごめんな、園田くん……」

 

「いえ、そんな……希先輩は、その……大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫よ……ありがとう」

 

 そう微笑むと、また明日と言って、彼女は行ってしまった。

 僕は自分の家に向かいながら、矢澤にこのことを思い出す。体躯は小さくて、ツインテールが印象的な女の子だった。

 ——きっと、笑顔が似合うんだろうな。

 そう思っている自分に気付き、ハッとする。どうやら僕は、彼女のことが気になっているようだ。気になると言っても、恋愛的な「気になる」ではなく、ただ純粋に、そう、「心配」なのだ。

 今日のあの感じからして、おそらく彼女はプライドが高く、なんでも一人で抱え込んでしまうようなタイプなのだろう。気難しい、頑固だ、など、そういう面では姉さんに似ているところもあるのかな。

 そんなことを考えながら僕は家に着くと、なんだか疲れてそのままソファで寝てしまった。

 

 ○ ○ ○

 

「——う……ゆう…………優羽……」

 

 誰かが僕を呼んでいる。心地の良い、なんとも落ち着く声だ。どこかで聞いたことのある……いや、いつも聞いているような……

 

「優羽!」

 

「うわっ!」

 

 呼ばれて、僕は慌てて目を覚ました。

 見上げると、姉さんが立っていた。

 

「こんなところで寝ていては風邪をひいてしまいますよ」

 

「うん……ごめんなさい」

 

 まったく、もう。

 姉さんは呆れたような顔をして、夕食の準備をテーブルにしている。

 姉さんはそう言いながらも、僕に毛布を掛けてくれていた。やっぱり優しいなあ、僕の姉は。

 ソファから立ち上がると、コンソメスープの良い匂いが香ってきた。

 今日の晩ごはんはどうやらポトフのようだ。

 

「さあ、いただきましょう」

 

 姉さんがそう言うと、僕も席に着く。

 

「いただきます」

 

 僕たちは同時にあいさつし、箸を動かした。

 

 姉さんに矢澤さんのことを相談してみることにした。

 姉さんなら、彼女を助ける……と言ったら彼女は怒るだろうが、とにかく力になるためのなにか良いアイデアがあるかもしれない。

 僕は今日のことを、姉さんに大まかに話してみた。

 

「そんなことがあったんですか」

 

「うん。なにか、彼女の力になる良い方法はないかな?」

 

「力になる、ですか……」

 

 姉さんは真剣な顔でこちらをまっすぐに見ている。

 彼女が姉でなければ、僕はそこで目を逸らしてしまうだろう。そのくらい、彼女はまっすぐだった。

 

「優羽」

 

 と、唐突に名前を呼ばれた。

 

「な、なに?」

 

「力になる、助ける以前に、あなたはもっと彼女について知るべきではありませんか?」

 

「知る?」

 

「はい。彼女のことを、ゆっくりと、時間を掛けて知ってゆくのです。今あなたは彼女のなにを知っていますか?」

 

「それは……」

 

「そう、まだあなたは彼女のことをなにも知らない。そんなことで、彼女の力になれるでしょうか?」

 

「……なれない、と思う」

 

「それが分かれば、もう簡単です。では、頑張ってくださいね」

 

 そう言うと、姉さんは再び箸を動かし始める。

 ……そうか。僕はまだ、彼女のことをなにも知らなかった。それなのに、僕は彼女を一回見ただけで、どんな人物なのか勝手に決めつけていたのだ。そんなのじゃ、確かに彼女の力になるのは難しい。

 とすれば、僕が次にすることはもう決まっていた。

 

 ○ ○ ○

 

 翌日の放課後、僕は一人でアイドル研究部の部室の前に来ていた。

 僕はちょっぴり勇気を出してそのドアをノックした。

 

「すみませーん……矢澤さーん?」

 

 …………

 やはり出てこない。

 僕はもう一度ノックをして呼びかけてみる。

 

「あのー、矢澤さん? 僕です、昨日来た園田です」

 

 …………

 返事はない。

 どうしたものか……あ、そういえば。昨日希先輩がなにか言ったら出てきたんだっけ。えっと確か……

 

「矢澤さーん、出てこないと、その……ワシワシ? しますよー」

 

 その瞬間、思い切りドアが開いたと思うと、凄い勢いで矢澤さんが出てきた。

 

「あ、よかった。出てき——ぶはっ!?」

 

 出てきたと同時に、強烈な腹パンを喰らった。

 そしてそのまま、僕は部室の中に引きずり込まれた。

 

「ちょっとあんたなに考えてんのよ!? この変態!」

 

「うう……なんで……」

 

 僕はなぜ拳を腹に埋められたのか理解できぬまま、矢澤さんに説教されていた。

 なにがいけなかった? どこに変態と言われるようなところがあった? 女の子はやっぱり難しいなあ……

 

「はあ、まったく……それで、今日はどうしたの? またあいつに頼まれて来たんならさっさと帰って頂戴。それにもう来ないで——」

 

「いや、違う」

 

「え?」

 

 僕はまだ呼吸が苦しいが、一生懸命喋った。

 

「はあ……はあ……確かに昨日は、希先輩たちに言われたので来ました……でも、今日は僕の意思で来たんです」

 

「あなたの意思……?」

 

 矢澤さんは訝しむように聞き返す。僕はやっと呼吸が整ってきた。

 

「はい。僕の意思です。僕が来たかったから来たんです……矢澤さん、改めて、僕を入部させてくれませんか? 僕はアイドルについてはあまりよく知らないし、邪魔になるだけかもしれません……でも、矢澤さんのことは知りたい。それは本当です。だから、入部を許してくれませんか?」

 

「えっ、私のことが知りたいの……?」

 

「え? なにかおかしいこといいましたか……?」

 

「まあ、強いて言うなら全部おかしかったけど……」

 

「え……」

 

 そうしてそのまま後ろを向いてしまった。

  そうか、全部おかしかったのか。これでも、僕の本当の気持ちを伝えたんだけどな……これなら仕方ない、失敗だ。そして僕が謝って帰ろうとした、そのときだった。

 

「でも」

 

 そう言って彼女は、帰ろうとしている僕の方を振り向く。

 そしてその顔を見て思った。

 

「にこ、そういうの嫌いじゃないわよ?」

 

 ほら——やっぱりこの人は、笑顔が似合う。




案外早く、にこと優羽が仲良くなりました。
僕もこれからが楽しみです。
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