でもまあ、予約投稿なのでどうなってるかわかりませんが……
Kapitel 4
――――それは、誰かが失ってしまった
雲に聳える霊峰。
足下には真白の絨毯。
他に人はいないのか、
雪山の拓けた場所に、ぽつんと少年は立ち尽くしていた。
身を切るような寒さを孕んだ風が、少年の頬を撫でていく。
裸の木々は雪の花を乱れ咲かせ、少年が立つそこを取り囲んでいた。
数秒か、数分か。
何十分というほどではない。
だが、実際の時間がどうであれ、そこに少年は独り/一人だった。
足跡も少年の物しか存在せず、当然ながら親の姿など見る影もない。
特になんの感情も浮かばぬ顔つきで、少年は静かに佇んでいた。
――――その傍らに音もなく現れる。
黄金の■を見上げて。
何を望むかという問いに、少年は、そうするのが当然とばかりに口にする。
『
そうして手渡されたのは、一組の■■■。
雪の中に埋もれてなお輝きを放つ、銀の楔。
――――それは。
確かに大切な
― ― ― ― ―
(side : Lancer)
「――――、」
奇妙な夢もあったものだ。
「……はぁ」
規則正しく上下する胸の上には、
「ままならねぇな……」
今朝見た
「――――アンタは、死なせねぇ」
零れ落ちた言葉は、静寂に木霊すことなく霧散した。
― ―
バタバタと騒がしい坊主を横目に居間に行く。マスターは相変わらず寝入ったままで、そのまま永遠に眠り続けるんじゃないかと心配になったが、それには及ばなかったらしい。一度目を覚ました後、オレに坊主の護衛を頼むと溢してから二度寝と洒落こみやがった。まったく、馬鹿にならねぇほどの魔力量の持ち主が、どうやったらそんな魔力切れ寸前にまでなるんだか。悪態をついても仕方がないので、護衛という名の見張りをハサンに任せて、部屋を出てきた次第。さて、と思考を切り替える。
「(今日はバゼットの仕事は休みだし、昨夜の話し合いでいつも通り坊主と嬢ちゃんは学校とやらに行くとも言ってたな。マスター達を抜いたサーヴァント同士の話し合いでセイバーが霊体化できねぇことも教えられたし、ここは大人しくマスターの言葉に従って坊主の護衛でもしておくかねぇ)」
「おはよう間桐さん。こんなところで顔を会わせるなんて、意外だった?」
「(マトウ……?そういや、昨晩、バゼットがその名前口にしてたな……)」
背後でそんな声を聞きながら。
― ― ― ― ―
(side : Shiro)
桜と遠坂の遭遇から、数分。遠坂は居間に残り、桜は無言で朝食の支度を始めてしまった。居間で遠坂と桜を二人きりにするのは不安があったが、こっちもセイバーの事を忘れるほど間抜けじゃない。それに、ランサーやアーチャーもいる。後者に関しては、さっきすれ違ったからランサーが居間にいるのは分かっていたけど、まさかアーチャーまでいるとは思わなかった。桜は見慣れぬ二人に驚いていたようだけど、叔父貴の知り合いと言えばすぐに納得していた。叔父貴のビジネスパートナーである桜の叔父さんから話を聞いているのか、桜は俺以上に叔父貴を信頼している節がある。何気、信頼度の高い叔父貴に嫉妬……って、そうじゃなくて。どうにも桜は遠坂がいる事に怒っているみたいだし、ここでセイバーが出てきては話がこじれる。こじれるので、セイバーには事情を説明することにした。もし、桜と遠坂の間で何かあれば、居間にいるサーヴァント二人が止めてくれるだろうと期待して。
「……という訳なんだ。桜――――あ、今うちに来てくれてる子は桜って言うんだが、桜は魔術師でもなんでもない普通の子で、聖杯戦争なんかに巻き込むわけにはいかないだろ。できれば知らないままで、暫くうちから離れていてほしんだが――――」
違うっ、どうしたら離れてくれるんだろうなんて相談しにきた訳じゃないっ!
「ああいや、そうじゃなくて……桜は遠坂がうちにいることに驚いているんだ。そこにセイバーが出てくると余計に混乱させてしまいそうなんだ。……まて、俺なんかセイバーに失礼なコト言ってないか……?」
「いいえ、シロウの言いたいことは判ります。つまり、私はここで待機していれば良いのですね?」
「――――!そう、そうしてくれると助かる!桜を送り出したらすぐに戻って来るから、朝食はその時で」
ええ、と静かに頷くセイバー。いや、セイバーが物わかりのいいヤツでもの凄く助かった。よし。居間の様子も気にかかるし、急いで戻ることにしよう。
「――――シロウ」
「ん?何だ、セイバー」
「サクラ、と言いましたか。彼女はもしや、マトウの者ではありませんか?」
「え――――」
どうしてそれを、と言いそうになって、セイバーのスキルに直感というものがあったと思い出す。未来予測染みたそれを持つセイバーなら、その問いを口にするのも何となくわかる。わかるが、どうしてそれを今俺に尋ねたのか。疑問を口にするより先に、昨日の夜に語ったバゼットさんの顔が脳裏に過る。
「ライダーの、マスター候補」
「はい。シロウは先ほど、サクラのことを
セイバーは静かに、いつもの調子でそんな助言を口にした。
― ―
で。何事もなかったかのように、いつもの朝食が始まった。いつもの、というと若干……いや、かなり語弊があるかもしれないが。ぎこちなさが抜けきってはいないものの、一見すれば仲良さげに会話する桜と遠坂。この場にいるのは不本意だと言いたげに眉を寄せながら、既に食事は終えた風を装い静かにお茶をすするアーチャー。その横では、ランサーが桜の料理の腕を絶賛しながら、景気よく箸を進めている。バゼットさんは、今日は仕事がオフのためまだ寝ているので、起き出すのは昼過ぎになるだろう。叔父貴が起きていないのは珍しいが、昨日の夜結界を弄っていたみたいだし、疲れているのかもしれない。ワーカホリックのきらいがあるから、たまにはのんびりしてほしい。そこまで考えて、一瞬、セイバーも普通に呼べばよかったと思い始めた。しかし、今更呼ぶのもなあ、と次の機会に桜に紹介しようと思いなおす。セイバーの事も叔父貴関連で説明すれば、納得はしてくれなくても理解はしてくれるだろう。……たぶん。
「――――――――」
ランサーが時折話題を振る以外の会話はない。まあ険悪なムードではないし、そもそもうちの朝食はこんなもんだ。俺も桜もお喋りな方でなし、飯時が静かなのはいたって道理なのだ。にも関わらず、どうして衛宮邸の朝食はいつも騒々しいんだろう。
「…………?」
いや、まて。なんか、また頭にひっかかったぞ……?桜に魚の味付けが濃かったかと尋ねられて、首を振る。どうにも、何か忘れている気がしてならない。思い出せないコトなら大した事じゃない、と割り切ろうとしたが、それはとんでもない思い違いな気がしてきた。放っておいたら死に至る病巣を抱えてしまっているような、そんな不安がよぎる。
「――――ま、いっか。どうせ大したコトじゃないんだろ」
うん、と無理矢理納得して飯をかっこむ。その次の瞬間、俺はその判断を後悔する羽目になるんだけど。そういえば、サーヴァントのランサーやアーチャーを見ても何も言わないあたり、やっぱり桜は聖杯戦争と無関係なんじゃないかと思う。