プロットの方にも修正を掛けつつ、どうにもうまい表現が見つからずに投稿が遅くなりました。
次の投稿時期は未定です。
(side : Shiro)
――――救える者と、救いたい者が食い違っていることが、日常茶飯事だった。
その矛盾に耐え切れたなら正義の味方になれたのかもしれない。
だが、切嗣を見ていると、それは間違いなんじゃないかと思ってしまってな。
愛する者すら切り捨てなければ人が救えぬと云うのなら、俺はきっと、身内を取る。
だから俺は、切嗣と道を違えた。
若い頃はそれにすら気づけなくて、お互いの面を殴り合ったりもした。
……自分すら救いの対象にしないのはお互い様だが、見ている方向は違っていたんだ。
切嗣には俺の救済こそが正義の味方らしいと思えたようだが、そも、"正義の味方"とは大衆の護り手だ。
私情や一時の感情で動いていいはずがない。
俺は
その行いは決して、"正義の味方"には程遠いが後悔はしていない。
なぜなら俺は……――――
「(――――"
昨日の被害者である生徒たちが入院している病院をそれぞれ訪ね、様子を確認してきた後に来たと言う藤ねぇに叔父貴手製の弁当を持たせて見送り。朝食を終えて直ぐに遠坂に事情聴取と銘打たれ、居間を引きずられる様に後にした叔父貴の代わりに片づけを終える。そして起きてこないランサーの代わりに護衛を買って出てくれたライダーと、些か不機嫌な表情で戻ってきた遠坂とアーチャーと一緒に登校して――――俺は授業をサボり、屋上にいる。ライダーは給水タンクの上に立ち、何を言うでもなく校庭を見下ろしている。
「(何でそんな話になったんだっけ)
「(何でこんな事思い出したんだ、俺……)」
墓標を見つめる雪嗣の背中が、横顔が、妙に悲壮感に満ちていた。その横顔に、
「サボりとは、感心せんな衛宮」
「――――え、」
唐突に名前を呼ばれて振り返る。まだ授業中だという事で、ここには俺以外の人がいない筈だった。それなのに、その人は最初からそこにいたかのように、気配も悟らせず、静かに佇んでいた。ライダーも気づいていなかったのか、一瞬肩が揺れ唇が戦慄いたが、俺とその人との間に割って入り短剣を構える。
「ふむ……倒したと思っていたのだが、なるほど、救済の手が間に合ったと見える」
臨戦態勢のライダーを前にしても、表情を曇らせることなく通常通り。その人――――葛木宗一郎は思案するように顎に手を当てて、一つ頷いた。
「こちらに戦闘の意思はない。私のサーヴァントと、そちらのランサーのマスターが協力関係に至ったらしいのでな」
「――――――――」
寝耳に水だ。そんな話、一言も聞いちゃいない。そもそも、学校にいるもう一人のマスターの正体が葛木だという事にも驚いた。消去法で、彼がキャスターのマスターという事になる。そのマスターが何の気負いもなく、いっそ清々しいほど堂々と俺たちと対峙していて。本当に、驚いた。俺がガキの頃、報連相が大事だと説いた
「昨日、俺たちが学校に行っている間に、そんなことになってたんですね」
何とか平静を装ってみるが、葛木には動揺していることはバレているだろう。波の立たない湖面のように静かな視線が、じっと俺を見つめていた。
「……
「は……?」
「いやなに、お互い、歪んだ人間性だと思っただけだ」
話が読めない。要領の得ない会話に、思わず首を捻る。ライダーも構えを解き、短剣を消して脱力した。それと同時に授業終了を告げる鐘が鳴る。昼休みになったからだろう、ざわざわと階下が騒がしくなってきていた。
「差し当たって、衛宮」
「はい」
「今晩からお前の屋敷で世話になる、と叔父上殿に伝えておいてもらえるか」
「はい……、……ん?」
「ではな」
「え、ちょ、今なんて言いました!?」
流れで思わず頷いてしまったが、どういうことだ。言いたいことは全て言い切ったと踵を返し、葛木は屋上から去っていく。その背中を見送り、残された俺とライダーは思わぬ展開に顔を見合わせた。
「急展開ですね」
「ああ……とりあえず、遠坂に報告か……?」
この後、屋上にやってきた遠坂に事情を説明するのだが、あまりの突飛さに遠坂が葛木本人に突撃をかましたというのは余談だ。その間、俺は弓道場に避難して藤ねぇと桜の三人で昼飯にありついていたので、詳しい事は知らない。というか、知りたくない。
― ― ― ― ―
――――微睡みの中から抜け出すことが出来ず、
「マスター」
左右に揺さぶられ、耳元で囁かれた声が脳幹を痺れさせた。微睡みが砂で出来た城のように瓦解していく。瞼を持ち上げれば、目の前に整った顔があった。ふ、と。違和感を抱く。俺を"マスター"と呼ぶ彼よりも髪の色が濃く、瞳の紅はどこかくすんでいるようでもある。細められた目元には赤い模様が描かれ、肩に置かれた手の爪先は鋭利だった。声音も同じとはいえどこか低く、冷徹さ、冷淡さを滲ませていた。それでもその中に、親愛の情を感じられたから。
「マスター」
もう一度、呼ばれる。返事をしようとして声が出ないことに気が付いた。
「
だから
「――――――――、――――」
歌が微睡みを呼び込む。まるでそれは子守唄だ。さらりと髪を梳かれ、頬を指の背が撫でていく。それは何て――――不思議な
「
そう、見つけなければ。
― ―
意識が浮上する。今度こそ、目が覚めたようだ。気づけば下敷きにしていたランサーは腕の中にいた。その頭を抱込むようにして寝ていたらしい。ランサーも俺の腰に手を回し、胸元に顔を埋めている。蒼海、蒼空を思わせる髪に鼻面を埋める。どうにも気が緩んでいけない、彼の隣は心地よすぎた。そんな思考を切り捨てて、今後の事を考える。ライダー、キャスターとの対話は終えている。どちらも協力の旨を承諾してくれた。ただ、キャスターに関しては全面的な信頼を、とはいかない。信用はいているが、何せ彼女は"裏切りの魔女"と呼ばれた女性だ。喩えそれが彼女の意思に反してなされた裏切りであろうとなかろうと、歴史がそう紡いでいる。ならば、その道筋から反れるのは難しいかもしれない。それに、彼女には明確な願いがある。こちらが牙を剥けば、即刻応対してくるに違ない。ライダーは本来のマスターと共に
「(バーサーカーは……動かそうにも動かせない、か)」
手を組もう、と言ってすんなりと受け入れてくれないだろう。あの
「やれるか、ではないな。
ちゃり、とランサーの耳元で飾りが鳴った。それを指先でなぞり、再び俺は微睡みに落ちる。
「……一人で、片付けようとすんなよマスター」
不意に落とされた、ランサーの言葉を聞きながら。
うちの士郎君は本家よりも人間らしい……と思いたい(白目