Fate/false protagonist   作:破月

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あまり納得がいかないので、後々書き直すかもしれません。


Kapitel 6-6

 

「雪嗣いるか!?」

 

 

慌ただしく名前が呼ばれ、どたどたと居間に複数の足音が近づいてくる。それに伴い微かにする血臭が段々と濃くなっていく。誰か大きな怪我でもしたのだろうかと、台所から出たところで居間の戸が開けられた。先頭に士郎、その後ろに遠坂嬢、セイバー、アーチャーと続いて、一番後ろにランサーがいる。その背に、誰かを背負って。

 

 

「遠坂とランサーが応急処置はしたんだけど、出血が酷くて……何とかしてやりたいんだ」

 

 

段々と尻すぼみになっていく声を聞きながら、ランサーが背負う者に視線を移す。床につくほどの紫苑の髪、だらりと力なく垂れた腕、黒衣を纏うその四肢は血塗れだが美しい事には変わりない。喘ぐような吐息が聞こえるため、虫の息ではあるが生きているのが分かる。――――良かった。

 

 

「ライダーか……ランサーに拘束しろとは言ったが、こうなった経緯は後で聞こう、ともかく治療だな。霊基の損傷が激しいとあまり意味もなさないが……努力はしよう」

「……ん、分かった」

「ランサー、こっちだ」

「おう」

 

 

ランサーをつれて自室へ向かう。本当なら離れの一室を使いたいところだが、そこに向かうまでの時間が惜しい。大したロスではないとはいえ、実質魔術工房化している自分の部屋の方が都合がいい。そういう意図もあり、俺は迷わず歩を進めた。

 

 

「キャスターのマスターに会った。恐らく、ライダーをここまで追い詰めたのはそいつだろう」

 

 

自室に着いて直ぐに畳んでいた布団を敷き、そこにライダーを寝かせ状態を確認しようとした俺に、ランサーはそう言った。見たところ、致命傷になっているのは首元の傷だ。抉り取られたのか、それとも引き千切られたのか、どちらにせよ首元の肉が一部なくなっている。さすが、と言うべきか。

 

 

「そうか」

 

 

それだけ返して、視線を横に走らせる。そこには深刻な表情の魔術師がいる。俺の視線に気づいた彼は、心得たというように姿を消す。血を止めるのならたいした苦でもないが、なくなったものを再生するというのは中々に骨が折れるのだ。切嗣よりは治療魔術に心得があるとはいえ、それを専門にしている訳ではない。かなりの集中力を必要とするし、他の気配があると気が散る。そういった理由でランサーにも退室を促すが、

 

 

「断る」

 

 

そう言って梃子でも動こうとしない。説き伏せようとも考えたが、こうして問答しているうちにライダーに脱落されてしまえば元も子もない。仕方がなくそのまま治療を始めると、ランサーは部屋の壁に背を預け押し黙った。邪魔をする気はないらしい。

 

 

「――――――」

 

 

失われた部位を肉付けする様に魔力を注ぎ込んでいく。一度に多すぎず、少なすぎず、一定の量を。――――どれくらいそうしていただろう。薄っすらと部屋に差し込んでいた陽の光は消え、いつの間にか暗闇に包まれていた。その中で、魔術の光だけが唯一の光源として俺とランサー、そして死にかけたライダーを照らしている。傷口が完全に塞がり、注ぐ魔力の量を段々と減らしていく。光が収束していき、最後には全くの暗闇になる。

 

 

「終わったか」

「ああ」

 

 

心地よい疲労感に息を吐き出し、なんとか生き残らせることが出来た存在を見つめる。呼吸は穏やかで、そう時間を置かない内に目を覚ますだろう。

 

 

「居間に戻る前に、血を落とすか……」

 

 

部屋に充満する血臭、手元も血だらけで、このままという訳にもいかないだろう。

 

 

「窓開けるか?」

「そうだな、そうしてもらえると助かる」

 

 

少しでも換気をした方がいいだろうと、ランサーの言葉に頷き立ち上がる。血濡れの手で戸を開けるのも憚られ、口早に魔術を唱えいつかのようにすり抜ける。おい、と突っ込みを入れる声が聞こえたが、聞かなかったことにしよう。

 

 

『あとは桜くんをこちらに呼ぶだけ、かな?』

 

 

ふわり、と魔術師が姿を現す。このやり取りにも慣れたもので、そうだな、と首肯すれば魔術師は笑った。

 

 

『着々と君の計画は進んでいるようだけれど、見落としているものはないかい?』

 

 

問いかけの形ではあるが、それは忠告なのだろう。暗に、俺が何かを取り零していると指摘しているのだ。だからこそ、これ以上は捨て置けないという、忠告。

 

 

「俺は、どうすればいい」

『……その時がくれば判るよ、だから今はまだそのままでいい』

 

 

洗面所に辿り着く。コックを捻り、水を出して手を付ける。鏡に映った姿を見て、ずっとスーツのままだったことに気が付いた。当然ベレッタも胸元に入ったままで、この格好で台所に立っていたのかと思うと、思わず苦笑が零れ落ちた。鏡には俺の姿だけが写り、魔術師の姿は写っていない。本当に浮遊霊のようだ。

 

 

『浮遊霊はやめておくれ、どうせなら妖精とか』

「そんな柄ではないだろう」

『あははは、手厳しいなぁ』

 

 

穏やかな声音に心が救われる。少々揶揄いが過ぎるところもあるが、存外、俺はこの男の事が嫌いではない。そんな心の内を透かして見たかのように、ランサーの彼と私のどちらが好ましいか、と問われたが応える気にはならなかった。比べることなど出来るはずもない、それぞれに好ましいところがあるのだから。

 

 

「マスター、血は落ちたか?」

「ああ」

「そんじゃ、居間に戻ろうぜ。坊主たちが待ってる」

 

 

ランサーが顔を覗かせ、犬歯を見せて笑う。ひょい、と効果音が聞こえてきそうな登場の仕方に少し和んだ。魔術師も、まるで犬の様だなどといって笑っている。

 

 

「エスコートを頼んでも?」

 

 

悪戯心でそんなことを言ってみた。ランサーは一瞬呆気にとられたようだったが、直ぐにその悪ふざけに乗ってみせた。

 

 

「勿論だ、マイロード」

 

 

恭しく俺の手を取り、その甲に刻まれた令呪の上に口づけを落とす。随分と様になっているな、と思いながら、どこか既視感を覚えた。何だったか、と手を引かれながら考えていると、不意に思い出す。

 

 

――――この戦いが終わるまで、俺はお前の剣となり、盾となる。

ふふ……まるでサーヴァントみたいだ。

俺はいつだって、兄に付き従う弟(サーヴァント)だろ?

……それもそうだね。

 

 

十年前の事だ。第四次聖杯戦争が始まり、そろそろ冬木に向かうかという頃。俺は、切嗣(アニキ)に対して、ランサーがやった事と同じ事をやったのだ。ただ切嗣の為だけにあろうとした。誰かが彼を疎み、忌諱しても。俺だけは絶対に切嗣を裏切る真似はするまいと、そういった誓いをこめて。ただ、切嗣が酷く切ない表情をしていたことが、今でも忘れられない。

 

 

「マスター?」

 

 

意識を呼び戻す。気づけば居間の前についていたらしい。ランサーの端正な顔が、こちらの顔を覗き込んでいた。少し距離を詰めれば簡単にキスができそうだな、と他人事のように考えながら、何でもないと答える。ふわり、と若草の香りが鼻を掠めていった。

 

 

「ランサー」

「何だよ、ます――――っ」

 

 

それは悪戯のつもりも、揶揄いのつもりでもなかった。ただ、そう、魔が差した。空いている方の手でランサーの顔を引き寄せ、薄い唇に噛みつく。びくりと肩が跳ねたが一瞬の事で、顔を離せば信じられないものを見るような目で見られた。安心しろ、俺も俺が信じられない。だが、急に色仕掛けしてくる君よりはましだろう、と言いたい。まあ、たまにはこういう事もあるだろう。力の抜けた指先を抜き取り、居間の戸を開ける。士郎達の視線が刺さり、表情を緩めてみせると、士郎と遠坂嬢の肩の力が抜けるのがわかった。セイバーは俺の背後で固まったまま動く気配のないランサーに、訝しげな顔をしている。

 

 

『プレイボーイだなぁ』

 

 

一々突っ込みを入れてくる魔術師には、夢の中で太陽の騎士風料理(マッシュポテト)でも投げつけてやろう。

 

 

― ―

 

 

聞いた話をまとめると、大方、原作と同じような流れで結界が発動したようだ。そのあとの展開は、ランサーというイレギュラーがいたため異なるものとなったが、それは予想の範疇だ。セイバーが対峙するはずだったキャスターは、俺が柳洞寺を訪ねたため早々に高校から脱出。そのマスターたる葛木宗一郎とランサーが対峙して、セイバーは士郎と遠坂嬢と共に行動。その頃すでにライダーは瀕死状態で、近くにマスターの間桐慎二の姿が見えなかったというから逃亡したのだろう。結界、結界はライダーが消えかけているために維持出来ず消滅し、遠坂嬢が職員室から教会の監督者(言峰綺礼)に連絡を取っている時に士郎がランサーに言ったらしい。曰く、

 

 

「"ここで恩を売っておけば、後々俺たちの利益になるかもしれない"、か……」

「叔父貴の受け売りだよ」

「そうだろうな」

 

 

今はまだ思考に打算がない甥にしては、随分と下劣というか、卑劣というか。よくもまあそんなことを考えられたものだなと、思ったのだが、それが俺の教えだと聞くと納得する。なるほどこうして甥っ子はあの弓兵に変化していくわけか、などと頓珍漢な事を考えながら頷く。

 

 

「それで?」

「ええと……ランサーは結構乗り気だったんだけど、戻ってきた遠坂に反対されて」

「当然でしょう?冬木のセカンドオーナーとして見過ごせない事だったのだもの。私の街で、私の通う高校に、あんな大々的な結界を張って、どうして無事で済むと思って?」

「うわ…」

 

 

綺麗な笑みを浮かべる彼女の後ろに、般若の幻覚を見る。思わず呻いた士郎は遠坂嬢に睨まれて沈黙、心中お察ししますとセイバーは言い、ランサーは顔を引きつらせた。

 

 

「だが、結局のところ、君は士郎の言葉に頷いた」

「そうなりますね」

 

 

何かしらの心象変化があったのだろうが、それをわざわざ追求するつもりはない。遠坂嬢は一瞬表情を強張らせたが、要らぬ心配だ。そこに至る過程が大事なのだと言う者もいるが、今はそんな個人感情を論じる場ではない。事実を端的にまとめ、伝え、理解させることこそが優先される。それを判っているからか、遠坂嬢はそれ以上口を挟むことはなかった。

 

 

「色々話をして、なんとか納得してもらって、遠坂にライダーを治療してもらった」

「傷が一ヶ所でも損傷が激しかったから、力及ばずランサーにも頼りました。少なからずライダーの結界の影響があったみたいで……」

「それでもどうにもなりそうになくて、叔父貴の手も借りようと思って戻って来たんだ」

「初めからそうすればよかったんだわ、」

「悪かったよ、思い付かなくて」

「そうね、余分な魔力を消費した気分」

「だから悪かったって」

「……」

 

 

痴話喧嘩はいいから早く先に進んでくれないだろうか。思わず無言になって見つめていると、俺の視線に気づいた二人は気まずそうに顔をそらした。

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