貴方だけの歌 ~ラブライブ! School idol IF~ 作:貫咲賢希
/cVσ_VσV「のちに米天使は嘆きます。何故、もっと早く介入しなかったのかと」
「さてと、そろそろ帰るぞ」
トップアイドルグループの一つである、Soleilのライブが終えた後のVIP席。
音ノ木坂のスクールアイドル、μ'sをここ招き、彼女たちの協力者になったの少年、新田色明は帰りを促す。
「新幹線の時間は決まってるんだ。おちおちしてたら、車内で駅弁が夕飯になるぞ。せっかく、名古屋まで来たんだから、俺としては御当地ならではの食事がしたいだが」
「はいはーい! 穂乃果、味噌カツとひつばぶしが食べたい!」
「ことりはういろうと鬼まんじゅうが食べたい! 駅のお土産屋さんにあるかな?」
両手を上げた穂乃果の主張に続き、ことりも自身の要望を声に出す。
それを聞いた穂乃果が不思議そうにする。
「ういろうは知ってるけど、鬼まんじゅう? すごい名前だね。鬼さんの形でもしてるの?」
「穂乃果ちゃん。鬼まんじゅうのはね、芋まんじゅうとも呼ばれてて、簡単に説明するとさつま芋を蒸したお菓子のことだよ」
「なるほど。海未ちゃんは何か食べたいのある?」
穂乃果がそう訊ねると、海未は微妙な顔になった。
「私は食べ物よりも、観光がしたかったのですが・・・・・・」
名古屋に来ると知ったとき、海未は様々な観光名所を思い浮かべた。
代表的な名古屋城を初めとした岩崎城に桃巌寺の名古屋大仏。他にも名古屋には見所がある寺院や神社があり、海未は能楽堂にも興味を持つ。
古風な家で育った海未が、古い日本文化が好きなのはむしろ当然だろう。色明に連れてかれる場所がSoleilのライブだとは知らなかった彼女は、用事を済ませた後、できることなら観光したいと僅かに期待していのだった。
「ですが、そんな時間はなさそうですね」
現在の時間を考えると、夕飯を済ませて他を見て回る余裕はない。
勿論、Soleilのライブは観光を犠牲にしても赴く価値はあった。
観光地はその気になれば行くことは可能だが、人気アイドルのライブは行こう願っても、抽選落ちや日取りが合わないなので行くことができない悲惨な末路がある。
そして、多くの人が己こそが赴くと願ったSoleilのライブに来れたのだ。僥倖以外何ものでもない。
だが、それとは別に、あの場所は見れないと、残念な気持ちが少し残っている海未だったが。
「いや、名古屋城ぐらいなら行けるだろ」
「本当ですか!?」
しょんぼりしていた海未が、色明の言葉で表情を輝かせた。
名古屋城は誰もが知る一番有名な場所である。
それだけでも見れたならば、今回思い残すことはなにもないと海未は期待を膨らませた。
「ああ。ここからなら、一時間程度か。帰りの新幹線は少し余裕を持たせてるし、高坂や南が食べたいメジャーな御当地ものは、道中幾らでもあるだろう。食べ歩きながら向かう手のもありだ」
「いいねですね! それで、行きましょう!」
「ははは、いきなり元気になったね。よし、Soleilのグッズを買ってから、名古屋駅を目指そうか」
上機嫌になった海未を乾いた笑みで眺めがら、穂乃果が今からの行動を決める。
しかし、それを聞いた色明が厳しい顔つきになった。
「高坂。流石に物販まで覗く暇はない。そもそも、もうグッズは完売してるかもしれない」
「ええ!? さっきライブが終わったあとだよ!?」
「そういうもんだよ。グッズ販売は大抵ライブ開始前に並んでた人が買い占めて、残りも席が悪かった後列の人が買い占める。仮に残っていたとしても、そこは長蛇の列。並ぶだけ時間の無駄だ」
「ううう、せっかくSoleilライブに着たんだし、シャツとかポスターとか色々欲しかったのに……」
「なら、穂乃果ちゃん。東京に戻ったら、明日にでもアイドルショップを一緒に行こう」
今度は気落ちする穂乃果に、ことりが誘う。
「秋葉だったらライブ限定グッズも置いてあるお店もあるし、その方がゆっくり見れるよ」
「……うん、わかった! これかは目線を高くするんだから、勉強のためにも行こう!
ちなみに、ことりの言葉どおり、秋葉には特定のイベントでしか購入できない限定商品が置いてある専門店があるが、その場合は通常価格よりもかなり値上がりしているのだ。
「よし、決定! 海未ちゃんも来るよね?」
そのことをまだ知らない穂乃果は、当然のように海未も誘う。
「明日ならば、昼からなら。新田さんもどうですか?」
「悪いが日曜出勤だ」
「それはそれは。お勤めご苦労様です」
「いや、慣れたものだよ」
海未が気の毒そうな顔をしたので、色明は平気そうに軽快な笑みを作る。
実際、何度かやってるうちに感覚が麻痺してしまい、日曜日が休日であることを時々忘れてしまうのは業界ではよくあることだ。
「んじゃあ、明日の予定も決まったし、早速名古屋城に向かおう!」
そう言いながら、勢いよく穂乃果が扉から出て行くと、色明が苦笑した。
「まぁ、入り口に着いたら、三人には少し待ってもらうがな」
「何か用事が残ってるのですか?」
ゆっくり歩き始めながら色明がそう呟いたので、海未が訊ねた。
「楽屋挨拶。他の人はステージ前にしてて、俺は後でするんだよ。ライブ前に抜けていたのは、挨拶の順番を決めてたわけな」
「つまり、Soleilに会うのですか」
海未がそう口にした途端、色明が訝しむ。
「おっと、お客が業界人以外を出演者に会わせるのはマナー違反だから遠慮してくれよ」
「流石に我慢しますよ。いえ、期待してなかったのは嘘ですが」
海未が色明にそう言った、次の瞬間。
「あぁあああああああっ!?」
廊下から、大きな叫び声が聞こえた。
声の主は、一足先に部屋から出た穂乃果のものである。
『穂乃果(ちゃん)っ!?』
幼馴染の叫びに即座に反応した海未とことりは、慌てて廊下に出て行った。
「穂乃果、何が────」
「穂乃果ちゃん、どうしたの────」
何かの事故かと不安を抱いたが、二人は廊下立ち尽くす穂乃果を見つけて、一先ず安堵する。
次に穂乃果の目線の先にいる者たちを目撃し、石化したように硬直した。
「え、嘘?」
「まさか」
「おい、どうした?」
最後に色明が出てくると、彼は其処にいた人物たちを怪訝そうに見つめた。
「星宮・・・・・・。それにあおい。紫吹さんもいるか。何で、ここにいるんだ?」
「あっ、新田くんだ。こんにちはー」
そこには、にこやかに手を振るう頭の赤いリボンを付けた少女、星宮いちごがいた。
彼女の後ろには、サイドテールをした利発そうな少女、霧矢あおい。
その傍らには、腰までのばした長い髪を持つ少女、紫吹蘭までもいる。
『そ、Soleil─────────────ッ!?』
数分前までライブをしてたアイドルたちに、ことり、穂乃果、海未の三人は絶叫した。
「はい! Soleilの星宮いちごです! こんにちは!」
大きな反応に慣れているのか、星宮いちごは海未たち三人の挙動にまったく動じず、にこやかに挨拶をする。
『あ、こ、こんにちは・・・・・・』
「じゃあ、私も。Soleilの霧矢あおいです。よろしく!」
『よ、よろしく、お願いします』
続いて霧矢あおりが自己紹介した彼女は、未だ狼狽中の海未たちの横をすっと通り過ぎる。
「で、この可愛い子ちゃんたちは誰かな?」
そのままあおいは、傍に立っていた色明に近づき、彼の体を肘で小突いた。
「痛っ! ただのクラスメートだよ」
「家族と来るって聞いてたのに、可愛い子を三人も連れて来るなんて。このこの!」
「だから、クラスメートって言ってるだろ! やめろ!」
「またまた、色明がこれぐらいで痛いわけないじゃん」
「同じ場所を的確に狙われたら痛いに決まってるだろが!」
迷惑そうにしてる色明だが、あおいは一向に離れる気配がない。
それに気づいたμ'sの三人は、狼狽から抜け出したものの、代わりにそれを見て困惑した。
妙に近い距離で行われてる男女のやり取りに、乙女たちの妄想が発揮される。
(ねぇねぇ、何だかすっごく仲良くない?)
(もしかしたら、そういう関係なのかもしれません………)
(そうか! Soleilの霧矢あおいさんとお友達なんてすごいね!)
(穂乃果ちゃん……、海未ちゃんが言ってるのはそういうのじゃなくて)
「おいおい、あおい。それ以上は迷惑だぞ」
こそこそと詮索するμ'sたちの横で、未だ小突かれてる色明に紫吹蘭が助け舟を出す。
「二人は昔からの知り合いと聞いてるが、親しき仲にも礼儀ありだ」
「いや、これくらい私たちの間ではいつもことだから」
「それでもだ。それに、アイドルが人前で異性と接近すると変な誤解を生むぞ。そこの彼女たちにみたいにな」
「まぁ、そうだね。一旦これくらいで」
蘭の言葉でようやくあおいは色明から離れ、自分を凝視する海未たち三人に笑いかける。
「ちょっとからかい過ぎたかな。色明とは昔、一緒のお稽古をやってて、それで仲いいの。でも、スキャンダルになるような仲でもないから、誤解しないでね。いちごも」
『は、はぁ……』
「あれ? 何で私も?」
とりあえず返事をする海未たちに、不思議そうに首を傾げるいちご。
「えっと、それは──」
「それよりも、何で三人はここにいるんだ?」
「いちごが帰って行くお客さんを少し見送りたいと言い出して、外が眺めれる場所に向かってた途中なんですよ」
「そうなんですか。星宮らしいですね」
蘭の丁寧な説明に対して、色明も同じように返す。
あおいとの後なので、妙に余所余所しい態度に見えるが、これが普通の対応なのだ。誰に対してでも遠慮なしで振舞うことが許されるのは、余程の大物だけである。
「今更な名乗るのも完全に出遅れだが、紫吹蘭だ」
「に、新田くんののクラスメートの高坂穂乃果です!」
蘭がμ'sの三人を見つめてきたので、今度は自分たちの番だと慌てて穂乃果が名乗った。
「お、同じく、クラスメートの南ことりです」
「わ、私もクラスメートで、名は園田海未と申します…………。この度は、ご都合が悪くなった新田さんのご家族の変わりに、此度のライブへ同行させてもらいました」
「なるほど」
続けて二人の自己紹介と、事情を聞いた蘭は、あることを訊ねた。
「今日のライブ、楽しんでくれたか?」
『!? は、はい、もちろん!』
「──そうか。なら、よかった」
息の合った大きな返事に、蘭は一瞬驚きつつ、ふっと、満足げに笑う。
蘭は、元々来る予定ではなかった者の反応を少しだけ気になったのだが、彼女たちの笑顔見て、杞憂だと悟る。そして、その三人はいうと。
(COOOOOL!)
典麗な蘭の微笑みに三人は感動していた。
気取った笑みが嫌味に感じず、人の心を掴とる表情。
流石トップモデルで、人気アイドルの一人。自然な笑顔一つで、人を魅了するのも簡単らしい。
「遅れながら、ライブお疲れ様」
三人が蘭に魅了されている中、色明が遅れながら労いの言葉を送る。
「うん!」
それに反応したのは星宮いちごだった。
彼女は色明に近づくと、改めて彼に喋りかける。
「お花ありがとう! 差し入れのお菓子も美味しかったよ」
「…………、贈ったものは好きにしていいが。もう食べたのか?」
「ライブ開始前、他の差し入れ同様、見た途端にペロリとね」
「だって、美味しそうだったもん!」
呆れる色明へあおいが苦笑で説明し、いちごが子供のように頬を膨らませる。
食い意地が張ってる言動だが、それすらも愛らしい。
アイドルゆえそう思うのかとかと、穂乃果が考えていたが、その横で彼女の幼馴染たちは別の感想を抱いていた。
『穂乃果(ちゃん)みたい(ですね)……』
『…………』
思わず口に出た二人の言葉に、周りが沈黙する。
あっ、と彼女たちが失言かと思った矢先、あおいが面白そうににやりと笑う。
「へぇ、穂乃果ちゃんはうちのいちごと一緒で食いしん坊さんなんだ」
「ち、違が、でも、いちごさんが食いしん坊ってわけじゃなくて、もう、二人とも何言ってるのさ!」
「すみません、思わず本音が零れました」
混乱しながら憤慨する穂乃果に海未がさらりと謝罪し、「ですが」と付け加える。
「貴女は何か食べ物があれば、その場でひょうひょいと食べてしまうでしょう」
「そんなお行儀悪くないよ」
「この前、ことりが練習後に食べるため作ってきてくれたマフィンを、一人で先に食べたのは何処の誰でしたか?」
「……だって、美味しそうだったもん!」
『ぷっ!』
穂乃果の言い訳にならない言い訳に、あおいと蘭が噴出して笑う。
「さっき、いちごが言ったことと同じことを言ってる」
「ああ。確かに二人は似てるかもな」
「これくらい普通だよ!」
愉快そうにしていたあおいと蘭だったが、そんな二人に言葉をぶつけてきたのはいちごだった。
「女の子なんだから美味しいものは目がないのは当然だよ! ね、穂乃果ちゃん!」
「え!? あ、はい! 私もそう思います!」
いきなり呼ばれて驚きつつも、元気よく同意する。
「だよね、だよね!」
その態度に好感を抱いたのか、いちごがにこやかな顔で穂乃果に近づいていった。
「駄目だ駄目だと思ってても。できたてのお饅頭とか、美味しそうなクッキーがそこにあると自然と手が伸びちゃうものだよね」
「はい! あと、出来立てが一番美味しい時ってありますよね? さっき海未ちゃんが言っていたことりちゃんが作ったマフィンも、まだ熱が冷め切ってなくて、いい香りがしてたから。
だから、食べたんです! 今が一番美味しいときだから、今食べないと駄目だって! よって穂乃果は悪くありません!」
「うんうん! 穂乃果ちゃんは悪くない! 私も差し入れも貰った時に食べないと、くれた相手に悪いと思うんだよ。感謝の気持ちを後回しにしたら駄目だって。
だから、食べたの! 本番前だからこそ、貰った食べ物の差し入れは全部食べて、力付けないと! よって、私も悪くない!」
「そうです! いちごさんは正しい!」
「いちご。意気投合してるとこ悪いけど、そろそろ行かないとファンの見送る時間が無くなるよ?」
「穂乃果。これ以上引き止めるのは失礼ですよ」
何かの一斉蜂起でもするのかと疑うくらい興奮する穂乃果といちごに、それぞれの保護者役である海未とあおいが忠告した。
「あ、そうだね。それじゃあ、四人とも今夜はライブ見に来てくれてありがとう! バイバイ!」
先に我に返ったいちごが、穂乃果たち四人にそう告げた途端、彼女は走り出した。
「え? ちょっと、いちご!? 待って─────!」
急に走り出したいちごをあおいが追いかけ、蘭がやれやれと溜息を吐いた。
「帰り際に引き止めて悪かったな。では、よい夢を」
そう言い残した後、蘭も二人の後を追って走り去った。
Soleilの怒涛なる退散に呆気をとられる四人。
一番、最初に我に返ったのは穂乃果だった。
「はっ! Soleilの皆さん、おやすみなさーい!」
「穂乃果。きっと、もう聞えませんよ」
「ははは、なんだか嵐みたいだったね」
「そうだな。では、俺たちも帰るぞ」
苦笑することりの言葉に色明が首肯すると、我先にとSoleilが去った方向とは反対側に向かって歩き始めた。
「ほら、穂乃果行きますよ」
「…………」
「穂乃果?」
自分たちも行こうとする海未だったが、一向に動き出さない穂乃果に怪訝する。
「穂乃果、どうかしたんですか?」
「私たち、Soleilとお話してたんだよね。すごいね」
「まぁ、そうですけど」
「Soleil…………」
まだSoleilが去った場所を眺めてる穂乃果の様子を見て、海未は納得した。
確かにSoleilとの邂逅は、普通では想像もつかない衝撃的な出来事である。
海未自身も未だ信じられず、色明が動かなければ、彼女も少しの間、穂乃果のように呆けていたかもしれない。もっとも、穂乃果か日頃からよく呆けているが。
「ことり。穂乃果を連れてきてください。私は新田君を追いかけます」
「うん。解った」
諦めた海未はことりに穂乃果を任せ、一人先を進み色明を追いかけた。
「二人はどうした?」
先を歩いていた色明が、後ろからやってきた海未に気づいた後、残りの二人がいないことを問いただす。
「後できます。ところで」
「ん?」
「霧矢さんとは昔、同じ稽古事をしてたらしいですけど、星宮さんとも仲が良いのですか?」
海未にとっては、ちょっとした質問だった。単なる道中の会話の種。
色明のSoleilたちに対する呼び方が、蘭が『紫吹さん』、あおいが『あおい』と呼び捨てで、いちごに関しては『星宮』と苗字だった。
互いに軽口を言い合える霧矢あおいほどではなくとも、業務的やりとりをした紫吹蘭以上よりは親しいのだろうかという些細な疑問。
それを海未が訊ねると、色明は目を細める。
「小中、同じ学校だった。もっとも、接点ができたのは小学校5、6年からだ。それもあおいを通してだし、中学校もあの二人は途中でスターライト学園に編入したから、星宮とは知り合い程度だ」
「なるほど」
さらりとした説明に海未は納得する。
その後で穂乃果とことりがやってきたので、その話は終わった。