貴方だけの歌 ~ラブライブ! School idol IF~ 作:貫咲賢希
(`8´)「ユルセナイチュン!! ンミチャンヲドジコメルナンテ!」
((;゚Д゚(;゚Д゚);゚Д゚)ガクガクブルブル
(#`8´)「オマエタチゼイインコトリノオヤツニシテヤルチュン!」
Σ((((;゚Д゚(;゚Д゚);゚Д゚))))ガガクガククガクブルブル
/cVσ_VσV「落ち着いてください、ことり」
/cVσ_VσV「元を言えば私が蒔いた種です」
/cVσ_VσV「ここは私に任せてくださいませんか?」
(・8・)「ンミチャンがそう言うなら…………」
+゚(。pдq(。pдq)。pдq)+゚。エグッ...
/cVσ_VσV「貴方たちも、そんなに怯えなくて大丈夫ですよ」
/cVσ_VσV「勿論、許したわけではありませんが。ゆっくり話しましょう。ね?」
ポポポ(*゚Д゚(*゚Д゚*)゚Д゚*)ポポッ
(・8・)。oO(そんな態度が問題やら誤解を生み出すんだって、気づかないかなぁ?)
「穂乃果ちゃん、こっちこっち!」
「ことりちゃん! 海未ちゃん! お待たせっ!」
「ギリギリですが、約束の時間には間に合いましたね」
土曜日の昼過ぎ。週休二日制である社会人や部活動をしていない学生にとって、この日は日曜日同様に休日に等しく、外出する人の多さも必然である。
海未、穂乃果、ことりの三人たちもある場所に向かうため、駅で待ち合わせをしていた。
三人とも制服ではなく外出用の装いであり、普段とは違う魅力をそれぞれ醸し出している。
何人かの通行者は、目に麗しい彼女たちに気づいて、視線を変えているが、反応はそこまで。
あのファーストライブはネットで公開しており、評判は概ね一応良好であり、スクールアイドル公式ページでのランキングも徐々に上がっている。
だが、まだ上には上がいるのが今の現状であり、通行中に呼び止められるまでには至らない。
まだまだアイカツが必要な彼女たちμ'sであるが、今日は練習はせずに遠出する。
ただし、彼女達は目的地を知らない。
「新田くんは?」
「もうすぐ着くそうです」
きょろきょろと周りを見渡す穂乃果に海未が答えた。
彼女たちをここに呼び出したのは、本来女子高である音乃木坂に現状唯一通う男子生徒、有名シンガーソングライターの新田色明である。
プロの歌手である色明は、μ'sの目的である廃校阻止の覚悟を試すため、この場所に集まるよう彼女たちに言い渡した。
当然ながら、拒否することもできたが、プロである彼に認められたら自分たちのアイカツにも拍車が掛かると考えた上、一度三人で相談した後、その提案を受け取ったのである。
「仕事終わってからすぐにここに来るんだよね。大変だね~」
「本来なら私たちとは比べもにもならないほど忙しい身。私たちを試すとはいえ、時間を作ってくれたことを考えれば、申し訳なく感じますね」
「いや、元々今日は午後からオフにしてたし気にする必要ないぞ」
ことりの言葉に海未が考えさせられたところで、声が聞こえた。
三人が振り向くと、見知らぬ男が立っている。
明るい金髪に色つきのサングラスの青年。
外見では誰も見覚えなかった。だが、先ほどの声と文脈で海未は何者かと悟る。
「一応確認しますが、新田さんですか?」
「おう、正解」
海未の言葉に男、色明は愉快そうに笑う。
「ていうか、初めて園田に名前で呼ばれたな」
「そうでしたか? それよりも…………それは変装ですか?」
「ああ。普段はここまでしないが、今日は徒歩と新幹線で人が多いとこにいくからな。念と為」
「人が多い場所ですか。結局、私たちを何処に連れて行くつもりですか?」
「それは行ってからのお楽しみということで。心配しなくても身売りまがいなことはしないぞ」
「誰もそんなことは心配してません」
「ことりちゃん、『みうり』ってなに?」
「悪い人のところに連れて行かれるの。穂乃果ちゃんがそうなったら、ことりが助けるからね」
「ありがとう! なら、穂乃果もことりちゃんや海未ちゃんはそうなったら、絶対助けるね!」
「うん!」
「…………、随分と仲良いんだな」
『幼馴染だからね!』
ふわふわな空気に色明が何とも言えなさそうな顔を浮かべる。
「ほら、二人ともじゃれてないで行きますよ」
▼
仲良し幼馴染三人組と少年歌手の一行は、新幹線に揺られながら目的地に向かう。
「?」
座席でこの前のライブのことを話している穂乃果とことりを正面から海未が眺めていると、携帯が震えたので確認してみると、隣に座る色明からのメッセージが届いてた。
すぐに海未は自分の横に立つ少年に顔を向けるが、色明は携帯を見たままでこちらを向かない。
不思議に思いながらも、海未は色明から届いたメッセージを確認する。
『あれから、あのお嬢さんたちとはどうだ?』
それを見て、内緒話だと解った海未はほそく笑みながら、メッセージを返す。
『特にこれといって問題はありません。平和なものです』
ファーストライブした後日、海未は自分を閉じ込めた少女たちに会った。
驚くことに実行犯二人以外にも、企てた人間が多くいたのである。
考えてみれば、自分が弓道場から出たタイミングも合いすぎており、首尾よく体育倉庫の鍵を入手してることを考えれば他に人がいても不思議ではない。
その中には以前、色明に文句を言った少女たちもいたのは今でも驚きである。
彼女たちに話を聞くと、以前から海未がアイカツしてることに反対だったらしい。
理由は海未がスクールアイドルに乗気でなかったこと。高坂穂乃果に無理やりつき合わされてるだけだと、不満を抱えていたのである。
最初の頃は本当のことなので、海未はそのことに関しては何も言わなかった。
だからと言って、彼女たちのやったことが認められるわけではない。
自分たちの考えだけで海未の意思を反し、事が明るみになれば大問題に所業を起こしたのは事実である。
けれども、海未は彼女たちを罰さなかった。
許したわけではない。
公になればμ'sの今後に響くという打算もあるが、何よりこれは自分の弱さが招いたこと。
入り口はどうあれ、海未はスクールアイドルをすると決めたのだ。
高坂穂乃果の無鉄砲な行動に迷惑してるのは事実だが、周りから見ても解るように真摯な態度でアイカツを初めからしていたら、彼女たちもあのような真似をしなかったかもしれない。
彼女達なりに自分を思って行動をしてくれた。
よって海未は「仏の顔も三度まで、次は許さない」とだけ言った。
甘いと馬鹿にされても仕方ない判断だ。
だが、当の本人がそう言った以上、加害者が求めても応じるわけにはいかない。
閉じ込められたときは本気で相手を憎んだが、自分たちのライブを見て涙する姿に憤りが消えたのも事実である。
罪を憎んで人を憎まず、その言葉を体現した海未に少女たちの心は打ち震えたのだった。
『今後は私たちのアイカツも応援すると言ってくれましたし、一人一人からお手紙も貰いました。ファンレター、とは違うかもしれませんがライブのことも褒められてたので嬉しかったです』
『雨降って地固まる、というわけかねぇ。無理に険悪になるよりかはマシだな』
『私もそう思います』
そうメッセージを送ったあとで、海未は隣を見た後、再び携帯の画面に視線を落とす。
『貴方には、本当に感謝してます』
『おいおい、いきなりどうしたんだ?』
『貴方が助けてくれたから、私たち三人でライブができました』
迷いつつも、そのまま海未はメッセージを送り続ける。
『あの日歌えなかったら、私は彼女たちと自分を一生恨むことになったでしょう』
本当は声に出して届けたかった言葉の数々。
何度か言おうとしたのだが彼は仕事で頻繁に学校からいなくなる。
だから、ずっと機会がなかった。今日のために海未は連絡先を交換していたが、できれば面と向かってと思っていたところでこのような形になったしまった。
本意ではないが、このまま気持ちを伝える。
『ありがとうございます。どれほどお礼を重ねていいのか、解らないほど』
再び海未は色明の顔を覗った。彼女の視線に気づいてないのか、彼は視線を携帯に向けたままにやりと笑っていた。
次の瞬間、携帯に反応があったので海未は視線を下ろし、色明から届いたメッセージを見る。
『俺が何もしなくても、園田は土壇場で間に合ってたさ』
ふざけたようにデフォルメされた鳥が「やれやれ」と呆れるスタンプが流れた。
『そうなったら、後でぶっ壊れた倉庫の扉をどうやって言い訳するか慌ててだろうよ』
『なんですか、それは。茶化さないでください』
『茶化してないさ。実際、倉庫の扉をぶっ壊してでもライブしようとしたのは事実だろう』
『確かに、そうですが』
何やら釈然しない海未はぷく~と頬を膨らませた。目の前にいる穂乃果とことりが気づけば、何事かと驚いてたに違いない。
『つまり、大それた感謝なんざ必要ないってことさ。礼一つ言われたら、それで終わりだよ』
そのメッセージを見て、海未の体が少し固まり、次に苦笑を浮かべる。
この人は、憎まれ口を言いながら随分と相手を気遣う。
出会ったときから変わらない在り方に、海未の気持ちが和らいだ。
『やっぱり、貴方はお優しいのですね』
今度は色明が固まるほうだった。
海未のメッセージを見た色はしかめっ面を浮かべて、即座に携帯を操作する。
『おいおい、随分と評価してくれてるな。これからアンタらに厳しい現実を直視させる相手によ』
『何を見せるかは解りませんが、貴方のことだから受け入れるべきものなのでしょうね』
『短い付き合いで信用されたもんだな、俺』
「さて、時間だな」
再び呆れた鳥のスタンプが流れると同時に、色明の声が三人に届けられる。
「次だ。そろそろ降りる準備しろよ」
▼
電車から降りた瞬間から人が多かった。
ここが終点なのかと思い違いを抱くほど、ホームに人が流れる。
改作口から出ると、更に人波が目立ち、ほとんどの人間が一つの方向に向かっていた。
「何かのイベントかな?」
「もしかして、スクールアイドルの?」
当然の感想を口にしたことりの後に、穂乃果が思いつきの言葉を出す。
しかし、それを海未がすぐに否定した。
「いえ、それにしては人が多すぎます」
スクールアイドルは確かに人気であり注目されているが、ほとんどが只の学生だ。余程の資産家の子息か学校からの支援がない限り大規模なイベントは起こせない。
現在、スクールアイドルの頂点である《A-RISE》というグループならば、プロアイドルに匹敵する実力と所属する学校側の援助で大規模なイベントも引き起こせるが、尋常ではない人の増加を目の当たりに、彼女たちの可能性すら消えた。
ならば、これらだけの人を集めた存在は、常軌より遥か高みに域いる。
「あっ! もしかして!」
先に気づいたのはことりだった。
ことりは周りの人が抱えてる手荷物や服装から、その存在を察する。彼女はライブ衣装を作るに際、『彼女たち』が着たものを参考にしたのだ。
いや、そんなことをしなくとも、その星はテレビを見たことあるものならば誰もが知っている。
「ま、まさか────」
次に解ったのは海未だった。
彼女は弓道で養われた視力を持って、遠くの看板にあった名前を見たのである。
海未はあまりテレビを見ないが、ニュースや新聞で頻繁に取り上げられてるので、意識せずとも既知となる。最近では歌詞作りの参考ため調べたこともあった。
彼女たちことは乙女たちが夢見る、尊き偶像の象徴。
結成して三年あまり。
短い期間ではあるが数多の芸術家を凌駕し、魅了し、赫耀たる活躍はとどまることを知らず、マイクを棄てようとしたアイドルたちに、今一度の希望すら与える暖かき天日。
幼き少女たちが憧れ、けして認められずとも自分たちの力でアイドルになろうとしたのは、彼女たちの憧れだった。スクールアイドルになった理由が、その夢を忘れられなかった者も多い。
アイドルの世界において知らぬものなどいない。新しい伝説を作り手。
尊きも眩しき光────『太陽』を意とする、其の名は。
「Soleil」
▼
芸能事務所と教育機関が複合したスターライト学園に所属する霧矢あおい。
同じくスターライト学園に所属し、トップモデルとして活躍する紫吹蘭。
そして、アイドルランキング一位、名実のトップアイドル。
二人と同じく、スターライト学園所属の星宮いちご。
Soleilとはこの三人で構成されたユニットだ。
結成して約三年ではあるが、活動期間は更に短い。
メンバーである星宮いちごが一年間アメリカ留学した空白期間があり、活動再開当初もトップアイドルグループとはまだ言い難かった。
しかし、メンバーである星宮いちごが去年アイドルランキング一位になったことや他二人の活躍もあり、グループとしても注目が卓越するほど高まった。
現在は全国五大ドームのライブツアー、《ソレイユ アワドリーム》を行っている。
その一つである名古屋ドーム開催ライブに、μ's一行は新田色明に連れて来られたのだ。
「二時間以上新幹線を乗せられて何処に向かうかと思いましたが、予想外です」
「すごい! す~ごいっ!」
驚きを通り越して呆然とする海未と違い、穂乃果は賑やかにはしゃいでいた。
μ'sの三人と色明がいる場所はVIP用の個室である。
大きな窓から会場の様子が一望でき、公演が始まれば近くに設置されてるモニターで近距離からの様子も見れるのだ。
「見て見て、ことりちゃん、海未ちゃん! ここから他のお客さんも見れるよ!」
「もう、穂乃果っ! 少しは落ち着いてください、はしたないですよ!」
「まぁ、まぁ、海未ちゃん。こんな凄い場所なんて普通は来れないから、穂乃果ちゃんの反応も無理ないよ」
「それはそうかもしれませんが、物事には限度があります。今は私たちだけですが、新田さんがいる前でそういった態度は──」
「俺がどうしたんだ?」
そこで、一旦席を外していた色明が戻ってくる。
「おかえり! ねぇねぇ新田君! そこにある冷蔵庫の飲み物って飲んでいいの?」
「かまわねぇよ。それ込みのこの席だし」
「やった! 海未ちゃんとことりちゃんはなに飲む?」
「えっと、何があるのかな?」
「もう、二人たら…………」
興奮が留まらない穂乃果とそれを楽しそうに眺めることり。海未は溜息を零しながら、ちらりと色明に視線を向ける。
「すみません、身内がお恥ずかしいところを…………」
「別に普通だろ。ライブは楽しむ場所だし、開始前は落ち着かないのも当たり前だ」
「そう言ってくれると助かります。しかし、よいのですか? 私たちにこんな席を。新幹線代も」
色明が準備したこの席を用意するには、相応の金額が必要のはずである。
道中の交通費も色明持ちであり、本人が言い出したこととはいえ、海未は気が引ける思いで一杯だった。
そんな海未に対して、色明は苦笑しながら肩を竦める。
「いや、元々家族と行くつもりだったが、無理になったしな…………」
「ご家族と、来るつもりだったのですか?」
「ああ。姉がいるんだけど、最近急に忙しくなったから来れなくなったんだよ」
苦笑したまま色明は溜息を吐き、話を続けた。
「で、それなら他の友達でも連れて行けって両親に言われてね。お父上殿とお母上殿は、姉を除け者にして自分たちだけ楽しめないそうだ」
「それは貴方もじゃないですか?」
「あっ?」
思わぬ言葉に色明が顔を顰めると、海未は面白そうにくすりと笑った。
「だって、お姉さまが行けなくなったと言ったとき、とても残念そうな顔してましたよ?」
「はいはい、そうですか。ど─せ、俺はシスコンですよ」
よく言われてるのか、色明は不貞腐れたように顔そむけると、海未はまたくすりと笑う。
「誰も馬鹿にしてませんよ。家族思いでとても良いと私は思います」
「そうですか。それは、ありがとうございました」
「何ですか、その言い方?」
極端に冷めた丁寧語を聞いたため、海未は思わず首を傾げる。
「別に。ていうか園田は普段からこんな喋り方だろうが……」
「私はそのように適当な態度をしてません」
「悪かったな。話は戻すが、家族と来れなくなったからといって転売するのもマナー違反だし、都合がいい友人がいなかったんだ。で、丁度有効利用できることになったから万々歳なわけよ」
そうやって、色明は探るような目で海未を見つめた。
「気にせずに楽しんでくれるとこっちも楽だ。Soleilのライブには興味ないかい?」
「いえ、そんなことはありません」
少し前の海未であれば有名なアイドルグループのライブだとしもて、興味がなかったので気は乗らなかっただろう。
だが、己がアイカツすることで、それまで関わってこなったアイドルというものに自ら触れ始めてる。
今の海未なら、このSoleilのライブはとても良い経験になる。そう確信していた。
「アイカツを始める前からメンバーの星宮いちごさんには興味ありましたし」
「……」
「楽しむと同時に勉強もさせていただきます」
「勉強、ねぇ」
海未の言葉を聴いた色明はニヒルな笑みを浮かべた。
「なら、余計に都合がいい」
「ん? どう言った意味ですか?」
「いや、特になにもないね。とりあえず、純粋に楽しんでくれるなら助かるよ」
「ええ。折角ですし楽しみましょう」
ここで海未も本腰を入れてライブを満喫することにした。
「ついでに貴女のお姉さんの分まで。一番ライブに行きたかったのはお姉さまでしょうし、代わりに行った者がライブを心から味わなければ、お姉さまも浮かばれませんよ」
「死んだような言い方止めてくれ。それに、家族で一番ライブに行きたかったのは俺なんだからよ」
「おや?」
「親が姉も興味がないわけじゃないが、そもそもライブに誘ったのは俺だし」
「ほぅ……」
確かに、このVIP席を準備するのは相応の資金が必要であり、有名な歌手である色明ならばかなりに稼いでるはずだ。
そして、自分が行きたいから、こんな席を準備したのは筋が通る。
彼は有名人。万が一、見ばれしたときのことを考えると、当然の配慮である。
しかし、海未には意外だった。
「ほう……」
新田色明という少年は、本人が有名であること以外にルックスも良いので学校では人気である。
しかし、回りの少女たちに笑顔は振りまくも、基本は営業スマイル。
踏み込んできた者にたちしては、慣れた様子で流していることを隣席である海未は知っていた。
だが、そんな彼でもアイドルのファン、つまり、年頃の少女に少なからず興味があるわけだ。
流石に恋愛方面まで飛躍させないが、何かしらの感心があることに、海未は驚きつつ理解する。
Soleilのメンバーの顔は雑誌や映像で知っている。
そこいらの娘に比べるまでもなく可愛いし、綺麗だ。年頃の少年が夢中になるのも仕方ない。
「貴方も男性なんですね……」
「なんだ、その目は。誤解されてる気がするぞ」
「大丈夫です。殿方ならば普通であると理解してますとも。偏見は持ちません」
「既に偏見持ってますよねっ!」
「ほら、そろそろライブが始まる時間ですよ。貴方が大好きなアイドルを席に座って見ましょうね」
「いや、先に誤解を解いてだな──」
「新田君、静かにっ! もうライブが始まるよっ!」
「…………、わかったよ」
先ほどまで一番騒がしかった穂乃果に注意さたので、色明は消沈し、とぼとぼと席に座る。
それを見届けた海未は思わず微笑み、自分も決められた席に座る。
数十秒後────、ライブが始まった。
軽快なドラムと共にスモークが吹き上げ、三人の少女がステージの下から飛び上がって現れる。
観客は喝采と共にライトを振り上げ、それを眺めることり、穂乃果、海未も目を輝かせた。一瞬で盛り上がった会場の空気はガラス越しにも伝わってくるが、それは瑣末なこと。三人は体の熱を上げて、Soleilのライブに見惚れていた。
星宮いちご、霧矢あおい、紫吹蘭の三人がステージで輝く。
微笑みは名の如く太陽に温かく輝き、歌声は大きな会場全体に広がり、感動は感動を伝播させた。動きの一つ一つが可憐で、目を離すことができない。
これがアイドルなのか。これがプロなのか。そんな言葉は下賎である。
これがSoleilなのだ。これが星宮いちご、霧矢あおい、紫吹蘭なのだと刮目せざるえない。
絢爛な演出は散りばめられた宝石、あるいは流転する星々の天空の如き輝き。滄桑之変の演奏は歌に更なる色彩を与える。身に纏うドレスはどれもトップデザイナーが縫い合わせた芸術の数々。どれ一つとっても見事としか言えず、それら全てが三人に花を添えていた。
譬え、彼女たちが其々一人になったとしても、ライブの盛り上がりは変わりない。三人三色、各々の魅力を十二分に引き出して、会場の熱に拍車を掛ける。
ファンにとって祝福の時は光の速さのように駆け巡り、ライブが終わる頃だと気づいたときには必死でアンコールを叫んだ。
それは、VIP席にいた者たちも例外なく、今一度彼女たちを観客が求め、それに応えたSoleilgがステージに再臨する。
『みんな、ありがとうっ!』
正真正銘、最後の一曲が終わるとSoleilの三人は会場にいる全ての人間に心からの感謝を伝えた。それは見てくれた観客だけではなく、協力したスタッフや演奏者にも送られた真心である。
約三時間ほどのライブは瞬く間に終わり、Soleilの三人が完全にステージ上から姿を消し、スタッフに退去を命じられた頃になっても熱気は収まってない。
当然、VIP席にいた三人の少女たちもライブの興奮が残ったままだった。
「うわぁああ、すごかったよおおお!」
「穂乃果たら、今日はそればかりですね」
「でも、すごかったものはすごかったもん! 海未ちゃんもそう思うでしょう?」
「それは、はい。圧倒されました」
「ことりも! 歌や踊りもそうだけど、お洋服もキラキラで可愛かった!」
「楽しんでくれたようで、何よりだ」
感想を言い合う三人へ色明が割って言葉を紡く。
「あれが大勢に注目させるアイドルだ」
『?』
色明は静かな瞳で彼女たちを見つめる。急変した様子に、三人は戸惑いを隠せない。
先ほどまで感じた興奮がそれによって完全に冷めた頃、再び色明が口を開いた。
「つまり、大衆に注目されるアイドルをするならば、アレくらいを目指さないといけない」
「え? でも、穂乃果たちはスクールアイドルでSoleilはプロの──」
「関係ないな」
切り裂くように断じた色明の言葉に、三人の少女たちの顔が強張る。
「甲子園目指して励む野球する奴らは、みんなプロになりたいから必死に努力する。だから、応援されて関心を抱かれる。それと一緒だよ」
そこで、海未は色明言いたいことが全て解った。
「スクールアイドルというのはプロを目指してる奴らが殆だ。目立つ奴は尚更な。廃校を阻止するほどの興味を人に持たせたいなら、そいつらを出し抜かないと無理だぜ」
それは以前、海未が穂乃果に言ったことでもある。
スクールアイドルを本気で取り組んでいるものは、アイドルというものに憧れを抱いてるから。
中には遊び半分でやっているものもいるだろうが、いつかはプロのアイドルを夢見て努力する者がいる。そのような者こそが、他人に感動され、声援を受け取り、賞賛を浴びるのだ。
「同じスクールアイドルだけを見てるならば、一生そいつらの後ろだよ。学校救うために切磋琢磨励むなら、まずはSoleilほどの頂点目指す気概が必要だぜ?」
誰も言い返すことはできない。
色明が言っていることは事実である。
既に生徒数が少ない学校をこれからも存続させるためには、よほどの注目を集めなければならない。単にスクールアイドルするだけでは足りないのだ。
学校を選ぶということは、ライブに一度出かけるとは違う。
高校三年間という歳月と今後の人生を左右する大事な分岐点。
それを多くの誰かに選ばせるほどの魅力を持たなければならないということは、自分たちが最初に歌った講堂を満員にするだけでは不十分なのである。
それこそ、先ほど見たSoleilのような大勢を魅了する輝きが必要なのだ。
普通に考えて、殆ど素人の人間が並大抵以上の実力を身に付けるのは非常に困難。
時間をかければ、叶うかもしれないが既に廃校が目前の今、その時間すらない。
ゆえに、奇跡が起きないかぎり不可能だと、色明はファーストライブの後で言ったのだ。
実際、今いるμ'sの三人だけでは、どれだけ努力を重ねても不可能である。
突きけられる現実。
海未は拳をぎゅっと握り締め、ことりは口を引き締め、穂乃果はじっと色明を見つめた。
「新田君………」
「なんだ?」
「ありがとう!」
花が咲いたような笑みだった。
一瞬、色明は一言葉を失い、思考停止に陥る。正常に戻った彼の精神は驚愕と混乱である。
どう反応すべきか口篭る色明を前に、穂乃果はやる気に満ちた顔で両脇を締めた
「そうだよね! すごいスクールアイドルたちはSoleilみたいなトップアイドルを見て頑張ってるんだがら、私たちも同じ────ううん、それ以上に頑張らないと!」
「…………解ってるのか? それがどれだけ無茶で無謀で無理なことか?」
「そんな言葉はスクールアイドルを始める前から言われてるよ」
スクールアイドルを提案したときは、いまメンバーである海未にも否定された。生徒会も快く思っていない。
「でも、やるって決めたんだ。やるったらやるっ! だから、解りやすい目標ができて嬉しい! あのSoleilくらい沢山の人を感動させることができたら、学校を救えるぐらいの人も必ず集まるよ!」
「無茶苦茶だなぁ……」
「でも、意気込みは認めてくれるでしょう?」
呆然とする色明にそう言ったのは海未だった。
「私も同じ覚悟です。当然、ことりもですよね?」
「うん! 穂乃果ちゃんと海未ちゃんとなら何処まででも!」
「お前ら…………」
色明はSoleilのライブを見せ、廃校阻止にはどれだけの力が必要なのか知らしめたかった。
意気消沈して、彼女たちが折れることになっても構わない。
歌の世界にいる色明は、彼女たちと同じような人を見てきた。
頑張っても報われず、挫ける姿は痛ましい。
だからこそ、最後に絶望するくらいであれば、傷が浅いうちに終わってほしかったのである
しかし、今の彼女達はどうだ? 失意のどん底に落ちるどころか、燃えているではないか。
物事が甘く進まないことなど、あのファーストライブで知ったはずなのに。
少女たちの瞳の奥から輝きは失せていない。
そこでようやく、色明は悟った──自分の方こそ、無駄だったのであると。
きっと、彼女たちは何を言っても止まらない。
スクールアイドルになって学校を救うという決意は、それほど強固になったのである。
「これは俺の負けだな。いいぜ、やってみろよ。後で泣くことになっても知らないからな」
にやりと口端を緩めた色明に対して、穂乃果も負けじと力強い顔を浮かべた。
「泣くことになっても、何もせずに後悔するよりはずっといい。それは何度も言ったことだけど、やってみなければ解からないよ」
「は────」
穂乃果の言葉を聴いた色明は、顔を硬直させ。
「──あはははははは!」
大声を出して笑い出した。
突然のことに三人の少女が驚くも、少年は構わず笑い続ける。
「──ははは、それはそうだなっ! あぁ、本当に俺の完敗だ!」
心の其処から愉快そうに少年の笑顔に、少女たちは茫然とする。
年相応よりも子供っぽい無邪気な笑い顔は、メディアや学校でも見せたことない、彼の素顔の一つだった。
「うん、解かったよ。お前たちの決意。必要なら奇跡すら起こしてみせようって覚悟、しっかり伝わった。頑張れよ、応援してるぜ!」
破顔する色明に、μ'sの三人は声を出して歓喜し、安堵を抱く。
プロからの、社交辞令や気遣いではなく、正真正銘の声援。
それは歩き始めたアイドルたちにとって、掛け替えのない激励であった。
「でも、実際どうするんだ? 今のままただアイカツするだけなら、結果は目に見えてるぜ?」
気持ちだけで旨くいかないのは、あのファーストライブで痛いほど身にしみた。
もしも、二人の少女が最初から見に来てくれなかったら。予め、海未が忠告していなかったら。自分たちは幕が上がった途端、誰もいない場所で挫けていたかもしれない。
Soleilのライブ、脚光を浴びる存在、多くの人々から賞賛を貰うにはどうしたらよいか。
まず最初の近道を示したのは、一人の少女だった。
「なら、新田くんだ歌を教えてくれないかな?」
「ことりちゃん?」
「ことり!?」
驚く他の二人を余所に、ことりは新田を見つめて言う。
「応援してくれるんだよね? だったら、新田くんが歌を教えて。テレビとかでしか聴いたことないけど、新田くんの歌がとても凄いって、みんな知ってるよ」
「ことり、それは…………」
ことりの提案に、苦渋の色を顔に出したのは海未だった。
海未も色明の歌は知っている。妙な縁で、直接聴く機会もあった。
彼の歌は、心から素晴らしいものと認めている。
プロの中でも実力派。そんな彼に歌の指導を受けられることができたらならばと、海未も一瞬考えはしたが、相手は自分たちとは違いプロなのだ。
学校を仕事で抜けるほどの多忙な人間に、他人を指導する余裕があるとは思えない。
「彼はプロですよ? 私たちに歌を教える暇など」
「いや、かまわない」
「え!?」
ことりを諭そうとしていた海未は、色明の言葉に耳を疑う。
「い、いま何と言いましたか?」
「だから、かまわないって。歌の指導だろ? それくらいなら、手伝っても問題ない」
「本当に! やったね、ことりちゃん!」
「うん!」
喜び合う穂乃果とことりだったが、海未は不安げな顔で色明を覗った。
「大丈夫なんですか? よく学校を抜け出していて、お忙しそうに見えますけど」
「最近はな。けど、今日みたいに休みがとれるくらいの余裕はこれからはできるのさ。仕事がないわけじゃねぇが、お前らのアイカツは手伝ってやるよ」
「貴方がそう言うならば、よろしいですが…………」
「なんだ? 園田は俺が歌を教えるのは不服か?」
「そ、そんな訳ありません!」
海未もできたら彼に教わりたいと考えていたのだ。
本人が承諾するのは正しく望むところなのである。
「貴方のご教授を受けられるならば、私たちのアイカツは更なる飛躍を遂げるでしょう。何卒、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
「かったくるしいなぁ……。同い年なんだしよ、そこまで謙るのは勘弁してくれ」
「わ、わかました。善処します」
「もっとも、指導を緩める気はないがな。やるからには、俺も廃校阻止を目指す」
少年の意気込みに、少女たちは目を見開き、感動した。
色明としても自分が助力して、駄目だったとは後味が悪い。
彼にとって音ノ木坂はただ籍を置くだけの思い入れもないにもない場所だった。
しかし、彼女たちを手伝うと決めた以上、自分も同じ覚悟、同じ場所を目指すことにした。
ならば、できることは何でもしよう。
歌だけではない。可能な限り、己が行動できることは何でもする。
「他のことをも口出しするし、キツイことも要求する。さて、これでも俺の指導が欲しいか? 取り消すなら今の内だぜ?」
「望むとこだよ! ガミガミ言われてるのはもう海未ちゃんで慣れてるし」
「ほう、そうですか」
跳ね除けるように言った穂乃果の言葉だったが、それが海未の感に触った。
「私に言われてるのは慣れてると、そう言いましたか?」
「う、海未ちゃん?」
ぎろり、と睨む海未に怯える穂乃果。そんな彼女に海未は淡々とした口調で語りかける。
「私に言われ慣れてるならば、どうして練習のときは文句ばかり言うんですかね?」
「い、いや。でも、最終的にはやって──」
「注意されてやるのは当然です。それでも、毎度毎度注意されるのは何故ですか? アイカツ以外は注意してもできてない。遅刻宿題忘れ物。何時になったら直るのです? それとも慣れてるから、私の言葉では何も感じないのですか? だいたい、穂乃果は────」
「ひぃいい! 海未ちゃんがお説教モードだぁ! 助けて、ことりちゃん!」
「また、ことりに助けを求めて、情けない! 先ほどの勇ましさはどこにいったのですか!」
「ははは…………まぁ、まぁ海未ちゃん落ち着いて」
「…………」
いつの間にか置いてけぼりにされた色明は、三人のやり取りに呆然する。
これから先、何度も見ることになる光景を前に、やれやれと色明は溜息をした。
せっかく落ち着いてきたのに、これからしばらくも忙しくなりそうだ。
しかし、悲嘆することはなく、彼は期待に満ちた顔で彼女たちに告げた。
「なんであれ、これからよろしく頼むわ、μ'sの諸君よ」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
Soleilのライブ回まで投稿したのは、いちごちゃんが海未ちゃんと同じ誕生日だからです。
続きは日曜日の予定。
改めて、園田海未ちゃん誕生日おめでとう!
一緒に、星宮いちごちゃん誕生日おめでとう!
いちごちゃんを知らない方は、すぐにアイカツを見てください。