貴方だけの歌 ~ラブライブ! School idol IF~ 作:貫咲賢希
──スタジオ in勉強──
/cVσ_VσV「なるほど、ボリュームを上げすぎたら駄目だと。ハウリングですね。カキカキ」
从廿_廿从「マキマキ」
・ω・「ニャニャ」
──南家 in衣装作り──
(・8・)「ここをこうして、こうチュン!」
Σ(´b_b`)「す、すごい! どんどん綺麗に縫合されていく!」
──穂むら in店番──
リ`・ヮ・)(暇だなぁ…………)
「ふえぇ……。前に来たのとき、そんなことがあったんですね」
「そうです。ですから花陽も気をつけてください」
「海未ちゃん、なんの話してるの?」
「前に穂乃果にも言った失礼な人の話ですよ」
「あぁ、海未ちゃんがいきなり呼び止められたやつだね。まだ怒ってたんだ」
「当然です」
一週間後、再びスタジオへ訪れたμ's一行と色明。
以前いなかったμ'sのメンバーも揃っており、今回は曲の収録をする予定だ。
予約している時間より早く来たので、待合場の椅子に座って各々が自由に寛ぐ。
その中、海未は花陽に先週起こったトラブルを話していた。
最初は別の会話だったが、ここの話をしている内に、前回の出来事を愚痴ったのである。女性と怒りというものは一旦収まっても、後々から根強く煮え滾るので恐ろしい。
「海未先輩を呼び止めた人って、『とうま』と呼ばれてたんですね。もしかして、
「Jupiter?」
「アイドルグループです。近頃テレビや雑誌ではあまり見かけませんが有名ですよ?」
「知りませんし、興味もありませんね」
「ははは………」
「……本当に難癖つけられたのがJupiterの冬馬なら不幸中の幸いだったな」
海未のキツイ物言いに花陽が乾いた笑みを浮かべていると、色明が会話に割って入る。
だが、視線は二人に向けておらず、声も何故か冷ややかなものだった。
「悪い噂はあまり聞かない。少なくとも、ああいう奴らよりかわな」
「? それはどういう──」
「おいおい! 女の中に男が一人混じってると思ったが新田色明じゃないか!」
フロア全体に響くような迷惑極まる大声。
μ'sのメンバーたちはびっくと体を震わせ、色明は不快そうに舌打ちをする。
海未は何事かと視線を巡らせると、見るからにして柄の悪い男集団がこちらへやって来た。
揃いも揃って筋肉質な体にタトゥー。奇抜な髪型で獰猛で下品な顔つき。花陽やことりは完全の怯えており、近くにいた凛や穂乃果の袖を掴んでいた。
男たちは海未たちの近く、正確には色明の傍までやって来て彼に話しかける。
「何処のハーレム野郎かと思ったが、男前な有名歌手様なら大勢の女を引き連れても納得だわな。ぎゃははは!」
明らかに馬鹿にした言葉と視線。
色明の侮辱に冬馬のときとは比べ物にもならない憤りを膨れ上がらせた海未は、椅子から立ち上がって怒鳴ろうとした。
だが、さっと横から飛び出た色明の腕で静止させられる。
「これはこれは
代わりに色明が立ち上がると、丁寧に挨拶をした。
顔は営業スマイル。誰が見ても分かるほどの作り物の笑顔。それでも最低限の礼節は守っている。
μ'sのメンバーがハラハラ見守る中、色明が言葉を続けた。
「それと彼女たちは僕のクラスメートです。在らぬ誤解は止めてください」
「クラスメート? そういえば女子高に通ったとか噂を聞いたな。あれマジか?」
「ええ。自分自身可笑しな話と思ってますが、事実ですね」
「ははは、マジかよ! 男が女子高に通うって、どんなハーレム! いや、綺麗な顔してるし、実は女の子だったのか? ごめんね、色明ちゃ~ん!」
周りの男たち──色明の言葉曰く、Wanderung と呼ばれた集団もゲラゲラと笑う。
ここまで来ると海未以外のμ'sたちにも戸惑いや怯えより、怒りの感情が込み上がってきた。
だが、言われた色明は気にしてないようすで、以前と営業スマイル。
それが癪に障ったのか、最初に話しかけた男が詰らなさそうな顔を浮かべた。
「おいおい、何か反応しろよ。ビビッてはいないな。なら、舐めんのか?」
「そう言われましても、生憎と芸人ではないので。面白い反応はできませんよ」
「…………ガキが。本当につまらないな。まぁ、いい──」
男は色明から視線を変えて、彼らを睨んでた海未を見て、にたりと微笑んだ。
「怖い顔するなよ、嬢ちゃん。ちょっとしたジョークさ。プロの間はこれが普通だぜ」
「それは面白くもない風習ですね」
「おお、怖い怖い。けど、あんたみたいな気が強い子は好きだぜ」
その男が腕を伸ばし、海未の体に触れようとした、その時である。
「はいはい、ちょーと待った!」
大声が再び聞こえてたと思った次の瞬間には、ばたばたとやって来た別の誰かが海未と男の間に割って入った。
「なに君たち、子供にちょっかいかけてんだよ? いい大人が見っとも無い」
「ちっ! てめぇはモナザンのヒロ!」
突然現れたヒロは男を睨む。
彼の仲間なのかヒロの後ろに二人の男が更にかけつけ、Wanderungたちを警戒する。
「ほら、君らが使うスタジオ空いたらしいからさっさと行けよ。それとも、まだ回りに君らの素行を眺めさせて、悪い噂を広めたいのか?」
「糞が。喧嘩売ってんのか?」
「子供を虐める大人相手なら喜んで受けてやるぜ!」
その声はヒロの後ろに控えていた赤いモヒカンの男から出たものだった。
「やめろ、キング」
その男を諫めたのは、隣にいたシルクハットにアイシャドーを塗った男だった。
しかし、彼もまた目の前の蛮行に腹を立てているのか、Wanderungたちを睨んでる。
「先に手を出せば諸共だ。一撃は貰ってやって、警察を呼んだほうが賢いぞ」
「け、警察っ!?」
「なにビビッってんだ! まだ何もしてないだろ!」
警察の言葉でWanderungの一人が動揺したが、色明に話しかけた男が押し潰すように怒鳴った。
彼はヒロたち三人を忌々しそうに睨むと、その場で唾を吐き捨てる。
「興ざめだ。行くぞ、お前ら!」
彼は仲間を引き連れ、乱暴に店員から番号札を奪うとそのまま去って行った。
完全に彼らの気配がなくなると、誰かが疲れたように溜息を吐く。
「いやいや、災難続きだったね」
するとヒロがにっこりと海未に微笑かける。
「あっ──。危ないとこ、ありがとうございます」
海未が思い出したように立ち上がって礼を言うと、ヒロは苦笑して肩を竦めた。
「気にしないでくれ。むしろ、俺が止めたのは彼のほう」
「え?」
そのままヒロは色明に指を差すと、差された当人ははむっと顔を顰める。
「君が触られようとしたとき、相手を殴ろうとしてたよ」
「ヒロさん、別に殴るまではいきません。腕を握り潰そうとしただけです」
「ほら、物騒じゃないか」
けらけらと笑うヒロ。
仏頂面の色明だったが、そんな彼を海未がじーと見つめた。
改めて思い返せば、初っ端から色明らしからぬ態度だ海未は感じた。
彼女のイメージでは、相手が粗雑ならば強気な威勢で対処するのが色明だ。
大人しくしてたのは、周りに海未たちがいただろうか?
多分、きっとそうだと海未は判断する。
いざ彼女等が手を出されてかけたなら、我慢せずに手を出そうとしたのも彼らしい。ヒロの言葉に対して、あの反応ならば真実だろう。
そう考えると、妙に嬉しい感情が海未の中で込み上げてくる。
男に守られたことに対する女ならではの優越感だろうか? と彼女は不思議に思った。
「けど、間に割って入ってくれて、ありがとうございます」
「かまいやしないさ。喧嘩の仲裁は大人の役目。先週もその子との件もね」
ちらりとヒロが海未を覗き見ると、色明は得心した顔で頷く。
海未が冬馬に難癖をつけられたことをその日は知らなかったが、後日その詳細を海未の口から改めて聞いていたのだ。
「なるほど。先日、園田が絡まれたとこに現れたのはヒロさんだったんですね。重ね重ね、ありがとうございます」
「だから、礼に及ばないよ」
軽くウィンクして、ヒロはにっこり微笑む。
まさしく、余裕を持った大人な態度。それを見たμ'sたちは少し感動していた。
彼女たちは色明を男として評価しているが、ヒロもまた彼とは違った意味合いで評価を得る。少なくとも自分たちに絡んできたあの集団とは大違いだ。
「さて、冬馬くんはともかくWanderungの奴ら。結構他でも苦情出てるようだぜ」
Wanderungと呼ばれた集団が去った場所をヒロはちらりと見た。
「けど、今回のことでここも利用できなくなるだろうさ。だから、まだ若くて未来がある君たちは今後ともここ使ってやってくれ。お得意様がいないとお店も困るしな」
「わかりました」
「では、俺たちもスタジオ入りなんでこれで。じゃーね」
最後に言葉を残し、ヒロは後に控えていた二人と合流してそのまま去って行く。
「ふわぁ~! 新田先輩、モアザンの人たちをお知り合いなんですね!」
で、彼らがいなくなった後、花陽が興奮したように叫んだ。
ついさっきまでは怯えいた彼女の元気な様子を見て、周りもようやく一息つく。
「かよちん、あの人たち知ってるの?」
「当然だよ、凛ちゃん! アイドルを追う者は自然と音楽番組はチェックするし、それで他のアーティストさんも知るよ。新田先輩もそれで知ってたし、さっきのモアザンも然りだよ!」
「ええと、結局モアザンってなんなの?」
「真姫ちゃん、モアザンていうのはねモアザントゥルーの略称で、あの人たちは人気ロックバンドなんだよ! ベースのシュトラさん、ドラムのキングさん、ギターのヒロさん! そして、あそこにはいなかったボーカルのナオさんは、なんとSoleilを初めとした人気アイドルを輩出しているスターライト学園の教師だという話もあるんだよ!」
「そう…………ヒソヒソ(花陽って、アイドルの話以外でも興奮するのね)」
「…………ヒソヒソ(凛はこっちのかよちんも好きにゃ。ちなみお米にも拘りあるよ)」
「…………ヒソヒソ(あぁ、そういえばこの前、何杯もごはんを食べてたわね)」
そんな一年生たちの話を聞いていた海未は、前にヒロが言っていた仲間のボーカルが女子高の教師をしている話を思い出していた。
しかし、あのSoleilが通うスターライト学園の教師とは。
偶然とはいえ、彼女たちのライブを見た後に本人たちと遭遇したの思い返す。最近は奇縁が多いと感じる海未だった。
「さて、俺たちはどうする?」
全員が落ち着きを取り戻したのを見計らい、色明がそのように尋ねてきた。
「どうするとは?」
「そろそろ俺たちもスタジオ入りだけどさ。運が悪ければまたあいつ等と遭遇する可能性があるぜ?」
「先程の不埒な輩たちですか…………」
「Wanderung。ハードコアな曲を売りにしている奴らだが、近頃素行の悪さが目立って業界でも毛嫌いされている連中さ」
「ええ…………。そんな人たち、早く解散しなよ」
「生憎とそれでも売れてるからな」
穂乃果が思わず出た不満を色明がやんわりと返す。
「で、あいつ等を避けるため、日を改める選択肢を俺は進言するのだが?」
「私は反対。なんでアイツらのせいでコッチが気を使わないといけないのよ」
真っ先に意見を述べたのは真姫である。
真姫にとって音楽は大切なものであり、最近では友人となった花陽と凛と過ごし時間が楽しいのだ。その両方を無礼な輩が原因で奪われるのは、彼女にとって苦渋である。
「凛は真姫ちゃんの言葉も分かるけど、ちょっとだけ心配かな」
「ことりも。怖い人たちがいると思うと不安だな。新田くんの言うとおり、日を改めるたほうがいいかも。今日はこのままみんなでお茶をするとかにしてね」
逆に色明の意見に賛成したのは凛とことりだった。ことりの場合は代替案も出している。
「ええ~。穂乃果は楽しみしてたのにな~」
「そうですね。私も、ここまま帰った方がちょっと残念です」
次に不満の声を上げたのは穂乃果と、意外にも先程一番怯えていた花陽だった。
「かよちん、大丈夫なの?」
「うん。怖いけど、みんながいるし」
「続行が3に、日を改めるのも3か。園田はどうする?」
色明の言葉で視線が海未に集まった。多数決で選ぶならば、彼女の答えで方針が決まる。
確かに色明たちの危惧は尤ものだ。
広いとはいえ、先程は人目につく場所だからこそ良かったものの、今度は以前の海未のように廊下で遭遇するかもしれない。
偶然がそう重なるとも思えないが、万が一で危険な目を誰かが遭うのは避けたい。
だが、心配すれば切がないのは確かだ。
それこそ、不審者に出会うかもしれないから家の外には出ないと言っているようなもの。
同じ空間ならば避けたいが、一応隔離された時間で過ごすならば遭遇しない確率のほうが高いだろう。
更に理屈を抜きにしても、このまま引き下がるのは海未の性に合わない。
真姫同様、あのような輩を気にして自分たちの行動を制限するのは癪に障るし、穂乃果同様、海未もこの日を楽しみにしていたのだ。
そもそも、日を改めるとしても、その日に色明が参加する保障もない。
前回と今回はいたが、仕事している色明が予定を変えるのは非常に難しいだろう。
一応、彼がいなくとも利用できるようにと、前回機材の使用方法などを教えられた。
だが、いてくれたほうが海未には心強いのだ。
「そうですね。私はここままスタジオ入りする意見に賛成します。あんな輩に振り回されるのは新田さんも癪でしょう?」
「まぁ、それはそうだな…………」
「念のために、彼らの利用時間をフロントに聞き、こちらと時間をずらします。トイレなどにも必ず二名以上で行けば、何かあったとき対処しやすいはずです」
「海未ちゃんがそう言うなら、ことりも大丈夫かな…………」
「凛も、そうだね。かよちんや真姫ちゃんが危なくなったら、凛が守ればいいし!」
「凛ちゃん……」
「むぅ………」(←真姫ちゃん照れ照れカキクケコ)
「よぉーし、じゃあ決定! 嫌なことは歌って忘れよう!」
もはや行動が決まったと言わんばかりに、穂乃果が手を振り上げた。
「穂乃果、カラオケじゃないのですから真面目に歌ってくださいよ」
「…………。分かってるよ」
「一瞬、間がありましたね。一瞬、勘違いしてましたね」
「わざわざ言わないでよ~!」
どっと、笑い出す少女たち。まるで溜まった鬱憤を吐き出すような声だった。
完全に陽気な態度になった彼女たちに、色明は仕方ないと吐息を漏らす。
「やれやれ……。まっ、何かあれば守ってやるさ」
本人は誰にも聞こえないような色明の独り言。
それを偶然か、耳にしてしまった海未は妙に気恥ずかしい気分になったのである。
▼
最初にトラブルはあったものの、収録自体は問題なく行えた。
前回のスタジオ来た三人は、勉強の後である程度新曲を取り終えていたので、今回は残りの三人の収録がメインである。
何度かリテイクはあったものの、時間までには予定した分の収録は無事終了し終えた。
「う~ん。今日はいっぱい歌ったね」
疲労はためつつも、爽快な気分で穂乃果が背を伸ばす。
日が沈み、夜の街中をスタジオから出てきたμ'sの六人は共に帰宅している。
色明の姿がないのはこの後に仕事があるため、一足先に別れたためだ。
忙しい中、頑張るなと尊敬しつつ、彼がいない帰り道に一抹の寂しさを感じる海未。
先程と一緒までいたゆえ心細いのか。それとも、スタジオ入りするまでのトラブルがあったゆえ不安なのか。
念のためスタジオに出るときに確認したところ、例のWanderungたちは既に退室していた。待ち伏せもないようなので、一先ず安心する一同。
なお、助けくれたモナザントゥルーはまだスタジオにいるようで、お礼のため残るという意見もあったが、時間が遅いので後日改めてすることにした。
しかし、女子だけで夜の街中は聊か危ないことには変わりない。
男とである色明がいないため、帰宅途中何かあれば自分が頑張ろうと密かに心を奮い立たせる海未だった。
「なにキョロキョロしてるの?」
周囲を警戒する海未だったが、そんな彼女を奇怪に思った穂乃果が話しかける。
「いえ。もしかしたら今朝のような輩がまだいるかと思いましたので用心を。今は新田さんもいませんし、何かあれば私が守らなければ」
「もう、気にしすぎだよ。ところで、今回ので新曲の収録は全部終わりだっけ?」
「……まだ少し収録するパートが残ってますよ。その後は編集作業が残ってます」
「あぁ~。なら新曲をお披露目するのはまだまだ先か」
「その分、前より良いものができるはずです。それに今回の経験を次に生かせば、次の新曲はもっと早くできるでしょうね」
残念そうに項垂れる穂乃果を、海未が優しく宥める。
何気ないことなのだが、少し誰かと会話したことで海未の緊張も僅かに解れた。それが穂乃果が狙ったこととは別にしてでも、流石は幼馴染である。
そうこしてる間に、一年生と別れる横断歩道の前まで辿り着いた。
「それじゃあ、私たちはこれで」
「ええ、また」
「先輩たちばいば~い!」
「凛ちゃんばいば~い! 真姫ちゃんもばいば~い!」
「もう、恥かしいから手を振らないでください!」
「三人とも気をつけてね」
一年生三人と別れると、残った海未たちは改めて信号が赤の横断歩道に目を向けた。
と、海未たちの傍にある道路から猛スピードで黒のワゴン車は走行し、ドリフトように左折すると速度を落とさず彼女たちの目の前を通り過ぎていった。
「────」
「うわ、すごいスピード」
「危ないねぇ。あれ、海未ちゃんどうしたの?」
何故か海未の様子が可笑しいことに、ことりが気づく。
危険運転に腹を立ているかと思ったが、何やら彼女は汗を浮かべて硬直していた。
まさか、先程の車で驚いたのかと、ことりが再度尋ねる前に海未が動く。
「穂乃果、すみませんが私の荷物を家まで届けてください」
「え?」
答えも聞かず海未はその場で鞄を落とすと、そのまま走り去ってしまった。
突然のことに呆然とする残された二人。
しかし、海未が理由もなく突発的な行動をしないと解った彼女たちはただならない事態だと察した。
「海未ちゃん! 何処行くの!? 穂乃果も一緒に!」
「私の勘違いかもしれないので、二人は一旦帰ってください!」
海未は走りながら後ろに向かって叫ぶ。
これが勘違いならば、取り越し苦労だと後で二人に呆れたり笑われるだけだ。
しかし、そうでなければ?
海未は長年武道で鍛えた動体視力で、先程通り過ぎたワゴン車の中を目撃した。
そこには見覚えるある顔が、同じく見覚えるある男たちに取り押さえられていたのでるある。
▼
油断したと、彼は己の失態を嘆く。
まさかスタジオを出た途端、一人になったところを集団で襲われるとは思ってもいなかった。
抵抗はしたものの、背後からの一撃でよろめき、その隙を突かれて拘束された後、ガムテープで目隠しと口封じされ、現在は車に乗せられた。
下手な行動は逆に危害が及ぶと判断した彼は、一旦相手の言う通り大人しくする。
時間にして凡そ30分未満。動かぬまま冷静に時間を数えていると、車が停止した。
「おら、動け!」
乱暴に殴打されるも、彼は文句を言わずに指示に従う。口が塞がれてるので、文句を言いたくとも言えないのだが。
足で砂利を感じつつ、彼は自分の攫った集団の云われたとおりに歩く。
「反転して、そのまましゃがめ」
彼は言葉通りに反転しながらしゃがむと、背中に硬いものを感じた。
パイプか何かだろうか。ガチャガチャと自分の両腕に何か嵌められたと思ったら、そこで目隠しと口封じが解かれた。
「いいざまだな。気分はどうだ、ヒロ?」
「最悪だよ」
目の前にはWanderungのメンバー。埃が浮かぶ薄暗い空間は、何処かの廃屋のようだ。
モアザントゥルーのヒロは呆れたように彼らを睥睨する。
「で、男を攫って何が楽しいわけ?」
「俺たちもどうせなら女のほうが良かったさ。例えば新田色明が連れてた奴らとかな」
「そう言いつつ、彼女たちを攫ってないとこだけは褒めてあげよう」
ドス! とヒロの顔が蹴られた。
口端が切れ、綺麗な顔に痣が生まれる。
「あいつ等はスタジオ出てからも警戒してたみたいだしな。女の悲鳴はよく響く。一人や二人ならともかく、それ以上は攫うのは一苦労だ。新田色明の報復も面倒だしな」
「おいおい、知ってるならその友達にもちょっかいかけるなよ。彼が結構危ないタイプって知ってるならさ」
ゴス! 再び危害を加えられるヒロ。
今度は腹を蹴られて、その場で軽く反吐を零した。
「そういう奴を人前で弄るのが愉しいんだろうが。アレはガキだが馬鹿じゃない。保険がない限り、手を出してこないさ。お前が邪魔したがな」
「げほっ! なに? じゃあ、これはそれの報復?」
「それもあるが、前々からお前たちは気に入らなかったのさ。調子に乗ったゲリラライブに、ボーカルは女子高の教師兼業。そんな奴らが同じ業界にいるのは目障りだ」
「嫉妬かよ、見っとも無い」
ガス! 三度目の危害。
今度は横から蹴りが飛び込んできたが、ヒロの体は両手首が拘束されたことで横転することなく、むしろ拘束された手首が酷く痛んだ。
「とりあえず、適当にぼこった後、お前には色々としてもらおう」
「なに? お前らそんな趣味があるわけ?」
「俺たちの中じゃいないな。だが、知り合いに。お前は綺麗な顔だから受けるだろうよ」
「背筋がぞっとするな」
「その後は脅すか、薬漬けでバンド崩壊させるか。それは後で考えるにして、今は黙ってサンドバックを演じとけ」
男たちがヒロを取り囲む。
ヒロは次に来る暴力に耐えるため、ぎゅっと瞳を閉じた。
「やめなさい」
淑やかな声が──響いた。
この場に似合わない音に男たちはが一斉に振り向き、目を閉じていヒロも見開いてその光景を目の当たりにする。
広い廃屋の入り口。
少女は背中に月の光を浴びて、夜風に長い髪を揺らし手に持った得物を突き向ける。
握ったものが鉄パイプでなく一振りの刀ならばより映えただろうが、研ぎ澄まされた美しさに陰りはない。颯爽と現れた彼女に、その場にいた男たちの誰もが一瞬見惚れた。
「これ以上の狼藉、この私が許しません」
ただ静かに。
精悍な顔で、海未は男たちの前に立ちはだかる。
というわけでピンチに主人公登場。何も間違ってません。だって、この作品の主人公はオリ主ではなく海未ちゃんですから。
そもそも、第一話から男のピンチを海未ちゃんが助けてますしね。もちろん、逆もありますが。
まぁ、最初はμ'sの誰かが攫われて、そこに海未ちゃん、でヒロ。というのも考えたんですけど、コッチのほうがまだいいかなっと思いまして。
なお、今回登場したオリジナルグループ、『Wanderung』はドイツ語で『放浪』という意味です。この手の輩がどんな結末になるかは、薄い本以外だと大抵決まってます。
ではでは、また次回の話に。
PS、友人がAqoursのイベントに当選したぽい。う、羨ましくないんだぞ!