貴方だけの歌 ~ラブライブ! School idol IF~ 作:貫咲賢希
>ω</「そうだ。今から帰りにラーメン食べに行かない?」
从廿_廿从「今日は体動かしてないし、そんながっつり食べてたら晩御飯が入らなくなるわよ」
(´b_b`)「そうだね。私も今日は…………。そこまでお腹減ってないし」
>ω</「大丈夫! そのラーメン屋さん、女の子やちっちゃい子向けに可愛いミニラーメンあるよ」
从廿_廿从「まぁ、それなら───」
(´b_b`)「行っても、いいかな?」
>ω</「決定にゃ! 凛も今日はミニラーメンにしよ!」
───ラーメン屋───
>ω</「すみませーん! ミニラーメン三つください!」
(´b_b`)「あと追加でライス超特盛り米増し増しもお願いします」
・ω・ 从廿_廿从『え…………?』
(´b_b`)「?」
海未にとって運が良かったことが三つある。
まず一つ目。車を見つけたのが街中であったこと。
物心ついた頃から武道で鍛えたとはいえ、海未は車に追いつけるほど超人でもない。それでも何とか車を追いかけれたのは度重なる信号待ちがあったからだ。
だが当然、停止させる信号が減ればすぐ距離は離れる。
気づけば海未は車を見失っていた。
どうすればいいかと悩んだ先、ふと辺りを見渡してみると見覚えのある風景だと気づく。
それが二つの目。地元民であるゆえの土地勘が彼女にはある。昔は冒険と称し幼馴染とここまで遠出したことは度々あったのだ。
ならば次なる行動は、相手が行きそうな場所を予測すること。
無論、相手がこの場所を通り過ぎていれば無駄な行動だ。そうなれば彼女にできることなど、精々遠目から読み取った車のナンバーを警察に通報するくらいである。
しかし、まだ確証はないため通報はしない。見間違いという可能性も彼女自身否定できないからだ。
海未を動かすのは直感。どの道、通報は最後取る手段なのである。
彼女は人気のない場所を思い出しながら歩き始めた。
正直、こういう事態でなければこの時間に一人で寄り付きたくはないが、嫌な予感と持ち前の心配性、正義感ゆえに海未は勢いを緩めない。
そして、最後の幸運。あるいは厄介事を見つけてしまった不幸か。海未は街中で目撃した車を発見したのだ。
場所は破棄された工場。錆びれた看板や進入防止の柵に、一切の機材が撤去されいるのがその証拠だろう。そんな場所に真新しい車があれば誰もが怪し目で見るに違いない。
海未は恐る恐る中へ進入すると、建物の中で物音が聞こえた。
自分自身の足音を騒音に紛らわさせて近づき、曇った窓からゆっくりと中の様子を覗く。
──見つけた。
そこにはスタジオで遭遇したWanderungのメンバーと、拘束されたモナザントルゥーのヒロがいる。
すぐさま海未はシャッター音を誤魔化すように携帯で写真を撮り、それを添付したメールを事情を察する穂乃果とことりへ同時に送った。
二人同時なのは、どちらかがメールを受け取れなかったときの配慮た。メールの内容は、ヒロが捕まってることと警察への通報。ここの場所も教え、念のために自分には連絡しないことの注意だ。
自分自身が通報しないのは電話したことで相手に気取られないようにするため。自分への連絡を避けたのも同じ理由である。
さて、警察が来るまで5分か。10分か。あるいはそれ以上か。
とにかく海未はは警察が駆けつけて来るまでこの場で身を隠し、彼らが移動しないか見張るつもりである。
利己的判断ならばこのまま立ち去るべきだ。見張るにしても敷地外で車を見張っていれば十分かもしてない。仮に見つかってしまえば、彼女もただでは済まないからだ。
しかし、誰かが傷つくことを黙って見過ごせる少女ならば、そもそも、こんな所には来なかった。
「やめなさい────これ以上の狼藉、私が許しません」
ヒロが囲まれたことで、海未の我慢に限界が訪れる。
咄嗟に近くにあった手頃な鉄パイプを拾い上げ、彼らの前に姿を現したのだ。
『───』
突然、自分たちの前に現れた海未にヒロとWanderungたちが言葉を失う。
少なくとも十秒以上経過して「ぷっ」っと誰かが噴出す。
「誰かと思えば新田色明が連れてた女の一人じゃないかっ! なに、どうしてここに着たんたんだよ!?」
「街中で貴方たちが彼を車で連れ去っているところを見かけたので追いかけて来ました」
「それはご苦労なこった。信じられないがここにいる時点で本当のことなんだろうなっ」
男はにやりと嗤いながら振り返り、未だ呆然と海未を見つめるヒロを見下ろす。
「どんな気分だよ? 助けた女に今度は助けに来てもらった感想は? 俺はダサくて自殺しそうな気分だと考えるが?」
「っ───逃げるんだ! 早く!」
「誰が無視しろって言った」
ヒロを男が無造作に蹴る。
口から血反吐を吐いた彼を見て、海未が叫んだ。
「やめなさいと言ってるのです!」
「──叫んでいるわりにはそこから動かないな」
男はヒロから視線を外すと、鉄パイプを構えたまま一歩も動かない海未を興味深そうに眺めた。
「ビビッて動けない女ならわざわざ出てこないだろ。入り口から離れないのは、屋内に入ったことで俺たちに囲まれるのを避けるためか?」
「────」
「図星か。行動は勇ましいが、隠し事は苦手のようだ」
中々の観察眼である。海未がすぐ顔に出るタイプなのは事実だが、相手の顔が解り難い場所で彼女の表情を読み取ったことは驚きだ。
先程から話している男はスタジオでも周りのメンバーに指示を出したり、海未が現れて真っ先に正気を取り戻したところを見るとWanderungのリーダー格かもしれない。
「警察には連絡したか?」
「とっくの昔に」
海未の発言にWanderungたちに動揺が走ったが、リーダーらしき男だけ冷静を保ったまま彼女を見据えている。
「なるほど。こうやってお喋りしているのも時間稼ぎか。アイツを捕まえろ」
最後の言葉と同時に彼以外のWanderungたちが海未に襲い掛かってきた。
数は三人。まず最初に一人が海未を抑えようと両腕を掲げて突っ込んできたが、彼女は怖気もなく振り上げた鉄パイプを相手の顔面に叩きつける。
真っ直ぐ振り落とされたパイプは鼻先から直撃し、一撃で男に苦悶の声を上げさせる。骨が折れているかもしれないが、警察の言い訳は後で考えよう。
顔面も抑えて悶える男を尻目に、残った男二人が同時に海未へ襲い掛かった。
海未は前を向いたまま数歩後退すると、一瞬前に彼女がいた場所で二人の男が互いの両肩をぶつけ合う。
衝突によって動きが鈍った男たち。海未は振り落としていたパイプを斜め上に振り一人の顎を打ち上げた後、そのまま残りの男の脳天にパイプを振り落とす。
顎と脳天に打撃を受けた二人はそのまま仲良く意識を失い、地面にひれ伏した。
「この、あまがあああ!!」
そこで最初に海未から攻撃を受けた男が、鼻血を撒き散らしながら彼女に飛び込む。
キラリと手元に光るのは何処からか取り出したナイフ。
だが、物心つくころから武道を習ってきた彼女は、今更刃物を向けられても一切恐れはしない。稽古では真剣を向けられたことも何度かあるのだ。
海未は突き刺そうとしてきた男の体をひらりとかわし、膝裏に一撃を与えてバランスを崩させ、二撃目は背面を叩き、駄目押しの三撃目は後頭部を薙ぎ払った。綺麗に三連撃を受けた男は、鼻血をたらしまま横倒れで砂利に口づけ交わして動かなくなる。
「す、すごい…………」
一連の光景を眺めていたヒロは見惚れたように海未を熱い視線を向けた。
自分よりも一回り小さい少女が、映画のように次々と男たちを倒す様は圧倒の一言。
が、魅入ってた束の間。視界に黒い人影は横切る。
「っ、危ない!」
「!?」
三人を倒して一旦呼吸を落ち着かせていた海未が声に反応して振り向いた。
いつの間に距離をつめたのか、眼前にはWanderungのリーダーらしき男。
咄嗟に海未がパイプを横凪ぎに振るう。それを男は右腕で難なく受け止め、残った左腕でパイプを掴み取った。
(いけません…………っ!)
このまま引き込まれると感じた海未はパイプをすぐに引き離し、できるだけ相手から距離を取るようにして後退した。
男は掴み取ったパイプを無造作にその場で捨てると、徒手空拳で構える海未を感心したように見つめてきた。
「こんな場所に一人で来たから予想はしたが、何かしらの習っているな。護身術というよりも本格的なヤツをよ」
「…………そういう貴方こそ何か武道を?」
海未は冷や汗を浮かべながら問いかける。
実家が武道を教授しているゆえ、彼女は今まで何人もの武道家を見てきた。
ゆえに喧嘩慣れしただけの人間とそうでない人間の区別はできる。目の前の男は後者だ。
タトゥーに彩られた筋肉隆々。染められた髪は鬣の如く。野獣を感じさせる男の威勢に、海未は怖気ぬようにと心を保った。
「なに。昔、ボクシングやレスリングを一通りな」
「なるほど。音楽ではなく、其方のほうを生業にしたらいかがです?」
「それは新田色明に言ってろ。酒で暴れたK1選手を腕ずくで黙らせたとかな。業界での武勇伝なんかアイツのほうが多いんだぜ?」
「──それは面白いことを聞きました。今度本人に詳しく聞きましょう」
「無理だな。お前は新田色明や友人。家族すら。もう、誰にも会えない」
警察が来る前に海未を無力化し、彼女とヒロを連れて仲間と共に此処から逃げるの男の算段だった。
警察にはナンバープレートも通報されているだろうが、車には偽造ナンバーを付けている。仮に写真を取られていても、間近で撮られていなければ自分たちではないと強引でも誤魔化せるだろう。
本当に思惑通りできるのかと問われれば、男はできると断言する。
何故ならば、このようなことは何度もあったことだ。
だから、彼らには黒い噂が耐えない。
ある日、彼らと競演したアイドルが失踪した。
彼らと揉めたバンドがいきなり解散した。
誰もが彼らを疑った。
しかし、事実でも未だ咎められたことがないのは、ずっと世間を欺き続けてたからだ。
今回も男にとって刺激ある出来事でしかない。
仲間の不甲斐なさには呆れるが、目の前の獲物を手に入れたら笑って許そう。それが首領たる度量だ。
男が踏み込む姿勢に入ったの見計らい、海未は身構える。
技術は推し量れないが、体格は見る限り断然向こうのほうが上。長年の経験からでも、総合的実力は男の方が上だろうと海未は判断する。
しかし、今から背中を向けて逃げたほうが危険だ。
海未にできることは防戦に集中し、警察が来るまで耐えることのみ!
「最後に聞くが、お前は新田色明のなんだ?」
「友人です」
「なるほど。つまらない答えたが、良い答えでもあるな」
にたりを男が笑った。
「初物か。場所を変えたら俺以外のことを全て忘れさせてやる」
男が地面を蹴り上げ、石礫が四散する。
下から潜りこむようなボディブロー。海未はそれを払いのけるのように腕を薙ぐ。男の拳は逸れたが重い一撃に受け流した腕が痛む。だが、苦痛に酔う暇など与えてくれない。次の瞬間にはストレートパンチが海未の眼前に迫っていた。海未は何とか残っていた掌で受け止める。
バッチイイン! と空気が割れたような音が夜の廃工場に響く。受けた掌から電撃のような痺れが体中に奔った。骨が軋む。受けた場所が火傷したように熱い。
だが、悲鳴は上げれない。涙を浮かべる余裕すらくれない。自分より体格のいい腕や足が休むことなく襲い掛かってくる。
さながら質量の嵐。一歩間違えれば致命的な一撃によって全てが終わる。
海未は耐える。堪えろ。会話でも挟んでくれれば少しは休めるが、余計な時間は自分の命取りだと察しているため男の猛攻は止まらない。
辛い。体が痛むと同時に精神も磨耗する。
しかし、やり過ごせていると海未は心中で安心していた。
このままならば警察が来るまで持ちこたえられる!
──それが確信したとき、背中が壁にぶつかった。
男は無闇矢鱈に海未に攻撃をしかけたのではない。彼女を敷地を囲う壁にへと追い詰めるように仕掛けていたのだ。
海未が気づいたときには既に遅い。追い詰められたと解ったとき、一瞬手が止まってしまったのだ。
その隙を待っていた男が見逃すわけなく、彼女の首を掴むように腕が伸びる。このままでは呼吸を止められて、苦しむ間もなく意識を奪われるのか。
そんな心配をするほど、男の腕がゆっくり見えた。が、それ以上に自身の体が動かない。
窮地によって感覚だけが研ぎ澄まされたのか。
ああ、それならば一掃のこと一思いにやってほしい。
一秒にも満たない時間を海未は数十秒、数分にも感じた。
男が口にした言葉を思い出す。
……もう、誰にも会えない。そう考えて、真っ先に思い浮かべた顔は────。
──横から現れた色明に男は殴り飛ばさた。
「人のダチを勝手にぼこってんじゃねぇぞ!」
突然の襲撃に男は抵抗もできず、左頬からめり込んだ拳は意識を消失させ、更には体自体も十メートル以上先まで吹き飛び、地面に転がった後、そのまま動かなくなる。
一撃。あれほど海未を苦しめた人間を不意打ちとはいえ、一撃で行動不能に追いやった。
呆気ない幕引きである。
一連の光景を間近で目撃した海未は、いきなり現れた色明へ驚く前に、酒で暴れたK1選手を腕ずくで黙らせたのは本当だったのだと、少し場違いな感想を抱く。
すると、倒れた男を睨んでいた色明が海未へ視線を変えた。
「うっ──」
眉間に皴を作って睨んでくる色明に、海未は堪えれず怯む。
怒っている。
どうやって此処に現れたのか今の海未では想像できないが、厳しい顔つきを見ると無茶な行動をした自分に腹を立てている。海未はそう考えた。
「えっと……新田さん。どうして、ここに?」
「高阪と南からメールが来てな。二人同時に俺にも連絡するなんて相当焦ってたんだろ」
「そうですか……。不安にさせてしまいましたね」
「当たり前だろうがっ」
乱暴に色明は言葉を吐き捨てると、ドカドカと海未に近づく。
手を伸ばせば、簡単に相手へ触れる距離。耳をすませば、色明の乱れた呼吸が聞こえた。 叱られると海未は身を縮まらせた。色明と壁に挟まれた状態なので逃げ場もない。
不意に、色明の腕が持ち上がる。
トン。
色明の手が海未の顔すぐ横を通り過ぎ、後ろの壁に──優しく、手が置かれた。
驚いた海未が顔上げると、壁に凭れながら見下ろしている色明の瞳と目が合った。
「アンタは本当に厄介ごとが多いな。でも────無事でよかった」
安堵に崩れた表情。消えてしまいそうな穏かな声。
壁と色明に挟まれた身動きできない狭い空間で、海未はぎゅっと胸が苦しくなる。
あれほど凄まじい力を見せ付けた彼を不安にさせてしまった。
それがとても申し訳なくて。でも、どこか嬉しくて。
海未は少し手を動かし、色明が着ている服の裾をそっと掴んだ。
「…………心配をかけて、すみません」
▼
結局、警察が辿り着いたのは色明が現場にやってきてから数分後である。
Wanderungのメンバーは全員その場で逮捕。彼らには後ろ暗い噂があり、今回のことで徹底的に悪い物は叩き出されるだろう。
ヒロは保護された後、そのまま病院に輸送された。
外傷は酷いものだが、今後の音楽活動に支障はないこと。少なくとも救急車に運ばれる間際、海未の名前を聞き出して自分の連絡先を渡すくらいには元気だった。
色明が救急隊を急かさなければ、その場で口説き始めそうなくらい達者である。当の海未はあまり理解してなかったが。
海未は警察と共に心配でやってきた穂乃果とことりに泣きつかれた後、説教された。単独行動を取ったことも警察に説教され、事情徴収の後迎えに来た母親にも説教された。
説教続きで参ってた彼女だったが、最後には勇敢なことはしたと母に褒められる。
色明といえば、どうやら仕事中に無理やり抜け出したようで、彼をここまで運んできた大人が警察に平謝りし、一旦仕事場に戻った後で警察に事情聴取に向かったそうだ。
その後も、彼のやって来た家族や事務所関係者に沢山のお小言を貰い、結局寝たのは日が変わってから。
翌日の朝連。そこで昨日ぶりに再会した海未と色明は、寝不足な相手を苦笑しながら互いに労った。
▼
「ひゃあぁ……。改めて聞くと昨日は大変だったんですね。海未先輩、車を追っかけちゃんたんですね」
「そうだよ。残された私と穂乃果ちゃんは連絡が来るまで混乱してて、連絡が来たあとも大変だったんだから」
「お疲れ様です」
放課後の屋上にて、少しの暇を持て余した花陽がことりに昨日の惨事を聞き返していた。
今朝にも大体の出来事は聞いてたが、聞けば聞くほど大事件である。
毎朝恒例の芸能界チェックでWanderungが事件を起こしたのは知ってたが、そこに自分の先輩たちが関わっていたことに驚きは隠せない。
当の二人は無事であり、事件のことも寝不足以外に気にした様子がなかったため話の種にできるが、一歩間違えば重い事態になっていただろう。
「けど、あれですね」
「うん?」
「つまり、海未先輩のピンチを新田先輩が助けたわけですよね?」
「そうだね」
「それは、ロマンスが始まりませんか?」
興奮した様子で瞳をキラキラとさせる花陽。
なるほど、さすがは年頃の女の子。
花陽はこの手の話が好きなようだ。ちなみに聞いていることりも大好きである。
「女の子の大ピンチを男の子が助けるなんて、まさに王道展開じゃないですか!? 新田先輩もわざわざ仕事を抜け出してまで駆けつけたんですよね! 普通なら起きませんが、そんな普通に起きなかったことが普通に起きたら普通に気にしちゃうのが普通では?」
「かよちん、普通言いすぎにゃ」
二人の会話を聞いていた凛が呆れたよに呟いた。
「でも、凛ちゃん。そんなハプニングあればころっと云っちゃうかもだよ。海未先輩はスクールアイドルでお嬢様。新田先輩はプロの歌手。ばれたらスキャンダル待ったなしの秘密のラブストーリーが始まっちゃうかも!」
「漫画の読みすぎだよ。それに、二人とも普通だよ。ほら───」
ちらと視線を向けると、端の方でパソコンを見ている海未と色明がいる。
ただし、二人だけではなく他にも穂乃果と真姫がパソコンを見ており、共に難しい顔を浮かべていた。
四人は前回スタジオで収録した曲を編集中である。
「穂乃果先輩のこのパート。改めて聞くと曲と少し噛み合わないわ」
「えぇ、取り直し?」
「それも視野には入れますが、何度もスタジオに行ける余裕はありませんからね。できるだけ編集ソフトで誤魔化せないでしょうか?」
「編集ソフトでも限界がありますよ」
「ごめん………」
「穂乃果、謝らないでください。あの時はこれでOKしたのですから。未収録分のパートもありますし、そのときの取り直しましょう」
「ああ、そのことなんだが。あのスタジオ、一年間ただで行けることになったぞ」
「え!? どういうこと新田くん?」
「昨日のこと、店側もあいつ等を招いたことで責任を感じたらしくてな。昼過ぎに連絡があって、お詫びに年間パスを貰えるらしい。つまりスタジオ代は只だ」
「やったね、海未ちゃん! 怪我の功名だよ!」
「どちらかと云えば不幸中の幸いでは? どちらにせよ嬉しいことには変わりませんが」
「活動資金は平等に集めてるからな。だが無料で使えるからと言って、何度も手間をかける時間は無駄だ。次のスタジオ入りでこの曲は完成させるぞ」
「そうですね」
「園田は確認中に違和感があれば歌詞を修正してみる手段も考えておけ。今の歌詞に文句があるわけじゃないが、歌う側がやりやすいフレーズに合わせてやるものアリだぞ」
「わかりました。では、早速ですが穂乃果。貴女のパートで歌い辛い場所は何処かありますか?」
「えーと」
黙々と作業を進めていく二人。
真剣に曲作りを取り組んでおり、そこに浮ついた光景は見られない。
「──真姫ちゃんと一緒に二人とも真面目してるよ。今朝も普通に会話してたし、特に意識とかしてないんじゃないかな?」
「うう~ん、そうなのかな。確かに花陽の思い込み過ぎかも」
「花陽~。次は貴方の番よ」
「あっ、分かったよ真姫ちゃん。じゃあ、行ってきます」
ぱたぱたと真姫の傍に向かっていく花陽を見送りながら、凛はやれやれと溜息を吐く。
「かよちんは恋話とか好きだにゃ。自分もまだなのに。そんなかよちんも好きだけど」
「凛ちゃんはどうなの?」
「う~ん、よく解らないかな…………。嫌いじゃないけど、あまり気にしてない。ことり先輩は?」
「私は恋愛のお話は大好きだよ。初恋はまだだけどね」
私はね──、と心の中で呟くことり。
ちらりと彼女は海未の様子を覗き見る。
また色明と話しているが内容も曲に関することであり、熱い視線を送ってるわけでない。
幼馴染であることりから見ても、昨日の一件によって海未が色明を見る目が変わったとは思えないのだ。
(だって──、変わったのはもっと前からだもんね?)
本人は気づいているだろうか。偶に彼を目で追っているのを。
その回数が日に日に多くなっていることを。
ことりは恋とか愛とか大好きだ。
だけど、無粋なことはしない。
少なくとも、まだ自覚していないだろう気持ちを、本人の口から打ち明けられるまでは。
可愛い幼馴染を見守って楽しむだけに留めておくのだ。
ソフト壁ドン、旨く表現できたでしょうか?
そして、クオリティは別にしても戦闘描写が個人的に乗れて書けました。数年殺伐とした話を書いていた成果ですかね。
三話ほど男共に絡まれる話が続きましたが、次回は逆に女の子ば増えるお話になります。
というか、ようやく出るよ。お姉ちゃん。
ではでは。