年明け一発目の更新はこちら、今年も頑張っていきましょー。
……目指せ今年中の完結。
(side : Shiro )
「――――
朗々と、まるで
「俺から言える事は、一つだけ」
霧散していった魔力を目で追いかけながら叔父貴が言う。
「お前は
勘違いしてはいけないのだと。思い上がってはいけないのだと。そう言って、もう一度同じ呪文を唱える。すると、どうだろう。また鋼の槍が形作られていくのだと思っていれば、魔力は深紅の魔槍へと変化していく。叔父貴の身の丈を超え、2メートル余りのそれは見覚えのある槍だった。けれど、中身は空っぽだ。見た目だけ取り繕った、贋作にすらならない偽物だ。それを分かっているから、叔父貴も苦笑と共にそれを霧散させた。
「もっとも、俺は
俺へと向き直り、
「
そうすればきっと、俺は強くなれるのだと。そう言って。蔵の奥、掠れ色褪せかけた魔法陣の上に腰を下ろし、懐かし気にそれを撫でた。
「少し、昔話をしよう」
俺を手招いて、柔らかな笑みを浮かべる。叔父貴のそんな表情を見るのが、酷く久しく感じた。
「
叔父貴の隣に落ち着けば、ゆったりとした口調で語りが始まる。おそらく、前回の聖杯戦争がらみの話なんだろう。少しだけ遠い目をしながら話し始めた叔父貴の声に、しばし耳を傾ける。
「人間とホムンクルス。交差するはずのない運命は交わり、一つの命を生み出した。二人の愛の結晶、白雪の妖精、名を――――」
―――知っている。その子供の名前を、俺は知っている。
「――――イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。切嗣の血の繋がった娘にして、俺の姪っ子。そして……士郎、お前の義理の姉でもある」
「……ああ、知ってる」
不思議と、衝撃は少なかった。お兄ちゃんと俺を呼ぶくせに、その呼ばれ方がどうにもしっくりこなかった。そうじゃないだろ、と言ってやりたかった。それがどうしてか、何ともなしに気づいていたのかもしれない。でも、俺は明確な答えが出せず、少女はしびれを切らした。それが、あの夜の襲撃だ。一緒にいた遠坂やセイバー、それから叔父貴の援護がなかったらあの場で死んでいたかもしれない。でも、ほんの少しだけ。"それでもいいんじゃないか"という思いがなかったとは言えない。だって、恨み辛みをぶつける相手が既にいないんだから、代わりに俺がぶつけられるのは仕方がない事だろう。
「幾度か、会いに行った。俺一人の時もあれば、切嗣とタイミングが被ったときもある。一度だけ、彼女に会いに行ったわけではなく、依頼で近くに寄った時にたまたま会えた事がある。けれど、切嗣が彼女に会うことは叶わなかった。切嗣の未練と言えば、それだろう。正義の味方になれなかったこともそう、でも一番は、娘を置いて逝く事だったんじゃないと。そう思ったからこそ、俺は、何が何でもあの子に会って言ってやりたかった。切嗣は決して、君を忘れた訳ではないのだと」
ぽつり、ぽつりと。俺の相槌を必要ともせず、かつての情景を瞳に写しながら叔父貴は語る。想像でしかない切嗣の思いを、その時の自分の思いを。珍しい事だと思う。基本的に、こうした昔話もどきを語るのは切嗣の役目で、雪嗣は二言三言補足程度に言葉を重ねるだけだった。時折、自分から話を聞かせてくれることもあったけれど、どれもこれも要領を得ない話ばかりで。わざとそうしていると気づいたのは最近になってからだ。それが、こうして。雪嗣の言葉で、全てが語られている。第三者から見た、切嗣のこと。本人目線で語られる、雪嗣のこと。その全てが新鮮だった。
「結局、伝えられなかったが」
「情けないな」
「魔術師の家に乗り込むというのは、そう簡単な話じゃない。お前も、もしそういう機会があったら万全の態勢で挑むといい」
「そんな機会なんて、一生来て欲しくないな」
「……違いない」
それで叔父貴の話は終わらない。前回の聖杯戦争からさらに遡る。一人で世界中を回っていた時の事。切嗣と道を違えた時の事。そして、幼少期を過ごした少女との記憶を。
「迷いなく、正義の味方になりたいと答えた切嗣が、眩しかった。でも、正義の味方なんてものは、相対する悪がなくては成立しない。いつか、その眩しさが―――輝きが、消えてしまうと分かっていた。それでも、俺は切嗣にその輝きを失ってほしくなくて――――」
「
「――――――――そう、なのかもしれない」
叔父貴は頷いた。ずっと目をそらしていた現実を、目の前に突きつけられたような、そんな顔で。
「最初は、取り溢された命を救いたいと思った。人一人で救える数なんてたかが知れている、増えれば増えるほど取り溢す命が多くなるだけだ。だから、切嗣は自分の腕で抱えられる以上の人たちを救おうとして、多くの命を取り溢した。その取り溢した命を俺が救うことで―――ああ、なるほど。
かちり、と何かがはまる音がする。
「結局、俺は目的と手段をはき違えてしまったわけだ。
叔父貴の瞳が、爛々と輝いている。沼のように暗く深い闇色ではなく、空の青さを写し取ったかのような色。この色を、俺はどこかで見た事があった。
「
全ての音が消える。しん、と静まり返った中に俺の声が響いた。それは、10年前に叔父貴から託された、この男の
「
蒼い瞳が俺を射抜く。そうして――――――――
『ありがとう、衛宮士郎』
俺の視界は暗転した。
8章の冒頭の話と同じ話を繰り返しているようで、実はそうではなかったり。