ラブライブ! 〜僕らは今のなかで〜   作:逸見空

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四月になって忙しくなってきましたね。
僕も執筆がなかなかできなくて(言い訳)。

では第ハ話です、どうぞ。


第八話 覚悟

 その日家に帰ると、まだ姉さんは帰ってきていなかった。おそらく部活だろう。

 今日は姉さんに聞かなければならないことがある。

 ……本当にライブをするのか、ということだ。

 僕は最初、姉さんたちがスクールアイドルを始めると言ったときは確かに、応援しようと思っていた。というか、今でも応援はしているつもりだ。しかし現在、それと同時に心配する気持ちも大きくなっている。

 姉さんたちは、スクールアイドルをやることで廃校を防ごうとしている。その行動力は本当にすごいとは思う。しかし現実的に考えて、それで廃校を——学校の存続にまで関わる大きな問題を解決することができるのだろうか。正直なところ、僕自身は『無理』だと思っている。……こんなことを姉さんに言ったら怒るかもしれないな。でも、実際そうではないだろうか。こんな言い方をするのは僕だって嫌だ。しかし、現実は残酷なのだ。

 そして、今回のライブである。

 そりゃスクールアイドルとして活躍していくというのならば、それが成功するかどうかは置いといても、ライブを開催するのは当然ではあるだろう。しかし、いささか早すぎるのではないだろうか。彼女たちはまだ始めたばかりじゃないか。それなのにもうライブをするなんて、僕は反対だ。せめてあと一ヶ月ほどは練習した方がいいのではないか。というか、姉さんもこれは急ぎ過ぎだと分かっているのではないのか……?

 僕がそんな思考を整理していると、玄関が開く音がした。

 姉さんが帰ってきたのだ。

 

「ただいま帰りました」

 

「おかえり」

 

 姉さんは荷物を置くと、いそいそと台所に立って夕飯の準備を始めようとした。そこで僕が姉さんを呼び止める。

 

「姉さん、ライブするって本当?」

 

「ええ、本当ですよ。あら、まだ言ってなかったですか?」

 

「今日、西木野さんに聞いて始めて知った」

 

「それはすみません、てっきり優羽には言ったとばかり……」

 

 違う。今はそういう話ではない。

 僕は早速本題に入る。

 

「……本気なの?」

 

 真面目な顔で、僕は姉さんに尋ねた。すると姉さんも真剣な話ということを察したのだろう、僕の前に正座して向かい合って言った。

 

「本気です」

 

 それから姉さんは、ライブをすることになった経緯を話し始めた。

 

 

 

 姉さんの話によると、どうやら今回のライブは生徒会長に認めてもらうためのものらしい。このライブで講堂を満員にできれば、部活として認めてもらえる、ということになっているそうだ。

 ……なるほど、そういうことだったのか。

 僕はやっと納得した。内心、引っかかってもいたのだ。穂乃果さんならまだしも、姉さんがこんな大胆なことをするだろうかと。さすがにこの段階でライブをするのは早すぎると、姉さんだって分かっていないはずがないと。

 そうか、生徒会長が……

 あの人はいったい、何を考えているのだろうか。初めての、それもまだ結成したばかりのグループのライブで、講堂が満員になるはずがないだろう。これは、姉さんたちに対する明らかな挑戦、いや、挑発ととってもいいのではないだろうか。

 

「あのさ」

 

「はい」

 

「姉さんたちが頑張ってるのは分かってるよ。僕は姉さんたちを応援してる。でも、だからこそ、今回のライブはやめた方がいいんじゃないかな……って思うんだ」

 

「そうですか……」

 

 姉さんは反論はしなかった。それどころか、

 

「心配してくれているのですね、優羽。ありがとうございます」

 

 と、お礼まで言ってきた。

 そして、彼女は柔らかい表情のまま続ける。

 

「……確かに、あなたの言う通りかもしれません」

 

「だったら——」

 

「でも」

 

 僕が言いたいことは分かってる、そう言っているかのような顔で、姉さんは僕の言葉を遮って言う。

 

「私はやります」

 

 そのとき、僕はハッとした。

 思い出したのだ、姉さんという人間を。

 姉さんの目はとても輝いていたのだ。それだけではない。楽しそうな……ワクワクしているような顔だった。この人は未来に確かな希望を持っている、そんなことが見て取れた。

 

 ——前を向いて進むだけ。それだけでいい。そんな真っ直ぐな彼女の目が、僕は昔から大好きだった。

 

 結局この日、それ以上その話はしなかった。

 

 ○ ○ ○

 

 翌日、学校に行くと廊下に貼ってある広告が見えた。

 ——『μ’s 1stライブ』と書いてある。

 これは……みゅーず? と読むのかどうかは分からないが、グループ名も決まっているようだ。

 もう僕が言うことは何もない。まあ、最初から僕なんかが言うようなことはなかったのだけれども。

 ……あとは応援するだけだ。そう、でも、唯一言うことがあるのだとすれば。

 

 ——頑張れ。

 

 それだけだ。

 

 

 教室に入ると、星空さんが今日も元気良さそうにあいさつをしてきた。

 

「おはよう優羽くん!」

 

「おはよう」

 

「聞いた聞いた? 1stライブの話。今度やるらしいよ!」

 

 いきなりタイムリーな話題だった。星空さんも廊下に貼ってあった紙を見たのだろうか。

 僕は平然を装って答えた。

 

「ああ、うん。らしいね」

 

「優羽くんは興味無いの? アイドルとか」

 

「うーん、まあ特には」

 

「そっかー、それは残念」

 

「うん……え?」

 

 残念? 残念と言ったの? それはどういうことだろう。星空さんは僕がアイドルが好きである方が良かったということ……つまり、星空さんはアイドルオタク……? でも、人は見かけによらないとは言うけど、星空さんはそんな風にはとても見えないし……

 

「優羽くんがアイドル好きだったら、かよちんの話し相手になったのになあ……」

 

 そういって星空さんは、少し席の離れた『かよちん』こと小泉さんの方を見る。

 ……ああ、なんだ、そういうこと。

 アイドルが好きなのは星空さんではなくて小泉さんの方だったのか。そういえばこの前もそんな会話してたっけ。

 僕は残念がっている星空さんを横目にして、今日の授業の準備を始めた。

 

 

 

 今日の授業が終わった。

 今日はなんだかよく集中できた気がする。

 ……よし、部活に行くか。

 僕は教科書をカバンにしまって廊下に出た——その直後。

 

「優羽!」

 

 大きな声が聞こえて振り向くと、そこにはにこちゃんがいた。

 なにやら怒っているご様子で、息を切らせてこちらを睨んでいる。

 どうしたんだろう……もしかして僕、なにか悪いことでもした!?

 にこちゃんは僕の方へドシンドシンと近づいてくると、いきなり僕の手を掴み、

 

「ちょっと来なさい!」

 

 と言って僕を引きずっていこうとする。

 

「ちょっ、に、にこちゃん!? どうしたの?」

 

 僕が聞いても、にこちゃんは「いいから!」と言って問答無用で僕を引っ張っていく。どうしようもなく連れて行かれる僕は、誰に向かってということもなく、一人叫ぶのであった。

 

「誰か……誰か助けてー!」

 

 ○ ○ ○

 

 行き着いた先は部室だった。なんだ、部室なら僕も行こうとしてたのに。

 部室に入ると、そこには希先輩もいた。しかし、その顔はにこちゃん同様になんだかムスッとしている。

 その場はなんだか不穏な空気に包まれる。

 ……どうしたんだろう、二人とも。まさか、またなにかあったのか? やっぱり過去にまだなにかあって、それで今いろいろあって一触触発の大ピンチ……的な?

 ここはひとまず状況を聞き出すしかない。

 僕は勇気をだして、恐る恐るにこちゃんに……ではなく、希先輩に尋ねた(にこちゃんは素直に話してくれないかもしれないから)。

 

「あの……一体なにがあったんですか?」

 

「……うちは悪くないもん」

 

 こっちも十分めんどくさかった。

 今度は僕はにこちゃんの方を向く。

 

「にこちゃん……なにがあったの?」

 

「……希が悪いのよ」

 

 にこちゃんもそう言う。

 すると座っていた希先輩が立ち上がって、

 

「なによ、元はと言えばにこっちが不用心なのが悪いでしょ!」

 

「はあ? 開き直るつもり!? あんたが勝手ににこのものを取ったんでしょうが!」

 

 と、いきなり口論が始まった。

 

「取ったわけじゃないもん! 貰ったんだもん!」

 

「それを取ったっていうのよ! こんなの、立派な泥棒だからね!」

 

「なっ、泥棒って……言ってくれるやん? まったく、そんなことで人のことを犯罪者扱いだなんて、にこっちはほんまにちっちゃいなあ……心も身体も!」

 

「ぐっ!? ……よくも言ってくれたわね……だいたい胸が大きいことのなにが偉いのよ! この胸だけオバケ!」

 

「はっ! この胸には大きさのぶんだけの素敵な夢や希望が詰まってるんですぅー! にこっちはないかもしれんけど!」

 

「なに言ってんのよ、意味わかんない! ていうか、話逸らさないでよね!」

 

「最初に逸らしたのはにこっちがやん!」

 

「う、うるさいわね! ……とにかく、私が机の上に置いてたポテチを食べたのはあんたが百パーセント悪いんだから!」

 

「あんなところにあったら誰でも食べてしまうわ!」

 

「言ったわね!? じゃあ聞いてみようじゃない!」

 

「望むところや!」

 

 そう言うと、二人は同時にキッと僕の方を向き、そして声を合わせて言う。

 

『優羽(くん)はどう思うの!?』

 

「…………」

 

 少し考えて、僕は家に帰ることにした。

 

 ○ ○ ○

 

 家に帰ると、いつものようにまだ姉さんは帰っていなかった。まだ部活か、もしくはダンスの練習をしているのだろう。

 今日は僕が晩ごはんの当番なので、すぐに準備に取り掛かる。そして、ふと思う。

 姉さんはなにかに向かって頑張っている。一生懸命に目標に向かって突き進んでいる。僕にとって彼女は、本当に自慢の姉だ。

 

 ……では僕は?

 

 僕はなにか目標があるのだろうか。目標に向かって、なにかやっていることはあるだろうか。

 ——無い。

 僕はなにもしていない。僕はまだ、目標すら見つかっていない。

 そんな自分に嫌悪感を感じるとともに、もしかしたら僕は、目標を持ってなにかしている姉さんのことを羨ましく思っているのかもしれない。

 その日の晩ごはんは、あまり美味しくできなかった。

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