Fate/false protagonist   作:破月

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ゆっくりと延びていくお気に入りに驚嘆しつつ、読んでくださる方々に感謝を
予約投稿なので、三章の終わりまでは一日一話方式でさくさく行きます
と言っても、あと二話くらいで三章終わりますが……
気が向いたら感想とかもいただけると嬉しいです

誤字報告感謝します


Kapitel 3-3

 

 

(side : Archer)

 

 

 

 

「これはきっと、チャンスなんだ」

 

 

それきり、何も言わずに男は空を見つめていた。泥が溜まり濁り切った水のように光を映さない瞳が、一瞬だけ空の色を写し取って蒼く光る。幻想染みたそれに、ああそういえばそんなこともあったな、と。そんなことを思った。

 

 

「なぜ、生きている」

 

 

その問い掛けは自然と口を突いて出ていた。空を振り仰いでいた男は私にちらりと視線を寄越し、少し考える素振りを見せてから口を開く。

 

 

「あまり覚えてはいないのだが――――誰かに生かされた。なぜか、それだけははっきりと分かる。この身は、()()()()()()()()()()()()()()のだ……と」

 

 

そう言って踵を返したその背に、縋ってしまいたい衝動に駆られた。行くな、と。その衝動を抑え込むようにぐっと拳を作り、その場に踏みとどまる。そんな私の様子を見ていたわけでもないのに、男は言った。

 

 

()()()、遺して逝かないさ」

「――――ッ」

 

 

ひゅっ、と喉が鳴る。一瞬で体が強張り、心臓が早鐘を打ち始めた。摩耗し擦り切れ、ただの記録に成り下がったはずの記憶が、脳裏を掠めていく。言葉の意味を図りかねその場に立ち尽くした私を、

 

 

「お帰り――――"   "」

 

 

呼吸をするかのように、ごく当たり前に、そして静かに。男は、()()、呼んだ。

 

 

「ぁ――――」

 

 

忘れてしまっていた記憶/記録を、思い出す。生きているはずもない男が、今、確かに生きていて、ここに存在している、その意味を。

 

 

「(私が――"オレ"が、()()()()()()()()()()から……)」

 

 

無数に分かれていく樹木の枝葉のように、無数に広がる可能性の道。全ての人に設けられるその可能性の道を絶たれ、世界から消された男がいた。一つの道筋の、ある一点において。消される運命を背負った――――そんな、不幸な男がいた。その男の望みは、()()()()()()()()()()()()()()()という、ただそれだけの事。たったそれだけのことのために世界と契約し、不要と判断された挙句呆気なく世界に見捨てられ、最期は抑止の輪に座するモノに追い詰められた。しかし、それで運よく男の望みは叶えられたのだ。彼は、彼が"救いたい"と思っていた存在の腕の中で、その存在が座する世界で、息絶えたのだから。男が救おうと心砕いていた存在、それこそが、この"オレ"だった。忘れていたわけではない。忘れられるはずがない。確かに、"私"はその男を殺したのだ。抑止の守護者として例外など無く、不要と判断され世界に見放された者達のように。今、背を向けているこの男ですら殺したはずだった。そうして殺した男が、"私"なんぞの腕の中で安らかな最期を迎えている姿を、この目にした。分霊に殺されかけた男を、本霊の"オレ"が。絶命するのを待たず、捨て置けてしまえばどんなによかっただろう。それすら出来ず、ただただ、男の死を感じていた。男の身体が砂のように崩れ落ち、風化していく過程で、男の生きざまを示すかのような()()()()()()()()()()、その瞬間まで。今も、その槍は私の世界に巣食っている。だからこそ、昨夜、この男の姿を目にした時、我が目を疑ったのだ。生きているはずがない、と。

 

 

「(一体誰が――――こんな馬鹿げた願いを叶えたというのか)」

 

 

確かに、"オレ"は願ったのだ。この男を殺したのが、いつのことかは分からない。理想と違った結末に絶望したばかりの頃だったかもしれないし、"正義の味方になる"とほざいていたころだったかもしれない。()()()()()()。叶うはずもない無謀な願いを、あの荒野で吐露したのだ。そんな陳腐な願いを拾い上げ、わざわざ叶えてみせた存在がいた。男を見捨てた世界――アラヤであるはずがない。かといって、アラヤと対を成すガイアの仕業でもないのだろう。では、誰が。

 

 

「アーチャー」

「っ、」

 

 

耳に馴染まぬ/酷く懐かしい声が、私を呼ぶ。

 

 

「お前が為そうとすることを否定する権利は、俺にはない。だが、もう一度、よく考えた方がいいだろう」

 

 

背を向けたまま。

 

 

「きっと、"答え"は見つかるから」

 

 

そう言って、男は道場の方へと姿を消した。気配が完全に遠ざかると、急に体が重くなった気がしてその場に蹲る。こんなところを凛や小僧なんぞに見られたら、とは思うものの意思に反して体は動こうとはしてくれない。魔力を著しく消費した時のような倦怠感と似ている。どうやら私は、酷く緊張していたらしい。

 

 

「(………"答え"など、ありはしない)」

 

 

そう思うのならば、男が言い残した言葉など聞き流してしまえばいい。頭でそう考えても、心はそれを否定する。訳が分からない。

 

 

「(今更、どうして"オレ"の前に現れる)」

 

 

お前はもう、死んだ人間だろうに。生きているはずのない、理から外れたはずの存在だろうに。きっと、自らもそれを理解しているはずだ。あの日、()()()()()()()()()すら有耶無耶にされて、それでもなお"オレ"の前に立つというのか。自嘲するような薄笑いを浮かべて、緩慢な動きで立ち上がる。薄れた記憶が確かならば、この聖戦の日は短い。ならば、考える時間も、同じようにあまり有りはしないのだろう。かつて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()。当然だ、彼は既に死んでいたのだから。私が、"私"が、殺したのだ。どこが始まりだったのか、判らない。鶏が先か、卵が先かを論議するようなものだ。ならば突きつけられる未来がどんなものであれ、私はそれをただ受け入れるだけでいい。今までもそうして来たのだから。だから――――。

 

 

「(この胸が訴える痛みなど、偽りだ)」

 

 

強く握りこんだ拳が軋む音を聞きながら、空気に融けるように姿を消した。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ―

 

 

 

 

 

道場に顔を出せば、セイバーにコテンパンにされたらしい士郎が床に沈んでいた。ゼェゼェ、と大袈裟なと思うほどに大きく肩で息をする姿に苦笑が浮かぶ、セイバーの相手をするには、確かに士郎では役者不足なのは否めない。が、そんなに時間が経っていないはずだが、どうやったらそこまで疲れるのか。それを呆れた顔で見やるセイバーが俺に気付き、その手に持っていた竹刀を投げてよこす。そして、自分は新たに一本取りだして、嬉々とした様子でそれを構えた。つまり、俺にも相手になれ、と。

 

 

「シロウでは準備運動にもなりません。ですので、ユキツグ」

 

 

いざ、尋常に勝負です。そう言って床に沈んだままの士郎を飛び越え、大上段から竹刀が振り下ろされる。それを軽く躱しながら華奢な胴を薙げば、バシン、と殊の外強く胴に入った音がした。これはまずった、と思いながら振り返れば、案の定セイバーは腹部を押さえて蹲っている。まさかとは思うものの、勢いが良すぎたせいで躱せなかったらしい。最優のサーヴァントと雖も、これくらいの失敗はあるらしい。しょっちゅうこれでは様にはならないが、たまにならまだ許容範囲内というものだろう。

 

 

「ぅ、ぐ……」

「ああ…大丈夫か?」

「問題ありません。……と言いたいのですが、思った以上に痛みがあります……」

 

 

セイバーに近づき顔を覗き込む。俺が竹刀を叩きこんだ場所が甲冑か胸当てのどちらかに当たっていればここまで痛むこともなかったのだろうが、生憎と、その中間にヒットしたようで。涙目になりながら顔を上げたセイバーに苦笑を浮かべて、その柔らかな金糸を梳くように撫でてやった。すると、

 

 

「……親子みたいだな」

 

 

セイバーの向こう側から、そんな言葉が飛んでくる。のそり、と何かが起き上がる気配を感じた方。見れば、あいててて、と呟きながら士郎が体を起こしていた。そして、目を細めながら俺とセイバーを見つめていたのである。

 

 

「親子、か……まあ容姿はともかく、見た目の年齢だけならそう見えなくもないな」

「ユキツグが私の父、ですか……」

 

 

セイバーと顔を見合わせ、片眉をつり上げて同じ方向に首を傾げる。それがツボに入ったのか、やっぱり親子みたいだ、と繰り返した士郎が堪えきれずに笑い出した。知らぬは当人ばかりなり、ってやつなのかもしれない。

 

 

「ユキツグが父であったならば、毎日剣の鍛錬に付き合ってもらえますね!」

 

 

嬉々とした表情でそう言ったセイバーは、身なりは兎も角として年相応の少女に見えて。

 

 

「……こんなポンコツで良ければ、いつでも相手をしてあげよう」

 

 

眩しくて、直視するのが辛く思えたのは、きっと俺自身の心が弱いせいなのだろう。そんな俺の心情など知るはずもなく、心の底から嬉しそうにしているセイバーに請われて二度、三度と竹刀を交えたのだが。

 

 

「――――イカサマですか!?」

 

 

そう言われるくらいに、俺が優勢だったことはちょっとした笑い話にでも……ならないか。直感封じとか、したわけでもないんだがなぁ。

 

 

 

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