貴方だけの歌 ~ラブライブ! School idol IF~   作:貫咲賢希

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\\\[前回のラブライブ]///

モブ(( ゚∀゚( ゚∀゚( ゚∀゚)ノ「西木野さん! 今朝言い忘れてた海未先輩の良さを教えてあげるわ!」

Σ从廿_廿从「!?」

モブ(( ゚∀゚( ゚∀゚( ゚∀゚)ノ「まずはあの凛とした佇まい! 大和撫子ように可憐で、侍のように勇ましいお姿は超絶よ!」

从廿_廿从「ちょ、ちょっと、貴女たち──」

モブ(( ゚∀゚( ゚∀゚( ゚∀゚)ノ「真面目で品性の塊。清く正しく美しく。それは普段の振る舞いから分かってもらえるわ」

从廿_廿从「だから───」

モブ(( ゚∀゚( ゚∀゚( ゚∀゚)ノ「これだけ聞くと、お堅い人と馬鹿にする阿呆共もいるのだけど、意外と子供ぽいところや女の子らしいとこもおわりなの」

从廿_廿从「き、興味──」

ハァハァ w(゚ロ゚//w(゚ロ゚)w//゚ロ゚)wハァ「それでこの前のライブの踊りが可愛くて悶えて、もうtt@7h3p=knqe!!」

从廿_廿从「ダレカタスケテー!!」


9話・挑戦 ステップ

 音乃木坂学院では珍しい動物をしている。

 白い体毛と茶色の体毛が二頭。四足歩行で首が長く、独特の愛嬌がある顔立ち。

 原産は南アメリカ大陸。ラクダ科ビーニャ属、またはラマ属の生き物。

 名をアルパカと呼ぶ。

 

「うわあ、ほえ~」

 

 そのアルパカに魅了させる少女が一人。蕩けた声で蕩けた顔をするのは、μ'sの衣装担当である南ことりであった。

 

「ことりちゃん、最近毎日来るよね」

 

 そんな幼馴染を、高坂穂乃果が呆れながら眺めてる。

 

「ねぇ、チラシ配りに行くよ」

「あと、ちょっと――」

「もう! 五人にして申請しないと、ちゃんとした部活として活動できないんだよ!」

 

 昼休み。穂乃果とことりは昼食を終えた後、μ'sの新メンバー勧誘のため行動した。

 もう一人のμ'sのメンバーである海未は、放課後の練習を音楽室で準備をしている色明の様子を見に行っている。

 彼女曰く、μ'sに曲を提供してくれた西木野真姫の勧誘を、色明が強引にしないかと心配らしい。

 真姫はよく一人で誰もいない音楽室でピアノを弾く。

 即ち、二人が鉢合わせて問題が起きないかと彼女は危惧しのだが、それが杞憂に終わったのがつい先程である。

 話は戻るが、μ'sのメンバーでないしろ、新田色明は彼女たちの仲間になったのは事実。

 よって、あと一人でも勧誘できれば正式な部として認められるのだ。

 だかこそ、昼休みに勧誘活動をしようとしたのだが、ことりの希望でアルパカ小屋に寄り道してから、既に数分経過していた。

 

「う~ん、そうだよね~」

 

 一向にアルパカから離れる気配のないことりに、穂乃果は頭を抱える。

 これがアルパカに戯れているのが穂乃果であり、相方が海未であったならば腕でも掴んで強引に引き剥がすところだ。その逆も然りである。

 しかし、ことりは幼馴染三人組の中で、守ってあげたい、絶対庇護対象という立場にいる。

 そのためか、穂乃果や海未も無理やり彼女を引き摺るような真似はしない。

 どうしたものかと悩んだ穂乃果はアルパカをじっと見つめる。

 

「……可愛いのかな?」

 

 ことりが昔から可愛いものが好きなのは解ってる。

 だが、穂乃果はアルパカを見てもその魅力が理解できなかった。

 

「え? 可愛いと思うけどなぁ~。首の辺りもふさふさしてるし。ほら、穂乃果ちゃんも触ってみて」

「えぇ!? 大丈夫? 噛まれたりしない?」

「大丈夫だよ~。前に舐められたことはあったけど、それは遊んでるだけだからね~」

「穂乃果は舐められるもの嫌なんだけど」

 

 そうやって穂乃果が二頭のアルパカを再度観察する。すると、何故かことりが撫でいる白いアルパカではない、茶色のアルパカがじっと彼女を見つめきた。

 まるで、触れても良いのだぞ、とでも言いたげな堂々とした佇まい。

 

「そーと、そーと」

 

 ごくり、と、穂乃果はそっと手を伸ばし、アルパカの首を両手で触れる。

 

「……お? おお。 うふおおおおおぉっ!」

「ね? いいでしょ?」

「すごいよ、ことりちゃん! もさもさ。いや、もふもふだよ! もふもふ! 気持ちいい!」

「駄目だよ、穂乃果ちゃん。あまり大きな声を出すとアルパカさんが驚いちゃうよ」

「ああ、そうだね。ごめんね、アルパカさん」

 

 アルパカが人間の言葉を理解してるか定かではないが、二頭のアルパカは静かに少女たちに撫でられまくる。その落ち着いたアルパカの様子に「気にするな(イケボ)」と言われたような気がしたとは後の穂乃果の弁である。

 

「これは……夢中になるわけだ。こうやって撫でてると愛着も湧くね」

「でしょう?」

「うん、病み付きになるよ」

「だよね」

 

 穂乃果まで篭絡したアルパカ。

 アルパカたちはマッサージでも受けてるかの如く身を任せ、彼女たちもまた二頭の獣に癒されることで一つの互恵関係が生まれていた。

 

「そういえば、ほのかちゃん──」

「ん──」

「──」

 

 ことりの気の抜けた声に、気の抜けた返答する穂乃果。アルパカの毛を布団代わりに埋め、気持ちの良い日差しもあってか穂乃果は半ば睡眠状態になっている。

 

「最近のうみちゃん、どう思う?」

「にゅ──、色々とお疲れ様って感じだね──」

「───っ」

 

 まどろみの中、穂乃果は思ったことを口にした。

 海未が大変なのは重々承知している。

 元から家の稽古に加え弓道部の活動。今はそこにアイカツも合わさっている状態だ。家業ならば、穂乃果も店の手伝いをしているが、海未の多忙に比べると見劣りするだろう。

 

「うみちゃんも──アルパカさんに癒されると、リフレッシュできかも」

「そうだね──。でも、ことりが聞きたかったのは、そう言うことじゃなくて」

「────っ!」

「じゃなくて?」

「ええ、なんだっけ? わすれちゃった。えへへ」

「ははは、わすれたらむりだね」

「えへへ──」

「ははは──」

「あのぉっ!!!!!!!」

『ひゃあ!?』

 

 大きな声が蕩けきった穂乃果たちの脳を揺さぶる。

 驚いた二人が慌てて振り返ると、そこには見覚えのある少女の姿があった。

 

「あ! 貴女は花陽ちゃん!」

「ど、どうも。ライブ以来です」

 

 μ'sのファーストライブにきた眼鏡をかけた少女、小泉花陽が丁寧にお辞儀をする。次の授業が体育なのか、体操着に身を包んでいた。

 

「えっと、お水替えたいのでどいてもらえると、ありがたいです」

「あっ、ごめんね。飼育委員なんだ」

「は、はい。そうです」

 

 穂乃果とことりが離れると、花陽はアルパカの前に設置された水が入ったボトルを慣れた様子で取り替えた。

 ついでに、二頭のアルパカを花陽が撫でると、アルパカたちは気持ちよさそうに鳴き声を漏らした。自分たちのときよりも、安らいでるアルパカの様子を見て穂乃果は感心する。

 

「おお、アルパカ使いだ」

「ふぇ!? これぐらい普通じゃあ。先輩たちだって、さっき撫でてたし……」

「いやいや、穂乃果たちが撫でた時はそんな嬉しそうに鳴かなかったよ」

「そうだね。考えれば、ことりたちは自分たちばっかり気持ちよくなって、アルパカさんのことをあまり考えてなかったのかもしれない。凄いよ、花陽ちゃん」

「えっと……、それほどでも」

 

 思いもしなかった褒め言葉で、花陽が困ったように笑う。すると何を思ったのか、穂乃果が花陽の両手を掴み取った。

 

「ねぇ、花陽ちゃん。アイドルやりませんか?」

「はい?」

「穂乃果ちゃん、いきなり過ぎ・・・・・・」

 

 唐突の勧誘にことりも呆れるが、構わず穂乃果は花陽に迫る。

 

「君は光ってる! 大丈夫! 悪いようにはしないから!」

「えっと、私なんかが、スクールアイドルは無理ですよ。西木野さんとは、違います」

「西木野さん?」

 

 

 何故、その名前が出てくるのかと首を傾げる穂乃果。

 花陽は顔を俯かせる。

 

「今朝、新田先輩が西木野さんが勧誘してたのを見ました。確かに、西木野さんは綺麗で、ピアノの上手で。あんな人がスクールアイドルになったら、凄いだろうなって……」

 

 今朝、突然一年生の教室に来訪してきた新田色明が真姫を呼び出したため、クラス中は騒然。誰もが覗き見る中、花陽も気になって様子を窺った。

 そして、プロの歌手である色明がμ'sの活動に協力していることに驚く。

 同時に真姫を直接勧誘したのは納得する。

 誰から見ても目立ち、音楽の経験がある才女。

 真姫がスクールアイドルになれば注目されるだろうと花陽は確信した。

 自分と違ってと、卑下しながら。

 

「でも、私は、地味だし。人前で上手く話せないし。プロの歌手である新田先輩が関わったのなら、余計私なんかじゃ駄目だし。西木野さんなら、先輩たちの期待に応えられると思います」

「確かに、西木野さんは凄いよね」

「はい。だから──」

「けど、それと花陽ちゃんがスクールアイドルをやらないことに関係はないと思うけど?」

「えっ?」

 

 驚く花陽が俯いていた顔を上げる。

 すると、穂乃果が不思議そうに彼女を見つめていた。

 

「花陽ちゃん。まだ全然知られてない私たちのことを、ライブする前から知っててくれるくらい、スクールアイドルに興味が。ううん、アイドルが好きなんだよね?」

「は、はい……」

「だったら、自分もやってみたいと思わなかったの?」

 

 思わなかったことは、ない。

 花陽は小さな頃から、テレビの中に居るアイドルが好きだった。

 自分もああなりたいと夢見たことも少なくない。そうでなければ、アマチュアであるスクールアイドルにまで興味を示さなかったろう。

 しかし、偶に思い馳せるだけで、行動に移したことは一度もなかった。

 自分でも解ってることだが、意気地なしなのである。

 

「それは、あの……」

 

 どう答えれば良いのか、花陽が口篭った。その時である。

 

「こら──!! かよちんを虐めるな!」

 

 当然、素早く走ってきた体操着の少女が二人の間に割り込む。

 少女は花陽を庇うように穂乃果の前に立ち塞がり、両手を広げた。

 

「り、凛ちゃん!?」

「かよちん、今のうちに逃げて! ここは凛が──」

「凛ちゃん、何か誤解しているよ! ただ、先輩の質問に私が答えれなかっただけだから!」

「え?」

 

 颯爽と現れた星空凛は花陽の叫びに静止すると、改めて自分の前に立つ二人に目を向ける。

 呆然としている穂乃果とことり。

 今一度、後ろで困っている花陽を一瞥して、自分が早とちりしたの気づいた。

 

「ご、ごめんなさい。凛の、──私の勘違いみたい、でした」

「あはは、別に気にしてないよ。花陽ちゃんを困らせてたし」

 

 笑って流した穂乃果は、凛を見つめる。

 

「凛ちゃんだよね。ライブ以来だ」

「えっと、スクールアイドルの高坂先輩と、南先輩ですよね?」

「そうだよ。覚えててくれて、ありがとう」

「あの・・・・・・、スクールアイドルの先輩たちがかよちんに話って・・・・・・」

「うん。ちょっと、花陽ちゃんにスクールアイドルを一緒にやらないかって誘っていたんだけど」

 

 穂乃果がそう口にした途端、凛は顔を輝かせて、くるりんと回りて後ろにいた花陽に向き直る。

 

「かよちん、やりなよ!」

「ふぇ!? 凛ちゃん!」

「だって、ずっと気になってたじゃん! かよちん、そんなに可愛いだから絶対人気出るよ!」

「えええええ!?」

「ほら、私もスクールアイドルをやりますって、自分からも言おう! さあさあ!」

「待って、待って凛ちゃん!」

 

 背後に回った凛が花陽の背中を押すが、彼女はその場で踏ん張り拒絶する。

 流石にこれ以上押したら花陽が転ぶだろうと、凛が背中を押すのを止めると、今度は花陽が凛のほうを振り向いた。

 

「あの、一つ我侭言っていいかな?」

「うん? しょうがないなぁ。なぁに?」

「あのね、私がアイドルをやりたいっていったら、一緒にやってくれる?」

「え? 凛が?」

「うん」

 

 余程意外だったのだろう。

 花陽の言葉に凛はしばらく硬直すると、困ったように苦笑した。

 

「無理無理、凛なんてアイドルは似合わないよ。女の子ぽくないし、髪だってこんなに短いし」

「そんな──」

「そんなことないよ!」

 

 凛の幼馴染である花陽より先に、大きな声で彼女の言葉を否定したものがいた。

 二人の会話をそれまで黙って聞いていた、ことりである。

 

「髪が短いからって、女の子ぽくないとかそんなこと関係ない!」

 

 突然のことりの張り上げた声に、凛と花陽、それに穂乃果も驚いていた。

 見るからに温和だった彼女は、鋭い剣幕を凛に向けていた。

 

「凛ちゃん。ことりと比べると花陽ちゃんの髪は短いほうだけど、それでも可愛いと思ってるよね? 花陽ちゃんがアイドルをやれば人気でるって言ったのは、凛ちゃんの正直な感想だよね?」

「は、はい。そうです」

「そんな花陽ちゃんが自分の可愛さに自信を持ってくれなかったら、凛ちゃんは悲しい?」

「当然にゃあ!」

 

 敬語が外れた素の言葉に、ことりは満足しつつ、事実を突きつける。

 

「凛ちゃんは同じことを、花陽ちゃんにしてるんだよ」

「え!?」

「ねぇ、凛ちゃんと花陽ちゃんてどれ位の付き合いなの?」

「…………」

「えっと、小学校入る前からの幼馴染です」

 

 衝撃を受けて声が出ない凛の代わりに、花陽が答えた。

 だが、衝撃を受けてるのは花陽も同じである。

 ことりの言葉は、花陽も凛を悲しませていると言っているようなものだったからだ。

 

「そうなんだ。私と穂乃果ちゃん、それと海未ちゃんと一緒だね」

 

 ことりは微笑みながら、静かな瞳で二人を見つめる。

 

「それくらい前から、二人は一緒だったんだよね。だったら、ずっと傍で見てくれた幼馴染の言葉を信じてあげてもいいんじゃないかな?」

「…………」

「スクールアイドルのことはとりあえず置いといて、まずは二人とも自分のことをもっと好きになろうよ。じゃないと、隣にいる大切な友達に悲しい思いをさせたままだよ?」

 

 キーンコーン、とそこで昼休みが終える予鈴が鳴り響く。すると、ことりは目のまで暗い顔をする二人に気づき、我に返ったように慌て出した。

 

「ごめんね! 偉そうなこと言っちゃって! 全然、話したことないことりなんかに、説教みたいなことされて嫌だったよね?」

「え? そんなことは……」

「先輩の言葉は、考えさせられたので……」

「うん。凛も……ありがとう、ございます」

「やだなぁ……。お礼を言われることはないんだけど……」

「よし! 話はこれで一旦お終い!」

 

 ぎこちない空気が漂う中、大きな声でそれを掻き消したのは穂乃果である。

 

「花陽ちゃんたち、次体育でしょう? 予鈴鳴ったし、早く行かないと遅れちゃうよ?」

「あっ、はい……」

「じゃあ、失礼します」

 

 花陽と凛は頭を下げると、急ぎ足でその場か離れた。

 だが、途中で凛が何故か立ち止まると、穂乃果たちがいる方に振り向いた。

 

「あの! 本当に! さっき言ってくれた言葉! ありがとうございました!」

 

 そう叫んだ凛は待っていた花陽と共に、今度こそ授業のためグランドに走っていった。

 

「だって。だから、ことりちゃんも気にする必要ないよ」

「……うん」

「さてと、私たちも教室に戻ろうか! 授業に遅れちゃうと、先生の前に海未ちゃんが怒るからね」

「ははは、そうだね」

 

 ようやく元気を取り戻したことりと共に、穂乃果は急ぎ足で校舎に戻る。

 

「けど、いきなりことりちゃんが大声を上げたのは驚いたな」

「ええ、ぶり返しちゃうの? あれは、ちょっと昔のことを思い出しちゃって」

 

 恥かしがる顔を赤くすることり。穂乃果とはいうと首を傾げていた。

 

「昔のこと?」

「ほら、小学校のとき。穂乃果ちゃんもことりや海未ちゃんみたいに髪が長くないから可愛くないって言ったの覚えてる?」

「…………。ううん、そんなこと、あったけ?」

「あったよ~。クラスの男の子たちにからかわれて、落ち込んでた」

 

 昔から穂乃果は溌剌とした子であり、よく男の子に混じって遊んでいたりした。

 服装は動きやすいようによくズボンをはいていた。髪の長さも、今と同様、腰まで伸ばしていることりたちとは違い、精々セミロング程度。泥だらけで走り回ることはよく見られる光景。

 髪の結わなければ男の子と間違われることもあり、それでからかわれることも少なくなかった。

 

「うう~ん。男の子みたいだって言われたことを覚えてるけど、落ち込んでたりしたかな~」

「……穂乃果ちゃんが覚えてないなら、もういいよ」

 

 眉間を寄せて唸る穂乃果を見て、ことりはそれ以上追求することを止める。

 正直、綺麗な思い出ではない。ことり自身もあまり思い返したくはないことだった。

 昔の穂乃果が自分が可愛くないと落ち込んでいた時、当時のことりは先程の花陽たちとは比べ物にならないほど怒鳴ってしまったのだ。

 仮に、穂乃果が過去と同じようなことを口に出せば、ことりも同じ反応をしてしまうかもしれない。

 しかし、それは彼女の杞憂だった。

 

「大丈夫だよ」

「え?」

「だって、私は自分を可愛いって思ってるよ」

 

 傲慢な言葉を、照れくさそうに笑いながら穂乃果は言った。

 

「じゃないと、流石にスクールアイドルなんてやろうとなんて言い出さないよ」

「……そっか。そうだね」

 

 今でも、綺麗な思い出ではないと思う。

 悩み苦しむ穂乃果に自分勝手な思いをぶちまけた、汚い過去。

 それでも、あの時の言葉は。友達が忘れていようとも、確かにその中に残っているのだから。

 良かったと、ことりは思えたのだ。

 

  ▼

 

 本日の授業がすべて終えると、大半の生徒が部活動に向かう者と帰宅する者に分かれる。残りのものは委員会の仕事やその場に残る者であり、花陽は最後の後者だった。

 

「はぁ……」

 

 帰り支度をしながら、重いため息を吐き出す。

 ただ、彼女は席を離れることなく思い悩んでいた。

 彼女の心中は、スクールアイドルのこと。

 本心では、やってみたい気持ちはあった。

 オーディションなので選ばれた人間にしかなれないプロのアイドルではなく、意思があれば誰でもなれるスクールアイドルならば自分でもできるのではと。

 しかし、それは甘い考えだと既に悟っている。

 なることは簡単だろう。

 極論で言えば、今から自分がスクールアイドルだと宣言すれば、それでなってしまう。

 ただし、勤まるかは別問題なのだ。

 花陽は人前で話すことが苦手だ。幼馴染の凛のように、運動が得意なわけでもない。今朝も勧誘されていた西木野真姫のように音楽の才があるわけでもない。

 μ'sのリーダーである高阪穂乃果のような行動力もない。園田海未のように詩も書けなければ、後輩たちに慕われてもしない。南ことりのように衣装を作る技術もない。

 新田色明のお眼鏡に適う自信もない。プロミュージシャンがμ'sに関わっている以上、生半端な存在など不要だろうと、花陽は慄いていた。

 ないもの尽くしで、たじろいでる。

 

「かよちん、一緒に帰ろう?」

 

 机の上で俯く花陽に、凛が声をかけた。

 ただ、どこのなくいつもの快活な元気が足りない。

 

「凛ちゃん?」

 

 もしかしたら、昼休みに言われたことを気にしているかもしれない。

 そう思った花陽がなんと声をかければいいか迷っていると、先に凛が新たな言葉を投げかけた。

 

「それと、帰る前に先輩たちの練習見に行かない?」

「え?」

「あっ! 違うよ! 見に行くだけで、強引に入らさせようとかそんなこと考えてないから!」

 

 ぶんぶんと手を振って誤解を招かないようアピールすると、凛は困ったような笑みを浮かべる。

 

「でもね。一度見たら、かよちんの気持ちも踏ん切りつくかなって思って」

「凛ちゃん・・・・・・」

「色々考えたけどね、かよちんが本当はスクールアイドルをやりたいのにしないのは自分に自信がないからだよね?」

 

 こくりと頷く、花陽。そんな彼女の両手を、凛は自分の手でやさしく包み込んだ。

 可愛いから大丈夫だよ、と昼にも言ったような言葉は出せなかった。

 凛はお世辞抜きで花陽のことを可愛いと思っている。

 けれど、いまそれを言ってしまうとまた否定されるのが解る。

 言われて自信をつけるなら、これほど不安にはならないだろう。【自分自身】も、そうなのだから。

 

「ならさ、普段どんなことしてるか見てみようよ。ほら、凛たちってライブは見たけど、どんな練習してるか見たことないし。見てみたら、かよちんも頑張れるかな思えるかもしれないしね」

 

 無論、想像以上の練習風景で心が折れるかもしれない。

 凛は知らない。アイドルをするために普段どんなことをしているのか。

 そんなことは、目の前の花陽のほうが詳しいだろう。

 けど、ここまま苦悶するよりも、一歩行動した方がいい。それは凛にも解ることだ。

 

「当たって砕けろだよ、かよちん! 砕けちゃったら、凛がかき集めるから!」

「うふふ、なにそれ」

 

 可笑しそうに花陽が笑い、凛もそれを見て笑った。

 

「じゃあ、ちょっとだけ覗こうかな。そしたら、少しは気持ちの整理がつくだろうし」

「うん! 凛も付いて行くから安心して!」

「うん。ありがとう、凛ちゃん」

「よし、善は急げにゃあ! さっそく、レッツゴー!」

「わわわ!? 引っ張らないでよ、凛ちゃ──ん!」

 

 花陽は慌てて鞄を担ぐ。そのまま、凛の腕を引かれながら、教室を出ようとした。

 

「わぷ!」

 

 だが、出口のところで急に凛が立ち止まったため、彼女の背中に鼻をぶつけてしまう。

 

「あ、ごめん、かよちん! 大丈夫!?」

「うんうん。別にどうもないよ。それよりどうしたの?」

「えっと、ほら、あそこ」

 

 凛の視線の先を花陽も見てみると、廊下にある掲示板の前でクラスメートの真姫を見つけた。

 元から注目を浴びていたが、今朝、色明に勧誘されていた一件で余計に意識するようになり、自然と二人は真姫の様子を窺う。

 真姫は掲示板の前に設置してあるチラシを一枚取ると、花陽たちがいる方にやって来た。

 すると、花陽が慌てて凛を連れて教室の中に戻る。

 

「何で隠れるの?」

「えっと、何となくでも見られてたの知られたら嫌かなって思ったから」

 

 そんなやり取りをしている間に真姫は通り過ぎた。

 彼女の姿が見えなくなると、花陽たちは改めて廊下の出て行き、自然と真姫がいた場所に目を向ける。真姫がいた場所は、丁度μ'sの勧誘ポスターが貼られていた掲示板の前である。

 

「あれ? あれって」

「かよちん」

 

 何かに気づいた花陽がその場まで近づき、小さな手帳を拾い上げた。

 

「それって、生徒手帳?」

「うん。西木野さんのだね」

「なら、届けに──ってもういないね」

 

 凛が振り向いて真姫の姿を確認するが、もうその姿はどこにも見当たらなかった。

 

「どうしよっか。明日、学校で渡す? それとも先生に預ける?」

「一応、個人情報だし、早く届けてあげたほうが困らないと思うの」

「かよちんは優しいにゃあ」

「急いで昇降口に行って、いなかったらそのまま家まで届けよう。μ'sの見学は明日でもいいし」

「ええ、駄目だよ。見学は今日じゃないと。明日になったら、気が変わっちゃうかもしれないよ」

「あぅ・・・・・・」

 

 そんなことないよと、言い返せない自分に花陽は内心落ち込む。

 

「あっ! 昇降口の前に、あそこ行ってみようよ! 帰ってなかったら、西木野さんきっといるよ」

「あそこ?」

「西木野さんといえば音楽室!」

「ああ、そうだね」

 

 真姫がよく音楽室でピアノを弾いていることは、既にクラスメートならば誰でも知っていることだ。

 

「なら、行ってみようか」

「よし! 早く届けてあげて、先輩たちの見学に行こう!」

 

 




 海未ちゃん登場なし!
 切りがいいとこまでやると長くなり過ぎるので。
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