読み返すと恥ずかしさが込み上げてくる……
あとに続く話と若干のズレがあることを把握しつつどうにもできないとか
文才をください(切実)
Kapitel 1
自分の生き様に疑問を持ったことはない、と言えばそれは明らかな嘘になる。ごくごく一般的な家庭ではあったが、一般家庭なりに幸せだったことに間違いはない。両親がいて、二人の妹がいて、多くの友人がいた。それでも、疑問は尽きなかった。
なぜ、この世界に生まれたのだろう。
なぜ、俺は生きているのだろう。
なぜ、俺は"俺"なのだろう。
なぜ、なぜ、なぜ、なぜ。
それは人生の議題にして、一生をかけて考えていくものだ。それなのに、その道中半ばも半ば、19年という短い人生で"俺"は終わりを迎えたのだ。居眠り運転による信号無視、からの大型トラックの転倒。避けることなど出来ず、偶然とはいえ起きるべくして起きた事故だった。鞄には大学で取っている授業の教科書とノート、シャーペンと数種類のカラーペンが入ったペンケース、お気に入りのゲーム機とソフトが。そのゲームソフトが原因なのかは分からないが、結果、
「アンタが、エミヤユキツグ、か」
血の滴る女性の物らしい腕を手に、険しい表情で俺を見つめる青い槍兵との出会いに繋がるのだが。
「(fateの世界に転生トリップしたのは、夢じゃなかったんだな)」
今更夢、と断じるには遅すぎるのだが、憧れのサーヴァントが目の前にいるとそう思わざるを得ない。第四次聖杯戦争の勝者である衛宮切嗣を実の兄に持ち、この青い槍兵のマスターであるバゼット・フラガ・マクレミッツと知人以上親友未満の関係になった時点で何となく予想――否、確信はしていた。いつか第五次聖杯戦争にも巻き込まれるのではないか、と。だが、まさかこんなに早く現実になるとは。しかも、想像とは明らかに違う展開だ。自分の中では甥っ子か、この土地のセカンドオーナーたるお嬢さん、それか陰湿な教会の代行者によって引っ張り出されるとばかり思っていたのだが。ああ、いやこれもある意味で、あの代行者のせいなのか。
「(そろそろ聖杯戦争が始まるからバゼットの補佐に回れと協会に言われて日本に帰国したが……まさか、帰国初日にサーヴァントと鉢合わせするとは。しかもランサーとか、バゼットお前もうやられたのか。助ける暇もねぇとかなんて悲劇だ、でもまぁそれが原作なんだと言えば終わりなんだが。……言峰綺礼に令呪を奪われる前にこっちに来たんだよな、このランサー……いや、それにしたってなぜ俺なんだ)」
「質問に答えろ」
「……」
「アンタの名前はエミヤユキツグであってんのか」
原作改編もいいとこだと現実逃避しかけた頭を、やや焦りを含んだ声が引き戻す。険しい表情はそのまま、少しだけ疲労の色を見せた青い槍兵を目にした瞬間、問いに答えるとかそういうのを抜きに、
「家に行くか」
そう言っていた。なんでさ!と甥っ子の声が聞こえたような気がしたが、黙殺。困っている奴がいれば、それは見過ごせない。例えそれが、俺の平穏を乱すものであったとしても。なんだってこんなことを、と思わない訳でもない。しかし、俺は、"正義の味方"とかいう馬鹿げたものに憧れた、憐れな男の弟なのだ。所詮、似た者同士だったということだな。
― ― ― ― ―
(side : Lancer)
オレのマスター、バゼットはいい女だった。"だった"と過去形にしているのは、ついさっきオレの目の前でバゼットの知人だという男に裏切られ、腕を切り落とされたのを見たからだ。今頃、出血多量とかでくたばっている頃だろう。実に惜しい。まあ、それはいいとして。マスターという依り代を失ったオレが、そのまま現界していられるのには訳がある。最期に彼女が残した、
『衛宮雪嗣のもとに行ってください』
という言葉。令呪によって補強されたその言葉は、現界理由としてこの身を縛る。あの場を離れるのは惜しまれたが、彼女はもう助からない。その事をオレも彼女も理解していた、故に行動は速かった。エミヤユキツグ、と名前を反芻し、胴体から切り離され無造作に転がる令呪の刻まれた彼女の腕を抱いて走り出す。
『そう、それで……いい。言峰、には……貴方…、を…渡…な……い』
その言葉を背に、未練を断ち切るように。そして、現在。その、エミヤユキツグとかいう男に手を引かれながら、オレはこいつの家に向かっていた。正直言って、よく分からない。いきなり現れた俺を無表情で見やり、質問の答えにならない言葉を発し、俺の返事を聞かず手を引いてどんどん先に進んでいく。反対の手では滑車のついた小型のケースを、ガラガラと引き摺っている。確か、キャリーケースとかいったか。何がなんだか訳が分からないが、手を振りほどく気にはなれなかった。街灯の灯りも心許ない、平屋が並ぶ中を戸惑いもなく進んでいく男の背中を見つめる。恰幅のいい、よく鍛え抜かれた"戦士"の物だ、と思った。漠然と浮かんできた考えを振り払い、引かれている方とは逆の手に持ったモノに視線を落とす。滴り落ちていた血は既に固まり、酷く冷えきっている。繋がりはもう、感じられない。オレを召喚したマスターの死を惜しいなと思いこそすれ、悲しく思うことはない。彼女は、自身の意思でこの男に令呪を託した。言峰という男よりも、よっぽど信頼できるのだろう。ならば、サーヴァントである自分に文句を言うことなど出来ない、資格などない。ただ、マスターの最期の言葉に従うだけ。
「(――――ああ、確かに)」
アンタが言う通り、良い男だな。気に入ったよ、バゼット。
― ―
それから幾何もしないうちに男は歩みを止めた。目的地についたのだろう、懐かしそうな眼差しを門に向けて、男は口許に微かな笑みを浮かべる。
「理由は何であれ、帰ってきたことには変わりないか」
ぽつりと呟かれた言葉からは郷愁の念が滲み出ており、男が長くこの平屋を留守にしていたということが容易に知れた。オレの腕を掴んでいた手はいつの間にか門に伸びており、何事かを呟くと――おそらく魔術の類いだろう――戸惑いなく門をすり抜けた。……すり抜けた?!
「はぁ!?ちょ、おまっ、待て!」
「ん?」
どうした、と振り返った男の半身は、固く閉ざされたはずの門から飛び出ている。おかしい、これはおかしい。
「な、なんだって門を開けねぇんだよ!!ここ、アンタの家なんだろ!?鍵とか持ってんだろ普通、てかさっき呟いてた呪文みてぇなもんは鍵を解除する類いのもんじゃねぇのかよ!?」
「……」
疑問を口にすれば、男は怪訝な表情で俺に向き直る。何言ってんだコイツ、的な目で見られても困る。オレは当然の疑問を口にしたはずだ。たぶん。
「土地の権利は甥に預けているし、滅多に帰ってくることもないため鍵も持っていない。甥は俺が魔術師だということを知っているからな、俺がこの家に帰ってくる時はこうして門をすり抜けることも知っている」
それのどこが悪いんだ、と続けたこの男に呆れて物も言えない。オレの感覚がおかしいんじゃないと思いたい、絶対にコイツの感覚の方がおかしい。
「(ダメだ、バゼット……オレはコイツとうまくやっていく自信がねェ…)」
前言を撤回する。早くしろと急かしてくる男の後に続くように門をすり抜ける。その先にあったのは想像していたよりもはるかに広い庭と、趣のある武家屋敷だった。土蔵や道場のようなものもあるように見え、さらに奥には別棟のようなものも見える。なんだってこんなに広いんだ。
「……アンタの家は地主か何かか」
思ったことを口にすれば、それは違うと答えが返ってくる。
「冬木を取り仕切っているのは、この聖杯戦争の起こりに関与している遠坂氏だ。衛宮は目を盗んでこの土地に居座ったに過ぎん。最も、ここを気にいって居を構えたのは俺の兄貴だが」
淡々とした解説に曖昧に頷き、まだ明かりが灯っている玄関へと向かう。その途中、庭の奥、土蔵の方から物音が聞こえ反射的に身構える。槍を具象化し様子を見に行こうとしたオレの背に、しかし、待ったの声がかかる。
「構うな」
「あ?」
「甥が魔術の鍛錬をしているだけだ」
「鍛錬だぁ?……」
気になって魔力の流れを探ってみれば、なるほど確かに微量にではあるが土蔵から魔力が漏れ出ている。男が何でもないようにしているところを見ると、それが当たり前だということなのだろう。
「あそこは甥の工房みたいなものだと思ってくれればいい」
「アンタの工房はどこにあるんだ?」
「……それを聞いてどうする」
「いんや、単純な興味」
「……」
一瞬考え込むような素振りを見せたが、ここにはないと直ぐに言った男は玄関の引き戸を横に払い中に入るように促してくる。槍を消してそれに従い、オレは男の家に足を踏み入れた。