Fate/false protagonist   作:破月

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この主人公は表情に出ないだけで、感情は豊か。
心の中と喋るときの口調が違うけど、それは無意識。


Kapitel 1-2

 

(side : Lancer)

 

 

 

 

家――というか屋敷の中は、随分と静かだった。広さの割に、いやこの広さだからだろうか、やけに人の気配が薄い。生活感が無いというかなんというか。

 

 

「……ここ本当に人が住んでんのかよ」

「少なくとも、家主である甥は住んでいる。他には俺の代わりに保護者を名乗って入り浸っている知人の女性、くらいか」

「……」

 

 

少なすぎる、というのは口にせずに黙っておいた。引き摺っていたケースを持ち上げ、男はずんずんと屋敷の奥に進んでいく。その背中を暫し呆然と見つめて、仕方がなしに後を追う。ここで呆けていて、その甥っ子とやらと鉢合わせるのはよろしくない。どう言って誤魔化せばいいのか、なんてのは自分でも考えられる。が、万一この男がバゼットの言葉通りに俺のマスターになるという可能性があるなら、勝手に言い訳を考えちまうのはどうにも気が引けた。我ながら厄介な性格をしていると思う。

 

 

「入れ」

 

 

音もなく横に払われた戸の向こう側には、生活感が全く感じられない部屋があった。小さな机と、その横には隙間なくびっしりと埋まった本棚が三つ、その反対側には箪笥が鎮座している。ケースを無造作に床においてどこからともなく敷布――座布団を取り出し、そこに座れと言いながら腰を下ろした男に促され、男の正面に置かれた座布団の上で胡坐をかく。何から話したものか、と考えを巡らせていると、するりと手から何かが抜かれた。あ、と間抜けな声を漏らしたオレを一瞬だけ見やっただけで直ぐに手元に視線を落とした男は、目を閉じて何かを呟く。聞きなれた音だった。その唇は、確かに"ゲーナス"と言っていた。

 

 

「(ルーン魔術……流石、バゼットの知人というだけはある…か)」

 

 

数分、実際には数秒だったかもしれない沈黙ののち、男は深く息を吐く。そして、

 

 

「バゼットは生きている」

 

 

そんな爆弾を落としてくれた。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ―

 

 

 

 

 

正直な話、俺は"マスター"なんて柄ではないのだ。表舞台に立つのは"初めからこの世界に存在するもの"だけでいい。俺がランサーのマスターになれば、あの代行者に目を付けられる。ただでさえ、前回の聖杯戦争の勝者である衛宮切嗣の弟ということだけで敵対視されているのに、これ以上の面倒事は遠慮しておきたい。この出会いでさえ、()()()()()()()()()が故に、許容しがたい出来事なのだ。衛宮雪嗣かと問いかけられた時、全力で否定したかったのにそれが出来なかった所か、家に連れてきているのは俺の甘さか。しかし、俺は、バゼットが()()()()()()()()()()ことを()()()()()。だから、原作とは違ってしまうが、このままバゼットにマスターを続けてもらいたいというのが本心だ。兄が第四次聖杯戦争でやっていたように、俺がカモフラージュになってやるくらいならいい。正規のマスターなんて土下座されてもやるものか、と思っていたのに。出会ってしまったからには、彼女が俺を信頼してランサーを預けようとしてくれているからには、仕方がない。一応念のために、この日のために習得したと言っても過言ではないルーン魔術を使い、バゼットの安否を確認する。ゲーナスのルーンを用いて居場所を探知し、更に別の魔術を併用して生死の判断を。案の定、虫の息ではあるが、バゼットは生きていた。()()()()()()()()()()、彼女は第五次聖杯戦争に存在しえないはずのサーヴァントと契約して、このまま生き永らえる。放っておいてもいいのだが、それでは"友人"というものの名折れというものだろう。ポカン、と間抜けにも口を開いて硬直している槍兵を横目に立ち上がり、出るぞ、と一言だけ言って部屋を出る。慌てたように立ち上がって俺についてくる青を可笑しく思いながら、俺は腹を決めた。

 

 

「(足掻いてやるさ、どこまでも。…思うように事が進むと思うなよ……言峰)」

 

 

この世界は、俺を巻き込むことに抵抗はない。それは10年前から既に分かっていたことで、今更気にすることじゃない。原作は、"俺"という異物が混ざりこんだ時点で変わっているのだ。だったら、俺の気が済むまで、存分に掻き回してやろう。

 

 

「おい!バゼットが生きてるって……!?」

「その言葉通りの意味だ、今行けばまだ間に合う」

「なっ」

 

 

あからさまに動揺したランサーを肩越しに振り返り、短く命じる。

 

 

「ついて来い、ランサー」

「っ、」

 

 

俺のその言葉に瞠目したのは一瞬で、青い槍兵は直ぐに好戦的な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ―

(side : Lancer)

 

 

 

 

男の言葉通り、バゼットは生きていた。と言っても、今にも死にそうな顔で、所謂虫の息というやつだったのだが。

 

 

「………」

 

 

呆然と立ち尽くして何も言えずにいるオレを余所に、男は手慣れた様子で応急処置を施していく。切断され、完全に壊死していたはずの腕が何事もなかったかのようにくっついた時は、流石に声を上げてしまった。令呪も、なにやら色々と聞きなれない詠唱を繰り返して、そっくりそのまま自分の腕に移植してしまった。処置が一段落したところで、男がバゼットを抱き上げ、もうここには用はないというように歩き出す。その背をまた呆然と見つめていれば、オレがついてきていないことに気付いた男が立ち止まって振り返った。

 

 

「どうした」

 

 

眉間にしわを寄せそう尋ねてくる男に、何でもないと答えて一歩踏み出す。

 

 

「そうか」

 

 

短い返答、しかし、少しばかり温かな音を含んだその声に応えるべく、ああ、と頷いてオレ達は洋館を後にした。

 

 

― ―

 

 

あの後、バゼットを急患として病院に預けた――戸籍やらなんやらはコネでどうにかしたらしい、オレにはよく分からん――男は、屋敷に戻るのかと思えばなぜか態々新都の港へとやって来た。大分更け込んだ夜の、しかもまだ冬の香りを残すこの時期に、なぜ港なのか。疑問に思いつつその横顔を観察していれば、不意に、男は着ていたスーツの胸元から小さな布袋を取り出した。

 

 

「何だ、それ」

 

 

男は笑う。

 

 

「俺の覚悟だ」

 

 

布袋を逆さまにして、その中身を掌に落とす。出てきたのは、一対の銀色の耳飾りだった。見覚えのあり過ぎるそれを、思わず凝視する。そんなオレに構うことなく、男は耳飾りを持つ手で拳を作り、それを何の迷いもなく、海に向かって放り投げた。

 

 

「な、バッ……!」

 

 

見た限り、それなりの神秘を宿していだろう代物を。バカヤロウ、と続くはずだった言葉は音にはならず、

 

 

「さよなら」

 

 

ただ、男のその言葉に動きが全て止められた。一体、何に別れを告げたのか。まるで愛しい何かを見つめるような眼差しを海に向け、キラリと一度だけ瞬いた銀を見送る男。大切なものだったのは、その表情を見れば一目瞭然だ。なのに、なぜ、

 

 

「……」

 

 

訳が分からない。

 

 

「(……何だ、コイツ……)」

 

 

バゼットは言っていた、信頼に足る素晴らしい男だと。自分など足元にも及ばない、歴戦の魔術師にして協会の切り札とも言える男のことを、まるで自分のことのように自慢げに話していた。そんな男と友人という関係になれたことを心底喜び、そして今回の聖杯戦争で自分の補佐として協力してくれるのだと年甲斐もなくはしゃいでいた。家族というものの温かさをよく理解していなかった彼女にとっての、父のような兄のような存在だとも言っていた。そしてオレも、バゼットの話を聞いて、いい男だと思った。

 

 

「(仕事に忠実、常に冷静、見識深く、思い遣り深いが容赦ない、そして誰に対しても平等)」

 

 

しかし、この数時間共にいて、バゼットに聞かされた男の話は、どれも現実味を帯びていないのではないかとすら思う。オレがこの男から感じるのは、"違和感"だ。絶妙に噛み合っているようで噛み合っていない、そこにいるようでいない。そんな、"違和感"。それでも、

 

 

「(バゼットはこの男に託した)」

 

 

バゼットがこの男に惹かれたように、オレがこの男に不思議と惹かれているのも事実だった。

 

 

「"―――告げる"」

 

 

ハッと、息を呑む。意識が引き戻された。凛とした声で紡がれるのは、オレがこの世界に召喚された時のものによく似た、しかし、また別物の呪文。

 

 

「"汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に"

 

 "聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら"

 

 "我に従え"

 

 "ならばこの命運、汝が剣に預けよう"」

 

 

明朗な語りはあまりにも甘美で、

 

 

「……ランサーの名に懸け、誓いを受ける」

 

 

芳醇な銘酒のようにこの身を酔わせた。

 

 

 

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