貴方だけの歌 ~ラブライブ! School idol IF~ 作:貫咲賢希
╭*(≖‿ゝ○)*╮「例えば、己が一生が既に定められているとしたらどうか?」
ノノc√σ_σV「!?」
╭*(≖‿ゝ○)*╮「弱者は弱者にしかなれず、強者は強者にしかなれない」
╭*(≖‿ゝ○)*╮「そんな世界だと、甘んじて受け入れれるか?」
╭*(≖‿ゝ○)*╮「否、断じて否」
╭*(≖‿ゝ○)*╮「それは即ち、全てが敗者ですらなくましてや勝者など存在せず、全てが瓦礫に他ならない」
╭*(≖‿ゝ○)*╮「ならば繰り返すしかあるまい。勝ち続けるまで、何度でも」
╭*(≖‿ゝ○)*╮「ゆえにそれは不敗であり、永劫である」
╭*(≖‿ゝ○)*╮「幾度でも繰り返そう、既知の先である未知の彼方まで」
ノノc√σ_σV「…………」
╭*(≖‿ゝ○)*╮「では、今宵の
ノノc√σ_σV「さっきから何してるのよ?」
╭*(๑˘ᴗ˘๑)*╮「なんでもあらへんで、獣殿」
ノノc√σ_σV「誰よ獣殿って」
╭*(๑˘ᴗ˘๑)*╮「最近アニメしたから、ちょっとしたお遊びやん」
╭*(๑˘ᴗ˘๑)*╮「少しうち等と似とるからな。金髪と不思議コンビ」
╭*(๑˘ᴗ˘๑)*╮「流石にあんなうざいとは思ってへんけど。なぁ、獣殿?」
ノノc√σ_σV「だから、誰よ獣殿って!?」
絢瀬絵里がクラシックバレエを始めたのは何が影響だったか定かではない。
劇場でプリママドンナを見たときか。
尊敬する祖母の若い頃を残した、バレリーナの写真を見たときか。
それとも偶々興味を持ったのか。
あるいはそれらの全てか。
少なくとも物心ついたときには既に絵里はバレエに没頭していた。
長時間、アラベスクでいることは辛くなかった。
アントルシャ・カトル、チャイコのトゥールズアンレール。
次々と技法を覚えるのが楽しく、精度を高めれば嬉しかった。
そして、何よりも心躍るのは舞台。
特にヴァリアシオン──大きなステージを一人で踊れるときは高揚が病み付きになる。
初めてジゼル第一幕を踊りきったとき、最初の緊張が嘘ように消えさり、体全体が熱いもので満たされた。その後の観客たちに送られた多くの拍手が、彼女にとっての褒美。
何より、傍から見ても絵里は逸材だった。
美しい容姿。そして恵まれた才能と絶え間ない研鑽。
彼女は様々なコンクールに次々と受賞した。その界隈では知らぬものはいないほどの綺羅星と知れ渡る。
だが、ある時期から彼女の活躍は減衰していく。
コンクールで一番になることが少なくなった。
今まで銅賞止まりだった人間に金賞を奪われる回数が次第に増えていく。
何処かの記者が面白半分で書いた記事に傷つきもした。
『かつての天才バレリーナ、現在は遊び呆けて金賞を逃す』
記事を書いた記者は侮辱されて激怒した彼女の家族により訴えられたが、噂の尾ひれは止まらない。
実際には絵里が遊ぶ時間を持つことは殆どなかった。
真面目に学業をこなしながら、空いた時間は全てバレエに費やす。周囲の人間もそれを理解し、彼女を応援した。
そんな、一つの大きな機会が訪れる。
『モスクワ国際バレエコンクール』
世界でも主要なバレエコンクールの一つであり、挑戦権を得た絵里は汚名返上のために挑んだ。
これまでの全てをぶつけて踊った結果、ファイナルラウンドまで進出する。
惜しくも受賞は逃す。コンクールで受賞をしなかったことは、これが初めてだった。
悔しい思いが溢れたが、若年層でここまで勝ちあがれたのも優秀な証拠。心機一転して彼女は次の道を選ぶ。
今度は個人で踊り続ける止めて、幾つかの劇団のオーディションを受けることにした。
天才と持て囃される自分ではなく、一からバレエを学ぼうと決心したのである。
──だが、彼女の悲劇はここからが本番だった。
なんと、絵里が申し込んだオーディションは全て不合格なったのである。
明らかに彼女よりも実力や実績が劣っている人間が合格する中、彼女だけは落とされ続けた。
ここまで行くと異様である。絵里の実力は折り紙つき。その結果に不審に思う人間は少なくなった。
彼女がクォーターだから。あるいは過去の噂を気にして拒絶される。それとも実力が高すぎるため受け入れてもらえなかった。彼女を妬んだ何者かの仕業など陰謀論すら上がる始末。
しかし、様々な憶測が飛び回ったが、最後に残ったのは結果だけ。
心機一転の決意すら何度も砕かれた絵里はもう踊れなくなった。
バレエに挫折した。
それまでの人生のほとんどを捧げたものを失った彼女は、学校も登校しなくなる。
家族が彼女を心配する中、丁度共働きの両親が父親の祖国である日本へ転勤することが決まり、いい機会だと鬱ぎ込んでいた絵里を連れ、親子共々日本へ移住した。
なお、彼女の妹である亜里沙は、幼い頃に環境が変わるのを避けてロシアの実家に残した。
日本に来てからの絵里はなんとか回復する。
学校にも通えるようになる。前々から父から日本語を教わっており、元来優秀ため問題なく勉学に励んでいた。
そんな彼女に両親は嬉しく思うも、同時に悲しくもあった。
学校に通ってはいるものの、親しい友人はいないようだ。当然、バレエのことも話題には出さず、両親からも出さない。
家族間でのバレエの話題は精々、偶に会う妹の亜里沙が時折話す程度。心配をかけないようにと亜里沙には姉がバレエを辞めた経緯を教えてなかった。
物事を深く考える年頃になると、亜里沙は姉や両親に何があったのかと尋ねるも毎度はぐらかされ、結局彼女も問いただすことは止める。
──月日は流れ、絵里は祖母が留学していた音乃木坂学園に入学した。
しばらくすると、気の合う友人もできたようで、前よりも明るくなった彼女に両親はやっと安心する。堅苦しい印象が残っていたが、成長したゆえ幼さが抜けたのだろうと考えた。
絵里が進級した頃に両親は仕事でロシアに戻ることが決まったが、折角馴染んでるので絵里を日本に残し、代わりにロシアから妹の亜里沙がやってきた。
絵里は妹と二人暮らしを始めた当初苦労したものの一年もすると慣れる。
学校では生徒会長にも選ばれて、今度こそ順風満帆な青春を過ごせると思った高校最後の年、音乃木坂学園の廃校問題が浮上した。
絵里がそれを知ったとき、抱いた感情は悲しみや落胆ではなく、怒りだった。
また自分から奪うのか。
ここは親友と出会えた場所だ。
他にも沢山の友人や思い出がある。大好きな祖母にとっても思い出の場所なのだ。
自分だけではない。歴史ある学校なら、それだけの数の人間が思い入れのある場所なのだ。
父親の祖国ではあるが、それよりも祖母の思い出話を聞いて、日本に、音乃木坂学園に絵里は憧れていたのだ。両親の転勤がなくとも、音乃木坂学園へ留学しようかと悩むほどに。
だから、守らないと。
駄目だったと、今度こそ諦めたくない。
大事なもの、自らの手で守るのだ。
そのためならば、どんなこともする。誰かを利用してでも、絶対に。
▼
「今日はここまで」
絵里がダンス指導をして一週間が経過した。
基礎トレーニングも徐々に慣れ、メンバー全員のバランス感覚と柔軟性が飛躍的に延びている。
しかし、相変わらず同じことの繰り返しだった。
「あの会長、少しいいですか?」
声には出さないが一年生たちはそれに不満であり、このままでは不味いと判断した穂乃果が帰ろうとする絵里を呼び止める。
絵里は振り返ると静かな目で穂乃果を見つめた。残りのメンバーも穂乃果が何を話すのかと見守る。
「……何かしら?」
「会長の特訓には感謝してます。でも、そろそろ他のことも教えてほしいのですが……」
「基礎トレーニングは飽きたと?」
「飽きてないです、と言えば少し嘘になりますけど、基礎トレーニングも他にもステップとか振り付けとかダンスの指導も追加でして欲しくて……」
まだそのレベルではないと怒られたらどうしようと、内心ビビリまくりながら苦笑いを浮かべる穂乃果を前に絵里は僅かの間、考えた。
「…………そうね。トレーニングも全員がこなせるようになったし、ダンスレッスンも追加しましょう」
「いいんですか!?」
進言した穂乃果も断れると思っていた手前、思わず確認してしまう。
絵里の言葉にμ's全員が意外そうにしつつも顔が見る見るうちに明るくなった。
「ええ。私も次の段階に進むべきと思ってたしね。では、貴方たちの新曲を今此処で踊ってもらえるかしら?」
だが、絵里の一言で全員の顔が石のように固まる。
まさかいきなり踊れと言われるとは思ってもいなかたったのだ。
戸惑って動きを見せない彼女たちに、絵里は仕方ないと溜息をつきながら説明を始める。
「私ができるのはあくまでクラシックバレエであって、アイドルが踊るようなダンスじゃない
なら、貴女たちのダンスを見た後、私が不出来な部分を指摘して改善する方法がいいと思ったのよ。それとも貴女たちはバレエをしながらアイドルの曲を歌うつもりだったのかしら?」
「それも面白そ──、いえ、違います。あぁーと、では、踊りをみてください。みんなやるよ!」
海未に睨まれて愛想笑いを浮かべた後、穂乃果は気持ちを切り替えるように仲間たちへ呼びかける。
「やるのはいいけど、音はどうするの?」
「えっと、私が携帯に音楽を入れてからそれを流しながらしよかった」
「本当は新田さんが持ってくるようなものがいいですが、致し方ないですね」
真姫の問いに花陽が答え、海未が頷く。
音付きで練習する際は色明が持参する持ち運び用の音響機器で行っているが、ダンス指導では必要ないと判断したためこの場にはない。
ちなみに、持ち主である色明もこの場にはおらず、彼は補習授業を受けていた。度々仕事で抜ける彼が授業に遅れないよう学校側の処置だ。
花陽がボリュームを上げて、安全な位置に携帯を置くと急いで定位置に向かう。
軽快なリズムに乗って踊りだすμ'sたち。
ダンスを見せるということだが歌もパート通り奏でていた。
この曲は海未と真姫が色明の助言を得て作り上げた音楽だ。プロお墨付きの一曲に仕上がった作品に相応しいようにと、少女たち歌う。
楽しげなメロディーの中で笑顔を振りまきながら少女たちは舞い、そんな彼女たちを絵里は静かに見つめる。
しばらく経って──曲が終った。
μ'sたちは少し息を乱しながらもやり切った顔を皆が浮かべている。
自分たちでも絵里の指南により体を円滑に動かせていたと実感していた。
が、これならば文句ないだろうと全員が絵里に視線を向けると、能面のような表情に少女たちの高揚が止まる。
「駄目ね。これは人前で見せられるものではないわ」
『!?』
「いったい何が駄目だと言うんですか!?」
冷たい言葉へ真先に反感したのは真姫だった。
対して絵里は激高することもなく、淡々と説明する。
「言いたいところは沢山あるけど、所々リズムとずれているわ。振り付け自体も曲に合ってないと私ですら思う箇所がある」
「曖昧に言われても納得できるわけないです」
「そう言う発言も見越して先程の歌っている間、私の携帯で撮影したわ」
「! いつの間に!?」
これには全員が驚く。彼女たちはパフォーマンスに集中するあまり、絵里の行動に気づいてなかったのだ。
「画質はともかく、確認するだけならこれで十分。ほら、全員こちらにいらっしゃい」
絵里の言葉にμ'sたちは彼女に近づく。文句を言っていた真姫も凛に一声かけられると渋々絵里の下へ向かった。
そして、絵里の携帯から先程の光景が流れる。
自分たちでも悪くないと客観的に見ても思ったが、彼女たちにこれを見せ付けた絵里は違った。
「ほら、ここ。南さんが音にズレたわ」
「うぅ……」
早速、ことりが駄目だしを食らう。
確かに指摘されみるとステップが僅かに遅れているのが理解できた。自分ではできていると思っていたので恥かしさと気落ちで俯くことり。
「大丈夫だよ、ことちちゃん。言われないと全然気にならない──」
「ここでは高阪さんが周りを気にして視線を泳がせているわ。周囲に気を配るのも結構だけど、第一に自分のダンスに集中しなさい」
「はわっ!」
今度はフォローしていた穂乃果が注意される。
それからも次々と駄目だしを受け続けるメンバーたち。少なくとも一人あたり一、二個は注意を受けてしまった。
他にも要所で振り付けが音楽に合わないなどの指摘を受けて、動画が終わる頃にはμ'sたちは全員が意気消沈している。
自分たちなりに上達したと思っていたが、こうも駄目だしを受け続けると自尊心が傷つくのも仕方ない。
「なに落ち込んでいるの? これは解り切った結果よ」
沈んでるメンバーたちに追い討ちをかけるように絵里が言葉をかける。
「貴方たちが学んだのは基礎の基礎。それだけで上達が出来たと思ったのならば、今すぐその勘違いを捨てなさい」
『…………』
「返事は?」
『!? ──はい!』
「結構。では、残りの時間は今のダンスで音が合わせられるように練習するわよ。ダンス事態の手直しは私がやるわ」
「ダンスの手直しまでやってくれるのですか?」
絵里の言葉に海未が思わず聞き返す。
他のメンバーもその発言には予想外だった。
引き受けてくれたとはいえダンス指導は乗り気ではないと思っていただけに、彼女の申し出は意外だったのである。
μ'sたちの不思議そうな視線を感じ取った絵里は、少し不機嫌そうに顔をすぼめた。
「なによ。不満を言い出したのは私なんだから改善案を提示するのは当たり前でしょう。それよりも速く位置につきなさい。できるまで何度も繰り返すんだから」
▼
「うふふ、近頃は熱心やなぁ」
「何よ、急に」
テキパキと絵里が仕事を行っていると、不意に東條希が彼女へそんなことを言った。
絵里がダンスの手直しを言い出した翌日の放課後、生徒会室。他の役員たちはそれぞれ部活動や用事のため、この場には絵里と希の二人しかいない。
μ'sのダンス指導を請け負った絵里だが、当然生徒会長としての仕事も行っている。
今日は16時まで生徒会業務をした後で、μ'sの練習に向かう予定だった。
「生徒会にあの子たちのダンス練習。随分と充実した毎日やない?」
「必要だからやっているだけよ。この仕事も彼女たちに付き合ってるのも」
素っ気無く返事をする絵里だったが、希はゆっくりと微笑む。
「そう言ってるけど、最近のえりちは何処か楽しそうやで?」
「楽しそうですって?」
心外な言葉に思わず絵里は顰めた顔で希に向けた。
これで手元で留守だったならば文句を言えるが、彼女はちゃっかりと視線は机の落として作業を行っている。
「前までピリピリしてながら仕事をしとったけど、今はとってもリラックスしてるやん。お陰で他の役員の子らも怯えんですんでるわ」
「それではまるで、前まで怖がらせてたみたいじゃない」
「怖がらせてたで?」
「────」
すっぱりと言い返した希に絵里は逆に言い返せない。
思い当たる節がある。
廃校問題やそれに対する生徒会活動の抑制により自分は苛立ちを貯めていた。
周りに当り散らすような真似はしてないが、生徒会の空気を悪くしてないとは言い切れない。
「今度フォローしないと」
「そこまで気にせんでもええよ。頭がことある度に謝ってたら尊厳が揺らぐで?」
「自分に非を感じたら下の人間に対しても謝罪は必要よ。でなけば、相手が粗相を犯したときに注意しても、不満を募らせるだけだわ」
「おぉ。えりちは良い上司になるな」
「悪かったわね。今まで良い上司ではなくて」
拗ねたように口を尖らせながら絵里は視線を手元に戻し、仕事を再開する。
「前から良い上司やで? スクールアイドルの手伝いしても生徒会の仕事は疎かにしてへんし、おまけに学業優秀の美人さん。いやぁ~、親友として鼻が高いわ」
「それはどうも……」
「話は戻るけど、近頃のえりちは本当に楽しそうや」
そう言いながら希は横にいる絵里を覗き見るも、彼女の手元は一切止まっていない。
「気づいとる? 前までスクールアイドルの話が出るたびに怖い顔したけど、今は自分から偶に話してて、そんときの顔は笑ってるねんで?」
「……」
この間まで絵里はスクールアイドルは児戯のようなものだと軽視していた。
だが、実際にμ'sの練習を目にしたことで、他に青春をささげているたち者たち同様、真剣に活動していることを理解したのだ。
少なくとも、彼女たちは、μ'sは本気だった。
辛辣な冷罵に耐えて、挫けることなく練習に励む。
そんな彼女に絵里が好感を持つようになったのは事実だった。
「……今更仲良くしろなんて言うつもり?」
「なんや。うちが言わんでも自分の気持ちに気づいとるやん」
「誰も仲良くしたいなんて言っていないでしょう。今のは貴女の希望を代弁しただけ」
あくまで絵里は冷淡に言葉を重ねる。
「私が彼女たちやスクールアイドルを認めてきてるのは肯定するわ。けど、それでより深く踏み込むかは別の話」
「えりち……」
「所詮は互いを利用し合ってるだけの関係よ。彼女たちは私の技術が目的で、私は学校存続の保険として協力してるだけに過ぎない。必要以上に馴れ合いをする理由はないわ」
「豪い難儀なこと言うやん。そんなことを考えてる時点で意固地になってる証拠やで?」
「……最近の希はお節介が過ぎるわ」
そう言うと絵里は手元に広げていた筆記用具や書類をまとめを片付け始めた。
希は絵里が話から逃げたとは言わない。時計を見れば、生徒会で作業してか随分と時間が経っている。
「練習に向かう時間やな。ほな、うちも」
「なんで希まで片付け始めるのよ?」
共に片付け始めた希へ絵里は怪訝そうな目を向けた。
「えりちもいなくなるなら、一人は寂しいしうちも今日は帰ろうかなって。勿論、今日の分の仕事は片付けたで。なんならいま確認する?」
「いいえ、結構よ。明日他のと纏めて見るわ」
飄々しい態度は目立つが、希は生徒会の副会長として認められる能力はある。
話しながら平行していた仕事は、彼女の言葉どおりきっちり終わっているだろう。そもそも、ここで誤魔化す人間ならば絵里はとっくの昔に希を副会長から解任していた。仕事はまだあるのだが、今日の分が終わっていれば文句はない。
片づけを終えた絵里たちは生徒会室の戸締りをすると、揃って同じ方角に進む。
すると、階段を上ろうとしたところで生徒会室でジャージに着替えていた絵里が振り返った。
「待ちなさい。何故、希も付いて来るの?」
眉間に皴を作りながら絵里は希に尋ねる。
絵里はこのままμ'sが練習している屋上に向かうのだが、帰るはずの希は一階の玄関に向かうため階段を下りるはずだ。
「いや、折角やし、今日はえりちを交えたあの子達の練習を見ようかなって」
「何が折角なのよ」
「いいやん。別に今日が始めてやないやろ?」
希の言葉通り、絵里がμ'sたちに指導している光景を既に彼女は何度か目撃している。
最初は何故いるのかと咎めていた絵里だが、拒否する理由もなかったので放置していた。
だが、今日の絵里は何処か来てほしくなさそうに難しい顔を浮かべている。
おや? と、それに気づいた希は悪戯な笑みを浮かべた。
「なんや。今日はうちが見たらやばいことでも仕出かすつもりやったん?」
「そんなことしないわよ! ただ、今日はその──」
居心地を悪そうにしていた絵里だが、離れることない希の視線に観念し口を開く。
「私が考えたダンスを彼女たちに見せるから、それだけよ。別に疚しいことはしないわ」
「えりちが、ダンスを見せる?」
思わず聞き返した希は、次の瞬間、破顔した。
希は絵里がバレエをやっていたことはしっており、昔の動画も見たことがある。
だが、実際にこの目で彼女が踊っている姿は見たことがない。μ'sたちの指導で軽い動作を見せることはあっても、本格的な踊りは見せなかった。
そんな彼女が自分が考えたダンスを人前で踊るらしい。
絵里がバレエを辞めた事情を知っていた希は、驚きと嬉しさが込み上げてきた。
「なるほど、それは絶対に見逃せへんな」
「やっぱりついて来るのね。いいわ、勝手にしなさい」
ここで拒絶しても最終的に言い包められるだけと判断した絵里は同行を許した。
絵里にとってもも希が傍にいるのは
▼
「ご苦労様です。と、おやまぁ、今回は珍しいお客さんも来たもんすね」
絵里と希が屋上にたどり着くと、出迎えたのは女子高では異色の声。
扉付近の壁に背中を預けていた色明は、練習に夢中になっているμ'sたちを眺めつつ、絵里の後ろにいた希を尻目にした。
「そんな君こそ此処にいるのは珍しいやん。歌のことしか興味あらへんと思ったけど、女の子の汗や運動で乱れた艶かしい姿に興奮するのん?」
「俺がそんな男ならばこんな場所にはいないすよ」
「健全な男やったらそれくらい普通やで。それとも君はそっちの趣味の人?」
「流石に男に惚れたことはないすよ」
「二人の会話は後でしてもらえるかしら? 新田くん、いまどういう状況?」
「ご覧の通り会長さんに言われた練習を反復してるとこさ」
二人の戯言に構うつもりがなかった絵里が割り込むと色明は苦笑しながら答える。
「ほら、お前ら! 会長様のご到着だ!」
『! お疲れ様です!』
色明が手を叩いて呼びかけると、μ'sたちは絵里たちの存在に気づく。
「お疲れ様」
「やほ~、みんな励んどる?」
「あっ、副会長」
「この子のことは気にしないで。希も邪魔するようならすぐに帰って」
「はいはい、うちは隅っこで新田くんといちゃいちゃしとくよ」
「え?」
「海未ちゃん、絶対冗談だから気にしないの」
希の戯言で一瞬一部がざわついたが、絵里ば自分に視線を向ける少女たちを確認する。
多少息は乱れているが、まだまだ動ける様子。ならばと、彼女は己が果たすべき役割をこなすことにした。
「早速だけど私が考えたダンスを見せるわ」
「もう考えてくれたんですか!?」
絵里の言葉に真先に驚いたのは真姫である。
「私が駄目だししたのだがら改善案も早急に提示するのは当然よ」
貴女たちも速く新曲を披露したいでしょうし、という言葉を自分しか聞こえないような声で続けると、絵里は気持ちを切り替えるようにワザとらしく咳払いする。
「では、早速音を頂戴。もしも不満を感じたのならば終わった後で聞き受けるわ。あと何度も見せるつもりはないから誰か録画してもらえる」
「なら、花陽が携帯で録画を」
「じゃあ、え~と、音、曲、音楽は~」
「俺のプレイヤーで流すからお前たちは見る準備をしろ」
オロオロする穂乃果を尻目に色明は自分の足元に置いたあった音楽プレイヤーに手を伸ばす。昔ならばラジカセだが、今は持ち運びのためスマートフォンや小型専用機器が主流だが、自分の耳だけではなく周囲に良音を響かせる音楽機器は今でも存在するのだ。
「準備はいいすか?」
曲を選択して後は再生ボタンだけの色明が絵里に確認した。
既にμ'sたちのはこれから踊る彼女のためにスペースを空けて座っており、端で神妙な顔つきになった希が見守っている。
絵里は深呼吸をした。
人前で踊るのはいったい何年ぶりだろうか。奇妙な成り行きで他人に踊りを教え、これから自分自身が考案したダンスを披露する。
告白するなら、不安はあった。教えることはできたが、今の自分が人前で踊れるのかと。
そんな自ら抱えた重圧を危惧していた彼女だったが、自然と心は動く。
「……いいわ、始めて」
──音楽が流れた。
先日、聞いてから家で何度も聞き返したメロディー。
イントロと同時に絵里の四肢は戸惑い無く動き出した。
楽しげな曲と共に一人踊る少女。不安や間違い、戸惑いを抱えても未来を目指す音楽。絵里はそれをフェスティバルで踊るように愉快に軽快にステップを踏む。
学ぶ為に真剣に見ていたμ'sたちだったが、すぐに緊張した顔を緩ませる。
離れた場所で眺めている色明も感心したように頷き、初めて見る親友の姿に希は色んな感情を込み上がらせた。
この場にいる誰もが楽しい気持ちにさせるダンス。誰もが自然と笑顔を浮かべた。
それは当事者である絵里もである。
金色の髪を靡かせ、眩しい微笑と共にその場にいる者たちを感動させたのだ。
アウトロが終了すると同時にピタリと絵里の動きが止まる。
次の瞬間、彼女のダンスに魅入られたものたちの拍手が屋上に響く。
「わぁ、会長すごいです!」
穂乃果の歓声が聞こえ、ようやく絵里は終わったと実感した。
「私たちが考えたものとは比べ物にもならないダンスでした。お見事です!」
「流石やん、えりち」
「会長さん、マジで一級品のダンスだったな」
次に海未、希、色明が賛辞を贈る。
親友である希からも嬉しいかったが、実家が日本舞踊で人を感動させる海未やプロの色明からのお墨付きは絵里に自信を持たせた。
他のメンバーたちも概ね好評だったようで彼女は一先ず安心する。
「楽しそうでことりも一緒に踊りたい気持ちになったよ」
「花陽も同感です! プロのダンスにだって負けないクオリティでした!」
「ふん。まぁ、悪くなかったわね」
「真姫ちゃん、素直じゃないにゃ。あんだけ夢中になって見てたのに」
「な、なに人の顔覗き見てるのよ! 今度はあれを私たちが踊れるようにならないといけないんだから、しっかり見ときなさいよね!」
「西木野さんの言うとおりよ。褒めてくれるのは嬉しいけど、これを貴女達ができるようにならなけば意味がないわ」
絵里はそう言いながら興奮状態の彼女たちを落ち着かせようとした。
「ほら、今から順に振り付けを教えるから静かに──」
「ちょ!? えりち、どないしたん!?」
「?」
突然、希から飛び上がるような声により会話が中断させる。
何事かと問いただそうとしたとき、絵里は頬に熱いものを感じた。
「あれ?」
涙だった。絵里は泣いていた。
目にゴミでも入ったのかと指先で瞼に触れるも、違和感も痛みも感じない。
μ'sたちや色明も涙を流し続ける彼女に戸惑うが、一番戸惑ってるのは本人だった。
「──ごめんなさい。目にゴミが入ったようだから、少し抜けるわ」
「あっ、会長!」
溢れる涙を抑えきれない絵里は屋上から出て行き、すぐさまその後を希が追う。
残されたμ'sたちは思うわぬ事態に混乱していた。
「会長、いきなりどうしたんだろう?」
「目にゴミが入った、は嘘よね。痛がってなかったし」
「私たちも様子を見に行く?」
「やめとけ」
その提案を却下したのは色明だった。
「一人で泣いてるなら兎も角、副会長がついてるなら大丈夫だろ。大して事情も知らない俺らが行っても薮蛇を突くだけなのは目に見えてるぜ」
「……新田さんの言うとおりですね」
海未も絵里のことは気がかりだったが、彼女のことをよく知らない自分たちが向かっても何もできない可能性の方が高い。色明の言葉通り、ここは気心も知っているであろう希に任せるべきだ。
「目にゴミが本当に入っただけかもしれませんし、会長たちが帰ってくるまで花陽が撮影したものを見て練習をしましょう」
「そうだね。海未ちゃんの言うとおり、私たちは今できることをしよっか」
海未の仕切りに賛同し、彼女たちは練習を再開した。
──結局、その日は絵里は戻ってこなかった。
──そして、翌日も彼女は屋上に姿をやって来なかった。
お久しぶりです。折角週一更新続けていたのに、一ヶ月以上更新できなかった貫咲賢希です。
更新待ってくれてた人はすみません。そして、更新してないのにお気に入りや評価して下さった方々、感謝です。
なお、冒頭でのネタは今度もあるかもしれないので覚悟してください。
本当はこの回で絵里ちゃんをμ's入りさせるつもりで、その後は海未ちゃんがデレデレする回のつもりでしたが、長くなったので切りました。
一万文字以上になったら区切りが良い所で次の回に持ち越す以降です。
海未ちゃん全然活躍してませんけど、オリ主タグをつけずに海未ちゃん主人公と言っている以上、海未ちゃんが目立つはずなので期待を。そこまで派手なことはしませんが。
さて、サンシャイン二期が始まりましたが、どうかμ'sのことも応援し続けてください。
2018年には新アプリもあるし、新曲ワンチャン!
なんなら、OVAでスクフェスストーリーでもいいから!
ではでは、感想をお待ちしてます。