ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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先生「どうした、キ――メディア」
魔妻「宗一郎様、正直どちらでもあまり変わりありません。それより……。なんでしょう、アレ」病院の窓硝子に張り付く謎のナマモノをみて、困惑。
先生「あんなものが出ている映画がやるとか、生徒から没収した雑誌に書いてあったな」
魔妻「あれが映画に!?」

ナマモノ「にゃ・・・、にゃにか失礼にゃことを言われた気が・・・?」



73VS88VS77VS61! その3

 

 

 

「こゆ、固有結界ってアンタ……?」

 

 遠坂凛にしてみれば、アーチャーのその発言は意味がわからないどころの騒ぎじゃなかった。

 10秒持たないと言いはするが、固有結界……?

 

 固有結界……魔術の到達点の一つ。悪魔を摸倣した、魔法に最も近い境地と説明されることもあるけれど、それは文字通り、自分のイメージで世界を侵食するという技術だ。

 結界自体は心象風景を反映するので、任意で操作する事は出来ない。

 そのかわり影響範囲は空想具現化のそれを超える。言うなれば、特定領域のみ異世界を召喚するような技術だ。

 

「嗚呼。本来、正規の俺は固有結界を起点とした魔術を使うことが出来た。未だに俺の戦闘スタイルも、それに応じている。

 どこぞの聖女なんかが行えば火が世界を埋め尽くすことになるだろうが、まぁそんなものだ」

「でも、それって変じゃない? 固有結界なんでしょ、なんで10秒しか持たないって……」

「だから、俺が正規じゃないからだろ。

 ……元来、あれは心象風景を成すそれだが、わかるだろ? 俺の心象風景とか言われても」

 

 ――――あ、納得した。

 

 今のアーチャーの認識は、様々なものがごっそり抜け落ちていくそれだ。だとしたら、その上に形成されている人格の不安定さは押して知るべきか。

 

「そもそも作り手に対する敬意とか、そんなものもないしな。まともに使い物になるのが十秒もないのだから、結局ただの鉄屑と一緒だ」

「ってことは、銃弾に組み込んで、相手の体内に潜ませるってことでいいのかしら。

 そして、相手の体の中から外側に向けて、固有結界を起動する。10秒の持続時間を克服するには、確かに他に手はないけれど……、そりゃ、内側から世界が炸裂するんだから、大体のものは抵抗することも出来ず死ぬしかないでしょうけど……」

「そういうことだ。お陰で弾丸と銃の形状の投影について、理解が深まって多少、技能が上がってる」

 

 変化開始(トレース・オン)と。どこからか取り出した短剣に向けてそう呟くアーチャー。すると、その外側が一瞬、円筒状の設計図に包まれ、次の瞬間には弾丸サイズにまで小さくなっていた。更にそれに対して、強化開始(トレース・オン)と呟くアーチャー。

 

「ともあれ、『中が空洞だろうと』弾丸の形になっていれば武器の劣化も多少抑えられる。だからこうして無理やり、刀剣を弾丸の形に圧縮して使っている。

 外側を強化しておけば、弾丸の状態のまま長期保存も可能というお手ごろ仕様だ」

「……なるほど。近代武器使ってる英雄な貴方が、なんで魔術なんてって思ったけど。

 そういうカラクリだったのね……。全く、つまり貴方、本来なら魔術師だったってこと?」

「魔術使いが的確だろうさ。

 いや、でも、そうかも分からん。固有結界だけ継承しただけかもしれない」

 

 嘘だ! とは言わない。コイツ、過去の自分の記憶自体が曖昧だから、本気で考えてるみたいだし。でもコイツの生前から考えれば、きっとそれは独力で獲得したものだろう。

 むしろ重要なのは――――。

 

 アーチャーに、固有結界の特性を聞いた。返答としては……予想外というか、もうわけがわからないような類に特性だった。

 

「なるほど……。だから、さっきみたいな説明をしたのね。遠回りじゃない?」

「そうでもない。むしろ、逆に効率が良い」

 

 そんなことを言いながらティーカップを片付けるアーチャー。と、何故か空になったポットを傾けて、何も出てこないのに「む?」と不可解そうに目を細める。

 ひょっとして、私に今いれたので、中が空になったのを認識していないのかしら。……いや、挙動的に、そもそもいれたことを忘れてる?

 

「さっきもらったから大丈夫よ。後で片付けて。

 さて……」

 

 そうすると。私が出来ることなんて、あんまりないことになってしまう。 

 

 そもそも才能がないっていうのは、指導のされ方からして察してはいた。そして、その完成品たる現物を前にして、気持ちは更に確信に至る。

 だから、違いに気づいてしまったからこそ、私に出来る事は少ない。

 

 でも――――。 

 

「まぁ、やるだけやってみようかしら」

 

 宝石を取りに、自室へ戻りながら。私はそんなことを呟く。

 そうだ、やるだけやろう。

 

 だって――――結末が、このアーチャーなんて、いくらなんでもアイツが報われなさすぎるから。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

「シロウ。大河の置いていった本は読まないのですか?」

 

 時刻は午後一時を周ってしばらく。

 お互いに休憩をとっていると、セイバーがそんなことを俺に言ってきた。

 

 セイバーの視線は、藤ねえが置いていった雑誌に向けられている。

 

「いや、そんなこと言われても……。大体、なんでさ、日本刀専門雑誌とか」

 

 そう。藤ねえがもって来たのは、日本刀についてあれこれ書いてあったり、レプリカの通信販売の広告とかが載っている類の雑誌。こたつの上に、出かける前に「あ、シロウ、置いておくから気になったら読んでみれば?」とか言って、投げ捨てて行った代物だ。

 ちなみに刊行年数が古いので、藤ねえの家にあるゴミとかがらくたの類の一種だと思っている。

 

「読んだところで、どうしろって言うんだよ」

「アサシンの武器についての理解など、深まるのではないですか?」

「そうは言ってもなぁ……。西洋剣についてとか、そっちのことも書いてあればちょっと違ったんだが。

 アサシンのあれは、アイツ自分で邪道だって言っていたろ? 基本的な戦い方とかは、日本刀の根底に通じてるところだから変わりは無いけれど、狙っていることとかが別だから、そういう意味じゃ剣道はあてにならない」

「そうなのですか?」

「一目見ただけでわかる。あのリーチの長さは、もう、槍のそれだ。ランサーと違うのは、その全体が一つの刃物だってこと。点であり、線であるっていうのが日本刀の骨子だから。

 西洋剣は逆に、その骨子は鈍器とか、棍棒に通じるところがあるだろ? 力で叩き切るっていうのは、切れ味よりも力で、地面とか壁とかに向けてエネルギーを叩き付けるって動作になるし。

 刃物の切れ味を使って、こすって斬るっていうのとは、そういう意味じゃ真逆だ。アサシンだって言っていたろ? だからどうあがいても、力に対しては受け流すしかなくなる。

 でも正直、俺からすればどっちの境地もあんまり理解できているほど腕が無い。だったら今は先生をしてもらってるセイバーの方を研究した方が……って、どうした?」

「あ、いえ……。

 シロウは、刀剣に詳しいのですね」

「そうか? 言ってることはアサシンとそんなに……」

「ですが、貴方のそれには理解があります。一日のみの見識ではない」

「まぁ、そりゃ、多少はあるかもしれないけど」

 

 確かに小さい頃から、こと刀剣に関しては関心が深かったけれども。

 だけれど、相対すると、理解できてしまうことがある。例えばあのアサシンが、セイバーにとどめでもさすようにしたあの構え。それとあの刀を見た瞬間、アイツの成そうとしている全てが理解できた。

 だからセイバーを間合いから引かせたし、俺も「三つ目」は逃げられなかったけど、ぎりぎり回避できる位置取りには入れたんじゃないかと思う。

 

「日本刀ねぇ……」

 

 ちらりと視線をふると、販売されるレプリカのもとになった、名工の刀。

 ふと、それを見ていると。昨晩のライダーの最期が脳裏を過ぎった。 

 

「何やら浮かない表情ですが、シロウ」

「ん? ああ、アーチャーの宝具のことを思い出してな」

「アーチャーの?」

「ライダーを倒したあれだ。確認していないけど、アーチャーで間違いはないはずだ」

「――――!? それは、しかし……。何故、あれがアーチャーの宝具だと?」

「消去法かな……?

 まずランサーじゃないっていうのは確定しているとして、バーサーカーがあんな魔術じみたものを使えるとは思えない。アサシンはそもそもそんな細かい事は出来ないし、かといってキャスターなら、わざわざあんな風に体内から爆発させる、みたいな手間を入れる必要はない。

 最終的に剣に帰結していたけど、本質は『相手の体内』から『外側に炸裂する』っていう要素なんだと思う。

 とすれば、まず最初に相手の体内に術を潜伏させる必要があるんだろ?」

「……なるほど。弾丸ならば、それも容易だと?」

「あいつの弾丸は、ライダーに打ち込まれたって話を聞いたし。それに」

 

 ――それに。セイバーごとバーサーカーを殺そうとしたときの、あの時の弾丸。

 その指し示す名前が元来、剣であることに、俺は自覚的だった。

 

「……あ、客みたいだ。たぶん遠坂かな……?

 いってくる」

「はい」

 

 玄関の戸を開けると、なんだかこの世の終わりでも見たような顔をした遠坂凛が立っていた。……、なんだその顔。すっごい半眼だし、口がひんまがってる。

 

「ど、どうした遠坂……?」

「……いや、なんでもないわ。ボブとっちめてたらお昼の時間過ぎていたってだけ」

 

 あ、これは怒ってるパターンだ。アーチャーのことをボブ呼ばわりしている時、たいていはロクでもないことになっている。

 

「悪いけれど、お昼の余りとかってある?」

「それは、なんとなく予想していた。だから我が家はこれからお昼となる」

「……え?」

 

 もともと、遠坂がこの間、俺の昼をあてにしていたというような話をアーチャーがしていた。なので、もしかしたら今日も似たようなことになるかと思い、俺とセイバーは先に作ってあったおにぎりだけを食べて、一時半までは遠坂を待っていることにしていた。

 なお、俺はおにぎりを準備するつもりはなかったのだけど、ああも物欲しそうな顔でテーブルの上を見ているセイバーを見ると、待てを持続させることは難しい。良心が痛んだ。

 

「そんな訳で、本日は効率的にお弁当なり。……どうした?」

「……いえ、なんでもないわ。

 ありがとう、衛宮士郎くん」

 

 そんなこんなんで昼食をとる俺たち。ようやく、といった感じでセイバーは、相も変わらずもぐもぐと。

 そんな最中――遠坂の目が、一瞬だけ、まるで観察するかのように、じろりと俺を視た。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

「大丈夫? 苦しいでしょうけど今の状態を維持していれば少しずつ楽になっていくわ。もっとも、熱は持つでしょうけど。

 いい? 魔術師と人間の違いは、魔術回路があるかないか。加えてそのオンオフが出来るか否かってところにあるの。ほら、そこに電気ポットあるじゃない? 魔術師はそれ。普通のヒトはお湯を保温はできるけど、温めることは出来ない」

 

 指を立てながら、動けない俺を視て遠坂は指を立てる。

 

「お湯をわかすスイッチの有無は、もう構造の問題。個人では簡単にどうこうできる問題じゃないでしょ? いい? 貴方は素人だけど回路は確かに存在する。つまり適正はあるの。だから一度でも体内に生成するなら、後はスイッチの入り切りさえすれば良い。

 何がいいたいかわかる? ――――士郎は毎回新しく作って、それを自分に組み込んでいる。

 本来、『作った』後は切り替えられる鍛錬をするの。長年間違って鍛錬して来た貴方のスイッチは閉じている。こうなっちゃうと体が使い方を忘れてるんだから、無理やりにでも使い方を思い出させなくちゃいけないでしょ?」

 

 離れの二階。

 遠坂から魔術について教えて貰う、ということで、客間として使うこともある離れを利用する事にした。土蔵は「論外だし、それに……」とか何か意味深な反応をされて、またセイバーの同伴は「どうせ士郎、落ち着かないんじゃない?」と悪戯っぽく言われた。反論できないところが悔しいが、事実なので甘んじて講義を受ける。

 

 それで。まず強化の術をしてみろ、と言われて実演して。嘆息と同時に差し出された紅いドロップのような――宝石を呑まされて、今に至る。

 体が思うように動かず、修行の失敗した時のそれを思い出す痛みに支配されている。

 

「……さっき呑まされた、宝石は、それか……?

 それはわかったけど、この熱さだけでもどうにか……」

「……やっぱり、自分をコントロールするのは上手いのね。

 いい? 今の士郎が元の状態に戻りたいのなら、貴方自身の力でオフにする方法を思い出さなきゃいけない。

 といってもスイッチそのものは、体の方が勝手にオフにしようとするのよ。だから、その感覚を掴んで、いかに早めるかってことね。簡単でしょ?」

「知らん……、わからん」

「アーチャーみたいな言い回しは止めてよね……、貴方がやると洒落にならないんだから」

「……?」

「なんでもないわ。

 ん……、投影って聞いたこと無い?」

 

 強化は、持つ要素の拡大。

 変化は、持つ要素の拡張。

 

 そして投影は――――要素の複製。

 

「もとからあるものに手を加える技術じゃないわ。無から有を作り出し、一時的にこの世界に現存させた状態にする……、言うなれば、劣化品のレンタルね」

「レンタル……?」

 

 何故だろうか、その表現に違和感がある。

 

「魔術っていうのは、基本的に、この世界に在る某かの要素の再現。その原則は覚えてるわね?

 でも、長時間は維持できない。修正力が働いて消える。魔力で成した物体だから、また魔力に還元され霧散するって事ね」

 

 使い捨ての魔力。劣化品。おまけに0から1を成すため難易度、消費魔力ともに高し。

 同等の精度の強さを、剣で求めるなら。1の強化魔術に対して、投影ならば11で効かないことだろう。

 

「割りに合わないって、そういえば親父にも止められたっけ」

「そりゃ、止めると思うわ。

 だけど……」

「?」

「……ねぇ士郎。この間、土蔵見せてもらったわよね。

 あの時思ったんだけど――――貴方の投影したものって、『消えないの?』」

「? そりゃ、まあ、作ったんだから消えはしないだろ」

 

 俺の言葉を聞いて、遠坂ははぁ、と深いため息を付いた。

 

「あのねぇ……。知らないって怖いわね。私相手じゃなかったら、今頃どっかの試験管でサンプル品扱いよ、貴方」

「穏やかじゃないなぁ……。なんだよ、それ」

 

 何故かめがねを取り出し、装着して目を細める遠坂。

 

「貴方のお父さんも、聞いてなかったら私だって気付かないところだったわね……。

 いい? 投影の魔術っていうのは、架空のものなの。想像で編んだそれは、すぐに消えてしまう。あくまで一事しのぎの代用品としてしか成立しないっていうのが、本来の使い方。おーばー?」

「……? イメージでくみ上げるっていうのは、わからないでもないけど……。

 魔力ってのは粘土だろ? 一度カタチになったものなら、消える事はないんじゃないか?」

「そんな訳ないじゃない! 魔力っていうのは、体内でしか存在しないものなんだから、魔力を物に通したりして、スターターを準備しないと自然干渉できないんじゃない。私だってそれこそ、宝石もどきみたいなものを魔力で作れなくも無いわよ? でもそれだって、外に出した魔力だから消えるし、そもそも『宝石みたいな形をした魔力』でしかない。

 それを本物に近づけるのが投影の魔術。おーばー?」

 

 ふむ。なるほど、だから親父には効率が悪いと言われたのか。

 

「つまり、魔力で作ったものは劣化している。また自壊するってことか」

「そういうこと。人間のイメージなんてのは穴だらけなんだから、本物どおりになんて作れない。

 10の魔力で剣を作り出すより、10の魔力で剣を強化した方が何百倍も持つし、威力だって大きく跳ね上がる」

「なのに、なんで俺のはそうじゃないんだ?」

 

 遠坂は、そこで思案するように一度押し黙り。

 

「…………貴方のそれは、きっと、順番が逆なんだと思う」

 

「順番が、逆?」

「たぶん……、貴方が作り出すものは、その根底が『本物』なのよ。だから劣化しないし、性能も落ちない。投影っていうプロセスを経由して、貴方の中にあるイメージを直接呼び出してる、みたいなことかしら……」

「なんでさ。って、そんなの聞いた事もないぞ?」

「まぁ、あくまで仮説よ。実行に移すのは危険だから、間違っても宝具なんか投影しようとは思わないことね。

 ……きっと、貴方は”剣”という属性と相性が良い。

 だから、慎二に向けて振り上げたナイフが『完全に只のナイフとして』今でも存在してる」

 

 言いつつ、どこからともなく見覚えの在るナイフを取り出す遠坂。刃の部分に巻き物がされている。

 

「正直、そっちについては無理よ。私、投影魔術なんて使えないから」

「そうなのか? これ、らくがきするみたいなものだから強化なんかよりよっぽど簡単なんだけど……」

「だから、それ他の魔術師に言ったら殺意を抱かれるレベルよ!

 全く……。だから当面、強化の魔術について練習していきましょう。貴方の投影についてはリスクだってまだわかっていないことが多い。だから、今は」

 

 言いながら、もってきていたバッグを開き、中から、明らかに積載量につりあわないくらいにランプを大量に取り出し。

 

「とりあえず、スイッチが入っているうちに強化の練習をしてみて。

 夜、桜の見舞いにいくまで余裕はあるから、大丈夫よ♪」

 

 そんなことを言いながら、こちらに極上と言うべき笑みを浮かべてきた。

 

 

 

 

 

 




虎「あれ、バビロニアの使徒さん? 何やってるんですかー!」病院1Fから、2Fの窓に張り付くナマモノをみて
ナマモノ「濃厚かつ一方的なラッブの気配を感じ、生態観察中にゃ」
虎(?)「そーゆーのは大体、馬に蹴られて死ぬニャ?」
ナマモノ「ってゆーより、人格切り替わらにゃくても素で驚かず受け入れているのが、凄いというかにゃんというか……」

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