『消された死竜 ―デスザウラー部隊爆破消滅事件を追って―』   作:城元太

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第四章

 容態が急変し、彼が亡くなったのはその翌日の明け方だったらしい。

〝らしい〟というのは、連絡がもらえなかったからだ。休暇の前日になって、再度病院に行くことを考えていた夕刻に、短い連絡を受け取った。

 

〝祖父は先日亡くなりました。お約束が果たせず残念です。最後にお礼をしたかったのですが、葬儀の都合上すぐに帰郷します。いずれ改めてご連絡します。いろいろとありがとうございました〟

 

 私は暫く言葉を失った。彼が死んだのだ。デスザウラーの残骸のことも、Rという人物のことも、もはや聞くこともできない。

 連絡が届いてすぐの間は、私には怒りにも似た納得のできない感情が湧きあがった。せめて別れの言葉だけでも伝えたかったのに、と。

 だが、冷静に考えてみれば無理もないことだ。旅先で出会った見ず知らずの人間に、これ以上何を伝える必要があるのか。

 それに仮に彼女が彼の死を嘆いて、息を引き取った直後に私に連絡をしてきたところでどれ程力になれたというのだろう。きっと悲しみに打ちひしがれて、誰とも言葉をかわしたくないのに、わざわざ愛する家族の死を告げる気にもならない。少なくとも私が同じ立場であれば同じ行動を取っただろう。

 時間が必要だった。彼女が彼の死を受け止めることが出来るまで。その後からでも、以前から彼の話し相手になっていたならば、あの残骸についての話の続きを知っているかもしれないのだから。

 そこまで考えて、私はふと重要なミスに気が付いた。

 迂闊なことに、私は彼らの帰郷先を確認する事を怠っていたのだ。知っているのは、送付してきた彼女のアドレスのみ。とても住所を特定できるようなものではない。

 残された望みは、最後の連絡にある〝いずれ改めてご連絡〟を待つことである。それが一体いつになるかはわからないが、最早それ以外に期待するしか無かった。

 直接私の生活に関わることではない。知らずに過ごしたところで、人生に何の影響もないことは確かだ。しかし、あの残骸にどんな秘密があって、彼が最後に伝えたかったことが何なのか。私は心の中に大きく何かが痞えているような感情を抱え、それから数日を過ごすことになってしまった。

 

 そして、その数日後である。私はまた、彼と出会った場所に来ていた。

 辺りの様子は一変していた。進入禁止の金網が貼られ、移動してきたクレーンが次々と残骸を吊り上げている。クレーンだけではなく、旧式ゾイドを改造したバックホーザットンが、地中に突き刺さった残骸を掘り起し、徹底的な撤去作業を続けていたのだ。慌ただしく動き回る作業員には、それがかつて死竜の名を冠した最強ゾイドデスザウラーの残骸であることなど気にすることもなく、ただただ機敏に職務をこなしているだけだった。

 作業現場のとなりに、貨車を3台繋げたグスタフが停車している。荷台には幌を掛けられた荷物が載せられていた。どうやら残骸の一部のようである。私は気になって、現場指導員らしいヘルメットに2本線の入った作業員に呼びかけた。

「あれはどうするのですか」

「ああ、あれね。お兄さんは知っているかい、この残骸、デスザウラーっていって、ゼネバス、ガイロス最強の超巨大ゾイドだったってこと。」

「ええ、まあ」

「こいつは荷電粒子砲の発射にも耐えられる強力な装甲だったから、再生してジェネレーター格納容器の外殻にする。新しく鋳造するより安上がりだからね。それとは別に、残骸の中から形が整っているパーツを寄せ集めて、1つのゾイドに復元するのさ。」

「でも、あれは復元しても動けないでしょう」

「ダークネス戦争記念館に展示して、帝国の栄光を長く讃えるモニュメントにするのさ。中身のない張りぼてだけどね。世の中にはまだまだ好事家ってのがいるものでね。スポンサーはかなり復元に金を賭けているけど、寄付金やら見学料やらを見込んでも、充分採算はとれるのさ。完成には少しかかるけど、きっと客はくるさ。あんたも完成したら来てみたらいいよ」

 作業員に何の躊躇いはない。むしろ誇りを持って、生き生きと作業をしている。私は、その様子を複雑な感情を抱きながら見ていた。

「ところで、そのデスザウラーですが、なぜ此処に埋まっていたのかわかりますか」

 彼は怪訝な顔をして私を見た。

「そんなこと、我々にわかるはずないだろう」

 当然の返答だった。

「ただ、撤去の最初の説明で、スポンサーと一緒に旧軍関係の人が同席していたね。軍の記録は調べたかい」

 私ははっとした。今まで何度か調べたことはあったが、それは地元の歴史資料であったり一般公開されている映像であったりで、軍の資料について直接当たったことはなかった。彼の話を聞くまでは、そこまでして調べる程の熱意もなかったともいえるのだが。

 作業員の何気ない一言が、新たな手掛かりを探る方向性を示してくれた。

 私は礼を言うと、そのまま撤去作業現場を後にした。

 次の休暇の行先は決まった。ダークネス戦争記念館に併設されている軍事資料室だ。そこで彼の伝えたかった事実の何かが得られるかもしれない。

 私はどうやら、デスザウラーの残骸に魅入られてしまっていた。

 

                     *

 

 旧ガイロス帝国首都ダークネス。惑星大異変を境としたヴァルハラ遷都以降はチェピンと呼称を変えているが、旧軍関係者の間では未だダークネスという名称にこだわり続けている者も多い。この博物館の名称も同様である。野外に展示してあるデッドボーダーや翼だけのギルベイダーの間を抜けて、併設されている戦争資料室へと向かった。途中、前の大戦に参加したであろう老人も何人か見かけたが、それ以上に男の子を連れた親子や、若いカップルの姿を数多く見かけた。そこには彼が語ったような陰惨な様子は微塵も感じられない。過ぎ去った過去は歴史の一事象に過ぎず、それに感情を込めて分析するのは、徒労でしかないのかもしれない。だとしたら、私の行為は忌むべきことではないだろうか。

 兎に角、私は資料室に入り、司書にあたる職員に事情を話した。

「デスザウラーと、爆発事故と、あなたの町の名前を入力して、検索をかけてください。当時の記録資料のマイクロフィルムがデジタル化されているので、必要があれば有料でプリントアウトできます」

 とはいったものの、それから数時間、私は慣れない資料研究に悪戦苦闘することとなる。彼の話から判断して、あの残骸ができたのは共和国が上陸してヴァルハラに向かっている最中である。続いて摂政の反乱が起こり、アイゼンドラグーンの共和国進攻が同時展開。一時行方不明であったルドルフ皇帝が健在であったことが判明し、中央大陸への再度侵攻を含め、時代が大きく波打っている時代であったからだ。それらに比べれば、たとえ大規模であったとしても、地方で起こった爆発事故など霞んでしまう。

 

「これの事だ」

 半日近くを薄暗い資料室の検索機の前で過ごし、自分でも読めないような走り書きを幾つか認めた結果、漸く一つの情報に突き当たることとなった。

 残されていた資料は、帝国武器開発局のもの。ジェノザウラーやデススティンガーなどのゾイドを開発していた部局の試作計画書の一節に、オーガノイドシステムを利用したデスザウラー復活計画第二案とあり、暴走の危険性を回避しつつ、より大量のデスザウラーを各生産拠点に於いて数百単位で増産する計画が掲載されていた。その拠点の一つに、私の町の名前も挙げられていたのだ。

 だが、それ以上のことは記載されず、計画の成否も語られていない。漸く得た手掛かりも、たちまち袋小路に追い込まれた。

 再び、キーワードでの検索をしてみたものの、参考となる資料は見つからない。私は半ば投げやりに、検索を無作為に続けていた。

 そのうち、あの残骸とは何の関わりもないが、爆発事件の項目に幾つかの気になる事件が現れるようになった。共和国上陸を目前にした時期に、なぜか帝国領内での謎の失火やゾイド格納庫での爆発などが目立つようになったのだ。地域はバラバラで、地方の駐屯地から首都近郊まで。被害の程度も格納庫内の中型ゾイド全壊から小火程度まで。とても関連があるとは思えないが、一致しているのは発生の時期だけなのだ。

 私は私の町の名前と爆発事故が多発した時期を再度検索に加え、今度は一般の記録を含めて関連した事件が無いか調べることとした。

 すると、当時の地方記事の片隅に、謎の工場爆発という小さなベタ記事が掲載されているのを発見した。そこには私の住む町の名前が記されていたのだ。奇しくも、共和国軍上陸の翌日である。記録が表に出てこないのも道理だ。付随して記載されていたのが、軍内部のみで開設された調査委員会の報告書である。名称は『デスザウラー部隊爆破消滅事件調査委員会報告書』。私は遂に、公式記録を発見したのだ。

 

 本題とは逸れるのだが、私は私自身の思い込みの違いにも気づかされた。最初は目を疑ったが、やはり間違いではなかった。実は爆破消滅事件があった日、いや、それが発生する以前に、私はまだこの世に生を受けていなかったということだ。長年あの残骸を見続けてきた。どうやらその幼いころの記憶が、勝手に爆発のイメージを作り上げていたらしい。では、彼の語っていた砂色の建物の記憶は何なのだろうか。それもどうやら、思い込みであった。飛行場跡地に古めかしい砂色の倉庫が残っていて、少年時代にその周辺で遊んでいたことを、今改めて思い出した。私はその時の記憶を、爆発した秘密工場のイメージに重ねていたのだ。自分では確固とした自信があったことが、少年時代の想像の中にしか無かったことに唖然とした。人間の記憶など、いい加減なものなのだ。事実を探求する場合、どのような形であれ、記録というものを確認する必要性を、この一件で痛感したのだった。

 

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