貴方だけの歌 ~ラブライブ! School idol IF~ 作:貫咲賢希
/cVσ_VσV「私の名前は
/cVσ_VσV「私たちが通う高校の廃校阻止のため、スクールアイドルをすることになりました」
/cVσ_VσV「私は乗気じゃなかったんですけど…………」
/cVσ_VσV「スクールアイドルをやろうと言い出したのは
/cVσ_VσV「穂乃果がが一人でも頑張ろうとするので、放っておけなくて」
/cVσ_VσV「それに穂乃果はいつも私に知らない世界を見せてくれますし」
/cVσ_VσV「私は穂乃果はもう一人の幼馴染。三人でスクールアイドルをやることにしました」
/cVσ_VσV「けど、作詞を私に頼むのはどういうことですか?」
/cVσ_VσV「「昔ポエム書いたからとか、そんな理由で。急すぎますよ」
/cVσ_VσV「だいたい穂乃果は言い出しても、計画性がいつもなさ過ぎるのです」
/cVσ_VσV「夏休み冬休みの宿題は毎年注意してるのにギリギリまでやりませんし」
/cVσ_VσV「飽きたら駄々を捏ねますし、子供ですか!」
/cVσ_VσV「でも、子供というのはある意味正しいですね。いえ、年齢とか関係ありません」
/cVσ_VσV「無垢なんですよね。素直で、純粋で。だから、突き進んだら真っ直ぐで」
/cVσ_VσV「無茶なことでも、何度も挑戦して。そして、成功したら満面の笑みを浮かべるのです」
/cVσ_VσV「あの笑顔を見たら、先までの心配や不安が嘘のように消えてしまうんですよ」
/cVσ_VσV「だから、私は無茶だと思いつつも、協力してしまうのです」
/cVσ_VσV「最後に、穂乃果が笑えるように」
/cVσ_VσV「ならば、スクールアイドルの活動、略してアイカツ頑張りましょう」
/cVσ_VσV「そういえば、何故か私たちの学校に男子が通うそうです」
/cVσ_VσV「女子高なのに不思議ですね……」
リ`∪・_・)「海未ちゃん……。穂乃果の話多くないかな?」
国立音乃木坂学園にプロのシンガーソングライター新田色明が通う。
伝統ある女子高に、あろうことか男子がだ。
突然の出来事に、講堂に集まった生徒たちが戸惑うのも無理がないだろう。
彼が言った見本生という聞きなれない言葉はなんなのかと益々混乱していた。
『はいはい。皆様お静かに~』
唖然とする構内で、緩やかな声が響く。
若々しい女性だった。彼女は音乃木坂の理事長である。
『皆さんの驚きは当然だと思います。ですからまずは見本生というものから説明しますね』
ざわ、と再びざわめく生徒たち。構わず理事長は話しを進める。
『昨今、女子高生上がりの人たちが社会に出る際、異性との触れ合いが少なかったせいで社会に馴染めない問題が多く発生してます。
実際問題、この世に男女が存在する以上、異性との接触は最低限あります。だからといって安易に共学化はしません。男女間のトラブルを避けるため女子高を選んだ方もいるでしょう』
異性間の問題。主な例えならば男女差別。過激なものといえば、力に劣る女子へ一歩的な暴行を男子が行う。そんな問題は小さい年頃からあり、成長するとつれてエスカレートする。
それを危惧した本人、または親が安全為に女子高に通わせるのは在り来たりな理由である。
『しかしその結果、社会に馴染めない方が増えるのも事実。よって、市政からの要請により最低限異性との交遊に慣れるため、我が学園は男子生徒を迎えることになりました。
すなわち、見本生とは貴女たちが異性に慣れるための文字通り見本。結果次第では、学校が存続した場合でもこの制度は残ると考えてください。ちなみに保護者の方には既に了承を得てます』
不思議な制度ではあるが、理に適っている内容でもあるので反論の声は今のところ聞こえない。
しかし、何故、この人選なのか?
見本生の男子生徒、新田色明はテレビにも出ている超芸能人。
彼が選ばれたのは偶然なのか?
その理由も理事長は続けて説明する。
『さて、次に見本生として何故、新田君なのかという疑問ですね。
皆様のご察しのとおり、彼は芸能人。有名な歌手です。それが大きな理由の一つですね。
仮に彼が我が校で問題を起こした場合、社会的責任は普通の人に比べるまでもありません』
普通の未成年が煙草を吸ったり飲酒をしようが厳重注意で済む話でも、芸能人の未成年が同じことをした場合の問題追及は非常に重い。
最悪で仕事を失い芸能生活が無くなる。芸能界を引退後も一度テレビの世界に出た以上、その問題は今後の人生にずっと残る。
それを承知の上で後ろ暗いことに手を染める芸能人も後を絶たないが、多少なりとも堅実な者ならば芸能人ゆえ普通の人間以上に気をつけてるものだ。
そういった意味で歌手の新田色明は異性間の問題を起こす対象としては比較的に安全だと言えるだろう。
『別に見本生の条件が芸能人だかという訳ではありませんが、そういった事情があるので新田君は火遊びをしたらどんなお仕置きが待っているのか十分理解していると思います』
一瞬、理事長の横にいる色明が心外そうにしていたが、彼女は素知らぬ様子で話しを続ける。
『新田君とは事前に面談をし、人間性、生活面に問題なしと判断した為、彼を見本生として迎えることになりました。突然のことで思うことは多いでしょうが皆様、仲良くしてくださいね』
▼
「凄いことだよね! うちにプロの歌手が通うことになるなんて!」
全校集会が終えた教室にて、海未の席から右後ろ、窓際に座る女子生徒が面白そうに話す。
「私は大変驚きました。しかし、これでは女子高とはもはや呼べませんね。共学とも呼べませんが」
「ははは、そうだね」
愉快そうにする少女と違い憂鬱そうに溜息を零す海未。
「ところで、ことりはこの事は知っていましたか?」
海未は自分の後ろに座る少女に声をかけると、その少女は首を横に振った。
「ううん。私もお母さんから何も聞いてないよ」
溶けそうなくらい甘い声。声の主の名前は南ことり。
ふわふわとした印象であり、海未同様腰まである長い髪は独特な結び方をしたサイドテールになっている。おっとりとした性質で、見るからに愛らしい少女。彼女はここの理事長の娘だ。
海未とって大切な幼馴染である彼女も今朝の一件は知らされてなかったようである。
以前も、廃校の情報をことりが知るのは他の生徒と同じタイミングだったので、親子でも守秘義務はちゃんと守っているようだ。
「けど、勿体無いよね。あの人のこと色んな人に教えてあげれば、入学希望者も増えると思うのに」
そうやって、残念そうにしてるのは最初にこの話題を出した少女。
名前は高坂穂乃果。
笑顔がとても眩しく、見て通り裏表がない天真爛漫な少女。彼女もサイドテールだが、こちらは普通に纏めている。明るい声は内面の良さがよく現れている。
彼女も海未の大切な幼馴染の一人であり、確かに穂乃果の言葉通り、新田色明が通う高校と唄えば入学希望者が増えるかもしれないが、海未はそれが間違いだと彼女に指摘する。
「穂乃果、別に彼は音乃木坂に生徒を集めるために呼ばれたわけではありません。なにより、あまり意味がありませんよ」
「え? どうして?」
「彼は私たちと同い年、つまり二年生。次の新入生が彼と会えるのは、彼が三年になってからのたった一年間。学年も違う上に、仕事で授業を抜けることもあるでしょうね」
すなわち、と海未は言葉を続ける。
「新入生が接触する機会は少ない。人生の大事な高校入学を、会えるかも解らない芸能人のために選択をするのは賢くありません。少しは効果があるかもしれませんが期待するのは駄目です」
「んん? つまり、廃校問題であの芸能人くんに頼ることはできない、ってことだね」
海未の長い解説を半分も理解してない穂乃果はそう言った後で、おもむろにガッツポーズをする。
「ならやっぱり、私たちがスクールアイドルをして、音乃木坂に注目を集めるしかないね!」
そう言って意気込む穂乃果を見て、海未は困った顔になりつつも、口では微笑んでいた。
──この高坂穂乃果こそが廃校を阻止するため、スクールアイドルを提案した張本人。
彼女と海未、そしてことりを合わせた三人で《
穂乃果という少女は猪突猛進の塊であり思い立ったらすぐ行動する娘だ。
その後で彼女に足りなかった考えを補うのが海未の役目である。
役目というよりは尻拭いだが、いつも文句を言いつつも、結局は見捨てることをしなのが彼女である。穂乃果自身も行動したら努力は惜しまず、海未が考えたトレーニングを筋肉痛になりも毎日ことりと共にこなしている。
正直、途中で挫折するかもと思っていた海未からすれば、その情熱は尊敬の粋までに達しているが、褒めるとすぐに調子に乗るので簡単に口にはしない。
「やる気は結構ですが、そろそろ静かにしたほうがいいですよ。そろそろ一時間目が始まります」
「うん、そうだね」
「ところで、海未ちゃん」
ことりが同意したのにも関わらず、穂乃果は話を止めない。
人の話を聞いてたのかと問いただしたい海未だったが、仕方なしに対応をする。
「なんですか、穂乃果。もうすぐ授業ですよ」
「芸能人くんって、うちのクラスになるかな?」
やはり、その話題かと海未は半ば呆れつつ、周りの生徒たちも授業が始まる間際にまだその話題をひそひそと話しているので、仕方ないかと諦念する。
新田色明は海未たちと同じ年であるので、すなわち二年生で通うことになる。
二年生のクラスは二つしかない。
よって、新田色明が海未たちのクラスになる確率は五分五分だ。
「そんなこと、私が知るわけないじゃないですか」
「じゃあ、ことりちゃん!」
「私も解らないかな」
「だいたい、そんなことは授業が始まれば解ることです。少しは落ち着きなさい」
「そりゃあ、そうだけどさぁ……」
ことりが申し訳なさそうにすると、穂乃果はつまらなさそうに口をすぼめた。
「穂乃果ちゃんは新田くんに興味あるの?」
「いや、サインでも貰ったら高く売れるかなって」
「現金ですねぇ……。そういうものは転売防止のために、名前入りにするらしいですよ」
「おお、海未ちゃん詳しい! もしかして、アイドルとしての自覚が芽生えたとか!」
「違います。何故そうなるのですか……」
穂乃果の勝手な思い込みに海未が呆れていると、教室の扉ががらりと開いた。
入ってきたのは見慣れた大人の女性──このクラスの担任の先生のみである。
それを見て落胆する生徒の数は少なくない。
「おいおい、がっかり顔の奴が多いな。何だ、お前ら。見本生のファンだったのか?」
青いジャージ姿の担任である山田博子はにやりと笑った。
「そんな奴らに朗報だ。新田、入って来い」
『キャア──────!!』
新田色明が入室すると同時に黄色い声援が響き渡る。
無理もないだろう。芸能人というのに差し引いても、彼の見た目はかなり良い。
整った顔に高身長。女子高に通ったものの、異性の出逢いが欲しくなってきた青春真っ盛りな乙女にとって、色明の存在はアイドルそのものだ。
「お前ら五月蝿い! 隣のクラスは授業中なんだから、静かにしろ!」
と、担任が注意するが、その実、隣のクラスは壁越しから聞こえてくる喜びの声に、自分たちは当たりを引けなかったと落胆している。
そんなことだとお構いなしに、クラスの中のテンションはどんどんアップする。
「黙らないと、全員反省文書かせるぞ?」
慌しいままの教室に苛立った担任がそう呟くと、急に静まり返った。誰しも面倒ごとは避けたいものだので、利口な行動である。
「────こっほん。では、授業を始める前に軽く自己紹介をしてもらう。新田」
「はい」
担任に促され、新田色明は一歩前に出る。
数々の視線を目の当たりしても、動揺した様子は一切見当たらない。流石、単独でドーム公演とした経験があるプロのアーティストだ。
「改めて自己紹介を。この度、見本生として通うことになりました新田色明です。僕の存在に色々と考える方は多いと思いますが、どうかよろしくお願いします。不出来な点があれば、ご指導を」
丁寧な物腰で挨拶をする色明だったが、次の瞬間には態度を崩した自然体で周りを見渡す。
「後は、そうだな。力仕事があったら言ってくれ。男の俺が解りやすく役立つことなんざ、そんなもんだからな。無駄にこき使われるのは御免だが、時の場合が合えば可能な限り力になるぜ」
『ふわぁ……』
最後の砕けた言葉に、数人の女子が頬を赤らめる。
もしかしたら、既に恋に落ちたものがいるかもしれない。
そして、海未はというと──顔を引き攣らないようと堪え、堪え切れず変な顔になっていた。
(まるで漫画にでも出ててきそうな子だよね、って海未ちゃん変な顔したけどどうしたの!?)
こそこそと隣の席のことりに耳打ちをしよとした穂乃果だったが、海未の様子に気付いて驚く。
(失礼な。変な顔なんてしません。というか、目立ちますよ。しっかりと前を向きなさい)
そんな穂乃果に言葉こそは平静な海未だったが、顔は相変わらず引き攣っていた。
穂乃果はそのような海未の様子を不思議そうにしたが、すぐ自分で納得する。
(なるほど! 真面目な海未ちゃんはあんな歯が浮きそうな台詞が苦手なんだね!)
穂乃果の推理は半分正解だった。
確かに、あのような台詞を言われるのは苦手だが、自分だけに言われてなければ、そこまで意識するものでもない。
海未が顔を引き攣っていたのは、色明が教室に入ってきてからだ。
だってそうだろう。
先日街端で出会った少年がプロのアーティストで、そのライブに本人から直接招待され、その少年が数日後同じ学校に通い、自分の同じクラスになるのだ。
そんな偶然、穂乃果の言葉を借りるならば、まさに漫画にでも出てきそうな状況である。
しかも、だ。
向こうもこの状況に気づいてる。
色明は教室に入った途端、海未の存在に気付いていた。
顔を引き攣るほど驚いている海未とは違い、色明は彼女と視線があった突端、嗤っていた。
その顔はどういう意味ですか!? と怒鳴りたかったが、叫んでしまえば流石に面倒なことになるのを解っていたため、海未は渦巻く感情を堪えるしかなかったのである。
「さてと、次の授業の先生を待たせてるし、質問は休憩時間にしとけよ。新田、好きな席に座りな」
担任の山田の言葉で色明は教室を見渡す。
この学校の生徒数が少ないだけあって、一クラスの総数も少なく、人気のある窓際や、海未の席の列は満席だが、空いてる席は疎らにある。生徒の数と席を合わせない理由は、いざ新しく席が何かの理由で欲しいときに準備するのが面倒だからだ。
なお、空席は海未の隣にもある。
それに気付いた、海未は嫌な予感がした。
「じゃあ、適当に。どれにしようかな──」
と、次々と空席に指差していく色明。明らかに悪戯しろうな笑みに、海未は冷や汗を浮かべた。
彼が隣に来て欲しい少女たちは自分の隣にと祈り、何故自分の近辺は何処も埋まってるのだと嘆く中、ぴたりと色明の指が止まる。
それは、海未の予感が的中した瞬間でもあった。
「──神様の言うとおり、と。あそこにします」
「解った。それじゃあ、もしも解らないことがあったら何時でも聞いてこい。あと、お前ら! 新田に夢中になって、授業をおろそかにするなよ!」
そう言い残して、担任の山田が教室から出て行く。
入れ替わりで今から始める授業の担当教師が入室し、色明は自分が指差した席に向かった。
「改めて、新田色明だ。よろしく」
「ええ、よろしく、お願いします」
席に座った色明に、海未は引き攣った笑みで挨拶をした。
「それで?」
「…………なにか?」
「俺、直に名乗ったんですけど。おたくの名前は?」
「……園田海未です」
後で、おお! と何やら感激してる幼馴染たちを無視し、海未は仕方なしに名乗った。
海未の名前を聞いた色明は、一瞬驚き、すぐ愉しげな笑みを浮かべる。
「ウミ、海、うみねぇ。これまた偶然だ」
「何がですか?」
「いや、こっちの話。聞きたいなら、次の機会。今は授業に集中っと。で、あの人、なんの先生?」
「……古文です」
「ありがとう、古文ね」
そう言って色明は手、に持っていた鞄から真新しいノートと筆記用具、そして海未たちが使ってるものと同じ教科書を取り出した。
教科書がないから机をくっつけて見させる展開はないようだ。海未はそのことに少しだけ安堵し、今は授業に集中しようと前を向く。
せめて授業の間だけは静かに過ごしたいと、これから訪れる騒ぎに不安を抱える海未であった。
▼
授業が終わってからの僅かな休憩時間。いつもよりも人口密度が高い自分の教室に海未は眉を寄せている。
「新田君て前の学校は何処だったの?」
「東雲学院だ」
「彼女いる?」
「おいおい、いきなりスキャンダルもの質問だな。まぁ、いないけど」
「そうなんだ! 私もフリーだから仕事ない日は何時でも遊んでね♪」
「あ、私もいないから! で、その子とあの子はいるから」
「ちょっと、何でわざわざ話すのよ!」
「あ、あのう、曲聞いてます。さ、サインくださいっ!」
「いいぜ。って色紙って随分と用意がいいな」
「東京にいるので、何時如何なる時でもアイドルに遭遇してもいいよう常備してるんです!」
「そ、それは何ともすごい心意気で。けど、俺はアイドルというカテゴリーじゃないと思うけど」
「そ、そうですよね! で、でも、歌が好きなのは本当なので」
「おう、ありがとう。ほれ、サインこれでいいか?」
「うわぁ、ありがとうございます!」
数人の女子たちに囲まれる新田色明。
この教室の生徒である海未たちにも見覚えのない生徒が混じってるので、十分しかない休憩時間にわざわざ違う学年の生徒まで訪れているのだろう。
そんな、わいわいとにぎやかな光景に「ほえぇ」と穂乃果が感心した。
「休憩時間になる度に人が集まるね。すごい! 流石、芸能人!」
「穂乃果、興味があるなら席を替わりますか?」
隣に聞こえない小さな声で言ったのは、穂乃果に立っている海未だった。
今日は授業が終わる度に色明の周りに人が集まるので、彼の隣席である海未は毎度穂乃果の近くまで退避してるのである。
「駄目だよ! 争奪戦で手にした大人気、窓際の席は穂乃果のものなんだから!
「なら、ことり」
同じく、休憩の合間に同じく穂乃果の傍に避難してきたことりに声をかける海未。
ことりはう~んと困ったように考えた。
「別にいいけど、あまり意味がないかと……」
当然だ。海未の席の後ろ、すなわち比較的に新田の席が近いことりも人だかりが押し寄せてきたので穂乃果の傍に避難していりる。
当然、人波から逃れるために席を替わるのならば、ほとんど意味がない。
「それに、いきなり席替わったら、新田くん気を悪くするんじゃないかな?」
「……そうですよね。なら、諦めるしかありません」
毎回自分の席を巻き込んだ人だかりに正直鬱陶しいと感じてた海未だったが、それを理由にして席を移動するのは印象の良くない行動だろう。
幸い、ここの生徒数も少ないので、こんな騒ぎは数日もしない内に落ち着くはずだ。
そうやって自分に言い聞かせる海未。
「けど、本当にすごい人気だね」
「うん。芸能人ていうのもあるけど、さっきの英語やその前の古文の問題もすんなり答えてたし、見た目もいいからきっとどんどん人気が出るね」
「つまり、これ以上になるということですか」
海未は騒がしいことが苦手だ。それを除いても自分の席が侵略されてることは快くない。
更には有名人の隣席ゆえに他の生徒から何かと質問攻めにされた。
唯でさえスクールアイドルという注目を浴びなければならいことする羽目になったのに、別のことで浴びたくもない注目を浴びることになっている。
(まったく、なんなですか! そもそも何故、私の隣なんですか!)
明らかな故意で自分の隣席を選んだ色明に、海未はご立腹だった。
そんな不機嫌な彼女に、昼休みにはジュースでも奢ってあげようと二人の幼馴染は苦笑し合うと、
次の授業の開始を知らせる鐘が鳴った。
▼
訪れた昼休み。
新田色明を目的とした人の群れて予想通り増大した為、開始早々教室から出て行った海未、穂乃果、ことりの三人は中庭に赴き、仲良く昼食を食べていた。
「では、私はこれで失礼します」
「あれ? 海未ちゃんもう食べたの?」
食べ終わった弁当箱を袋に纏めて立ち上がる海未に、穂乃果が驚く。
普段は海未は急いで食べる印象がないため、ことりは不思議そうに訊ねた。
「何か急ぎの用事?」
「ええ。作詞の参考で借りた本を、昼休みのうちに図書室に返そうと思いまして。放課後は一秒でも長くライブへの練習がしたいですしね。既に返す本はここに持ってきてます」
「あぁ、その本、そのために持ってきたんだ。まぁ、わざわざ教室に戻るのも面倒だもんね」
そうやって納得してることりの横で、何やら穂乃果が目を潤ませながら海未を見つめてきた。
「……なんですか?」
「あんだけ嫌がってた海未ちゃんが、わざわざ作詞のために本を借りたり、一秒でも長くライブへの練習がしたいとか! そこまでアイカツに取り込んでくれるなんて、穂乃果は感動だよ!」
「大げさな……。やるからには真剣に取り組みたいだけです。とにかく、二人はごゆっくり。穂乃果、デザートに菓子パンを分けてもらってありがとございます。ことりもジュース、ありがとうごさいました」
「やだなぁ、それこそ大げさだよ。穂乃果たちの仲だもん、改まってお礼はいいよ」
「そうだよ。それじゃ海未ちゃん行ってらっしゃい」
「はい、行ってまいります」
手を振る二人に同じく手を振った海未は、そのまま荷物を持って図書室に向かった。
やや早歩きでいそいそと図書室に向かう海未。
目的は本の返却なのだが、時間があるなら参考になる別の本も探そうと思っている。
今後、アイカツを続けるならば歌は一つだけは駄目だろう。
ならば、新たな歌の作詞もしないといけない。トレーニングの専門書もあるかもしれないので、それも探すつもりだ。海未は運動慣れしているため、既に彼女が特訓メニューは存在するのだが改良の余地があるならした方がいいだろう。
ここまで考えていると、そんな自分自身に海未は驚いた。
当初は反対だったアイカツも自主的に行動を起こしてる。
不思議と口元が柔らかくなった。
何だかんだ言っても、切な幼馴染と三人で何かをするのを楽しんでるのだろう。
そう思っている内に図書室へと到着する。
図書室では静かにと全学校の原則に従って扉を開く海未だったが、受付に図書委員らいしき生徒が一人いる他には誰もいないようだ。
海未はそ図書委員に借りた本を返却すると、そのまま図書室の奥に足を踏み入れた。
音乃木坂の図書室は広く、歴史があるだけあって本の数も豊富だ。探せば古い書籍も見つかりそうである。携帯やパソコンで調べれば大抵なことは解る便利な世の中だが、こうやって自分の足で本を探せば、思いも知らない発見があるかもしれない。
そういった意味で、基本的は静かな場所なこともあり、海未にとって図書館は比較的に好ましい場所であった。
そんな思いを、一時撤回したくなるもの、人を見つける。
「何故、貴方がここにいるのですか?」
気分よくしていた海未は、思わず恨めしげに声を出す。
しかし、不満の念を向けられた相手は、海未のことに気付かず、頬を片手でついて座りながら、奥に設置されたテーブルに視線を落としていた。
無視ですか!? と一瞬苛立った海未だったが、すぐに相手が何やらイヤホンをしてるのに気付き、単純に気付かなかったのだと認識を変える。
このまま立ち去れば向こうも海未に気付かなかったかもしれないが、視線を感じたのか不意に彼は顔を上げる。
「園田? なにしてんの?」
色明はアイホンを操作して何かの曲を止めると、イヤホンを外し、まっすぐと海未を見つめてきた。
「いえ、ただ本を探していただけです。貴方こそ、何してるのですか?」
海未の言葉に偽りなく、彼女も質問も違和感がないものだった。
本来、図書館ですることは本を読むことなのだが、色明の前にはノートと海未たちも使っている数学の教科書が広げてあった。
「……勉強」
「ここでですか?」
何やらばつの悪そうにしてる色明を見て、海未は不思議に思う。
別に図書室で勉強をすること自体は不思議ではないが、テスト期間でもなく、今日学校に来たばかりの色明に宿題があるはずもない。何より、わざわざこんな場所で勉強をしてるのが解せない。
「教室はうるさいだろ」
「それは自業自得でしょう」
教室が五月蝿いのは今の場合、色明目的の生徒がやって来るからである。
海未からすれば何を言ってるんだと思う発言だが、当の本人は不満そうにしていた。
「別に俺が人を集めるために呼びかけたわけじゃない」
「おや、迷惑だったのですか? 随分と楽しそうでしたが」
「迷惑、とかまで思ってないが。一人でいたいときは困るな」
「そうですか。即ち、私が目の前にいることも迷惑と、そう言いたいのですね?」
「はぁ? 誰もそんなこと言ってないだろ?」
「言っているようなものです」
「っ────なんか、俺に不満があるわけ」
怒鳴りかけた色明だったが、寸前で思い止まり、替わりに静かな声でそんなことを海未に訊ねる。
それに対し、海未は笑って答えた。
「心当たりがないとでも?」
そう言われて少し考えた色明だったが、なにか納得したように神妙な面持ちになる。
「なるほど。休憩の度に自分の席から追い出されたら、そりゃあ迷惑だな」
「理解してくれて助かります」
「でも、嫌なら別に席を譲る必要は──」
「自分の近くで興味もない、先ほども別の人が聞いた内容を繰り返し聞かされる方が嫌ですね」
「──ご尤もだな」
脳内で同じ状況に自分を置き換えて考えたのか、色明は嫌そうな顔をして認める。
「でも、さっきも言ったが、俺もわざと集めてるわけじゃないぞ」
「でも、私の隣を選んだのはわざとですよね?」
そう言われてしまい、色明は何も言えず、しばらくすると頭を海未に向かって下げた。
「迷惑かけて、すみませんでした」
「解ってくれるならいいです」
素直に謝ってくれたので海未は、これ以上この件で彼を責めることは止めにした。
それでも、言っておくべきことがまだあるので、彼女はそのまま言っておく。
「しかし、謝罪なら他の近くにいる人にもしてください。私の後ろの席にいる友人も、貴方目的の人だかりのせいで、毎回避難してるのですからね」
「解った。後で謝っておく」
「ええ、お願いします」
そう言った後で、海未は良い機会なので次の質問をした。
「で、それはそうとして、何故私の隣を選んだのですか?」
「いや、あの日。街のど真ん中で急に通うことになった音乃木坂の生徒に逢ったことも驚いてたんだけど、そいつが同じクラスだったからな。つい、面白そうだったから」
「何がつい、面白そうだったからですか……。そのせいで私がどれほど迷惑を──まぁ、そのことに関しては先ほど謝ってくれたのでこれ以上言いませんが」
しかし、どうやらあの日、海未と色明が出会ったのは本当に偶然らしい。
変な意図による仕組まれた巡り合わせではないようなので、少しだけ海未は安心する。
もし、誰かによって彼と引き合わせられたのならば、とりあえずその者には一言文句を言ってやりたい。あまりにも偶然が重なってるで、海未は何かの陰謀なかと疑い、心労が溜まっていたからだ。
ほっと胸を撫で下ろし海未だったが、その様子を見た色明が何やら深刻な顔つきになる。
「……本気で迷惑だったら、先生に言って俺だけの個人教室でも作ってもらうか?」
「はっ?」
何故そんな言葉が出るのだろうと海未が訝しむ。
「園田以外にも迷惑かけてるらしいし、男子見本生は異性に慣れない女子への慣らしが主な目的なのだから、別に俺だけのクラスを作ってもらってもいけるはずだ」
「いや、少し待ってください。快く思っていない人もいるかもしれませんが、歓迎してる人も当然いますよ。あの人だかりが何よりの証拠じゃないですか」
物珍しさが大半であるが、確かに色明の存在を快く思っている生徒はいる。
それが一日も経たないうちに自分たちのクラスからいなくなれば、気落ちする人も多いだろう。
「確かに、迷惑と私が言いましたけど、そうですね。其処まで追い詰めたのならば言い方が悪すぎましたのでしょう」
表面上、飄々とした態度が目立つが、海未と出会ったときといい、彼は何かと責任感がある。
そう考えると、海未は彼にそこまで言わせた自分の言動を反省する。
「……少し、私も意地が悪すぎました。謝罪を」
頭を下げようとした海未だが、それを押し止める様に色明が片手を突き出す。
「謝る必要ないって。俺が性急過ぎだ」
そう言ってから、色明は苦笑する。
「実際、本当に作ってもらえるか解らんしな。といてもいいなら、今のクラスにいさせてもらうよ」
それを聞いて、ほっと海未は胸を撫で下ろした。孤立する事態は避けられたようで、安心する。
「ええ、そうしてください」
「しばらくは迷惑をかけるかもしれんがな」
「私は覚悟を決めましたので大丈夫です。ですが、あくまで私は、ですので」
そう言いながら、海未は言葉を次々と重ねた。
「先ほども言ったように、迷惑してる人もいるのですから、その人たちにも一言くらい謝ってください。それに根本的な解決として、貴方に集まる人たちにも周りが迷惑してると注意してくださいね。貴方が意図的に集めてる訳ではないのでしょうけど、原因は間違いなく貴方なので、対処するは義務です。周りの人に迷惑をかけてると思っているのならば、それぐらいの配慮は当然ですよ」
くどくどと喋る海未。
見る見るうちに色明の顔色が何とも言えないものに変わるが、彼女の言葉は止まらない。
海未が小言が多いのは、普段から色々とやらかす穂乃果を叱ったりする影響だろう。正論ではあるが、絶え間なく言われる側にしてみれば堪ったものではない。
まるでやんちゃな子供を諭す厳しい母のようであり、それは目の前の少年も感じた。
「母さんみたい」
よって、ぽろりと本音が零れる。
「何か言いましたか?」
「いや、気のせいにしてくれ」
色明が言い逃れようとした矢先、キーンコーンと、昼休み終了の予鈴が鳴った。
「ちっ、終わりか。くそ、終わるまでに解りたかったんだが」
悪態を吐きながら、広げていた勉強道具を直す色明を見て、海未は申し訳なそうにする。
「私と話してて勉強の邪魔したようですね、すみません」
「いや、気にするな。どうせ、一人だと解らず仕舞いだった。観念して先生に聞けばよかったよ」
「…………なんの勉強をしてたんですか?」
「数学。前のとこよりも進んでたから、予習を──って何で泣きそうになるんだ?」
「とある幼馴染の一人に貴方の爪の垢を煎じて飲ましたくなっただけです」
毎回テストの度に赤点をとり、補習で泣きついてくる友人を思い出してしまう。
来年は受験生なのだから、今からでも矯正した方がいいかと海未が考えた直後、自分のクラスに戻っていたとある幼馴染がくしゃみをした。
そんなことは知らない海未は色明と共に図書室から出る。
「しかし、予習をするのは感心ですね」
「編入早々、授業について来られなかったら恥ずかしいだろ」
それを聞いた海未は真面目だと感心し、次に不貞腐れたような色明の顔に気づいて、見栄っ張りなのかなと可笑しく思った。
「何、笑ってんの?」
「別に貴方に許可ないと表情を変えないといけないわけではないでしょう」
軽口を叩き、内心、海未は驚いていた。
同年代の異性と事務的以外で会話するなど、生まれて初めてではなかろうか?
解きほぐされていた自分を実感し、これが大衆を魅了する実力なのかと不思議に思う。
「ほら、早く行かないと遅れますよ」
海未はそんな内心を漏らさずに、何故か歩みを遅くする色明を急かした。
「いや、園田は少し先に行けよ。俺は後から行く」
「? 何故ですか?」
「何故って、一緒に教室に戻ったら変な噂されるかもしれないだろ?」
なるほど、彼なりの配慮なのだと海未は理解した。
確かに注目を浴びている人間と一緒に教室に戻るのは目立つだろう。
偶然だとしても、話の種になる可能性は高い。噂好きの女子高生には美味しいネタだ。
だから、彼女は言った。
「されようとも疚しいことなど一つもしてません。ならば堂々とするべきです」
凛とした声に、色明は一瞬黙る。
「…………、なんかカッコいいな園田」
「そのような言葉が出なのか解りかねますが、素直に褒められたと思っておきましょう」
二人が教室に戻ると色明の予想通り周りから注目を浴びた。
しかし、海未は前言どおり偶然会ったから一緒に戻っただけだと答え、色明もそれに合わす。
そんな味気のない返事で周りの興味は瞬く間に薄れたのため、少年の心配は杞憂に終わった。
ただ図書館であった些細な会話は、何となく気恥ずかしさを感じたので、二人の幼馴染も話さなかった海未であった。
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いつもよりも長い一日を体感した放課後。
朝から様々な出来事が続々と発生したので、これ以上は流石にないだろう。
そう考えた自分が甘かったと、それを目撃してしまった海未は後で嘆く。
彼女がスクールアイドルの練習前に飲みものを買おうと自販機に向かうと、外で数人の女子に囲まれてる色明を見つけたのだ。
本当に彼とよく遭遇すると思いながら、海未は何となく色明に集まる生徒たちを観察した。
(あのリボンの色、一年生ですか…………。本当に人気なんですね)
向こうは気づいてないようだが、特に声をかける理由もない海未はそのまま立ち去ろうとした。
だが、次の瞬間、一人の少女の言葉にその足を止めてしまう。
「海未先輩に近寄らないでくださいっ!」
『はっ?』
戸惑いの声を、海未と色明は同時に鳴らす。
どうやら園田海未の受難はまだ続くようだ。
この続きは今日の7時です。