ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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(心が)修羅場


恋のLove☆Love★Typhoon! その1

 

 

 

 

 

「団体競技?」

「ん。うちの学校は運動系に強いんだ。

 他の相手と得点を競い合うスポーツってコトで。いま校庭を奔ってるやつらだって、五十メートルを何秒で走れるかって得点を、時間を競ってる」

 

 そんなことをセイバーに説明しながら、自称冬木の黒豹が疾走しているのを見る俺たち。ほう、とセイバーが関心してるような態度だ。

 と、せわしなく校庭を眺めるセイバー。

 

「何か探しものか?」

「え、いえ。……以前少しだけ見た競技があるのですが、それがあるかと」

「セイバーがやってみたくなったスポーツってことか。テニスとかなら裏側にあるけど」

「い、いえ、テニスではないのです。冷静に考えれば、この敷地に収まる競技ではなかった。

 ただ、昔、剣で似たような球遊びをして咎められた……、からかわれたことがあって、懐かしくなってしまったというか……」

「?」

「い、今の発言は忘れてくださいマスター! 次の場所をお願いします」

 

 放課後、裏側の入り口で待っていたセイバーを回収して、学校を案内する事にした。

 遠坂から聞いた間桐の話と、学内に他にマスターがいるかもしれないという話。それらを踏まえて、セイバーも学校内を確認することは、積極的に納得していた。

 ……お陰でますますセイバーが、学校でも俺の護衛をしようという意気込みをしてしまった気がするけど、そこまで気を回せない。結界の起点を探すことが出来ない以上、俺達は後手に回るしかない。

 重要なのは、もし何か起こったときに、俺とセイバーとでどれだけのヒトを助けられるか、ということ。

 

 この話をセイバーにしたら、少しだけ呆れたようにため息をついた。

 学校に結界が張られている、という現状に、気がたっているセイバー。でも、何故か俺の教室を教えたら、不思議と眉間の皺がとれていた。

 

 手始めに教室。生徒会室。裏側の林を回って校庭。

 そして次が最後の弓道場。

  

 さて、桜は居るだろうか……。

  

「あれ、衛宮だ。なに、見学にでも来た?」

「――――」

 

 気心の知れた知人。弓道部主将・美綴綾子は俺の顔を見ただけで、その用件まで看破してのけた。

 

「お疲れ。お察しの通り、久々に顔を出したってところだけど……」

「おお! じゃあ射ってく?」

「そんな一本いっとく? みたいに言われてもなぁ……。

 そうじゃなくて、ちょっと家の関係で」

「ん?」

 

 と、ここで美綴、俺の背後のセイバーに気付く。

 ちょっとこっちこっちと俺の体を引っ張ると、内緒話でもするように耳元に近づいて、

 

「衛宮、何者よ彼女。すごい美人だけど。……って、なんか氷室とか沙条から色々聞いた、今朝、騒がしかったときの目撃情報に類似してるけど。金髪で美人さんで、なんかジャージ着てるって。

 知り合い?」

 

 どこにでも情報通はいるらしいが、目撃情報とやらが正確なあたり、セイバーの容姿はやっぱり目立つのだろう。

 

「説明すると複雑なんだが、そういうことにしておいてもらえると助かる。ついでにあいつが部室に入ってもみんなが騒がないように言い含めてくれると恩に着る」

「……オッケー、その交換条件は気に入った。あとでチャラってのはナシだからね」

「りょーかい。セイバー、行くぞ」

「あ、はい」

 

 美綴の後に、少し遅れて俺達は続く。

 

「……あれ?」

 

 ふと見回すと、桜がいない。

 部屋の中央で君臨する我らが冬木の虎に接触する前に、セイバーを紹介しておこうと思ったのだけれど、珍しく間桐桜――つまりはシンジの妹の姿はどこにもなかった。

 

 藤ねえは忙しそうにしながら、俺とセイバーに軽く声をかけた。どうも、何か手違いがあったらしく、色々と藤ねえが部員たちに引っ張られていた。

 

「じゃ、わたし稽古つけてくるから、いるなら二人ともぼけーっとしてなさい?

 あ、でも弓持ちたくなったら遠慮しないでいいからね。士郎はわたしの教え子だし、人一倍、成ってるんだから」

「? シロウは弓術に長けているのですか?」

「そうよー? 離れてしばらく経ってるけど、たぶん今でも持ってかるく構えたら、すいすいすいーって中てちゃうんだから」

 

 いや、持ち上げて貰っているところ悪いのだが、決してそれは弓の腕という訳でないのを俺は知っている。

 毎日日課として行っている魔術の鍛錬。その結果が、弓を射る際のそれに近いからこそ影響が出ているだけだ。

 

 藤ねえの言葉を否定すると、ふと、藤村大河は教師らしい顔になった。

 

「ふぅん。……でも士郎、毎日弓を構えるコトだけが稽古じゃないのよ? ()の境地っていうのは、そういうことじゃなくて、常に己を鍛えているかってことだから。

 弓に礼を尽くそうっていうケジメもいいけど、たまには素直になっときなさい?」

 

 射所に引き返していく藤ねえ。

 

「……大河は良い教育者ですね」

 

 セイバーの微笑みを浮かべた感想に、否定するところもない。ただ、どうして士郎は構えないのですか、と問われても、返答できる答えを持ち合わせてはいなかった。

 

 それでも、少し後に来た美綴に言わせれば、今の俺は意外なのだそうだ。

 

「なんだ、俺、弓に飽きたように見えてたのか?」

「ええ。だってアンタ、一回しか的外さなかったじゃない。わたしが弓道部に入ったときから、衛宮はとにかくバケモノみたいに巧くて。射も全部綺麗で、皆中以外知らないって顔してて。

 それでね、あーコイツ、こんなに巧いともう何も思わないんだろうなーって。弓持たなくても会心に入れるんだから、むしろ弓こそ余計なんじゃないかって」

 

 弓道とは、すなわち自分を殺す道。己を透明にして、自然と一体と成る境地を指す。

 言うなればソレは、儀礼、儀式にのっとり、自己を別な何かに改造する魔術の鍛錬方法に他ならない。

 

「釈迦に説法だけどさ。

 これって矢を的中させるのはおまけで、本当はそこに至る心構えを得るための道じゃない。術じゃなくて道って言うんだから」

「道、ですか……」

「そそ。でも逆に言えば、弓道っていうのは弓がなければその境地に辿り付けない。剣道とかも近いところがあるけど、なんにせよ、自分がそこに至るために武術を通る訳だから。

 ……そのあたり、衛宮は退屈だったんじゃないかって思ったわけよね。私達は、矢が当たらないとその心構えが出来てるか――――綺麗になったか判らない。

 けど衛宮は、その行方なんてどうでもいいタイプよ。

 『術』を突き詰めれば、誰だって当てられる。

 でも、本当のそれは中るのよ。技術関係なく」

 

 剣道も、と言われて、セイバーも何度か頷く。美綴のその言い回しに、どこか腑に落ちたところがあったのかもしれない。

 だが、俺はそれにおいそれと賛同したくない。

 

「……そんなことないけどな。俺だって、的を射抜くために射場に立つんだから」

「だから、それよ」

「む――――?」

 

 困惑する俺に、セイバーが微笑んで言った。

 

「……綾子たちと、シロウの見ているものが違うと言いたいのでしょう」

 

 見ているものが違う?

 

「そう、そんな感じ! えっと、セイバーさんだっけ?

 だから、衛宮は『見てる』んでしょ。的に当たったっていうのがわかってから、その後に指を離してるって感じ」

「何言ってんだ、それ。つまり、弓が当たったところを想像してから指を離してるって?

 それって、普通のことじゃないか」

「そりゃ、誰だって想像はするでしょ。でも『中る』っていうのを『視ている』訳じゃない。

 それって、自然と一体になってるってことだから。無の境地とか、そういうヤツ」

 

 ……ふむ。見れてる、云々は実感が沸かないが、無の境地に関しては頷ける。

 自己を消して回路を成すという修練は、まさにそれに近いかもしれない。

 

「衛宮は透けやすいってコト。つまり欲が足りない。もっと強欲で自己中で我侭になれ。若いうちから達人になってもつまんないでしょ。

 今日来てない、どっかのワカメを見習えとまでは言わないけど、少しは楽しいコトでもやったら?」

 

 言葉に詰まる。楽しいこと……。どうしてか、それが思い当たらない。セイバーが不思議そうな顔を俺に向けるのに気が付かないほど、俺は答えを探すことが出来なかった。

 

「ほら。そんなんだから桜を苦労させてんのよ。若い内からそんなんだと、年とってから『出せなく』なっていくんだし。そーゆーの甲斐性なしって言うのよ。わかって?」

「最後のは似合わない……、が、まいったな。同級生に老後の心配をされるレベルか、俺」

 

 

「だって衛宮、笑わないでしょ」

 

 

 ――――――――――――――――。

 

 

「え――――?」

 

 美綴は微笑んだまま。

 でも、少しだけ時間を置いて、笑い飛ばした。

 

「……だから、合宿の話。みんなで騒いでたとき、衛宮だけ私のとっておきのネタでも笑わなかった」

「それは、つまり?」

「それをまだ根に持ってるってワケなのよ、これが。

 いつか返してやるから、覚悟しとけってこと」

 

 きっぱりと、ライバルに笑い掛けるように美綴綾子はそう笑って、この場を後にした。

 

 

 

 日も落ちてきたので、弓道場を後にする。部活動もお開きとなった。

 冬場だから日が落ちるのも早い、というのもあるが、最近の物騒な事件を考慮してのことだろう。

 

「あ、そういえば美綴。桜は今日どうしたんだ?」

「風邪だって聞いてる。明日には回復してるって聞いてるけど、知らないの?」

「いや、昨日来れないって連絡はあったんだけど、それ以上は何も」

「ふぅん? じゃあね。私、職員室に鍵持ってくから」

 

 一足先に足早に去る主将を見送ってから、セイバーと一緒に正門を出た。

 藤ねえには用事があるから、といって先に帰ってもらっている。

 

「で、今日一日どうだった?」

 

 セイバーに感想を聞くと、真剣な顔でこう答えた。

 

「…………やはり、シロウの調理が一番落ち着きます」

「――――」

 

 それは、昼食のことを言っているのだろうか。思わず笑ってしまいそうになると、セイバーが真剣な顔で俺を見てきた。

 

「笑いごとではありません、シロウ。今の私にとって、食事は貴重な魔力源です。ヒトをそう、食い意地が張っているように扱われては困る」

「いや、ごめんごめん。うん、そうだな。気をつけるよ」

「む――。何かマスターの態度には釈然としないものがありますが、まあ、良いです」

 

 ふぅ、と一息つくと、下ってる途中の坂から、学校の方を少しだけ振り返る。

 

「確かに、学校に通うのは危険です。

 でもマスター。貴方にはどうやら、必要なことのようだ」

「む――――?」

 

 どうやら、それがセイバーが出してくれた結論のようだった。

「しかし、それとこれとは別問題。シロウが学校に通うのはともかくとして、学校が安全でないことは別問題です」

「うっ……。わかった、何か対策を考える」

「それが賢明です。でなければ、登下校のみと言わず、私にも考えがあります」

 

 何だろう、その恐ろしげのあるフレーズは。

 何が起こったとしても、衛宮士郎の心が休まる結末には程遠い気がする。

 

 真剣にどうしたものか……。んー、休戦中ということだし、とりあえず遠坂に相談でもしてみるか……?

 

「あ、すまないセイバー。少し帰りに寄るところが出来た」

「それは構わないのですが……」

「どうした?」

「シロウは、もう射らないのですか?」

「ん――――そうだな」

 

 少しだけ遠いどこか――今は見えない何かを視て。

 

「……落ち着いたら、やってみようかと思う」 

「――――――ええ、それが良い」

 

 俺の言葉に、何故かセイバーは、聖杯戦争とか、そういうことは関係ないような笑顔を浮かべた。

 

 

 

 そして道中。桜の様子を窺うために間桐家へ寄りかかった際。

 

「――――――」

 

 入り口に、ショートカットの、眼鏡を掛けた、穂村原の女子生徒が立っていた。

 

 

 

 

 

 




ボブはたぶん次回に出番。

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