貴方だけの歌 ~ラブライブ! School idol IF~   作:貫咲賢希

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\\\[前回のラブライブ]///

(・8・)「恋愛にはそれぞれ鮮度があるチュン!」

(・8・)「急に付き合ってもこっちが付き合えないチュン!」

(・8・)「初々しくも瑞々しい状態から味わっていくからこそ旨みがあるチュン!」

リ`・ヮ・)「ことりちゃん、誰になに言ってるの?」

(・8・)「ハノケチャンには難しい話チュン」



14話・初会ガールと再会ガール

 五月も後一週間足らずで終わる此の頃。

 音乃木坂の屋上で流れていた曲のアウトロが終わり、真姫が停止ボタンをクリックした。

 

「──どう? 私は悪くないと思うけど」

「いいと思う!」

「うん! ことりも」

「うわぁ~、私の声が入ってる曲がほんとにできたよ! これは何かの間違いでは!?」

「かよちん、収録したんだから間違いじゃないにゃ。凛も同じ気持ちなんだけどね」

「私もいいと思いますね。新田さんはどうです?」

「現状ではベストを尽くせたと感じる出来だ」

「なら、OKだね!? やった───新曲完成だ!」

 

 穂乃果が生まれた曲を祝うようにパチパチと拍手を奏でる。

 続けて真姫以外の残りのメンバーも穂乃果に続き手を叩き、取り残された真姫も恥かしそうに小さな拍手をした。

 

「衣装もあと少しで仕上げれるし、これで新しいPVも作れるね」

「え? そうなの? なら、今日の練習は早めに終わらせてことりちゃんの衣装の仕上げを皆で手伝おう。速く新しいPVをアップしたいからね」

 

 ことりから衣装作りの進行状況を聞いた穂乃果が提案した。

 現在、スクールアイドルの公式ページに投稿している動画はファーストライブで撮ったものしかない。

 ブログページで真姫たちの介入報告やみんなで撮った写真を添付してるものの、目新しい活動は最近してないのだ。

 

 

「手伝ってくれるの、穂乃果ちゃん?」

「ことりちゃんや花陽ちゃんばかり任せてたら悪いしね」

「花陽はそこまで衣装作りに貢献してませんけどね。ことりさんの手伝いで精一杯です」

「手伝いだけで十分だよ。私なんてまともに針に糸も通せないもん」

「……それでよく皆で衣装を仕上げようなんて言えましたね」

 

 海未が呆れた視線を送ると、何故か穂乃果は自信に満ち溢れた笑みを浮かべる。

 

「大丈夫! 縫えなくても応援はできるよ!」

「応援なら凛もできるにゃあ!」

「いやいや、五月蝿くしたら二人の邪魔でしょう。手伝いは私と真姫でやりますから二人は大人しくしててください」

「私、裁縫できないんだけど………」

「ことりに花陽。私一人でも貴方たちの力になります」

「園田さんよぉ。最初から俺を戦力外で話を進めるのは感心しないな……」

 

 意気込む海未に残されていた黒一点の色明が苦笑を浮かべる。

 彼の発言にはその場の女子たちにとって意外だった。

 

「新田さん、裁縫できるのですか?」

「解れたものを直すくらいなら男でもできるさ。そのレベルで助力に足るかは別にしてな」

「う~ん。残ってる作業は難しいところだからどうだろうなぁ……」

「なら下手に手伝わないほうが良さそうだねぇ…………」

「新田くん、無理しない方がいいよ」

「そうですよ、新田先輩も凛たちと応援するにゃ」

「最初から諦めてる二人が何故上から目線なのですか……」

「…………。うん! 衣装は出来る人に任せて残りはPVのアイディアを出し合おう!」

「無視ですか……。というか今日も練習はするのでしょう?」

「あっ、そうだった」

「もぉ、穂乃果ったら……。まぁ、逸る気持ちは理解できますが」

 

 海未も速く自分も手掛けた作品をお披露目したかった。

 曲だけなら今からでも投稿できるが、折角ならば衣装と共に公開した方が見栄えがいい。

 

「明日は学校はお休みですし、今日アイディアを出して明日からでも取り掛かりたいものですね」

「PVのために明日、ね。悪いが参加できないな」

「お仕事ですか? 毎度のことならお勤めご苦労さまです」

 

 明日は日曜日なのだが、色明が一般的な休日に仕事をしていても今更不思議ではない。

 もっとも、誰も彼も休んでいたら全体の生活が不便になるだろう。

 海未の実家で行う日舞も公演は祝日が多く、道場も土日に開いていることが多い。穂乃果の家である和菓子屋『穂むら』も前もって決められた定休日以外は営業している。生徒たちの授業がない日でも学校には教師たちが出勤するのだ。

 しかし、それを踏まえても色明は多忙だろう。

 本業によって疎かになった学業は時間を別の時間を作って補い、海未たちのアイカツまで助力しているのだ。彼の働きぶりは同い年の中では確実に郡を抜いている。

 だが、多忙という点であれば海未も同じだ。学業に家業。弓道部にスクールアイドルの二足草鞋。作詞の他にも練習メニューは彼女が担当している。

 日々大変であるがそれでも彼女が全てをこなすのは、やるべきことを自分で選んだ事だからだ。最近では同じく多忙な色明に負けてられないと、切磋琢磨励んでいる。

 

「仕事、ねぇ。…………参加できないのは別件だな」

 

 海未の労いに対し、歯切れの悪い言葉を紡ぐ色明。

 

「? 何か別の御用事ですか?」

「あの、私も明日は参加できないです」

 

 海未が不思議そうに色明が尋ねた傍でそっと花陽が手を上げる。

 

「ああ、そういえば明日は見に行きたいアイドルのライブがあるって言ってたね」

 

 花陽を補足するように凛がそんなことを言った。

 なるほど。アイドル好きの花陽らしい用件だと誰もが納得するが、それを聞いた色明が何故か「嫌な予感がする」とでも言いたげな顔を浮かべる。

 

「へぇ~。アイドルのライブか。どんなグループ?」

「そ、それは────」

 

 興味を持った穂乃果が尋ねると、花陽は一度色明をちらりと見てから口を開いた。

 

「346プロのシンデレラプロジェクトという最近できたアイドル企画がありまして、明日はその記念すべき第一陣デビューユニットたちのミニライブがあるんです」

「346プロというと、新田さんと同じ事務所ですね」

 

 花陽が色明に一瞥したことに気づいた海未がそれが理由なのだろうと納得し、今度は色明の様子を見た。

 すると先程よりも厳しい顔に彼女は首を傾げる。

 まずいものでも食べたような形相。

 同じ事務所の人間のライブを知り合いが見に行くことに抵抗でもあるのかと悩んでいると、「あの──」と花陽が声を出してることに気づく。

 

「───実は前々から気になることがありまして。何も情報がないから単なる偶然かなって思ってたんですけど」

『?』

「…………」

「明日ライブするユニットの一つがLOVE LAIKA(ラブライカ)という二人組みのグループなんですけど、アナスタシアさんと共演される新田美波(みなみ)さんってもしかして──」

「はえぇ、アナスタシアさんて外人さんなのにゃ?」

「違うわ、凛。花陽が言いたいことは──」

「新田美波さん? 新田って──」

「まさか──」

 

 それに気づいた少女たち(穂乃果・凛のぞく)は花陽から視線を変え、色明を見つめる。

 集まる視線に観念した彼は、大きな溜息を吐き出した。

 

「小泉の予想どおりだよ。LOVE LAIKAの片割れは俺の姉だ」

「やっぱり! これは特大情報です!」

「え!? 新田君のお姉さんアイドルなの!?」

「穂乃果、いま気づいたのですか。正確には明日デビューをするそうですけど……」

「それでもすごいよ! 姉弟(きょうだい)で芸能人だなんて!」

「ふぅん、この人がそうね。綺麗な人じゃない」

「真姫ちゃん検索したの? あっ、本当だにゃ。でも、あまり似てないにゃ」

 

 わいわいと騒ぐ少女たちだったが、色明は眉間に皴を寄せて厳格な姿勢をとる。

 

「…………言っておくが、姉は俺関係なしでアイドルになったんだ。コネでデビューしたとか思われないように姉弟のことはまだ伏せてるんだ。絶対、言いふらすなよ」

「ぴゃあ! わ、解りました………」

「新田さん、脅さないでください。花陽が怯えてます」

「むぅ………悪い」

「いえ………私もはしゃぎ過ぎました」

 

 自身でも態度が悪いと察したのかすぐに謝る色明。

 そんな彼を見ながら、仕方ない人だと海未は苦笑した。

 色明に悪気がないのは解っている。姉に妙な偏見が付きまとわないか心配ているのだろう。

 熱くなるのは困ったものだが、いたいけもあると海未は好ましく思えた。

 

「それでは新田さんの用事というのはお姉さんが出られるライブを見に行くのですか」

「……そうだよ。悪いか?」

「誰も悪いとは言ってませんよ。何故、拗ねてるのですか?」

「別に拗ねてねぇよ」

「前にも言いましたが、家族思いでとても良いと思いますよ。むしろ、姉の晴れ舞台を無下するほうが愚かだと私は思いますが」

「…………違いないな」

 

 海未がそこまで言って、ようやく普段の調子に戻る色明だったが。

 

「よし! なら、私たちも新田君のお姉さんが出るライブを見に行こう!」

「はぁあああ!?」

 

 穂乃果の発言で叫声を上げる羽目になった。

 

「いやいやいや、なんでお前たちも見に行くんだよ」

「興味が沸いたからだよ! 元々花陽ちゃんは行くつもりだったし、他のみんなはどう?」

「新田くんのお姉さんが着ている衣装や一緒に出演するnew generations(ニュージェネレーションズ)の衣装も間近で見てみたくなったから、ことりも行きたいかな」

「かよちんが行くなら凛も行くにゃあ。真姫ちゃんはどう?」

「まぁ、PVの参考で見学に行くのも悪くはないわね」

「……そのライブは今からで入場チケットを購入できるのですか?」

「大丈夫です! 池袋のショッピングモールでやるイベントで、通行人が自由に観ることができるライブですよ!」

「なるほど……」

 

 花陽の説明を聞き、路上ライブのようなものかと海未は理解した。

 

「では、私も見てみたいですね」

「園田、お前もか……」

 

 真姫の言うとおり次に手掛けるPVの参考のため見るのは有益だろう。

 個人的にも色明の姉がどんな人か直接見てみたい好奇心が海未の中に芽生えていた。

 

「よし! なら、明日は皆でライブだね!」

 

 もはや結論は決まったとばかりに穂乃果が宣言する。

 色明は反対の意見を出さず、代わりに肩を竦めた。

 

「拒む権利なんざ俺にはないけどな。二年生は前に見せたSoleilのライブと比べるなよ」

「新人とトップアイドルを見比べるような野暮なことはしません」

 

 海未のしっかりとした言葉を聞き、色明もようやく難色した顔を解す。

 

「それなら、俺から言うことはもう何もないさ」

「え?」

 

 自身の不安が杞憂だったと色明が安心していると、花陽が驚いた顔で二年生たちを見た。

 

「せ、先輩たちSoleilのライブに行ったことあるんですか?」

 

 花陽の反応は当然だろう。

 Soleilとはトップアイドル星宮いちごが所属するアイドルグループだ。アイドル好きな彼女が知らぬわけがない。

 花陽はこれまでに何度もSoleilのライブ抽選に挑戦したが、その度に苦渋を味わっていた。

 転売者を憎み、参加者には羨望と己の分まで応援を託し、涙で枕を濡らしたライブを目の前の人たちが参加していたことに驚愕する。

 だが、彼女の驚愕はまだ終わらなかった。

 

「そうだよ。最近行ったんだ」

「さ、最近!? となると名古屋ドームの!?」

「うん。来れなくなった新田くんの家族の代わりに連れてって貰ったの」

「しかも奢りですか!?」

「はい。アイカツする上の参考として見せてもらいました」

「な、なんてうらやま────」

「最後に偶然Soleilの人たちと廊下でばったり会ったのは驚いたね」

「ほぉわ!? ライブ外であ、あああ、あっちゃったのですか───!?」

「新田さんとお知り合いだったようで。少しお話もしました」

「ピャアアアア!!! オハナシチヤッタノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ”!?」

 

 絶叫しながら花陽が崩れ落ちた。

 驚きながら彼女に駆け寄る凛と真姫。心配そうに眺める二年生たち。

 誰もが按ずる言葉を送るが、絶望に打ち震えている花陽には届かなかった。

 落涙。ポタポタと、屋上に乙女の泪が零れ落ちる。

 

「なんで、なんで─────」

 

 彼女が此処まで取り乱すことは稀だ。幼馴染の凛ですやや引き気味である。真姫はオロオロしており、二年生たちは不味い事をしたのか困惑していた。

 しかし、外界の様子など構ってられない。

 抑えられない悲は。仕方なかったと割り切れない慟哭。

 心を苦しめる嘆きを、花陽は高らかに木魂す。

 

「───なんで、もっと早く、私はスクールアイドルにならなかったの!!!」

 

 仮に。花陽が早期にμ'sへ介入しても、色明も持っていたチケットが足りなかったのだが。

 そんな事情など、滂沱の涙を流す彼女には無意味なのことである。

 

 ▼

 

 

 μ's一行が見ることになったミニライブは某所の噴水広場で行われる。

 池袋にあるその場所は、プラネタリウム、水族館、展望台などのレジャー施設とショッピングセンターが連なる超巨大商業施設の中にあった。

 平日でさえ人が多いこの場所は、休日だけあって縦横無尽に多くの人間が往来している。

 ミニライブが行われる噴水広場では日ごとに様々なイベントが執り行なわれており、巨大スクリーンと最新の音響によって舞台を盛り上げるのだ。

 通行人の足を止めるには格別の空間であり、新人の初ライブではかなり優遇された場所である。

 一行はライブ会場に向かう前に、池袋駅の東口から道路を挟んで向かいにある池袋東口交番近くで待ち合わせをすることにした。

 直接現地集合の場合、人が多いため合流するのが面倒なためである。

 駅周辺の待ち合わせスポットも人が多いため、目的地に近い側かつ駅から少し歩いた場所であり、交番近くならナンパなども避けられる。

 待ち合わせ時間前に其処へ辿りついた海未とことりは、他に誰かいないか探し始めた。

 なお、元々は穂乃果も二人と共に来る予定だったが、昨日の夜に連絡があり、二人だけで先にやって来ている。

 

「ことりたちが一番乗りかな?」

「いえ、そうではないようですよ」

 

 そう言うと海未は迷いなく一人の人間に近づいた。

 黒縁眼鏡に中折れハット。地味ではないが景色に溶け込みそうな風貌であり、間近で確認してようやくことりも誰なのか把握する。

 

「こんにちは、新田さん」

 

 海未が人目を避けるため扮装した色明が驚いたように振り向いた。

 

「園田たちかっ……うぃす」

「こんにちは、新田くん。 ──すごいね、海未ちゃん。こんな人が多いのに新田くんをすぐに見つけるなんて。ことりは全然気づかなかったのに」

 

 ことりも挨拶してから海未を賞賛する。

 何処となく表情がにまにまとしているのは気のせいだろうか。

 

「そうですか? 偶々でしょう?」

「俺もびびったな。一応、これでも変装してるんだが」

「あぁ、それで最初に驚いたのですね。まぁ、変装は前にも見たことがありますし、ことりより先に気づいたのも席が隣だからでしょう」

「…………そうかもしれないね」

 

 淡白な返しに、内心つまらないなぁと思いながら、ことりは苦笑した。

 此処で狼狽でもするなら心境の変化を察せれるのだが、其処まで到っていないようである。

 変装している相手を人ごみから一瞬で見つけ出したのは隣の席ゆえ。

 それは理由としては弱すぎるだろう。

 まだ自覚症状はない。

 それはそれで愉悦だとことりは気持ちを切り替え、話題を変えてみる。

 

「ところで新田くん、その紙袋に入ってるのは?」

「あぁ、用事で来れなかった親に頼まれた差し入れと、花束………」

 

 紙袋を掲げながら、照れ臭そうに色明は言った。

 

「目立つわけにはいかないからデカイの用意できなかったけど、一応気持ち程度にはね」

「それはそれは! きっとお姉さまも喜びますね!」

「だと、いいがね……」

「大丈夫です! 花を貰って嫌な気分になる女の人はいませんから!」

 

 それは状況と渡す人間によるのではというツッコミはいれず、まるで自分が花束を貰ったように感激する海未に、ことりはほそく笑む。

 きっと、姉のために花を準備したのと、それに照れているのに心を打たれているのだろう。

 写真に撮りたい愛らしい顔だが今は我慢する。

 本人が自覚するまでは余計なことはせず、一挙一動を眺めるだけにすると決めたのだ。

 しかし、こうも目の前で初々しい光景を見ると、それを肴に好物のチーズケーキでも食べたい気分のことりであった。

 

「でも、甘すぎるのも駄目だから渋めの紅茶も必要だね」

「なんのことですか?」

 

 ことりの独り言に反応したのは、海未と色明ではなく、いつの間にかやって来た花陽である。

 傍には凛と真姫もいた。

 

「あっ、かよちゃんたちだ! こんにちは! さっきのは別になんでもないよ。独り言」

「? そうですか。えっと、こんにちはです」

「やはろーにゃ!」

「凛、何その挨拶?」

「昨日の夜テレビでやってたやつにゃ、真姫ちゃん」

「残るは高阪か…………」

「うわ! 新田先輩いたの? 気づかなかったにゃ。なんで眼鏡してるの??」

「変装でしょう。それよりも、てっきり穂乃果先輩は海未先輩たちと来ると思ってたんですけど…………。まさか、遅刻ですか?」

「そうだな。それは俺も気になった」

「いえ、穂乃果は少し寄るところがありまして。そろそろ来るはずなんですが──」

「みんな、やっほ───!!」

 

 噂をすれば穂乃果が手を振りながら到着した。

 だが、その後ろには別の少女が二人いる。少なくとも一年生組と色明は知らぬ顔だった。

 

「穂乃果さん、その子たちは?」

「うん、紹介するね!」

 

 花陽が尋ねると、穂乃果は二人いる内の一人の背中に周り、その両肩に己の両手を置いた。

 

「この子は私の妹の雪穂(ゆきほ)!」

「ちょっと、お姉ちゃんいきなり引っ付かないで! えっと、はじめましての人ははじめまして。高阪雪穂です。姉がいつもお世話に───いい加減離れてよ、お姉ちゃん!」

 

 ショートカットでしっかりとしてそうな少女、雪穂は抗議するが穂乃果は無視し紹介を続ける。

 

「で、隣の子は雪穂の友達の亜里沙(ありさ)ちゃん」

「どうも! 亜里沙です!」

 

 亜里沙という少女は丁寧にお辞儀した。

 柔らかそうなセミロングの髪。言葉ははっきりしてるものの、瞳は青く、愛らしい人形のような顔立ちは日本ではなく異国の空気を出していた。

 

「亜里沙ちゃんはロシアと日本のクォーターなんだよ。で、今日は元々雪穂と一緒にアナスタシアさんを見に行く予定だったんだ」

「アナスタシア、さん? 誰だっけ、かよちん」

「凛ちゃん……。 アナスタシアさんは新田先輩のお姉さんである新田美波さんとユニットを組むロシアと日本のハーフさんだよ」

「そうそう! 同じロシアの人がアイドルするから前から気になってたんだよね?」

「そうです! そのことを昨日の夜、雪穂が穂乃果さんに話したそうで、そうしたら穂乃果さんが一緒に来ないかと誘われたわけです」

「すみません、いきなり…………。ご迷惑なら私たちはこれで失礼しますので」

「ええ、何度も言ったけどいいよ気にしなくて。一緒に行こうよ! 目的地は一緒なんだしさ!」

「お姉ちゃんが気にしなくても、他の人が気にするでしょ!」

 

 怒鳴る雪穂をぐわんぐわんと揺らしながら駄々を捏ねる穂乃果。

 これではどっちが姉なのか解らない光景に周囲の人間は苦笑いを抑えられない。

 

「う~ん、別に凛はかまわないけど」

「私も別にかまわないかな」

「……元々大勢だし、今更一人二人増えても同じよ」

 

 突然の同行者に不満を出さない一年生たち。ここで難色を示すほど彼女たちの心は狭くないのだ。

 

「俺も構わないな──」

 

 色明も特に反対意見も出さず同行を認める。

 言葉を発したことで初めて彼の存在に気づいた雪穂と亜里沙は一瞬驚き、互いに目を合わせた。

 

「わぁ~、雪穂! 新田色明さんだよ! テレビで見たことある人だよ!」

「話では聞いてたけど本当に女子高に通って、しかもお姉ちゃんたちと友達なんだね」

「そうだよ、すごいでしょう?」

「なんで穂乃果が自慢をするのです…………」

「──ていうか、言いそびれたが」

 

 何やらばつの悪そうな顔する色明。

 何事かと海未が視線を向け、他の少女たちも彼に注目した。

 

「俺にもついてくるヤツが来るんだよ。ていうか、来た」

「やっほ──! 皆さん、おそろいですか!」

 

 はっきりとした声に全員が振り向くと、波のかかった髪で眼鏡をかける少女がいた。

 何処となく、誰もが見覚えのある顔。

 その正体逸早く気づいたのは花陽だった。

 

「き、き───」

「星空、小泉の口を抑えろ!」

 

 刹那、花陽の異変に気づいた色明が凛に呼びかける。

 

「了解にゃ!」

「もご!?」

 

 凛は即座に色明の言葉に従い、花陽の背に回って彼女の口を塞いだ。

 海未は何事かと一瞬困惑するが、見に覚えのある顔に花陽の反応。

 更には聞き覚えのある声で、新たに現れたのが誰なのか解った。

 

「霧矢あおい、さん」 

「どうもどうも、ライブ以来だね。海未ちゃん」

 

 Soleilのメンバー。スターライト学園意所属するプロのアイドルの霧矢あおいはウインクをした。

 

「覚えてくれたのですか……」

「そりゃあ勿論! 色明の友達だし三人とも可愛い子ちゃんだしね」

 

 人目を避けるように、目立たない格好をしているあおいは周りをゆっくり見渡す。

 

「穂乃果ちゃんにことりちゃんもお久しぶり~」

「は、はい! お久しぶりです」

「その節はどうも」

「いいよ、硬くならなくて。海未ちゃんはそういう子みたいだからいいけど、二人は同い年だし普通に話して欲しいなぁ。今は私もオフだしね」

「えっと、わかりました──じゃなくて分かったよ、あおいちゃん」

「うん、ありがとう穂乃果ちゃん。で、そこの貴女は真姫ちゃんで合ってる?」

「ヴェエ!?」

 

 まさか自分の名前を呼ばれるとは思わなかった真姫は変な声を出して驚いた。

 

「ど、どうして私の名前を!?」

「そりゃあ、色明に聞いたからね」

「…………」

「睨むなよ。変なことは言ってないぞ」

「色明の言ってることは本当だよ? 音楽の才能が凄いんだってね」

「ま、まぁ、それなりには……」

「……へぇ、そこで謙遜じゃなくて一応は認めるくらい自信があるわけだ。時間があれば貴女ともゆっくりお話したいわね。次は──其処の元気そうで可愛い子は星空凛ちゃん!」

「は、はい! で、でも凛は可愛くは──」

「? なに言ってるの? 可愛いじゃない。で、凛ちゃんに口を抑えられてるのは花陽ちゃんだよね。 もう、落ち着けた?」

 

 すると、凛に口を抑えられたまま花陽はこくこくと頷いた。

 それを見た凛がもう大丈夫かな、と彼女を開放する。

 途端、花陽はあおいに近づき、その両手を握り取った。

 

「あの、あおいさん!」

「ひゃい!?」

 

 突然掴まれたことで、先程まで周囲を戸惑わせてたあおいが逆に戸惑っている。

 そんな彼女にぐいっと近づき、花陽はだらしない顔を浮かべた。

 

「ファンです! サインください!」

「え? あ、うん。いいけど、何か書くものとかある?」

「はい! 何時如何なる時でもアイドルに遭遇してもいいよう常備してます!」

 

 あおいの手を離し、何処から取り出したのかささっと色紙とマジックを準備する花陽。

 それを見たあおいは、ぷっと笑った。

 

「本当にアイドルが好きなんだね、花陽ちゃん」

「はい! 大好物です!」

「ふふ、私と一緒だね。じゃあ、貸して。さらさら~と、はい、これでいい?」

 

 慣れた手で素早く色紙に描いたサインを受け取り、花陽の目は輝いた。

 

「ありがとございます! うわぁ~、思いがけない大収穫だよ~」

「喜んでくれて嬉しいな。えっと、残りは…………」

 

 あおいは雪穂と亜里沙に目を向けて、困った顔を浮かべる。

 察した二人は自分たちから自己紹介をした。

 

「穂乃果の妹の雪穂です。で、こっちが私の友達の──」

「亜里沙です。今日はLOVE LAIKAを見たくて、皆さんとご一緒させてもらうことになりました」

「なるほど。なら、私も一緒だね」

「えっと、あおいさんもLOVE LAIKAを見に?」

「一緒に出演するNG(ニュージェネ)もだけどね。新人だろうがアイドルの情報は常にチェック。何故なら私はアイドル博士だからね!」

「アイドル博士!」

「知ってるのかよちん!?」

「霧矢あおいさんが持つ異名の一つだよ! プロアマ問わず、アイドルのことなら芸能界一詳しいとも言われてるんだよ。実際、クイズ番組でアイドルの問題は一度も間違ったことがないくらい凄いんだよ!」

「単なるアイドル好きなだけなんだけどね。もっとも、今回のミニライブは美波お姉ちゃんに会いたいからでもあるけどね」

「美波、お姉ちゃん?」

 

 不思議そうにした花陽にあおいは説明する。

 

「もしかしたら花陽ちゃんなら知ってるかもしれないけど、私と色明は幼馴染で小学生まで一緒のお稽古をしてたんだ。で、色明のお姉さんである新田美波さんもそのお稽古をしててね、美波お姉ちゃんって呼ばせて貰ってるくらいお世話になったんだ」

「新田先輩とあおいさんが幼馴染で一緒のお稽古を習ってたのは知ってましたが、美波さんも同じ稽古を! これは見過ごすことができない情報です!」

「という訳で、私もご同行するからよろしくね!」

「強引についてきたんだから、形でも了承の確認はしろよ………」

「私は勿論大歓迎ですよ!」

 

 色明が呆れている中、花陽は興奮したように目を輝かせる。

 

「凛ちゃんも真姫ちゃんも大歓迎だよね?」

『え?』

「大・歓・迎・だ・よ・ね!?」

『はい、大歓迎』

「穂乃果も大歓迎だよ! 一緒に行こう、あおいちゃん」

「ふふ、穂乃果ちゃんはすっかり打ち解けたみたいだね」

「そういうことりちゃんも仲良くしようよ」

「うん、改めてよろくしくね。あおいちゃん」

「よろしく! そっちの子達もお邪魔するね」

「お邪魔なんてそんな! 私たちもお姉ちゃんについて行くだけですし」

「うわぁ、あおいさんも一緒に行くなんて! 凄いね、雪穂」

「お前たち………、はしゃぐのはいいがささっと行くぞ」

 

 時間が気になり初めた色明が、ぶっきらぼうに彼女たちへ忠告した。

 そんな彼にあおいはにんまりと笑った。

 

「おやおや、両手に花どころか一面花畑なのに色明はお姉ちゃんが気になりますか」

「おぅ、そうだな」

「素直に認めちゃうんだね。照れ隠ししてもいいのに」

「そうしたらお前は付け上がるだろうが」

「その通りだねぇ」

 

 面白そうに笑うあおいに面白くなさそうに顔を顰める色明。

 一見険悪に見えなくもないが、どちらも遠慮がないやり取り。

 

 そんな二人の会話を、海未が黙って見つめいる。

 

 以前のライブでは意識しなかったが、幼い頃は同じ稽古事し、未だ連絡は取り合っているようなので二人の仲は深いと分かる。

 不意に──心の中で暗雲が漂う。

 だが、海未は己の心情に気づいていない。

 

「ていうか、お前らに付き合って見過ごすわけにはいかないし、俺は先に行くぞ」

「はいはい、そんなにツンケンしないでみんな行きましょう」

「そうだよ、新田くん! 折角集まったんだし、みんなで行かないと。よし! じゃあ、出発!」

 

 穂乃果の掛け声と共に、ぞろぞろと移動をし始める一同。

 先頭で和気藹々と花陽や穂乃果と話しているあおいを見て、色明はやれやれと溜息を吐いた。

 すると、自分をじっと見つめてきた海未に気づき、彼は思わず苦笑する。

 

「悪いな。急な同行者を追加してよ」

「いえ、穂乃果も雪穂たちを連れてきましたし、みんなも霧矢さんに喜んでいます」

「園田は歓迎してなさそうに見えるんだが……」

「え?」

 

 言われて、海未は心外そうな顔を浮かべた。

 

「誰もそんな顔してません。貴方の気のせいじゃないですか? 私が霧矢さんを拒絶する理由など思いつかないでしょう?」

「言われてみれば、そうだけどな……」

「まったく、失礼なことを言わないでください。貴方の謂れの無いことで霧矢さんの気分を悪くしたらどうするのです」

「そうだな。表面上平然としても傷つくだろうし、俺も変に気を使うのは止めよう。アイツも滅多にないオフだろうし、楽しい時間にしてやらないと」

 

 慈しむように口端を緩める色明。

 それを見た途端、海未は気分が悪くなり、自身で戸惑う。

 

「…………。分かればいいのです」

「いや、待て。やっぱり機嫌が悪いだろ? あおいのこと関係ないなら、単に体調が悪いのか?」

「……そうかもしれません。今日は人が多いですし、少し人に酔ったのかもしれません」

「マジか」

 

 心配する色明に気づき、彼女は狼狽した。

 

「はっ!? 気を使わなくて結構ですよ! すぐ調子戻ると思いますし、それこそ私にも変に気を使うの駄目です。貴方もお休みなんですから、私なんかよりもお姉さんのことを考えてください」

「まぁ、そのために今日は来たわけだしな」

「そうですよ……」

「…………。向こうについたら少し休める場所でも探すか?」

「平気です。もうスッキリしました」

「回復するの早いなオタク!?」

 

 先までテンションが低かった海未が急に快活になる様に戸惑う色明。

 そんな二人の少し前を歩く雪穂が隣でぷるぷると震えていることりを心配そうに見つめる。

 

「あの、大丈夫ですか? もしかして気分が?」

「だ、大丈夫だよ雪穂ちゃん。少し悶えただけ。むしろ気分はハイだよ!」

「は、はぁ……」

 

 類は友を呼ぶという言葉がある。

 自分の姉もそうだが、その友達も少し人とは変わっているようだ。

 

 




 更新一週間意地できるか? お久しぶりです、貫咲賢希です。
 修正しながら投稿しようと思いましたが、レビュー途中編集を間違って消したので、不出来かもしれませんが、後で確認します。眠いのです。

 さて、今回宣言どおりようやく美波さんが(お話の中で)登場しました。他のデレマスメンバーはアーニャちゃん以外出る予定は希薄ですね。そもそもNGの扱い悪いとか言われそうです。そのためのアンチヘイトタグなんですけど。
 そもそもμ'sですら9人(まだそろってない)で多いのにこれ以上キャラ増やしたら絶対ぐだる。μ'sのメンバーで聖杯戦争とか人理救済とか異世界冒険(レイアース)的なとか考えても絶対エタる。ポケモンなら短編でできそうだけど。
 そして今回、雪穂と亜里沙も登場。このタイミングで亜里沙が登場ならば、察する方は多いかと。つまり、そういうことです。
 更に再登場のあおい姐さん(霧矢あおいの愛称)。彼女は重要な立ち位置なので今後も出番が多いかと。

 さて、いつになったらμ'sが揃うのか。
 試行錯誤して誘惑に抗い、日々やるべきことをこなして、続けるしかありませんね。

 ではでは、また次に。

 PS、1話に簡単な自分が描いた新田色明の絵とプロフィールを乗せました。
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