Fate/false protagonist   作:破月

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長いです
そしてくどいです


2月9日 記憶
Kapitel 9


――――――――夢を見た。

 

 

 

その手の中にある紛い物(にせもの)を通じて。無謀にも、犠牲となる者を救わんとした少年の夢を。

 

最古の王の庇護のもと、闇雲に、でたらめに、最善の結末を手にするために(物語を引っ掻きまわす)。そいつの胸の(うち)を理解できるのものは、庇護する王だけ。周りから見ればただの幼い子供。その幼い見た目の割に口が達者だったから、実際は厄介な人間だとでも思われていたんだろう。

 

 

 

そいつの目的は分からない。

 

少なくとも、知っている者は一人だけ。

 

 

 

根源を目指すためではない、それでも奇蹟を為す器が自分のものになる事を疑ってもいない絶対的自信(その理由)。……だから、周りから見れば、そいつはその時が訪れるまで正体の掴めないヤツだったのだ。

 

殺伐とした戦いの中、己の死すら覚悟する(マスター)たちには目もくれない。ただ作業のように英霊(サーヴァント)のみを斃し、去っていく。時には嵐のように、時にはそよ風のように。一般人への配慮を忘れず、隠蔽が困難な破壊工作もない。

 

昼間に遭遇すれば朗らかな笑みを浮かべられ、敵対心など微塵も感じさせない。

 

こんなもの、意味が分からなくて当然だ。だから、誰もが困惑した。

 

 

 

強力なサーヴァントを召喚した、どんな魔術師よりも魔術師らしい、けれど確かな道徳心のある幼い子供。

 

 

 

そもそも、どんな理由でその子供が聖杯戦争なんぞに参加しているのかが判らない。

 

判らないからこそ困惑し、次第にそいつを恐れるようになった。

 

 

 

それも当然だ。

 

そうなるように仕向けていた。

 

そうして最後に対峙した一組の主従は、

 

 

 

根源への到達ではなく即物的な利益を求める魔術師と、能力こそ違うが子供が招いた王と同じ目を持つ魔術の王。――――最後にその主従と対峙するためだけに、そいつは戦っていた。

 

彼らに願いを叶えてもらう必要があるが、奇蹟の器そのものを預ける訳にはいかない。それは矛盾した思いだ、両立させる事など出来ようはずもない。けれど、その思いを両立させ続け、結果そいつは己の思惑を押し通した。

 

――――強固な意志に、主従は戦慄した。最初から最後まで、長いようで短い聖戦の期間中。そいつの意志は揺るがず、その果てに、小さな願いを生み出した。自分が生まれて来た、その意味を見出した。

 

 

 

そうして、終わりがやってきた。

 

奇蹟の器に溜まった魂は八つ。一つ余分なそれは、主従の願いを叶えるだけでは尽きる筈もない。

 

 

 

そいつは自分の器も、世界の広さも弁えている。

 

救えるもの、救えないものがある事も理解してる。

 

だが、理解しているからこそ()()()幸福であって欲しかった。

 

 

 

それを偽善と、狭窮な価値観だと、魔術の王は静かに言った。そんなこと、分かっている。だからこそ、そいつは願ったのだ。

 

 

 

……救われない人を、救いたい。

 

 

 

ここはそいつが願った世界。絶えず胸の(うち)にあった、己の存在意義に対する答えを試すための世界。

 

奇蹟の器を心臓()にして生まれ落ちたその魂は、双子の兄との邂逅から、ひた走る。

 

辿り着いたのは白銀の雪原。砂浜より白いそれを、思い出の(救えなかった)少女との記憶と共に蹴り上げた。

 

――――救いのない運命にある者を救う、たとえそれが兄が見捨た者であっても。そんな強固な意思で、ここまで来たのだ。

 

 

 

多くを救えた訳ではない。

 

努力虚しく、結局は救えなかった者もいる。

 

これより数年後に起こる聖戦への参加も出来ていない。

 

……けれど、ここで果てるのなら仕方がない。

 

 

 

残念な事があるとすれば、――――

 

――――彼に、逢う事も無く終わったこと。

 

そうして。深々と降り積もる雪の中、そいつは静かに息を引き取った。

 

それが、一巡目(さいしょ)の記憶。

 

 

 

 

 

死んだと思えば、二巡目(つぎ)が始まっていた。思い出の砂浜で少女に夢を尋ねられたところから、記憶は始まる。

 

 

 

懐かしい問答。

 

絶望をまだ知らず、すらりと答えたそいつの兄。

 

答えに窮し、苦く笑ったそいつ。

 

 

 

答えられなかったのは、一巡目(さいしょ)の時もそう。当然だ、そいつの願いは異端だったのだから。

 

正義の味方になりたいと語る兄の手前、救われないものを救いたい(正義の味方が切り捨てた人間の救済)とは口が裂けても言えない。理解は得られない、幼いそいつの兄は純粋に信じている。正義の味方になれば、誰もを救うことが出来るのだと。

 

故に、答えなど言える訳もない。誤魔化しだと不貞腐れる少女と兄を横目に、そいつは思った。

 

 

 

――――今度こそ、と。

 

 

 

けれど結果は変わらない。少女は再び犠牲となり、そいつは気力を大きく削いだ。これではいけない、これでは駄目だ、ではどうすればよかったのか。答えは出ない。

 

兄と袂を分かって、一人。世界を放浪する。一巡目(さいしょ)と違う事をしようと、気まぐれに暗殺者を召喚する。記憶の共有がなされないよう契約を交わし、それと共に、一巡目(さいしょ)と同じように魔術協会へと足を踏み入れる。

 

簡単な手続きを終えて、飼い犬のように依頼(エサ)を与えられては駆け回る。そのうち味を占めた魔術協会(飼い主)は、そいつに無理な注文をつけた。

 

 

 

どこぞの雪山に吸血鬼が潜んでいるらしい。

 

単独で赴き討伐せよ。

 

出来ねばお前の兄がどうなるか――――

 

 

 

もとより、否と言う気はない。そいつは快諾し、心配する暗殺者を置いて件の雪山へと足を向けた。事前情報は雀の涙よりも少なく、けれどそいつは吸血鬼の住処を簡単に探り当てた。何という事も無い。

 

そこは、そいつが一巡目(さいしょ)に命を落とした場所だった。

 

苦もなく吸血鬼を斃し、凱旋する。魔術師達は大手を振って悦び、陰で怯えた。どんなに過酷な依頼でもこなし、期待以上の結果を持ち帰ってくる。

 

駒にすれば最強、しかしいつ手を噛まれるか。そんな不安が募る中、極東の島国で奇蹟の器を巡る聖戦が勃発する。これ幸いと魔術協会はそいつを派遣し、あわよくばプロフェッサー(エルメロイ)の陣営に加担させようと画策した。

 

けれどそんなものは意味がない。そいつは、容易く魔術協会の監視を掻い潜り、兄の下に参じてみせた。

 

 

 

兄の力になりたかった。

 

聖剣の少女との不和を無くしたかった。

 

そして何より兄の為に、義姉を救ってやりたかった。

 

 

 

けれど現実は残酷だ。聖剣の少女と兄の不和は緩和されたものの、義姉を救うことは出来なかった。

 

暗殺者に全て丸投げしていた蟲蔵の男は救えたというのに。一番救いたいと思った人を、救えなかった。

 

絶望と、虚無感。それでも、そいつは歩みを止めることをしなかった。ここで膝をついてはいけない、やらなければならないことは、まだあるのだから。

 

 

 

迎えに行くことの叶わない姪。

 

聖戦後に引き取られた義理の甥。

 

急に老け込み、気力の萎えた双子の兄。

 

 

 

そいつは、それら全てから逃げるように国外へと旅立った。恩人だと言って勝手についてきた男がいたが、気にしている余裕はなかった。

 

プロフェッサーを助けられなかった事を誹られたが、それだけだ。そいつは魔術協会に所属している訳ではなく、雇われでしかないのだから。故に、以前のように魔術協会から依頼を受け、方々を飛び回っていた。厄介者として知られる女性を相棒(パートナー)として宛がわれても、やる事は変わらない。

 

 

 

そうして、気付けば5年の歳月が過ぎていた。

 

 

 

ある日、記憶の彼方へと追いやられていた義理の甥から手紙が届く。

 

時候の挨拶から始まり、他人行儀な世間話が続く。そして――――兄の葬儀が恙無く執り行われた、その旨が記されていた。

 

そいつはそこで、漸く気が付いた。選択を誤った事を。後悔しても遅い、過ぎてしまったことは変えられない。

 

どういう因果か、そいつは二巡目を生きていた。だから、今度こそ、後悔の無いようにと思ったのではなかったか。

 

 

 

――――やり直さなければ。

 

 

 

そう思ったのは確かだ。けれど、まさか、三巡目(そのつぎ)があるとは思わないだろう。

 

 

 

 

 

視界が捻じれ、ぐるりと回ったかと思うと、そいつは再び紺碧の海を前に立っていた。

 

 

 

三度目の正直。過去二回の記憶を整理しながら、そいつはそう思った。

 

 

 

寸分の違いなく、記憶の通りに進んでいく現在(ものがたり)。違ったのは、雪山の吸血鬼を依頼もなく斃し、その後に暗殺者を召喚したことか。当然、暗殺者にはそいつとの記憶はなかった。

 

魔術協会にも、足を踏み入れてはいない。踏み入れる必要性を感じなかった。

 

各国を飛び回り、兄の影を追いかけながら犠牲者を少しでも減らすために奮闘した。当然、変化は訪れる。紛争地帯の処理を終えて気まぐれに訪れたドイツで、そいつは兄と再会した。それから聖戦が始まるまで、そして始まってからも、行動を共にする。

 

 

 

ひたすら陰に徹した。

 

義姉を隠れ蓑にする兄を、更に隠れ蓑にして。

 

兄の願いが叶わぬことを知りながら、少しでも犠牲を減らそうと奔走した。

 

 

 

二巡目(ぜんかい)では救えたはずの男は見捨て、義姉を救うことに尽力したがあえなく失敗した。当然、後悔も大きい。けれど、最古の王を完全に消滅させられたのは僥倖だった。

 

兄が養子を迎えたのを確認すると、海外に飛んで魔術協会と契約を結んだ。相棒に宛がわれた女性と方々を飛び回った4年後、頃合いを見て兄と義理の甥のもとを訪れた。……その1年後、兄の死を見届ける。

 

声をあげるでもなく静かに泣く甥の小さな体を抱きしめて、そいつは月を見上げていた。

 

 

 

葬儀を終えて暫くすると、そいつは慌ただしく海外へと発つ。甥を一人残して行くことに、罪悪感はあれども渋る事は無かった。

 

女性と共に依頼をこなし、さらに5年。早い周期で訪れた5度目の聖戦に、魔術協会の派遣として選ばれた女性の補佐として、参戦した。神父の襲撃を未然に防ぎ、五体満足の女性を見た時には安堵もして。

 

そして何より。彼と出逢えたことが、そいつは何よりも嬉しかったのだろう。

 

 

 

そいつにとって勝者が誰であるかは関係ない。

 

甥と、女性が生き残ってくれればそれでよかった。

 

 

 

そいつの背中をずっと見続けていたからだろう。彼は、自然とそいつに惹かれていった。

 

 

 

超抜級の魔力炉心が眠る洞の中にて、両雄向かい合う。最後に残ったのは、最古の王を召喚した黒髪の少女と、聖剣の少女を召喚したそいつの甥。女性は、そいつと彼と共にその戦いに決着がつく時を静かに待っていた。

 

熾烈を極める戦いの末、勝利したのは甥の方だった。消滅間際、最古の王がそいつを見て無様と嗤った。その通りだとそいつは返して、笑った。王の姿が完全に消えると、黒髪の少女は甥のもとに駆け寄って苦く笑う。

 

そして、消耗激しい聖剣の少女の前に、彼が立った。

 

 

 

最期に、この聖戦最強の者との戦いを。

 

 

 

奇蹟の器など初めから興味のなかった彼は、それを対価に手出しをしなかったのだ。それに、聖剣の少女も承諾していた。……消耗した者と、万全の者。どちらが勝つかなど、比べるべくもない。彼女の善戦虚しく、宝具の開帳もなく、ただ純粋に武を競った戦いは彼が勝利を収めた。

 

 

 

力尽きた彼女に、少女と甥が駆け寄り柔らかく労わりの言葉を掛ける。それを聞き届けた聖剣の少女もまた、退場した。結局、聖戦に勝利したのは彼になる。だが、興味のないモノを与えられても迷惑だ。

 

最後の死合いに満足したと、そう笑った彼に迫る陰に気づいたのはそいつだけだったに違いない。

 

 

 

呪い塗れの刃が伸びる。

 

真っ直ぐ心臓へと向かうそれを。

 

そいつは、己の身を盾にすることで防いで見せた。

 

 

 

意外な結末。退場を迎えたのは彼ではなく、そいつだった。全員が呆然と立ち尽くす中、崩れ落ちたそいつを彼が抱き留める。影はなりを潜め、追撃は無い。

 

急激に冷えていく体に、無理矢理魂を剥がされていく感覚。それだけで、そいつは悟った。

 

――――四巡目(まだつぎ)があるのだと。

 

 

 

――――引き留める気は、なかったのだが

――――こうなってしまったからには仕方があるまい

――――もし……僅かなりとも、君が俺を想ってくれているのなら

――――俺の代わりに、甥の行く末を見届けてはくれないか

 

 

 

三度にわたり、そいつと共に繰り返してきた心臓()には、潤沢な魔力が宿っていた。英霊の分霊一体を完全に受肉させ、人としての一生を送るには充分すぎる魔力が。

 

一瞬の逡巡の後、彼は頷いた。そうして、そいつの代わりに一つの命が生まれた。

 

そいつは笑って逝った。後悔はない、と。けれど、一つだけ誤算があったのも確かだ。

 

 

 

そいつは、暗殺者を召喚した際に二巡目(ぜんかい)のような契約を交わさなかった。結果、暗殺者はそいつの記憶を余すことなく共有したが、その事実をひた隠しに隠していた。

 

そうするうちに、憐れみか、嘆きか、そいつの救済を願ってしまったのも事実。

 

――――故に、力の有り余っていた心臓()は、そいつの死と共に消滅する暗殺者の些細な願いも聞き届けてしまった。

 

 

 

 

 

――――新たに生まれ落ちたその時は、

 

全てを忘れ、召喚者(あなた)の思う幸せを貫けるように

 

 

 

 

 

――――――――ここに、事象は剪定された。

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