ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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剣「……何を言いたいのですか! この数字は!」
乗「言わなくてもわかることでしょう?」
凛「あーはいはい、そーゆー話は後々」
イ「ふんだ。ライダーなんかより、リズが一番なんだから!」


73VS88VS77VS61! その1

 

 

 

 

 

 挑発のごとく放たれた魔力を追い、セイバーは、彼女のマスターと共にオフィスビルへ。一部、広い敷地に「工事中」と書かれたそれを抜けて、一つのビルのもとに。

 そこで結界の違和感を感じた直後――――上空から短剣。

 

「シロウ――――!」

 

 すぐさま魔力を鎧に転換し、彼の頭上で弾き返す。

 

 下で待機していてくれ、と彼に言葉を残し、地面を蹴る彼女。そのまま壁面を駆け上がりながら。セイバーは己の剣を構える。

 ライダーとセイバーでは、条件が異なる。地上を離れたこの戦闘は、セイバーの望んだところではない。頂上まで上りきるか、さもなくば堕ちるか。

 

 巻きつくように動き回るライダーに、重力はないように見える。

 対し、セイバーはひたすらに駆けるしかない。

 

 足を狙われようと、剣で弾く。

 

 手を合わせて理解する。瞬発力も、技術も、彼女はセイバーに遠くは及ばない。だがことこの場において、それは拮抗するに至っていた。

 

「――――どうしたのですか、セイバー。余裕がないですね」

 

 加えて、決定打を避けるライダー。反撃する様子を見せる彼女に、しびれを切らすセイバーだが。

 ライダーの手によって作られた状況は、彼女の意図どおり、最後まで向かう。

 

「――貴女のマスターには、桜を助けていただいたようです。

 だから、貴女は優しく殺してあげます」

 

 だが――不利な状況とはいえ、今更引き返す選択肢は無い。ライダーはもとより、ライダーのマスターも放っておけないのだ。どちらも、衛宮士郎が望んだことである。

 無論、彼は彼女に望んだわけではない。

 

 でも……、仕方がないではないか。

 サーヴァントとしての自身も呆れてはいるが。あの愚直なマスターに、これ以上傷ついて欲しくないと。彼とそれこそ、鏡合わせのように思ってしまったのだから。

 

 それゆえに、屋上に達し。

 

「セイバー!」

「シロウ……!? どうしてここに――――!」

 

 下に置いてきたはずの彼の姿を見て、戸惑いを覚え。そしてその戸惑いさえかき消すほどの直感が、自身の意識を焼いた。 

 

 闇夜を照らす、鮮やかに輝く天馬。

 その在り様は、神代から続く一つの神秘。――完成された幻想の一つ、

 

 ライダーはそれに乗り、こちらに急降下――――!

 

 

「く――っ」

 

 背後でシロウと、ライダーのマスターのいい争いが聞こえる。

 

 本来ならあらゆる衝撃を軽減するはずの、自身の鎧。盾たる風王結界でさえ、その衝撃を緩めること適わず。

 受身を取る余裕さえなく、空中で旋回し、息を付く暇なく滑空が続く。

 

 追撃をする間もない。己をなぎ払い続ける、その獣。それに刃を届かせることさえあたわず。

 

 その劣勢においても、しかし、セイバーは反撃の機会を待つ。獣である以上、決して殺せない相手ではない。自身に残された勝機は、ライダーがその手綱をあやまるかどうか。

 

「―ー――さすがですね。セイバー。マスター同様、見かけによらず頑丈です。

 ですが、これで終わりです。……桜を生かす為、潔く消えなさい」

「……ふん。予想はしていましたが、まさかそんなモノを持ち出してくるとは思いませんでした。ずいぶんと業が深いようですね。ライダー」

 

 幻想種。文字通り、幻想の中にのみ生存を残すモノ。在り方そのものが神秘であるがゆえに、その存在だけで魔術を凌駕する存在。

 神秘は、より強い――より長く続くものに打ち消されるのが理だ。ゆえに、ヒトの身で魔術をいかに鍛えようと、はるか太古より続く彼らにとって、その程度は争うに値しない。

 

「ええ。私が操るのは、あなた達が虐げてきた仔たちだけ。……もとより、この身はそうあってきたのだから」

 

 そして、その口調こそが当初のセイバーの予想を裏付ける。

 天馬自体はそう強力な幻想種ではない。だがあれは異なる。神代より続いたその存在は、既に幻獣の域に達している。それだけで竜に匹敵するといえる。

 

 例えるなら、その一撃は、巨大な城壁がこちらを狙って、高速で激突してくるようなもの。回避することさえ出来まい。

 だが――名を唱えてない以上、彼女の宝具はその獣でさえないのだ。 

 

 ゆえに、相打ちだろうと勝てるはずだった。

 衛宮士郎さえ、この場にいなければ。

 

 ここに来たことへの怒りよりも、何よりも。彼の目に浮かぶ、自身を案じるそれ。……思えば初めから。自身が優れた騎士であると理解しながらも、そう扱おうとはしなかったその視線。

 

 

「どの道、桜が生きるには。貴方たちを殺すか、私が殺されるか。

 ならば、お好きなほうを選びなさい」

 

 

 黄金の手綱が、天馬に巻かれる。それにより、彼女の意思により、悠然とした天馬が猛る。

 

 空を仰ぐ。翼がはためき、こちらから距離をとり。まるでそれは、流星のごとく。

 

 ――例えこのままセイバーが生き延びようと。衛宮士郎が生き残れる道理は無い。ゆえに出来る事といえば、全力をもってして魔力を放ち、あの獣ごと主たる彼女を斬り捨てるのみ。

 

「――――風よ」

 

 もはや迷いはない。

 先のことなど考えるべくもない。

 

 今はただ――誓いの通り。自身のマスターの剣たるべし――――。

 

 風の鞘を、幾重にも重ねられたそれを解き放ち始めるセイバー。

   

 

「”騎英(ペルレ)――――」

 

 

 だが。

 

 

 

 

「――――(フォ)、・・・!? な――――」

 

 

 

 

 ライダーが、その宝具を解放することはなかった。

 

 

 彼女の顔面の半分から――――刃が、せり出していた。

 いや。顔面だけではない。それは、彼女の右腕から始まっていた。――――空中で、体内から。無数の剣がライダーを食い破って、世界に表出していた。

 

「な――――」

 

 構えていた剣をもち、しかし意識を切り替える。

 ライダーのそれは、志向性を失っている。放つべきそれを間違えてはいけない。

 

 常勝の剣ではない。――今、闇雲に放てば、それこそかの流星が、地上のどこに落ちるか定かでさえない。

 

 ゆえに、セイバーは選択する。

 

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

 

 イメージは、テレビで一度だけ見た、野球選手のバッティング。

 どうしても両手で獲物を握ると、直線的にしか振る事のできなかったセイバーだが。しかし当たり判定が暴風と化している今、そこは関係ない。

 

 からめとられたライダーの体は、そのままうねり、上空へ持ち上げられた。

 

 

 

 空中で、ライダーの崩壊は続く。内部より生まれる無限の刃により、既に腕は消し飛び、顔面は半分がなくなっている。

 欠けた仮面に驚愕の目。だが、それさえもう数秒と持つまい。飛散する血が、肉が、魔力が、なによりもその終局を物語る。

 

 

 そして、ついにはもはや、ヒトガタの原型さえ留めない。

 

 

 弾け飛び、そこに残ったものは、剣の塊だ。真っ赤に染まったそれは、しかし、そうであってなお己の侵食を止める事は無い。刃は更に空中で伸び、膨らみ――――――夜の空を、赤く染める。

 

 

「な……、なんだ、あれ」

 

 衛宮士郎が呟くのも無理はあるまい。

 

 

 赤く、紅い。果ての無い空。尋常ならざるほどに、その赤は空に似つかわしくない。

 浮かぶ歯車は、果たして何を意味するか。それさえも真っ黒に焦げ、細部の形状さえ曖昧。

 

 そして――――空中から、その赤の空から、無数に、錆びた剣が落ちてくる。真っ赤に染まったそれは、まるで空がそうあるべくと言い表しているかのように。

 

 

「――シロウ!」

 

 とっさにセイバーが飛び出し、衛宮士郎を庇う。運が良いのか悪いのか、剣は彼女たちに落ちる事は無く。

 

「あ、シンジ! 待て、今行くと危ない――――」

 

 衛宮士郎の静止を聞かず、急ぎ足で逃げ出す間桐慎二。だが、彼からしてもそれどころではない。

 自身を庇った彼女。傷こそなかったものの――セイバーは、酷く憔悴していた。

 

 鎧が解ける。

 

 状況に対して、理解が及ばない。ただ、そうであっても――彼は彼女を抱える。苦しげに吐息をもらす彼女を。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

「終わったぞ、マスター」

「……」

「……どうした? そんな、寝大仏が大仏の鼻クソでも売り始めたような顔をして」

「どんな顔よ!」

 

 アーチャーの物言いに、思わず怒鳴りはしたけど、相手の顔をみて驚いた。こいつ、今回は何故か真顔だった。今の言い回しは冗談でも何でもなく本気だったということだろうか。

 それはともかく、上空の惨状を目の当たりにする。四散したライダー。赤黒く染まった空。それも数瞬で溶けて消えはしたものの、それが齎した威力と、状況と、あとえげつなさに只呆然としていた。

 

「そう引かれてもなぁ。

 俺は、マスターの要望どおりに応えたつもりだが……」

 

 そう、確かに要望通りではあったんだけど。遠坂凛が言った通り、アーチャーは「彼らを助けた」のだったけれど。

 

 衛宮家を出た後、彼女はランサーの調査に出向いた。今、最もマスターの正体が不明瞭なサーヴァント。であるがゆえに、調べ物をかねて新都に出向いた彼女である。

 そこで、多少なりとも確信に近い情報を得て、その帰り際。

 

 空中に、輝く幻想の獣が舞うのを目撃。

 

 

「……、アーチャー、あれ」

「A+といったところか。……成る程。元を正せばかの幻獣、悪鬼たる彼女の血から呼び出されていたか。とすれば、この経緯も当然か」

「当然か、じゃないわよ!

 ということは、今、上に士郎たちがいるのよね」

「だろうな」

 

 何ら感慨もなく応えるアーチャー。

 

「……」

「お互い潰し合ってくれている分には、漁夫の利を狙うのが効率的だと思うが? マスター」

「……アーチャー、わかってて言ってるでしょ」

「俺としては、アンタがそんな態度をとっているのがいまいち理解できないが。

 ……なんだ? それ、本来のマスターの性格ではないだろ。いつからそんなに甘くなった」

 

 誰から悪影響を受けたか、と。その視線が薄められて、屋上へ向く。……言わんとしていることはわかる。確かに最近、私はどうかしてるとは思う。

 だけれども。そもそも原因は――――。 

 

「……アンタが、あんなもの見せるからじゃない」

「どうした?」

「なんでもないわ」

 

 あくまでも呟く程度に留めておく。

 マスターとサーヴァントは、契約した時点でパスが通る。それゆえ、お互いの意識が無防備の時に、記憶が混濁することが在る。つまり、夢でお互いの過去を覗き見ることがある。その気になればシャットアウトできるらしいのだけど、あえて、私は見続けた。ちょっとした興味もあったし、コイツが「正規の召喚じゃない」と言い張る以上、その本来の召喚における、正体の糸口をつかめないかと考えた。 

 

 それが、悪かった。

 

 だから……、だから、私は衛宮士郎を気にする。

 コイツがもう、例え記憶があったところで「認識できない」ような状態になってしまっていても、だからこそ、その起点があまりに似通っているように見える彼を。

 

 この、冷静そうでいて、どこか現実感がないような顔の理由も今では納得している。人体、とりわけ女体の美醜がわからないと言い張る元の心情も、おぼろげながら察している。

 

 だから、だからこそ――。どうしても、コイツが元々志していた何かを。それが、意味なんてなかった訳が無いと、肯定してやりたくて。

 

 

「……なんとかならない? アーチャー」

「……そうだな。確かあのライダーには……、『溶かしたまま』だったな。

 加えて今、上空は俺の視界だ。使うには問題あるまい」

 

 何をしようというのか、というのについて確認はとらなかった。この距離からで、宝具を使うと言い張ったのだ。

 

 

 そして、許可を下せば――――アーチャーは目を閉じ、更に、声を曖昧模糊としたものへと。

 

 

 

 ――――I am the bone of my sword(体は剣で出来ていた)

 

 

 

 語られる言葉は、所々聞こえない。それだけアーチャーが小声だからだ。ひょっとしたら、それは早い所、詠唱を終わらせるためとか、そんな理由もあるのかもしれない。

 そして、放たれる。

 

 その言葉は、私にはこう聞こえた。

 

 

 

「――――UNLIMITED LOST WORKS」

 

  

 

 ライダーが爆発四散した。

 

 ……。感想が出てこなかった。

 

「ところで呆然としているところ悪いが、マスター。エンカウントしたぞ」

「えん……? って、嘘!?」

 

 そして、私の眼前。 

 

 いや、どっちかって言えば私たちの方が、いくらか離れた場所にいるんだ。だからこそ、――私たち同様、ビルの屋上を気にしている、バーサーカーとイリヤスフィールが正面に居ると言える。

 

 

「あーあ。せっかくセイバーが宝具を使うかもしれなかったのに。そしたらシロウ、もう戦えなかったのにねー」

「……」

「んー、なんだか煩い音が聞こえるね、バーサーカー」

 

 

「――――くそ、くそ、くそ! なんだよ、なんだよあのグロいの!? あんなデタラメあっていいのかよ……!」

 

 階段を転がり下りて来たのか、慎二が壁に激突しながら、地面を転がって来る。

 バーサーカーにぶつかり、何故か殴りつけて。……何やってんのよ、あの男。

 

「……本当はしたくないけど、止めるわよ、アーチャー」

「……ここまで払いが良すぎると、いっそ笑えて来るな」

 

 言いつつ、アーチャーの表情は嘲笑一択。

 

 

「ダメよ、マキリの蛆虫さん。敗者には逃げ道なんてないんだから」

 

 イリヤスフィールはどこまでも楽しそうに笑う。 

 そして、シンジが自分の殴りつけているものが何であるか理解するのを待ってから――――。

 

 

 

「――――発・射殺す百頭(ナインライブズ・ボム)

 

 

 

 棍棒が慎二を叩き潰す前に、アーチャーの狙撃が早かった。 

 砕けた弾丸の雨あられを前に、え? と声を上げるイリヤスフィール。

 

 さすがのヘラクレスであるからしてか、その礫さえ、剛腕で阻む。当然のように、慎二を潰す作業より、マスターを守るほうを優先させた。

 

 その隙を縫って、アーチャーがシンジの背広を引っ張って、かついで持ち上げる。退避するときに背中を見せていたけど、どうやらその弾丸には関係ないらしい。

 

 

「うそ、だって、それって、バーサーカーの――――」

 

 

 何を驚愕しているのか、イリヤスフィールはアーチャーの方をじっと見つめている。

 アーチャーは特になんら感慨もないような表情。

 

「……また会ったわね、リン。

 それから、アーチャー」

「…………」

 

 やっぱり、アーチャーの金色の視線はここでないどこかを見つめている。一方、慎二はバーサーカーを見上げた時点で気を失ったらしい。まぁ、それはそれで幸せなことなのかもしれない。

 私はといえば、イリヤスフィールの視線に負けじと、見つめ返す。

 

「一週間は経ってないと思うけど、相変わらずねイリヤ。」

 

「そんな建前を振りかざすような性格じゃないでしょ、リン。貴女、病気? よろしければ、アインツベルン製の霊薬とかあげるけど」

「いらないわよ、そんな。それに、私は充分正気よ。

 ――こんなんでも桜の兄ってことになってるし。それに、『人畜無害な一般人』を見殺しにしたっていうのも、後味が悪いじゃない」

「徹底してるわね、リン」

 

 いたずらっぽく笑うイリヤは、アーチャーを一瞥して。

 

「でも、残念。もうちょっとでシロウを私のものに出来ると思ったのに」

「? どういうこと、貴女」

「あら、リンは聞いてないのね? 聞いていないのならいいわ。ええ」

 

 くすくす、と、見た目の年齢に反して妙に艶っぽい視線をこっちに向けるイリヤに、何故かかちんと来る。背後でアーチャーが嫌な嗤いを浮かべているのが手に取るようにわかるけど、それはともかく。

 

「今日は引いてあげるわ。せいぜい、セイバーの手当てをしてあげることね。

 ――どうせアーチャーじゃ、バーサーカーは倒せないんだし」

 

 去り際の一言には、絶対の自信が込められていて。

 でも、それを聞いても。アーチャーの視線はどこかぼうっとしていて――――やはり、磨耗した個人として、他人事にしか聞こえていないように見えた。

 

 

 

 

 

 




狂「…………」お嬢様、あの弓兵の容姿、よく見ればどこか彼と似ているように思うのですが、と言いたいけれど、狂っているため言語化できない。

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