あ、いや最後らへんには出てきますけど…
この調子で行くと主人公とランサーがいつくっつくのかわからんな……
(side:Shiro)
帰りのホームルームが終わって、教室から生徒たちの姿が減っていく。いつもなら生徒会室に顔を出すところだが、遠坂に早く帰れと言われた手前、寄り道せず屋敷に戻るべきだろう。
「……あれ?」
一瞬、
「帰るんじゃねぇのか?」
人の気配がないのをいいことに、実体化したランサーが投げかけてくる。―――そう。用事がある訳でもないのだから、遠坂の言葉通り屋敷に戻ればいい。それでも、どうにも騒いで仕方がない胸の内をランサーに伝えようとして―――
きゃー――――――――――!!!!
「――――――――!?」
「おいおい、マジかよ……」
思わずランサーと顔を見合わせた。今、下から悲鳴が聞こえなかったか……!?
「ランサー、今の」
「悲鳴、だな。―――どうする?」
どうするも何も。答える手間を惜しみ、即座に鞄を掴んで駆け出す。俺の意図を組んで先を行くランサーには、悲鳴の発生源が判るのだろう。俺に合わせたように加減された最速の足が、淀みなく進んでいく。一段抜かしで階段を駆け下り、一階に辿り着く。廊下には誰もいない。ただ一つ、
「士郎!?なんでまだ学校にいるのよ!早く帰れって言ったじゃない!!」
背後から遠坂の声が聞こえた。そっちこそ、用事があるんじゃなかったのか。そう言いたいのを我慢して、非常口前に倒れた女生徒に駆け寄る。待ちなさい、と遠坂が追ってくるのを足音だけで確認する。既に容態を確認していたランサーは、難しい顔をしていた。一年生だろうか。意識はないようだが、出血も外傷もなく、とりわけ大事という訳ではなさそうに見える。だけど、ランサーがそういう顔をしているのなら、そうではないのだろう。
「状態は」
「見た目は無事に見えるが、こりゃあ
「――――――――」
言葉を失う。追いついた遠坂も、女生徒の様子を見て顔をしかめるとポケットを探り始めた。
「これで足りる?ランサー」
いくつかの宝石を取り出した遠坂が、それをランサーに見せて尋ねる。……良かった。ランサーと遠坂は治療法を知っているようだ。
「十分だ」
遠坂から宝石を受け取り、何かを呟いたランサーがそれを女生徒の胸元に置く。遠坂はしゃがみ込んで、ランサーの手助けをするように女生徒を介抱している。
「――――――――」
その横顔は真剣そのものだ。額に汗を浮かばせながら、女生徒の安否を気遣う。
「……?」
……なんだろう。その、見ている方が痛みを覚えるほどの真剣な顔を、俺は。
「ああもう、気が散るっ……!士郎、そこのドア閉めてくれる?風で髪が乱れるのよ」
「え――――ああ、あの非常口だな」
開けっ放しの非常口に視線を送る。
「ん――――?」
「――――あ」
その、開けっ放しの非常口を見ていたおかげか。黒い"何か"が飛んでくるような気がして、咄嗟に、
「――――坊主!!」
「遠坂、危ない」
ランサーの怒号も空しく、右手で、遠坂の顔を庇った。
― ― ― ― ―
(side:Lancer)
抜かった。しくじった。何のための護衛か。坊主の肘と手の中間に突き刺さった釘にも似た黒い短剣を睨み、ついで非常口の方を睨む。短剣に繋がった鎖は、非常口の向こうに見える景色へと続いている。―――誘われている。明け透けな挑発ともとれるそれに、神経が逆撫でられていく。
「え―――な、なによそれ……!士郎、腕、腕にグサッて……!」
「っ――――――――」
「チィ――――!!」
強かに舌を打ち、粗方治療を終えた女生徒を嬢ちゃんに任せて立ち上がる。
「なんで、そんな―――ううん、今はそうじゃなくて、血、血がそんなに出てるのに、いた、痛く、ないの……?」
動揺も露わに尋ねた嬢ちゃんに、
「――――痛い。とんでもなく痛い」
しかし、坊主は単調に返す。その様子に動き始めていた足が止まった。あまりの痛みにパニックに陥るどころか、一週回って冷静になったような。そんな機械染みた返答に眉を寄せ、未だ動きを見せない敵に視線を送り続ける。
「そんな事より―――こんなモノを、遠坂の顔めがけて投げやがったのか」
ぼそり、と。誰に言うでもなく吐き出された言葉を聞く。ぞわり、と背筋を駆けあがったのは悪寒か、それとも嫌悪感か。いいや、おそらくどちらもだ。
「――――遠坂、その子は任せた」
嬢ちゃんの返事を聞く余裕はないと言わんばかりに床を蹴り、坊主は非常口を飛び出していく。
「おい待て!先走るんじゃねぇ!!」
予想外。いや、それは違う。
「(――――冗談じゃねぇ)」
オレはマスターに坊主の護衛を命じられた。セイバーに坊主を任された。それがこの、体たらく。情けないにもほどがある。治療行為に気がとられていた?そんな馬鹿な。周囲に気を配っていない訳ではなかった。それなのに、やすやすと坊主は傷つけられ、オレは坊主が声を発するまで迫る短剣にすら気づけていなかった。何かの陰謀かと言いたくなる。槍を持つ手が、ぎちり、と鳴った。一息で坊主との距離を詰め、首元をひっつかんで強制的にその足を止める。
「なっ――――にするんだ、ランサー!!」
肩越しにオレを振り返り、先を言い募ろうとした坊主が口を閉ざす。琥珀色の瞳に写ったオレの顔を見て、ああそうだろうな、と内心で呟いた。酷い
「素人は引っ込んでろ。ここから先は、
さも今気づきましたとばかりに、坊主の腕に刺さったままになっていた短剣を引き抜き、手早く治癒のルーンをかける。応急手当に過ぎねぇから、痛みは残るだろう。……が、ぶっ刺さったまま傷口が広がったり、化膿したりするよりはましだろう。
「ランサー」
「んだよ」
雑木林に移動した魔力の気配を追うために、足に力を籠める。
「―――任せても、いいのか」
「――――はっ、」
餓鬼が。そう言い捨て、オレは駆けた。
― ― ― ― ―
ふと、目が覚める。体を起こし、軽く肩を鳴らす。繋がったラインから、魔力が流れ出ていくのを感じて動きを止めた。
「戦闘……?」
「ユキツグ?起きたのですか?」
廊下からセイバーの声が聞こえた。失礼しますと前置いて、襖が静かに横に払われる。落ち着いた新緑色のブラウスに黒のパンツという出で立ちの彼女は、俺の顔を見て顔をしかめた。
「今朝よりも顔色が悪くなっています。なにか病気でも?」
心底心配していると言いたげな視線が頬を滑り落ちた。俺ははだけた浴衣の襟元を正しながら、小さく笑みを浮かべる。
「いや、病気はしていない。頑丈さだけが、昔から取柄でね。……心配させたか」
「―――そうですね。朝起きて再び寝入ってから、だいぶ時間が経ちます。バゼットに話を聞いても、こんなことは初めてだと言う。ならば心配でない筈がない。思うに、貴方は自己評価が低いきらいがある」
「――――――――」
綺麗な顔が陰る。まるで夜空に浮かぶ月に、雲がかかる様に。前髪が瞳を覆い隠し、俺のすぐそばについた膝の上では、きつく握りしめられた両の拳が震えていた。
「セイバー」
親愛の情を込めて、彼女の
「
ぼろり、と。そんな言葉を口にした。
「――――――え?」
思考が停止する。今、
「っ――――」
「ユキツグ!」
ああ、昨日からこんなことばかりだ。アーチャーに対しても、自分でさえ把握できない言葉を紡いだ。そして、今日、セイバーにも。自分で自分が判らないとは、お笑い草だ。しかし、俺ほど
「(
自分の声ではない。抗いがたい何かが、この身を犯す。その正体を知っている。これだから困る、
「ユキツグ、気を確かにっ」
セイバーの声にどうにか意識を保っているような状態。無意識に動いた左手が、何かを作り出そうとしている。―――ああ、なるほど。
「"
思考とは別離した体が、その言葉を口にする。左手に集中する魔力にセイバーが気づかない筈もなく、濃い魔力の発生にバゼットが駆け付けない筈もない。その中で、俺は――――
『"――――
魔力が確固たる形を取る。身に馴染む気配、濃厚な
――――汝、力を欲するか
抗うな、従え。
憤るな、惑え。
受け入れよ、それが貴様の末路だ。
そう言って、それは俺を嗤っている。それを仕方がなしに迎え入れたのは、確かに俺だった。けれど、総てを明け渡したつもりはない。この
抗えない―――そんなことはない。
憤れない―――それは嘘だ。
受け入れる―――違う、迎え入れたのだ。
「づぅっ――――――――!!!!」
何とも形容しがたい痛みが背中を走る。しいて言うなら、焼き鏝を複数押し付けられたような、そんな痛みだ。どんな拷問より堪えるそれは、言わば俺自身への罰とも言えるだろう。
『叔父貴』
『雪嗣さーん』
『ああ、まったく……世話が焼けるね君は。
ぶつり、と意識が途絶えた。