『消された死竜 ―デスザウラー部隊爆破消滅事件を追って―』   作:城元太

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第五章

 デスザウラー部隊爆破消滅事件調査委員会(以下、委員会と呼ぶこととする)は、デスザウラー復活第二計画の併設機関として発足した。最初の秘密工場として設置されたものが、突然爆破消滅したのであれば、当然その所管の部署に調査機関が設けられることになる。共和国上陸作戦が進行する中、帝国側としても早急にデスザウラー建造の目途をつけ、戦場に投入する必要があった。限られた人材を振り分け、委員会は爆破事件の調査を始めた。

 最初にまとめられた報告書に記載されていた項目を挙げてみよう。

 

① 発生時刻は早朝、作業開始四時間前。発煙を含む爆破発生状況を目撃した者は確認できず。

② 爆発による死傷者及び行方不明者は、兵士を含む工場勤務者316名中201名。内、爆発による死亡は22名、窒息による死亡114名、荷電粒子被曝による死亡30名、行方不明19名。重症者52名、軽傷者32名。症状が確認できなかった者32名。なお、重症者の中には現在も被曝による治療を継続中の者を含む。

③ 建造中であったデスザウラー計10体は全壊。再生は不可能。

④ 爆発は各機体から発生。工場施設の爆発によるものではない。

⑤ 弾薬・燃料・その他揮発性物質による暴発は認められない。従って火器による爆発の可能性も非常に低い。

⑥ 機体からの爆発は、状況より内部から発生したものと推測される。従って共和国による爆撃・砲撃・その他外部からの攻撃によるものではない。

⑦ 破壊は頭部から頸部に亘って集中している。コア及びインティークファン周辺の破壊は比較的軽微。だが接続は完全に破断され、再生は困難。

⑧ オーガノイドシステム全壊。コアの増殖は不可能。

 

 委員会は、短期間にも関わらず精緻な報告書をまとめていた。デスザウラー復活計画に対する並々ならぬ期待が、その背景にあったのだろう。また、この第一工場の成否が、続く第二第三工場の建設にも影響することだから、徹底調査の構えを崩すわけにもいかなかったのだ。

 まず気が付くのは、人的被害の多さだ。工場勤務者の3分の2以上が死傷者というのは、如何にこの爆発が大きなものだったか容易に想像される。その中には、各地から集められた優秀な人材も被害者となっただろう。デスザウラー復活第二計画にとって、間違いなく大きな痛手となったであろう。

 次に提起された課題は爆発事件の原因追究だ。まず挙げられたのがやはりオーガノイドシステムの暴走であった。技術局側でも、この未解明の技術を継続して使用し続けることに反対している人々は数多くいた。首都技術局では、残された同タイプのシステムを再び空輸し、暴走実験を行うこととなった。既に共和国はビフロスト平原、ウルド湖に迫り、制空権も完全ではなかったが、ホエールキングの強行輸送によって、新たなオーガノイドシステムが爆破後に空輸された。そこでシステムの徹底的なストレステストが繰り返された。高熱高圧、磁力線の影響、荷電粒子の影響、その他考えられる範囲の実験が繰り返されたが、原因と言えるほどの結果は得られなかった。

 実はこの頃の帝国は、デススティンガーの量産型KFDの生産に見られるように、オーガノイドシステムの完全管理にほぼ成功していたといえる。それほどまでに、オリンポス山の悲劇は帝国技術部のトラウマにもなっていたのだろう。

 爆発事件の最有力候補としてのシステム暴走は排斥された。次に挙げられたのが、大口径荷電粒子砲の暴発である。デスザウラークラスの大口径砲は、旧ゼネバス帝国が開発したものであり、その後ギルベイダーのビームスマッシャーとして完成する効率的な荷電粒子の収束技術に比べ若干の不安定さを指摘されていた。出力がオーガノイドシステムによって強化されていたので、何らかの影響により暴発したのではないかとも想像されたのだろう。だが、これもすぐに否定された。まず、コアとの接続が完了していなかったことが、生存者の証言からわかったからだ。コアからのエネルギーが伝達されてなければ、荷電粒子砲は作動しない。一部、粒子加速器内に蓄積された素粒子は、爆発の衝撃で放出されたが、名称の通り充分に加速されていない荷電粒子では、せいぜい半径数百メートルしか飛散できず、その分作業員たちが大量に被曝することにもなったのだろう。

 続いて弾薬の暴発だが、報告書⑤にもあったように、可能性は極めて低い。

 残された可能性は、誰もが認めたくないものだった。

 人為的な爆発、それも意図的に計画された、破壊工作である。作業員は、各地から召集され、不審な人物が紛れ込む可能性は高い。そこで、爆破事件当初、そこで作業していた人間の全員の聞き取り調査を行おうとした。

 ところが、委員会はここで完全に躓いた。生存者が、いないのだ。報告書②のデータを見ると、早朝未明の為多くの作業員が出入り不自由の宿泊所の中に閉じ込められていて、爆発後に発生した煙に巻き込まれ呼吸困難になって死亡している。加えて、彼が迷路の様と称したように、工場内の機材の密集が避難経路の確保を妨げた。そして残った作業員も大量被曝のため数日後に死亡。事情聴取できたのはほんの一握りで、爆破事件に関わりがあると思われる事実は追及できなかったのだ。

 生存者リストの内、被曝重症者の中に彼の名前は記されていた。見つけることは容易だった。その数があまりに少ないからだ。彼は事件を語り継ぐことのできる、数少ない人物だったはずだ。しかし、軍は事情聴取の後、爆破事件についての徹底した箝口令を敷く。砂漠の工場爆発は、さすがに町にも隠し通すことはできなかった。ましてその爆発が内部犯行である可能性が高いという事実は、民間人に知られたくはない。そこで軍は、共和国軍の特殊爆弾を使用した空襲により工場が破壊されたという情報を流した。共和国軍が侵攻中の時期でありそれを疑う人もなく、工場はそれを機会に閉鎖された。

 生き残った関係者も秘密の保持を誓わされた後、次々と移送されていった。向かった先は、戦闘の最前線である。事件を知る人間に、事実を語らせない為の、的確で尚且つ残酷な処置であった。

 やがて共和国上陸部隊はヴェーヌに到達、そこでのデスザウラーの戦闘状況が最高司令部にも伝えられた。投入された全機が破壊。共和国側に、対デスザウラー用のマッドサンダーが存在していることが判明し、これ以上のデスザウラーの生産にも疑問符が付けられた。第二第三工場の建設は保留となり、ついにデスザウラー復活第二計画は停止されたのだ。

 依然、爆発事件に関与したであろうと思われる人物の特定は続いていたが、摂政の反乱と首都爆発の混乱に飲み込まれ、委員会も自然解散し、事件の追究は二度と行われることがなかった。

 

 事件の経過を把握する、大きな収穫であった。だが、最後に委員会が挙げた人為的原因というものが気になった。彼が語っていた、Rという人物である。きっと、何か関わりがあるに違いない。しかし、それ以上の情報は、得ることは出来なかった。

 

                    *

 

「復元はできそうですか」

 私は飽きずに撤去の現場を度々覘いていた。既に顔なじみになってしまった作業員に経過を聞いてみる。

「お兄さんも暇なんだね。若いんだからこんなところに来ないでデートでもしなよ。まあ、そんな恋人がいないから、こんなところに一人できているのだろうけど。

 余計なお世話だよね。まあ、どうでもいいや。実は困っているんだよ。これだけのスクラップがあるのに、頭が一つも見つからないんだ」

「10体あって、一つもですか」

「あれ、よくわかるね。そう、見かけは7体だけど、本当は10体。ものによっては殆どが埋まっていたり、完全にバラバラだったから、少なく見えたかもしれないけれど。

 左右手足に胴体、尻尾はそろったのに、肝心の頭がなければね。まあ、見つからない場合はレプリカを付けて飾れば問題はないのだけれど、スポンサーの意向は本物の展示なんだよ。これからここの基礎工事も始めなければならないのに、これでは工程が遅れて違約金まで発生してしまう。こっちの頭が痛いよ」

 そう言って、被った2本線入りのヘルメットを指先で軽く叩いた。現場作業員も大変なのだ。

 やはり機体数は10体だった。報告書にあった製造数と等しい。建造されたデスザウラーは、1体も参戦することなく、ここで破壊された。更には、頭部が一つも残っていないというのも報告書の通りである。デスザウラーの場合、コアが活動を停止すると真っ先に崩壊するのは加重力衝撃テールを組み込んだ尾部であるという。重力装置の制御が停止すると、約半数の割合で一種の重力崩壊を起こすからだ。頭部も被害を受けやすい場所ではあるが、バイトファングなどの硬度の高い部分は残っていそうなものだ。

 人為的な破壊工作が行われたという仮説から、全てのデスザウラーは頭部から発生した爆発によって破壊されたとする。頭部から破壊するとすれば、大口径荷電粒子砲の発射口から何らかの爆発物を入れ、内部の粒子加速器と反応を起こし物理的な対消滅を起こせば吹き飛ぶかもしれない。そういえば、私が長年見つめてきた残骸の頸部の断面は、外側に向けて捲れ上がっていた。あれは内部からの爆発の影響によって発生したものだ。

 オリンポス山で爆発したデスザウラーは、コアの暴走によって山ごと吹き飛ばした。摂政の反乱で、ルドルフ皇帝が命がけで切断した以外のコアも、ヴァルハラの市街を大爆発に飲み込んだ。それに比べ、ここのデスザウラーの爆発はあまりに小規模だ。もしコアの暴走であれば、1体であってもこの小さな鉱山都市など消し飛んでいたはずである。爆発は、コアの暴走に及ぶことなく、抑制された爆発によって頭部を中心に破壊されたと考えられなくもない。その場合、やはり人為的な破壊が原因である可能性が高い。

 人為的な破壊という線に、私には気になる部分があった。公に語られることはないが、常に暗躍をしているという、共和国諜報機関破壊工作部隊の存在である。ガイロス・ゼネバス両帝国を含め、遠く東方大陸にまでもネットワークを持つという謎の組織の存在が、まことしやかに囁かれていた。当時の敵対国であり、穿った見方をすれば、敵の工作員が破壊活動を行っていたと吹聴することは簡単である。私も今まで本気にしたことはなかった。

 だか、今回の爆破事件を調べるに連れて、奇妙な一致が見られるようになったのだ。

 

① 共和国上陸翌日の、実戦投入寸前でのデスザウラー秘密工場での爆破事件。

② 更に、不可解な事に10機同時に爆発している。

③ 同時期に連続して発生していた、帝国内軍事施設での火災、爆発事故。

④ そして彼が語っていたRという技術者。Rはヘリックと同じ風族だという。種族が同じであれば、共和国諜報機関の工作員が接触するのも容易になる。それにRが担当していた部門が、破壊四散している頭部と、暴走を抑制して破壊されているコアの部分。

 

 Rという人物が吃音で会話を苦手としていたというが、それさえ正体を隠す手段としては好都合だ。整備兵は各地からかき集められてきている。Rが工作員だとして、会話のイントネーションなどから出身を疑われる可能性もあっただろう。破壊工作員であれば、彼が語っていたようにRの突出した技術力も説明がつく。

 

 これは飽くまで裏付けのない私の憶測でしかない。可能性は他にいくらでも選択できる。しかし、偶然にしては、余りに出来過ぎている。

 事実と事実が、次第に輪郭を成して、ある一つの像を結ぼうとし始めている。

 

「お兄さん、気分でも悪いのかい」

 私は作業員の前で、暫く考え込んでしまったようだ。どうやらまた手掛かりができた。私は忙しく挨拶を交わすと、そのまま閉館間際の町の資料館に駆け込んでいった。

 

〝共和国諜報機関;名称の通りヘリック共和国のスパイ機関であるが、俗称さえ未確認の謎の組織である。その存在は正式には確認されず、現在友好関係のヘリック共和国側でも、公式にその存在を認めたことはない。しかし、長期間の戦争遂行に於いて、同種の組織が存在しないことなど常識的に在りえない。唯一第一次中央大陸戦争にて陥落した共和国首都大統領官邸より、ゼネバス24部隊スケルトンが同組織と思われる秘密資料を発見したと伝えられるが、発見した兵士は報告書の提出直前に原因不明のデスピオンの爆発に巻き込まれ殉職している。

 推察される共和国諜報機関の組織は、各種族のコミュニティーを媒体として血縁地縁両方に根付いた強力な信頼関係を形成しており、実態を把握することが非常に困難となっている。非常に曖昧な結論だが、未だにそのネットワークは健在と言われている〟

「閉館時間、10分過ぎました」

 さすがに係員に直接注意されてしまった。私は謝罪もそこそこに、持ち出し禁止の資料を書庫に戻し、夕刻の町に戻った。

 全面戦争が終了して十数年。聡明なルドルフ皇帝の政治力もあってのことだが、その間凱龍輝開発を代表とするように、我が国とヘリック共和国は技術協力を行うなどかつてない友好関係にあるといってもいい。それでも共和国は、まだ全ての情報を開示してはいない。国の名称に示された共和制は、個人を尊重する民主主義を標榜するが、国内の政治がどれ程民主的でも、時として自国民の繁栄のみを願うあまり、国家の存在自体が利己主義に陥る場合もあるのではないか。

 旧ゼネバス帝国との戦争も、原因がすべてゼネバスにあったわけではない。大陸の東側にあり豊かな自然の恵みとそれに伴う産業の発展を独占したのが本当の原因だ。ゼネバスヘリックの兄弟間の確執など、添え物でしかない。元首に据えられたヘリックⅡ世でさえ、共和国という組織に操られていた可能性もある。背後に存在する巨大な官僚組織は、民主制の名称のもとに、ヘリック共和国を蚕食していたとさえ考えられる。

 大型ゾイドを持たない旧ゼネバスに、ゴジュラスを始めとする大型ゾイドで襲いかかったのは共和国である。

 ウルトラザウルスを完成させ、圧倒的な力でゼネバスを捻じ伏せ、一度ニクスに追いやったのも共和国である。

 デスザウラーがヘリックシティーを陥落させ、ギルベイダーが空襲を行ったとはいえ、攻撃のきっかけを作ったのは共和国側だ。

 そして究極の最強ゾイドであるキングゴジュラスを開発し、結果として惑星大異変を誘発してしまったのも共和国ではないか。

 西方大陸エウロペを戦場に巻き込み、暗黒大陸ニクスに侵略を謀ったのも共和国。そしてその共和国は、いまなおその正体を隠し続けている。

 私は、共和国の正体に近づくにつれて、空恐ろしい感覚が湧き上がることを禁じ得なかった。

 

 その後数日、各資料室をあたって、共和国諜報機関と呼ばれるものの資料を探してみたものの、所詮私などの手におえる相手ではなく、有効な情報は一切手に入れることはなかった。私の調査は、完全に暗礁に乗り上げた。

 

 やがて本来の職務に追われ、いつしかあの残骸のことを思い出すこともなく、日々の生活に追われる毎日に戻っていた。

 彼との出会いも、まるで幻の様で、今になっては一時の気の迷いであったかの如くに。

 

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