貴方だけの歌 ~ラブライブ! School idol IF~   作:貫咲賢希

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\\\[前回のラブライブ]///

白(・´ェ`・)雄 「我輩はアルパカ。名前はまだない(公式────!)」

白(・´ェ`・)雄 「女子高生にもふられると、ふふ、恥かしいならが、興奮しちゃうんですよ」

茶(―´ェ`―)雌 「誰か檻変えて」



10話・青春のハーモニー

 真姫が落とした生徒手帳を届けるため、彼女が行きそうな音楽室に向かった花陽と凛。

 結果として、真姫は音楽室にいた。

 より正確には音楽室の扉の前で、こそこそと中の様子を覗きいる。

 不審な行動をしている彼女を思わず花陽たち怪しんでしまったなは仕方ないことだろう。

 

「何をしているのですか?」

 

 突然、後方から声。

 花陽たちが振り向くと、μ'sのメンバーである海未が数枚の紙を胸に抱き、不思議そうに三人を眺めていた。

 彼女の傍には同じように眺めているプロアーティストの色明もいる。

 

「え? こ、これは────!?」

 

 おろおろとする真姫だったが、彼女はここで近くに花陽たちがいることに気づいた。

 

「ヴェ!? あ、貴女たちはクラスの!? な、なんでここに?」

「えっと、私たちは……」

「西木野さんが生徒手帳を落ちてたから、ここに着たら渡せるかなって」

 

 花陽の後に凛が説明する。

 差し出した生徒手帳を見て己のポケットを探り、真姫はばつの悪い顔を浮かべた。

 

「わざわざ、届けにくれるなんて。あ、ありがとう」

「いえ」

 

 恥かしそうに生徒手帳を受け取る真姫を見て、思わず顔を緩める花陽。

 教室では何処か俯瞰した様子で近寄り辛かったが、こんな愛らしい顔もするのかと思わず微笑んでしまった。

 

「なに笑ってるのよ」

「え? ご、ごめん!」

「別に謝ることないわよ」

「それで? 西木野の方は何でここにいるんだ?」

 

 話の合間を見切った色明が質問を投げかける。

 

「別に。偶々通りかかっただけよ」

「いや、嘘だよね」

 

 真姫は誰から見ても分かる嘘に凛がツッコミをいれた。

 

「西木野さん、さっきからジロジロと覗いてたよね?」

「!? 何時から見てたのよ! て、ていうかそんなことしてないし!」

「ええ、してたよ~」

「してない!」

「してた!」

「二人ともそれくらいに。廊下では静かにですよ」

 

 熱が上がる前に海未が二人の間に入り、諫める。

 流石に先輩からの注意で、興奮してきた二人も一旦落ち着きを取り戻した。

 のだが。

 

「それで西木野ちゃんは何で音楽室を覗いてたのかな?」

 

 その隙に、真姫が気になった色明が意地悪そうな笑みで彼女に這い寄っていた。

 声も上げる間もなく驚く真姫に、色明は遠慮なく問いかけを続ける。

 

「中には先に行ってもらっていた高阪たちしかいないはずだけど? あれれ? もしかして気になってんのかい?」

「貴方は何を煽ってるのですかっ」

 

 バッシ! と手に持っていた紙を丸めて色明の頭を小突く。

 きょとんとする一年生三人に、海未はにこりと微笑んだ。

 

「この人は気にしないでください」

『はぁ・・・・・・』

「いや、叩くのはどうかと──」

「ああ、そうです。これから私たち練習を見てもらえませんか?」

 

 文句を言う色明を無視して、海未は三人を誘う。

 

「練習?」

「はい。今回は歌の特訓ですね」

「あの、園田?」

「アイドルは人前で歌うもの。ですので、人目に慣れておこうかと」

「園田さ──ん? お──い?」

「恥ずかしながら、私はまだ人前が不慣れです。ですから貴方たちにご協力いただけると助かります。もちろん、無理にはとは言いませんけど」

「私たちは──」

「別にいいですけど」

 

 答えたのは花陽と凛である。

 元々、彼女たちは真姫に生徒手帳を届ければμ'sの練習を見学するつもりだったのだ。

 よって、海未の誘いは手間が省けたので幸いであり、二人は残った真姫に視線を向ける。

 同じように海未も見つめ、三人の視線を受けた真姫は観念したように溜息を吐き出した

 

「わかりました。私も聞かせてもらいます」

「西木野さん、ありがとうございます。小泉さんも星空さんも」

『い、いえ・・・・・・』

「はぁ。いいんですよ。俺は所詮女子高にとって異物ですからね。風当たり辛いのは覚悟の上だ」

「まだ訳のわからないこと言って拗ねてるんですか? 行きますよ」

 

 無視されて不貞腐れていた色明の腕を、ぐいっと海未が引っ張る。

 

「一応注意しますが、練習中、後輩たちをからかったら駄目ですからね」

 

 めっ! と海未は指を色明の鼻先に突き立てから音楽室の扉を開いて中に入る。

 一瞬、色明の顔が形容しがたい表情を浮かべたが、すぐに気を取り直して、彼も入室した。

 

「お待たせしました」

「海未ちゃん! あれ? 新田君の後ろにいるのは?」

「西木野さんに・・・・・・花陽ちゃんと凛ちゃん?」

「三人とも偶々ここを通りかかったので、私が練習を見てくれるように頼みました」

 

 不思議そうに一年生たちを見つめる二人に、海未が説明する。

 

「どうも・・・・・・」

「お邪魔します・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 花陽と凛は軽く会釈し、真姫は恥かしそうにそっぽを向いていた。

 薄い反応のする三人だったが、穂乃果はう嬉しそうに破顔する。

 

「大歓迎だよ~! ささ、お客様席に座って。あ、これ。ことりちゃんが持ってきてくれたお菓子だけど食べる?」

「穂乃果。嬉しいのは解りますがしっかりしてください。下手な真似をして後輩たちに恥を重ねるとこを見せたいのですか?」

「いや、ちょっと優しくしただけ────ちょっと待って海未ちゃん。今の言い分だと既に穂乃果が恥をかいてるみたいになってるんだけど!?」

「おや、穂乃果にしては敏いですね。感心です」

「えへへ、褒められ──いや、馬鹿にしてない!?」

「あの~。穂乃果ちゃんに海未ちゃん? そろそろ、練習したほうがいいじゃないかな?」

 

 いつもの調子でじゃれ合いに見かねたことりが、二人の間に入って止める。

 普段の彼女ならばもう少し様子を眺めているのだが、今は後輩たちがいる手前。

 更には時間にも余裕があるわけではないのだ。

 

「五時には新田君も仕事に行くんだし早くしようよ」

「ああ、そうだね。ごめんごめん」

「うっ! 私としたことが、申し訳ありません」

 

 色明は正真正銘のプロアーティストであり、本人曰く今は忙しくないと言ってるが仕事がないわけでない。海未たちの歌の特訓が終えたら、急いで仕事先に向かう予定だ。

 

「俺ことなんざ気にするな。それより、さっさと始めちまおう」

 

 多忙にも関わらず涼しい顔でそう言ってのけた色明。

 μ'sの三人は一瞬驚きつつも、すぐに頷き合う。

 同時に花陽と凛が小さく声を上げながら色明を賞賛した。

 

「さらっとあんな事言うなんて凄いにゃ。芸能人はみんなあーなの? それとも男の人だから?」

「やっぱり芸能人だから周囲には弱気な顔を見せたら駄目なのかもしれないね」

「貴方たち。先輩たちがそろそろ歌うんだから、おしゃべりはそれまでにしなさい」

『ご、ごめんなさい』

 

 真姫に注意された二人が改めて先輩四人の様子を見ていると、既に壇上には楽譜を握ったμ'sの三人が並んでいる。

 ピアノの椅子には色明が座っている。

 凛と花陽はピアノも弾けるのかと感嘆したが、既に彼の腕を知っている真姫は微妙な顔を浮かべた。

 一瞬の沈黙の後、ピアノの音が鳴る。

 少年が奏でる調べに、少女たち三人の歌声が重なり合わさった。

 落ち着いた旋律が音楽室に響き渡る。

 意外なことに、μ'sの三人が歌っているのは異国のメロディーだった。

 

(!? え!? これって英語かな!? 外国の歌を先輩たちは歌っちゃうの!?)

(ふええ。練習でこんな歌を歌っちゃうなんて、やっぱり私には。あれ? でもこの曲、どこかで?)

(昼に練習してた曲ね。歌の方も一応上達してるわ。基礎を無理やり叩き込んだ感じだけど……)

 

 予想外の歌に驚く凛。神妙な顔になる花陽。冷静に聴いて評価を下す真姫。

 三者三様の反応と共に、一つの曲が終わる。

 

「ふふ~ん、どうだった?」

「す、すごいにゃあ!」

 

 自慢げに胸を張って笑う穂乃果に、パチパチと凛が拍手を送る。

 

「英語? の曲を歌えるなんて先輩たち凄い!」

「まぁ、それほどでも──」

「はい、それほどでもないですよ。海外の曲で歌えるのは今のところこれだけですしね。一通り歌えるのがやっとです。穂乃果は歌詞にフリガナを書いてますし」

「ちょっと、海未ちゃん! また穂乃果だけ馬鹿にするの!?」

「い、いえ、馬鹿にしたわけでは。敬遠されるぬよう勤めたまでです」

「もう難しいこと言って誤魔化さないでよ~」

「え? 私、難しいこと言いましたか?」

「ははは。えっと、花陽ちゃんはどうだったかな?」

「は、はい! 英語の歌を練習するのは凄いと思いました」

 

 いつもの海未と穂乃果の絡みを尻目にことりが花陽に感想を求めると、彼女は興奮していた。

 だが、そこから花陽は神妙な顔つきに変化する。

 

「……質問なんですけど、なんとなくさっきの曲聴いたことあるんですが、いったい?」

「Shall We Gather at the Riverだ。西木野なら分かるだろ」

「当然です。1864年にアメリカで発表された賛美歌でしょ?」

 

 色明の言葉に補足を付けて答える真姫。それを聞いた花陽は不思議そうに眉を顰める。

 

「あれ? 何で私、そんな曲に聞き覚えがあったのかな? 授業とかでやった、かな」

「もしかしたらやってるかもしれないが、この曲は東京にいたら聴いたことあるかもしれない」

「東京にいたら?」

「この曲は池袋にある家電量販店のテーマソングなんだよ」

 

 花陽の疑問に答えるため、色明が説明を始めた。

 

「もっとも、仮に池袋に行ったことがなくても、この曲は替え歌で多く知れ渡っているぜ」

「替え歌?」

「たんたんたぬきの………て聴いたことないか?」

「あっ!」

 

 そのフレーズを聞き、ようやく花陽は思い出す。

 地域ごとで歌詞が違うが、子供の頃に口ずさんだ遊び歌の一つだ。

 

「誰が最初に替え歌にしたから分からないが、これの原点はShall We Gather at the Rive──日本版だと『まもなくかなたの』ていう歌でな。西木野が答えてくれた通り、これは元々は賛美歌だ」

 

 『まもなくかなたの』はアメリカの聖職者、ロバート・ローリーが作詞、作曲したものである。内容は新約聖書ヨハネの黙示録第二十二章で予言されている神の都で再会に期待するもの。

 葬儀の場で歌われることもあるこの曲は、日本の歌謡曲のモチーフになり、そこから替え歌へと発展したのだ。色明が説明した家電量販店のテーマソングも、正確には『まもなくかなたの』をモチーフにした歌謡曲のことである。

 作詞したロバート氏も、まさか異国の地で遊び歌になるとは思ってもいなかっただろう。

 

「替え歌として既知してある曲ならば、ある程度歌えるだろうと課題曲にしたわけだ。本来聖歌隊が歌う賛美歌を真面目に取り組めば気持ちも引き締まるし、普段言い慣れてない英語の歌に練習することは今後のステップアップに繋がる」

「な、なるほど」

 

 やはり、この人はプロなんだ。

 課題曲一つでも此処まで考えているのは流石であると花陽は感心する。

 

「さてと、さっきの歌に対して俺からの評価だが──」

 

 瞬間、μ'sの三人が緊張した面構えた。

 色明の歌に関する情熱は本物。

 些細なことでも厳しく駄目出しされるので、海未、穂乃果、ことりは何を言われるのかと身構える。自然と、一年生たちにも緊迫した空気が伝染した。

 色明の口が、開かれる。

 

「悪ぃ。ピアノを弾くのに夢中でお前たちの歌まともに聴いてなかったわ」

『なんでやねんっ!!』

 

 某副会長のようなツッコミを爆発させるμ's三人。

 凛と花陽もこれには顔を引きつらせて、真姫に関しては呆れた視線を色明に向けた。

 

「ちょっと新田くん! 穂乃果たち少しでも注意されないように授業の合間でも練習してたの知ってるよね? なのにそれは駄目だよ! アウトだよ!」

「ごもっともだ。面目ない」

「しかし、どうしますか?」

 

 海未も最初は驚いたものの、色明なりに準備していたことを知っている彼女はこれ以上言及はせず、先の展開を求めた。

 

「歌なしの原曲が手に入らなかったから今回は貴方がピアノを弾くという話でしたが、ピアノを弾けば私たちを評価できないとなると歌の練習は…………」

「それなんだが、偶然にもそこに丁度いい人材が」

 

 ちらりと色明が視線をとある方向に向けたので、μ'sの三人も同じ場所に目を向ける。

 その場所には真姫がいた。

 

「西木野真姫ちゃんよ、俺の代わりにピアノを弾いてくれない?」

「はぁ!? 何で、私が!?」

 

 茶化した口調で色明が頼むと、真姫が驚いたように叫ぶ。

 

「いや、頼むよ。歌の練習は防音整備されてる音楽室しかできないし、ここも正規の部活が利用するなら迅速に去らないといけねぇから何時でも使えるわけじゃない」

 

 本来は正規部活である吹奏楽部が団体練習で使うのだが、今は個人パートを練習する時期なので今は空いている時間を使わしてもらっている。

 だが、吹奏楽部の誰かが個人練習でもここを使いたいと言えば、μ's一行は文句を言わず立ち去らないといけない。

 未だμ'sは学校非公認の正式な部活ではないのだる。

 正式な部活にならば、第二音楽室を使用している軽音部のように防音整備が整っている専用の場所を提供して貰えるかもしれないが、貰えないものを強請っても仕方ない。

 

「今日みたいに使える日でも俺が仕事入ってたら無理だしな。俺がいて、音楽室が使える日は少しでも音のクオリティを上げたんだよ。今度で何か奢ってやるからさ、な?」

「奢るって…………言っておきますけど私は安い女じゃないですよ?」

「上等だ。伊達に歌手で稼いでない。なんなら、そこの一年生たちまとめてご馳走してやるよ」

「え!? 凛たちもいいんですか!?」

「ええ!? ずるい穂乃果たちにもご馳走してよ!」

「穂乃果。私たちはこの前、新田さんに名古屋まで連れてってくれたんですから遠慮しなさい」

「な、名古屋? いったい名古屋で何を?」

「それはまた話すと長くなっちゃうから、また今度ね花陽ちゃん」

「ああ、もう! 誰かが一度話し出すと喧しいわね! 新田先輩、ピアノ弾きますからするなら速くしましょう。ただし、自分で言ったんですからちゃんとこの子たちの分まで奢ってもらいますからね!」

「おお、よろしく」

 

 真姫が新田からピアノの席を譲ると、花陽が申し訳なさそうな目線を彼女に向けた。

 

「えっと、西木野さん。私たちまで奢ってもらっていいのかな?」

 

 真姫がピアノを弾く報酬として色明から何かを奢ってもらうことは納得できるが、ついでに自分たちまで奢ってもらえることに花陽は腑が落ちなかった。

 

「別に気にする必要ないじゃないの。私が払うわけじゃないし。どうしても気になるんだったら、生徒手帳を届けてくれたお礼で自分たちもついでに、とか思っときなさい」

「西木野さん……ありがとう」

「お礼を言われることなんて言ってないわよ」

「あっ、そうだ! 今度は花陽ちゃんたちも一緒に歌わない?」

『ええええ!?』

 

 穂乃果がした突然の申し出に思わず驚愕の叫びを上げる花陽と凛。

 

「また突拍子もないことを。二人も迷惑でしょうに」

「いや、別に良いじゃないか?」

 

呆れながら嘆息する海未だったが、色明は賛同した。

 

「そこの二人が良ければ俺は構わない。普段と違った人間と一緒に歌ってもペースが乱れないかチェックできるしな。勿論、無理強いで歌わせる気はないが」

「私は無理強いでピアノを弾かされようとしてるんですけど」

「交渉しただろ。何なら西木野も歌ってみるか? それともピアノ以外は駄目だったり?」

「馬鹿にしないでください。何処の誰さんかと違って、両方できます」

「厳しい言葉が胸に染みるよ。さてと、結局そちらさんの二人は歌うのかい?」

 

 改めて聞かれて、花陽と凛は互いに視線を見合わせる。

 

「凛ちゃんはどうする?」

「かよちんがするなら凛も歌うよ」

「では……、少しだけお邪魔させていだだきます」

「じゃあ、花陽ちゃんはことりとこっちで楽譜を見よう」

「よ、よろしくお願いいます」

「なら、凛ちゃんは穂乃果と一緒に見ようか?」

「お願います。ああ、本当にフリガナ書いてるから凛でも歌えるかも」

「さてと、実際に歌う前に軽く発声させて声を合わせてみようかねぇ。西木野」

「わかりましたよ」

 

 真姫がポーンと鍵盤を弾くと同時に、彼女とμ'sの三人が『あ──』と声を出す。

 花陽と凛は突然のことで、着いてこれてなかった。

 

「ほら、そこの二人も声を出して」

『は、はい』

 

 次にピアノの音が響くと、今度は凛と花陽も発声した。

 すると、色明は真剣な顔立ちで彼女たちを見る。

 

「眼鏡の子はもっと声を大きく。お隣の友達は少し周りを意識してみな」

「わ、わかりました」

「は、はいっ!」

「では、もう一度だ」

『あ───♪』

 

 三度ピアノの音が響くと、今度は五人の声が綺麗に合わさっていた。

 それを聞いた色明は納得顔で頷く。

 

「まずはこれでいいだろ。西木野、さっきの曲を弾いてくれ。楽譜は立てかけてある」

 

 余計な間など挟まず、言われたとおり真姫は鍵盤を指先で叩く。

 真姫にとって久しく弾いてなかった曲だったが、譜面を見れば問題なく弾けた、

 

 少女たちの歌声が重なり合う。

 

(あれ?)

 

 最初にその感覚に気づいたのは真姫だった。

 ピアノの演奏と平行する同時に、そつなく歌う真姫。

 技術だけならば、本格的な歌唱指導を受けて間もないμ's三人よりも上である。

 しかし、この中で最も優れた音を響かせているものの、けして他が雑音に成り下がっているわけではない。

 むしろ、溶け合った音は確かな調和を生み出していた。

 何も真姫は他人と音を合わせた経験が皆無ではない。ほとんどの人間は学校の授業で合わせたことがあるだろう。

 ただ、それよりも真姫は一人で音楽に没頭することを好んだだけ。

 他人ろ音を合わせることに煩わしさはないが、一人で音楽をやっていた方が気が楽だった。

 

 ──けれど、今はどうだ?

 

 己と他人の交わりに、不思議な感覚に囚われてる。

 誰かと一緒に音を広げていること実感していた。

 

 

 同じ感覚を、花陽も囚われていた。

 花陽も誰かと一緒に歌うのはこれが初めてではない。

 けれども、その度に声を大きくするようにと、先程の色明にされたように注意を受けてきた。

 花陽は自分に自信がない。

 もしも自分のせいで他人に迷惑とかけてしまったら。

 あるいは間違えてしまったらどうするか。

 そのような様々な悩みが彼女を畏縮させ、普段の発言にまで影響を及ぼしている。

 今も、高らかな声が出てるとは言えない。

 でも。

 

(私、ちゃんと歌えてる?)

 

 始まるまでの不安が嘘のように消えて、彼女なりに声を出せていた。

 周りに引っ張られるようにして、己の声が他者と共振する。

 

 否。もはや長々しい御託と説明など、かえって彼女たちの心境に泥を塗る行為。

 

 この場でのたった一つ真実は──

 

   『彼女たちは楽しんでいる』

 

          ──それだけだ。

 

 

 そして、いつの間にか曲が終わっていた。

 

「すっごく、楽しかった!」

 

 真姫と花陽が夢から覚めたような気分の中、凛が喝采を上げる。

 

「凛、音楽の授業やカラオケで誰かと一緒に歌うことあったけど、ここまで楽しかったの初めて!」

「穂乃果も楽しかったよ! それに三人で歌ったときよりも重みがあったような」

「これは本来合唱する曲ですし、人数が多いことで深みが増したのかもしれませんね」

「ことりもいい感じだったと思うよ。新田君はどうだった?」

「そうだな……」

 

 歌唱指導者である色明は少し頭の中で考察を纏め、彼女たちを総評する。

 

「まずはゲスト参戦の一年生たちだが」

「ぴえ!? 私たちもですか!?」

「眼鏡っこは綺麗な声。そのお友達は伸びのある元気のいい感じだったな」

「あ、ありがとうございます」

「やった! かよちん褒められたよ!」

「西木野は流石と言ったところか。歌の方もキレがある」

「まっ、当然よ」

 

 素っ気無い返事だったが満更でもなさそうな真姫に苦笑してから、本命であるμ's三人に判定を言い渡す。

 

「軽く言うと園田は周りを意識して声が小さい。高阪は英語の発音がなってなさ過ぎる。南はビブラートがまだまだ甘いな」

「……はい、気をつけます」

「全然軽くじゃないよ~」

「お前たちはガチ指導だからな。甘口採点なんて一切しないぞ。だが」

 

 そう言いながら、色明は片手に持っていた自分のスマホの画面を見せつけた。

 

「いい表情で歌っていた」

「撮ってたのですか!?」

 

 いつの間にか撮影していた先程の光景が流れ出し、各々羞恥に顔色を変える。

 

「うわ~。注意されたのに声がまだ小さいよ~」

「凛なんかみんなと比べて音が外れてる」

「ちょっと、私まで映ってるじゃないですか。さっさと消してください」

「新田君の言ってたとおり、声が……。どうやったら旨くできるんだろ」

「指導されてから改めて客観的に自分たちの歌を聞いてみましたが、己の不甲斐無さを痛感させられますね」

「でも、新田くんの言った通り、みんないい顔で歌ってるよ!」

 

 五人のうち、穂乃果だけは動画見て柔和に微笑む。

 穂乃果の言葉通り、映像の彼女たちは朗らかな笑顔で歌っていた。

 

「こうやって歌ってる姿を見ると成長しているのも分かるね。特に海未ちゃん」

「わ、私ですか?」

「海未ちゃんて学校とかでみんなと歌うときはいつも顔が強張ってたよね」

「そうなのですか? 自分では良く分からないですが……」

「確かに穂乃果ちゃんの言うとおり、海未ちゃんは緊張してるのか硬い表情をしてたな。お母さんが録画してくれた昔の音楽会のをよく見ているから分かるよ」

 

 海未はよく顔に出るタイプであり、生真面目。昔から発表会などで失敗したら駄目だと緊張し過ぎしまい、思わず顔が力んでしまうのである。

 日本舞踊の舞台では、その真剣な顔つきは様になるが、それ以外の場所ではどうも悪目立ちしてしまうのだ。

 

「ことり。何故貴方のお母様が自分の娘ではなく私を撮ってるのか気になりますし、頻繁に昔の映像を見返してるも意味がわかりません」

「それは置いといて」

「置かれてしまうのですか」

「そう思うと、この前のライブや最近の海未ちゃんは前よりも歌うときはリラックスしてる気がする」

「自分では分かりかねますが、私も変わったのでしょうね」

「変わった」

 

 海未の言葉にピクリと反応したのは凛だった。

 

「今も人前は苦手ですが、あのライブ以降ほんの少しだけですが吹っ切れました」

「吹っ切れた……」

「初めは無理だと思っていたアイカツにもより真摯になれましたし、やってみれば人間変わるものですね」

 

 幼い頃から心身共に鍛えても、未だ意気地のない自分に嫌気を指すのは変わってない。

 でも、そんな自分がこんな気持ちでアイカツできるのは、穂乃果がスクールアイドルをやらないかと誘ってくれたからである。

 そして歌うことがこんなに楽しいのは、あの日、色彩豊かな彼の歌を聞いたから。

 

「あの……先輩!」

 

 そうやって、海未が思いふけっていると、意外な声が彼女に飛び込んできた。

 

「なら凛も──私も、先輩のように変われますか?」

「凛ちゃん?」

 

 突然問いかけをした凛に、幼馴染の花陽は戸惑う。

 尋ねられた海未は少し驚きつつ、どう答えるべきか悩む。

 凛の真剣な眼差しを改めて見たあと、彼女は最初に思い浮かんだ言葉を声に出した。

 

「答えかねますね。若輩者の私では、何を断言しても説得力はないでしょう」

「そう、ですか……」

「でも、行動しなければ何も変わりませんよ。これは真実です」

「!?」

 

 月並みの台詞ですが、と恥かしそうに付けたし、海未はその瞳を凛に向けた。

 

「もしも貴女が何か迷っているのなら、まずは一歩、進んでみてはどうでしょうか?」

「一歩、進むですか?」

「それで転びそうなら、私が責任を持って支えます。先輩ですので、後輩の面倒は見ますよ」

「な、なら──」

 

 唇をかみ締めながら、震えた手をぎゅっと握る。

 自分に視線が集まっている。逃げ出したくなった。

 だが、支えるといった言葉を信じ、凛は一歩踏み出した。

 

「凛も、スクールアイドルをやっていいですか?」

「り、凛ちゃん!?」

 

 これに一番驚いたのはやはり花陽だった。

 自分がやれば一緒にやってくれるかと誘ったが、まさか凛自らスクールアイドルをやりたいというとは思いも寄らなかったのである。

 

「ごめんね、かよちん。驚かして」

 

 戸惑う花陽に、凛は申し訳なさそうな笑みを向けた。

 

「凛、ずっとね、可愛いのに憧れてたの。でも、自分なんかじゃって思って諦めてた。何度もかよちんがそんなことないって、言ってくれてたのに」

「凛ちゃん……」

 

 もしも昼にことりの言葉がなければ、今も自分を卑下して彼女を傷つけていたかと思うと、凛は胸が苦しくなる。

 苦しいのは嫌だ。だから、凛は悩み抜き、挑戦する道を選ぶ。

 

「そんな凛でも、アイドルをやれば、変われるかなって思ったの。だから!」

 

 凛は振り返り様、そのままμ'sに向かって頭を下げる。

 幼馴染である花陽は誘われていた。

 真姫はわざわざ教室まで出向いて勧誘されていた。

 しかし、凛には直接声がかかってない。

 もしかしたら、断れたら? そんな不安に押しつぶされながら、凛は己の渇望を声に出す。

 

「お願いします! 私もμ'sに入れてください!」

 

 静寂に包まれた。

 それが何秒だったのか、凛には分からない。

 ただ、音楽室にある時計の針だけが聞こえていた。

 まるで爆弾のカウントダウンのようで居心地が悪く、胃が痛みかけたとき、彼女の両肩に誰かが触れた。

 

「まったく、そんなに頭を下げてしまっては、本当に転びますよ」

 

 そう言った海未は、両肩を持ち上げることで凛に頭を上げさせ、彼女の瞳に優しい微笑みを映す。

 

「勿論。大歓迎です」

「凛ちゃん、これからよろしくね!」

「可愛い子が増えて、ことりも嬉しい」

「あ、ありがとう、ございます」

 

 ことりや穂乃果にも歓迎され、感極まった凛は思わず目が潤んでしまった。

 

「ぐす、凛ちゃん、よかったね」

「かよちん。うん…………」

 

 振り返ると、自分よりも涙ぐんだ花陽に凛は微笑みかける。

 

「まだ、実感ないけど、凛。スクールアイドルやれるみたい。だから、かよちんも──」

「待って、凛ちゃん!」

 

 凛が何に言おうとしたか分かった花陽は彼女の言葉を止めた。

 

「かよちん?」

「今度は、私が。自分で言うから。誰かに誘われたからじゃなくて。誰かと一緒だからやるんじゃなくて。自分から、言うの…………」

「…………うん。わかった」

 

 凛がそっと体を横に逸らすと、花陽がそこに一歩前に出る。

 μ'sの三人に凛。色明や真姫も見守る中、彼女は一度深呼吸をした。

 目の前で大事な友達が、勇気を出して一歩踏み出したのだ。

 ならば自分も、逃げてばかりでは親友として恥かしい。

 

「私、小泉花陽、一年生です! 背も小さくて、声も小さくて、人見知りで…………自分だけでは中々動けない、駄目なところばかりです──」

 

 言っていて、自分が情けなくなる。実際、声もどんどん小さくなっていた。

 されど、決意の言葉は高らかに叫ぶ。

 

「けど、アイドルに対する気持ちは誰にも負けないです! だから、私もμ'sに入れてください!」

「うん!」

 

 花陽が頭を下げるより早く、さっと彼女の目の前に手が差し伸べれてた。

 見ると、いつの間にか近くに来ていたことりが、慈しむような笑みを花陽に向けていた。

 

「こちらこそ、お願い。一緒に頑張ろう、花陽ちゃん!」

「は、はいっ!」

「やったね、かよちん!」

「これでμ'sが五人に」

「いえ、六人よ」

 

 一気に増えたメンバーに喜んでいると、またも意外な声が聞こえてきた。

 声の主は真姫である。

 あまりにも唐突だったため面を食らった一同。皆が呆然として真姫を見ていると、彼女は不満そうに顔を歪める。

 

「なによ。アレだけ誘っておいて、メンバーが増えたら用済みなわけ?」

「そういうわけじゃないさ。けど、驚きは隠せないな」

 

 真っ先に正気を取り戻した色明が、苦笑を浮かべつつ心中を露にする。

 

「あれだけ嫌がってたのに、どういう風の吹き回しだ?」

「他人と音楽するのも悪くない。そう思っただけよ」

 

 ぶっきら棒に放った言葉は真姫の本心だ。

 他人と音楽に触れるのが楽しかった。

 それに──。

 ちらりと、覗き見るように真姫は海未に視線を向けた。

 忙しさを理由にして自分がやりたいこともできないのは癪だと、踏ん切りをつけたのである。

 素直でない彼女は、絶対に口にするつもりはないと己に言い聞かせるが。

 

「で? どうなのよ? 今更駄目とか、そんなこと」

「真姫ちゃ───ん!」

「!?」

 

 がっばと穂乃果が飛び込むようにして、椅子に座る真姫に抱きついてきた。

 

「ちょっと、なに!?」

「よかった! 真姫ちゃんともアイカツやれるよ!」

「もう……っ!」

 

 突然の衝撃と柔らかな温もりに心臓を高鳴らせながら、顔を真っ赤にする真姫。

 でも、ちゃんと歓迎されているようなので、心の隅でほっと、安心する。

 

「真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃん!」

「引っ付かないで! 転げる! もう、誰か笑ってないで助けなさいよ――――!」

 

 少女の叫びと笑い声が響く。

 優美な旋律には程遠い騒音であるが、今しか聞けない青春の音であった。




 更新しました。なんとか、μ's一年生三人が介入完了。
 とりあえず、一ヶ月ペースは保ってるけど、音楽関連の表現で躓いてました。
 読者を増やすために更新ペースを上げて、修正しないと。
 現在、執筆しながら一話は改良中。省くとこは省かないと。
 感想くれたら元気になります。
 でも、無言低評価はテンションダウン。それを跳ね除けるほど、この小説は強くないのだ。
 そして、いきなりの警告も心臓に悪い。クロスオーバーで一々つけないと駄目なんですね(汗)脇役で別作品のキャラだけ登場させる予定なんですけど、それだとドンドンタグ増えそう。

 というわけで、次回、アイカツとアイマスのサブキャラがでます。
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