貴方だけの歌 ~ラブライブ! School idol IF~   作:貫咲賢希

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\\\[前回のラブライブ]///


(・8・)「私の名前は南ことりチュン!」

(・8・)「幼馴染のハノケチェンとンミチャンと一緒にスクールアイドルをするチュン!」

(・8・)「衣装は私が作るチュン! ことりは可愛いものを作るのが好きチュン」

(^8^)「二人とも可愛いから、二人に似合う可愛い衣装を作るチュン!」

/cV^_V^V「ありがとうございます、ことり」

リ`∪・_・)「でも、前回のラブライブと関係ないよね?」


3話・奮闘するレディース

 海未(うみ)は顔を引きつりながら、その光景を見つめた。

 今日から自分が通う女子高に異例として通う少年、新田色明(いろあ)

 その彼はプロシンガー。よって女生徒たちに囲まれたのを目撃した瞬間は、またファンに囲まれてるのだと思った矢先、自分の名前が出てきのである。

 しかも「海未先輩に近寄らないでくださいっ!」という激しい内容。

 寝耳に水どころの話ではない。寝耳に落雷の気分だ。

 驚愕している海未に気づかず女生徒たちは色明を睨んでいる。

 

「あぁ……、確認するが君らの海未先輩っていうのは、俺の隣の席の園田であってる?」

 

 計五人の女子に囲まれた色明は戸惑いながら絞った声で確認した。

 彼も、呼びさされた内容が今日隣になった少女についてなど思いもしなかったのである。

 

「そうです! 今日通った貴方は知らないかもしれませんが、あの人はすごい人なんですよ!」

「なに? 園田ってお嬢様か何か?」

 

 誇らしげに口に出した少女の言葉に色明が目を丸くする。

 

「ええっ! 家柄も由緒正しき道場を開いてて、大看板は日舞! 他にも薙刀、弓や剣道、古武術なんかも指導してるすごいところ。海未先輩はその跡取り娘なのです!」

 

 女生徒が語ったことは事実だった。

 園田家は地元では知るものは知る大家であり、海未は将来家を継ぐことを期待され、彼女自身も望んでおり、日々、日舞や武道を励んでいる。

 だからといって何故、彼女たちが色明と自分の接触を拒むのか海未には理解できない。

 もしかして、彼女たちは園田の門下生かと、海未が考えると色明がその質問をする。

 

「園田が凄いのは解った。じゃあ、君たちはそこの門下生か何かで内のお嬢様に近づくなとか、そんなやつか?」

「いえ、私たちは門下生ではありません」

 

 仮に彼女たちが園田の門下生たちならば、百歩譲って海未は納得できた。大それたことに揃いも揃って自分をお嬢様と呼ぶ人間たちが、要らぬ心配をしたと考えられた。

 では、そんな門下生たちでないのならば、海未との接触を拒む理由はいったいどういったものか? そのことを彼女たちは続けて語る。

 

「ですが皆、海未先輩と同じ中学で、この音乃木坂にも海未先輩を追っかけてきました。既に海未先輩と同じ弓道部に入ってる子もいます」

 

 更なる衝撃の事実に海未は驚きつつ、そういえば身の覚えのある顔ばかりだと納得した。

 しかし、何故自分を追っかけてきたのか?

 悪いと思うが、海未にとって彼女たちは記憶の片隅くらいしか残っていない薄いものである。

 けれども、彼女たちは違った。

 

「私たち全員、海未先輩に憧れてるんです。先輩は覚えていないでしょうけど、何度も助けてくれたありました」

 

 頷きあう女子たち。彼女たちは自分たちが海未の記憶に残っていないと自覚しつつも、感謝の気持ちを今日まで忘れなかった。

 海未は幼い頃から武道に励んできたゆえか、正義感が強く、困っている人間を見過ごせない。少女たちはそんな彼女に助けられた一部である。

 時と場所が違えば自分が知らない場所で尊敬されていたことに海未は恥らいつつも悪い気はしなかっただろう。だからこそ、彼女の思いの丈は時と場所が悪かった。

 

「海未先輩、迷惑をかける人がいたら私たちは許しません。貴方が特待生やプロの歌手だとしても、そんなちゃらちゃらとした人が先輩に変なことをしたら承知しませんから!」

「なるほど、話はわかりました」

『!?』

 

 女子生徒たちの背後からいつの間にか近づいてきた海未にその場の全員が驚く。

 

「海未先輩! いつからそこに」

「先ほどからです。聞いてて大方の事情が解りました。貴女方の気持ちは嬉しく思います。が、独断と偏見で妙な言いがかりをするのは感心しませんね」

「え、でも、先輩はこの人が隣になったことで迷惑してたんじゃあ…………」

 

 どうやら、彼女たちは色明の席に集まる人だかりによって、海未が困っている姿を見ていたようだ。

 

「確かに彼を目的をした人たちには困ったものです」

「やっぱり!」

「しかしそれは彼が先導して行ったことではありません。彼個人が私に対して不埒を働いたわけでもないのに、文句を言うのは筋違いでしょう」

「え…………」

 

 硬直する少女たちを海未は容赦なく睨む。

 

「私が言っていること、何か反論ありますか?」

 

 海未の言葉通り、別に色明自身が人を集めたわけではない。

 しかし、尊敬する先輩のクラスに芸能人が来たと知り、気になって様子を見に行った少女たちは海未が己の席を人波に追いやられているに憤慨してたため、他の事情など気にも留めなかった。

 今このときでも、自分たちは何故怒られているのか少女たちには理解できない。

 ただ、敬愛する人の厳しい顔に少女たちは顔色を青白く染める。

 

「す、すみません」

「謝る相手が違うのでは?」

「っ!」

 

 今にも泣きそうになる少女たちを見て、海未は溜息を零す。

 

「後は私が謝っておきますから、貴女方はもう行きなさい」

 

 これ以上責め立てても何もならないと判断した海未はそう言った。

 

 

「え、けど…………」

 

 ちらりと色明に視線を向ける少女たち。

 海未の言葉で罪悪感を感じたのだろうか、申し訳なさが瞳に宿っていた。その感情が宿っただけでも、海未として重畳である。

 

「ここで貴女たちが彼に謝っても、私に言わされたようなものです。もう一度良く考え、謝罪する気持ちが芽生えたのならば、後日改めてしなさい」

「…………、わかりました。失礼します」

 

 少女たちは海未に頭を下げた後、色明にも頭を下げてからそそくさと去っていった。

 彼女たちの背中が完全に消えたのを見送ると、海未は色明の方を振り返った途端、彼女は怪訝な顔をする。

 

「何を笑ってるんですか?」

「いやはや、この状況って普通逆じゃね?」

 

 眉間に皺を寄せてく海未などお構いなしに、色明はにやけ顔だった。

 

「漫画だと学園のアイドルのファンたちに主人公が追い詰められたところをその学園のアイドル──いわゆるヒーローが助けるわけだけど」

 

 心底愉快そうに色明は片目を瞑りながら吐露する。

 

「そんな経験をまさか助けられる側でするとは思わなかったなぁ、学園のアイドルさん」

「誰が学園のアイドルですか」

 

 海未が幼馴染たちと共にスクールアイドルをしているが、その知名度は本格的にアイカツをしてないので低いはずだ。

 それに、この学園のアイドルというならばあの眉目秀麗のクォーターである生徒会長であろうと海未は思い浮かべたが、わざわざ出す話題でもないだろう。

 

「のわりには随分と慕われていたじゃねぇか、園田先輩よ」

「気持ち悪い言い方止めてください。あの子達は、偶然の産物というか何といいますか、まさか音乃木坂まで追ってきた人がいるなんて、私もさっき初めて知ったんですよ」

「ほうほう、それはまた罪作りなことで」

「プロの歌手である貴方に言われても嫌味でしかありません」

 

 呆れる様に言った後、海未は気を引き締めた表情で色明を見つめる。

 

「けど、先ほどの件。発端は私にあるようです。すみません、貴方にご迷惑を」

「いや、謝ってくれるなよ」

 

 頭を下げとした海未だったが、真面目な顔になった色明が止めた。

 

「別に何かされたわけでもないし、芸能界にいたら嫌味の一つや千個聞き慣れてる」

 

 そう言いながら、色明は苦笑する。

 

「教室で俺が集めてしまった人だかりを園田が許してくれてると同様、こっちも気にしちゃあいないさ」

「………そう言ってくれると助かります」

「ともかく、今回も助けられたわけだが、今回は礼になるものが手持ちにない」

 

 その言葉に、まったく律儀な人だと海未は再度思いながら首を横に振るう。

 

「かまいません。先ほども伝えたとおり、原因は私にみたいなものですからね。自分が巻いた種を摘んだだけです」

「と言ってもな…………男の矜持としては借りを返せないのは辛いもんだぞ」

 

 そう言いながら色明は両腕を組んで悩むように顔を顰める。

 

「そもそも、続けざま女に絡まれて同じ女に助けられること知り合いに知られた日にはいい笑い者だよ」

「言わなければいいじゃないですか」

「無理だな。こんな話、自然と口が滑ってちまうよ。面白くて大した女がいたってな」

「おやおや、その面白くて大した女とは誰のことですか?」

「そりゃあ、お前って──何機嫌損ねてんだよ。褒めてるんだぞ?」

「そう感じられなかったから、不機嫌になったのだと気づきませんか?」

 

 海未がぎろり睨むが、そこで十六時を知らせるチャイムが鳴り響いた。

 その音で、海未はは穂乃果とことりを待たせていると思い出し、瞬く間に慌てた。

 

「悪いですけど人を待たせてるので、これで失礼します!」

「おう。俺も今から仕事だから、また明日」

 

 仕事──目の前で話していると実感が薄れるが、目の前の少年はプロの有名歌手である。

 自分たちのアイカツに比べるまでもなく、多忙なはずだ。

 やはり、この少年は凄い人なのだと、改めて尊敬の念を抱く。

 

「わかりました。では、明日。お仕事、頑張ってください」

 

 微笑みながらそう言い残し、海未は走り去った。

 さて、自分もアイカツを頑張ろう。

 

 ▼

 

 

 時間が流れ、夕暮れの音乃木坂。

 海未は穂乃果とことりと共に校門前にいた。

 

「ここなら平気でしょう?」

「まぁ、ここなら…………」

 

 三人の手には大量のチラシ。

 今から海未たち三人は下校中の生徒たち相手に初ライブの宣伝を行うつもりである。

 

 ──ことの発端は今日の登校した時だった。

 

 いつものように三人一緒で登校してきた海未たちの前に、彼女たちのアイカツに興味の持った生徒たちが現れた。

 そこで一曲歌ってほしいと言われたのである。

 快く引き受けた穂乃果とことりだったが───あろことか海未は逃げ出したのだ。

 後に穂乃果たちが問い詰めたところ、いわく、まだ人前で歌うのは恥ずかしいとのこと。

 既に日舞の舞台に上がった経験もある海未なのだが、それこれとは話が別らしい。

 海未は武家の生まれゆえに勇ましく、度胸があるなのだが、羞恥を煽る行動は人並み以上に臆病になってしまうのである。つまり恥ずかしがり屋だ。

 そのことは昔から知っていた幼馴染たちであるが、このままでは三人でライブができないと穂乃果が考えた末がチラシ配りなのである。

 最初は秋葉原の街で配ろうとしたのだが、人の多さに海未が撃沈。次は場所を変えて音乃木坂に戻ってきたわけだ。

 もっとも、街中で配ったところで、初ライブをするのは新入生観劇会の後に学校の講堂なので、学外の人間を校内に入れるときにまた面倒事になっていただろうが。

 

「なら、始めるよ! μ'sファーストライブやります! よろしくお願いします」

 

 夕焼け色に染まる空の下、校舎の中から次々と下校する生徒たちが増えている。

 早速、穂乃果は走り出して下校中の生徒にチラシを配り始めた。

 

「よろしくお願いします。ありがとうございます」

 

 続いてことりも下校中の生徒にチラシ配りを行う。

 

「…………、よし」

 

 そんな二人を呆然と眺めかけた海未だったが、気合を入れてチラシの束を片手に道行く生徒たちに声をかけ始めた。

 

「ライブをやります! よろしくお願いします!」

 

 今朝や街で醜態を曝した海未だったが、今度ばかりは声を張ってチラシを配る。

 仮に、ここで怖気つけば何処かで見てるかもしれない。

 あるいは今まさに通り過ぎるかもしれな自分を慕ってるらしき後輩たちに格好がつかない。それが少し前に、自分が叱咤した少女たちであったのならば最悪だ。

 更に今頃、今日クラスメートになった少年は大人たちに囲まれて仕事をしているはず。

 男女の違いはあれど、同い年の人間がそこまでしているのだ。ならば、慣れた場所でくらいまともに動けないでどうする。

 これ以上の無様は武士の名折れ。

 海未は通りかかった小柄な少女にいらないとつっぱねられたが、それでめげずに次の生徒に声をかけ続ける。

 

「μ'sです! ライブやります! よろしくお願いします!」

「おお、いいね海未ちゃん! その意気だよ!」

「ふふ、私もやればできるんです!」

 

 少し様子を見ていた穂乃果に、知らない人にチラシなんて配れませんと崩れていた海未は得意げに笑った。

 そうだ、慣れてしまえば問題ない。

 一歩動きだせば、あとはやるしかないのだから余計なことなど感じる暇などないのだ。

 最初、日舞の舞台に上がるときも、同じように羞恥で気後れしたが、今では舞える。

 ならば、ライブもきっとできるだろうと、海未は少しだけ勇気を持てた。

 

「これなら休日にうちの宣伝も手伝ってもらっても大丈夫だね」

「それは遠慮します」

 

 穂乃果の軽い提案を海未は迅速に断わる。

 穂乃果の家は老舗の和菓子屋であり、幼馴染な為、海未はことりと共に店の手伝い自体は何度もしたことがある。

 だが、昔から続いてるだけあって店の愛好者は多いものの、住宅街付近にあるため人通りは基本少ない。更に、二時間以上店前で声出しをしたけど誰も通らなかったという穂乃果の愚痴も聞けば、人通りが多い街中で宣伝するとは違う意味合いで勘弁したい。

 

「それだけ声を出せれば大丈夫だって! 今度の日曜日、穂乃果とことりちゃんと一緒に人が全然来ない道に向かって叫ぼう! 三人なら虚しくないよ!」

「それが嫌だから遠慮してるんですよっ!」

「あの──」

 

 不意に、言い合ってた二人の耳に控えめの声が届く。

 海未と穂乃果が揃って視線を向けると眼鏡をかけた大人しそうな少女いた。

 

「あ、貴女は!」

「知ってるのですか、穂乃果?」

「うん、前に一年生の教室に行ったときにね。それで何かな?」 

「えっと、ライブ。見に行きます」

 

 聴いた瞬間、海未と穂乃果の顔が同時に輝く。

 ライブの宣伝を行ってから、初めて自分たちを見にきてくれと言われた。

 チラシを配ってもよくって受け取ってくれるだけ。ライブのことを話しても、行けたら行くなど曖昧な返事ばかりだったので、その言葉は海未たちとって何よりも励みである。

 

「ありがとう! えっと、お名前は?」

 

 いつの間にかことりも海未たちの傍にやって来ていた。

 ことりも来てくれるという言葉を耳にして嬉しかったのだろう。高揚した笑みで彼女はは少女に名前を尋ねる。

 

「あっ、はい、小泉(こいずみ)花陽(はなよ)です」

 

 急に聞かれて驚きつつも、少女──小泉花陽は名乗った。

 

「『こいずみはなよ』ちゃんだね。なんていう字を書くの?」

「小さな泉で小泉、お花の花に太陽の陽で花陽です」

「へぇ~、可愛い名前だね」

「あ、ありがとうございます。南先輩のことりという名前も可愛いと思いますよ」

「そう? ありがとう! あれ、私の名前って教えたっけ?」

「えっと、スクールアイドルのμ'sのページに名前と顔写真があったので。だから、高坂先輩も園田先輩のことも覚えてます」

「ああ、そんなの作ったね」

 

 花陽に言われて穂乃果はその存在を思い出した。

 スクールアイドルに登録する際、簡単なプロフィールを作成できるのだが、最初の内なので単にメンバーの顔写真と名前、あとは所属学校と活動理由の『廃校阻止』しか記載されていない。初ライブ後でも、しっかりとしたものを作ったほうがいいだろう。

 穂乃果がそんなことを考えている中、海未は花陽の言葉で別のことが気になった。

 

「わざわざそれぞれの名前を覚えてくれているほど私たちに感心を?」

「自分が通う学校にスクールアイドルができたのが気になって。アップされてる歌もいいと思います。曲もまるでプロが作ったのように凄いし、歌詞も勇気が出そうで好きです」

「あ、ありがとうござます」

 

 現在、μ'sのページにアップされているものは、作曲者による仮歌のものと改めて海未たちの三人で歌ったものだ。

 その中で、自分が担当した歌詞も褒められたので、海未は口に出した言葉よりも感謝と気恥ずかしさで胸が一杯になっていた。

 

「歌詞を考えたのはこの海未ちゃんなんだよ!」

「ほ、穂乃果! わざわざ言う必要ありません!」

「わわ、凄いですね。じゃあ、曲も他の二人のどっちらかが作ったのですか?」

「それは一応匿名だから勝手に話したらいけないんだ。ごめんね」

「? はい、わかりました」

「かよちーん! お待たせにゃ!」

 

 花陽が不思議そうに首を傾げた丁度その時、彼女の背中から別の少女が現れる。

 ショートヘアーに元気な声。大人しそうな花陽とは対照的に、活気に満ちた明るい子だった。

 

「わっ! (りん)ちゃんびっくりさせないでよ……」

「かよちん、ごめんにゃ!」

 

 ふんにゃりと謝る。かよちんとは花陽のあだ名なのだろう。

 凜と呼ばれた少女は反省しているのかわからないが、悪気があったようにはみえない素直な笑みを見せる。喋り方から身の振り方からして、正に自由な猫のような少女であった。

 そんな凜は海未たち三人に気づくと、花陽にそっと耳打ちする。

 

「先輩たちと何かお話?」

「うん。この人たちはこの学校のスクールアイドルで、って前に一度一年生のクラスにも来たよ。覚えてない?」

「ああ、そんなこともあったにゃ」

「ああ、そんなこともありましたね」

 

 言われて凜は思い出し、言われて思い出された海未は項垂れた。

 あれは穂乃果が見つけた作曲ができそうな人材が一年生にいるとのことで、三人は一年生との教室に赴いたのである。

 まだ曲すらアップしてない頃なのに、堂々とスクールアイドルと穂乃果が名乗ったので海未は恥ずかしかった。

 そういえば、あの中に自分を慕ってるらしい後輩たちはいただろうか?

 あの時はあまり人がいなかったので、もしかしたらいなかったかもしれないが、もし、あの後輩たちが自分がアイカツをしているのを知ればどんな反応をするか。海未は想像がつかない。

 ちなみに探していた一年生には作曲を断わられたものの、しばらく経ってから穂乃果の家に匿名で曲が入ったCDが投函されていた。

 誰なのか、語らずとも解る。

 

「もう、凜ちゃん。ちょっと前のことだよ」

「ごめん、印象が薄くて」

『印象が薄い…………』

 

 海未たち三人は項垂れた。確かに目立ったアイカツはしてないため、仕方ないといえばそうなのだが、面と云われると心が沈む。

 

「し、失礼だよ、凜ちゃん!」

「い、いいよ。私たち、あの時別に何もしなかったし。あっ、そうだ!」

 

 ははは、と乾いた笑みでそう言った穂乃果だったが、すぐににこやかな声と共に凜を見つめた。

 

「よかったら今度ライブするから見に来ない?」

「ライブですか?」

 

 流石に先輩対しては猫のような話し方をしないらしい。

 きょっとんとする凜に穂乃果は笑顔で何度もうなづく。

 

「今度、新入生歓迎会する日にやるから、その日に改めて覚えてくれたらいいよ」

「かよちんは行くの?」

「うん、見に行くよ」

「なら、凜もいくにゃあ!」

『おおっ!』

 

 二人目確保したことに海未たちが喜ぶ中、花陽が少しだけ不安そうな顔で凜を見つめる。

 

「凜ちゃんいいの? 運動部とか色々見たいって言ってたけど…………」

「時間も遅くだし、最初のほうに回れば大丈夫だよ」

 

 そう言って凜は海未たちに向き直り、にこりと笑う。

 

「先輩、かよちんと一緒に絶対、見に行きますね! 今から応援してます!」

『あ、ありがとう(ごさいます)!』

 

 ▼

 

 そして、そんなアイカツに勤しむ三人を昇降口から見つめる一人の女生徒がいた。

 一目したら誰もが目を奪われる金髪を後ろに束ね、青い瞳は宝石のように美しい。

 造形もモデル雑誌に載ってるような出るとこは出て、引き締まってるとこは引き締まってるという同性が憧れる肢体。日本には不釣合いな異国の少女であり、実際、彼女の血の四分の一が外国のもの、すなわちクォーター。少女は氷像のように冷めた雰囲気を醸し出し、それが彼女の美しさを際出せていた。

 彼女はここの生徒会長である。生徒会長は海未や穂乃果、ことりたちを冷ややかな視線で見つめた後、校舎の中に踵返す。

 

「やぱり、彼女たちが気になる?」

 

 生徒会長を待っていたかのように、長い髪を後ろで二束に分けて結っている少女、生徒会副会長である東條(とうじょう)(のぞみ)がが壁を背中つけながら声をかける。

 呆れた顔を副会長に向けた後、生徒会長──絢瀬(あやせ)絵里(えり)は冷めた吐息と共に頷いた。

 

「ええ。スクールアイドル──アイカツなんて無駄なこと一刻でも早く止めてほしいわ」

 

 ▼

 

 花陽と凜を見送った海未たち三人が改めてチラシ配りを再開すると、穂乃果がとある少女を見つけて、走り出す。

 

真姫(まき)ちゃ────ん!」

「ヴェエエ!?」

 

 突然やって来た穂乃果に少女は奇声を上げて驚いた後、むっとした顔で睨む。

 

「ちょっと、いきなり突撃しないでくれますか?」

 

 彼女の名前は西木野(にしきの)真姫。ウェーブがかかったミディアムヘアにつり目の、見るからに強気な少女。品位と知性によって磨かれた美少女なのは一目で解る。きつい眼差しも凄みはあっても嫌味を感じさせない凛然さ。只人ならば、彼女が放つ圧力に気後れするだろ。

 

「ごめんごめん」

 

 しかし、穂乃果はまったく怖気た様子なく、暢気な笑顔で真姫に話しかけた。

 思ったら行動する。猪突猛進は穂乃果の短所であり、また長所でもある。

 

「是非真姫ちゃんにもライブを見てほしくてね」

「ライブ?」

「そうだよ! 真姫ちゃんが折角素敵な曲作ってくれたし、人前でも歌わないとねっ!」

 

 ある日、穂乃果が音楽室で一人、ピアノを弾きながら歌う真姫を見かけた。

 心に響く奏。僅かな時間だが、穂乃果はその音に心底惚れ込んだ。

 だからスクールアイドルとしてアイカツをする際、真姫に作曲を依頼したのである。

 

「は、はぁ? 私、曲なんて作ってないですけど。先輩の勘違いじゃないですか?」

 

 だが、真姫は興味がないと撥ね退けて断わっていた。

 のだが、しばらく経った日、穂乃果の家に匿名のCDが入っており、その中に入っていた曲の歌声を穂乃果は聞いたことがあった。

 間違いなく、この目の前にいる西木野真姫のもの。

 しかし、素直じゃない真姫は認めないので穂乃果は合わせる。

 

「うん、そうだね。今はそういうことにしてるんだよね」

「意味わかんない!」

 

 全てが解ったかのような慈愛の笑みを浮かべる穂乃果を拒絶するようにそっぽを向く真姫。普通なら表情一つ変えるとこだが、穂乃果は笑ったままだ。

 

「だ、だいたい、あんなピアノだけの曲で歌うつもりですか?」

「あれ? 駄目かな?」

「静かに聴くだけならともかく、ピアノだけ流して歌うなんて華やかさが欠けるに決まってるじゃないですか!」

 

 馬鹿にしたように鼻で嗤うと、真姫は穂乃果の手からチラシを一枚抜き取り歩き出す。

 

「まぁ、精々、寂しい音楽だけで頑張ってください。それじゃあ」

「あっ。うん、ばいばい! 気が向いたらライブ見に来てね!」

 

 急ぎ足で校門に向かう真姫に、穂乃果が大きく手を振って見送った。

 

 二日後、穂乃果の家に以前の投函さていた曲を編曲した匿名のCDが届けられたとか。

 

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