ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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操桜「カカ、なるほどなるほど。そうか、だからここで待っていろというのか」
神父「嗚呼。ご老体。貴様にとっても、決して損な話ではないと思うが」
操桜「しかりしかり。いいだろう、ならば桜の身を、しばらくここに預けよう。もとよりシンジが一度は潰えた身。せいぜい馬券程度の愉しみとしておこう」
神父「馬券を買っている図が想像できないが・・・。まぁいい。それよりも体を動かしているのだ。ほれ、食事を――」
桜「それは・・・、いらない、です――」操桜「む!? 無意識に拒否をしよったぞ、この娘!」
神父「・・・そうか」麻婆のレンゲを、諦めて自分の口に運ぶ


美的感覚が壊れたMaiden! その1

 

 

 

 

 

 ランプ三十に対して、成功は三。

 そのうち魔力が通ったまま維持できたのは一つ、という状況に、遠坂は頭を抱えた。

 

「三パーセント……。まぁ成功しないよりはマシね」

「なんだよ。言っとくが、こっちは四十度はあるんだぞ?」

「わかってるわよ。でも、今後はその状態を維持しなくちゃいけないんだし、気をつけなさい?

 それよりも……、そんな状態でも成功したっていうのは、ちょっとは褒めてあげる。てっきり全部失敗すると思ってたし」

「? なんでさ」

「貴方の回路は、たぶん、剣の属性に特化したそれなのよ。だからそれ以外のものをさせようとすると、どうしてもロスが発生する。

 ナイフに限らず、剣の属性を帯びる投影なら貴方はトップを狙えるかもしれないけど、そのかわり他の要素が駄目ってことね」

「む……」

「それはそうと……。士郎、さっきからどうしたの? 貴方、表情の作り方が変だけど」

 

 ……。流石にバレたか。だけど話すほどのことじゃない。宝具を使おうとして気絶してしまったセイバーほどじゃない。これくらいは、ガマンするべきだ。

 適当に話を濁すと、丁度、日が沈み始める頃合。「そろそろかしら」という遠坂に促され、俺たちは教会へ向かった。またもやスーツ姿のセイバーに不思議そうな遠坂。だったけれど、これにはセイバーは。

 

「あの服は、シロウが似合うと言ってくれましたから」

「ああ……。へぇ、ふぅん」

「……なんだよ」

「べっつにぃ? でも、ならあの似非神父のところに着て行くのもね」

 

 とか、意味のわからないことを言われたり。

 

 

 ――――教会の扉を開く。

 

 カーペットの先にはまた簡易テーブルとおかもちが置いてあって、一体何が行われたのかが容易に想像がついた。みれば、どんぶりが複数転がっている。……もしかしてあの神父、たまたま来た一般人とかに振舞ったんじゃなかろうか、あれ。

 

「来たか」

 

 そして、そんなテーブルの上に置いてある皿から、最期の一口とばかりに食べ終えた言峰。おかもちにどんぶりを入れて、「少し待っていろ」とか言いながら協会の外におかもちを置いた。

 

「栄養偏るわよ、綺礼」

「理解はしているさ。だがどうにも、ここのところ連日無理が続いているのでね。

 先日は空が赤くなった現象の後始末にも追われたので、気分転換というやつだ」

「う゛」

「どうした? 凛」

 

 にやり、と愉しげに顔をゆがめる言峰に、遠坂は嫌そうに顔をゆがめた。

 

「そ、そんなことより! 桜どうなったのよ。

 間違いなくアーチャーが撃破したんだから、手術はしたのよね?」

 

 

「嗚呼。手は尽くした。これ以上、私に出来る事はないさ」

 

 肩をすくめながら、腕を少し回す言峰。と、そんなアイツの様子を見て、遠坂が何かに気付いた。

 

「え――――ちょ、アンタ魔術刻印どうしたの? 麻婆のインパクトで一瞬気付かなかったけど」

「見た通りだ。治療に全て使った。言峰の家はもともと魔術師の家系ではない。受け継いだ刻印は消費型だ。

 格の落ちる令呪と思えばいいだろう」

「つ、使ったってアンタ……」

「? どういうことだ?」

 

 理解の及んでいない俺に、かいつまんで言峰が説明する。

 代々継承する、魔術師の家にとっての歴史。それ一つで特定の魔導書といえる、一子相伝の家宝。

 

「それを、お前……」

「なにせ十一年分の膿の摘出だからな。根こそぎ食われても意外ではなかろうよ」

「――――」

 

 遠坂の反応からしてわかる。高価とか、そんな次元の代償ではなかったはずだ。

 なのにコイツは、自分のそんな財産を全て、桜の治療のために売っぱらったのだ。

 

 そんな俺たちの様子に、言峰はくつくつと嗤った。

 

「だが、話はそう簡単ではないのだがな」

「――――へ?」

「アンタがそこまでしたって事は――――」

 

「いやなに、邪魔が入ったのだ」

 

 言峰が、なげかわしいとばかりにため息を付く。

 

「”聖人の手”を使えば、中枢、心臓に組み込まれた虫も置換することが出来た。が、大部分を取り除き、内側に手をかけようとした織。かのマキリの妖怪そのものが出てきて、止められた。

 ご丁寧に間桐桜の体を介してな。これ以上、マキリの血に危害を加えるなら、この身もろとも破壊すると」

「それって――――」

「私に出来た事は、臓硯と交渉をして、これ以上負担を増やすのを止めて貰うよう説得することだけだった。

 傷みを和らげ、影響力を下げたところで、神経に根付いた虫が暴れれば無駄骨だ。ゆえにかの娘を介した際に、詳細を聞きだした」

「聞きだしたって……」

 

 つまり、それは――――。

 

「以前、二週間持つと言ったが、状況が変わった。期限はおおむね半分を下回る。……そうだな、今から数えて七日以内だ。

 丁度、二月の後期に入る直前といったところか」 

「な……、なんでだ?」

「もともとの状況は何ひとつ変わっていない。実生活に影響はないが、かの老人の出方次第というのは変わらず。

 そしてこれは誤算だったのだが……、ライダーの敗退後、令呪を回収することも不可能のようだ。マスターの権利を奪われる、というのもそれなりに大きく、虫の制約に引っかかるらしい」

 

 それは、つまり。

 桜の意思は、そこにはないってことか。

 

「だが、悲観するほどでもない。聖杯戦争が終われば、導火線に火のついたままの爆弾が、いつでも導火線に火がつけられるような爆弾くらいにはなる」

「それ、ほとんど違いないじゃない」

「大きな違いだぞ、凛。火がついていないということは、放置しておけば無害だということだ。

 状況次第で出方を変えるだろうが、かの老人は一応、間桐桜という体を丁重に扱いたいらしい」

 

 俺も、遠坂も沈黙する。丁重に扱いたいとは言ったが、それはつまり、間桐臓硯が桜を手放すことはないということだ。……考えてもみれば当たり前か。自分の家を、魔術を、後に続けさせたい。その妄執こそが未だに、魔術師でさえなくなったシンジさえ縛り付けた。桜の生き方さえ大きく歪めた。今更こんな小事一つで、変化するようなものではない。

 

 もっとも、言峰は苦笑いを浮かべる。

 

「何も悲観することはない。前回の聖杯戦争とて、合計すれば十一日で終了したものだ。

 持久戦をとり、徹底的に戦闘から逃げる組でもない限り、いずれ決着はつく」

「いずれって――!」

「既にライダーは倒れた。残る六騎のサーヴァント。そのいずれもが、いつまでも大人しくしている筈は無い。

 間桐桜を助けたくば、躊躇いなく、敵のサーヴァントを屠れ。敵の魔術師を殺せ。何一つとして、聖杯戦争の根底からは変わらぬ。

 これは――――魔術師同士の殺しあいだ」

 

 躊躇えば、桜の命などないだろうと言って嗤っている。

 その目は、俺のことを見ているようで――――実際は違うのだろう。

 

「むしろ今回は運が良いのだ。かの間桐臓硯が本気で聖杯戦争を引っ掻き回せば、我々とてその渦に翻弄されることとなったろう。

 そういう意味では、今回は状況がマシなのだ」

「何だって、そんなこと言ったって、それじゃ全然――――」

 

 

 

「あの娘を救いたくば、それこそ十一年前にどうにかしてやるべきだったのだ。

 さもなくば、お前か凛、そのどちらかが聖杯に至れ。他に道はあるまい」

 

 

 

 そう言った言峰に、遠坂の表情が一瞬、曇る。そりゃ当然だ。アイツはそれこそ、妹があの老人の家に引き取られる瞬間に立ち合っていたのだろう。苦悶とも、後悔とも、怒りともつかないそれを堪える表情は、簡単に感情を読み解けない。

 

「あれは、お前が望むような日常の象徴ではない。

 間桐により汚された、魔女ということだ」

 

 その言い回しに苛立ちを覚えて――でもそれは、今まで気付くことさえ出来なかった、俺への罰なのだと、理解してしまった。

 

 

 

 

 

   ※ 

 

 

 

 

 

「――――同調開始(トレース・オン)

 

 遠坂は言った。俺の本質は剣にあると。投影を介して、この世界に剣を現出させると。

 ならば、俺がするべきは強化だけではない。――そう考えたのは言峰の言葉を聞いたからに他ならない。 

 

 桜を助けるためには、当然サーヴァントと戦わなくちゃいけない。早期に戦わなきゃいけない。決着をつけなきゃいけない。

 だとすれば、仮にセイバーがサーヴァントと戦うのなら。当然俺は、俺一人で、おそらく俺よりも上の魔術師と戦わなきゃいけないはずだ。

 

 だからこそ、日課の鍛錬の際。実際に投影はしないものの、投影を意識した工程を、大きく含む。

 形状の骨子を理解し。その思想を理解し。

 今まで強化の際に行っていたそれを、投影のために作り変える。もとより作り変える事はないからこそ、スイッチを入れる形に。

 

 昨日あった麻痺は、今日には既に引いていた。原理はよくわからないが……、たぶん、ちゃんとスイッチを入れられるようになったからってことなんだろう。

 

 遠坂は言った。今まで使ってなかった回路の使い方を思い出させると。

 とするなら、昨日の麻痺は、ちょっとした筋肉痛のようなものだったのだろう。

 

 そのままセイバーと朝に鍛錬し、昼食の準備がてら買い物に出かける。

 

「……」

 

 一人で買い物をしていると、気が滅入って来る。あえて一人にしてくれとセイバーに頼んだこともあったのだけれど、頭が理解できない。

 桜が今までどんな目にあってきたのか。昨日の、言峰の口から語られた程度でも、おぼろげながら理解できる。

 俺だって魔術師だ。だから――。桜は救いを求めていたんだ。なのに、俺に知られまいと振舞ってきた。

 

 そんなこと、どうして気付けなかったのか。

 

 桜は笑っていた。それが本物かどうかなんて、どうだっていい。

 正義の味方になりたいって、そう考えている俺が――――あんな風に笑いながら、抱えていた傷みをわかってやれなかった。それだけでもう、自分を殺したくなって来る。

 

 間桐の家が桜に何をしたか。

 ……あの老人の言葉を全面的に信じた。なんて間抜け。無関係なんてありえるわけがないじゃないか。

 

 ならば間桐臓硯は、俺の敵だ。正義の味方は、皆のために戦わなくちゃいけないんだから。

 

 でも、そしたら桜は――――。

 

 

「――シロウ、あそぼ!」

「……イリヤ」

 

 買い物をしていると、唐突に背後から抱きつかれた。イリヤだ。

 楽しげに笑うイリヤ。その無邪気さが今は辛い。

 

「そんな態度、女の子に失礼だよ?」

「……イリヤ。悪いけど、今、そんな余裕ないんだ。遊ぶんなら、一人で遊んでくれ」

「ええー? せっかく一人で会えたのに、それじゃつまんないもん。

 だから、遊ぼうよー」

 

 だから。

 そんな余裕なんてないって、言ってるだろ。

 

 今の俺の心境のせいもあるかもしれない。だから――笑っている誰かのそれが、みんな、みんな桜のことを笑ってるように感じて――――!

 

 気が付いたら、強引に振り払っていた。呆然とするイリヤを前に、自己嫌悪が上ってくる。

 

「……、ごめん」

 

 裏表のない彼女に当たってしまった。そのことに、後悔しかわかない。相手がマスターだろうとなんだろうと、衛宮士郎の中ではやはり二の次なのだろう。 

 

 そんな俺の手を引いて、イリヤが。

 

「ごめんね、シロウ」

 

 ……。

 なんで、イリヤが謝るんだ?

 

「お前、怒らないのか?」

「なにがあったか知らないけど、追い詰められてるときに一人ぼっちは、さみしいもん。

 シロウ、どうせセイバーには話して無いんでしょ?」

「……」

「キリツグも、そうだったのかな……。

 わたしもね、そうだったから」

 

 多くは語らないイリヤ。でもその目が、どこか遠く、異国を見ているような錯覚を俺は抱いた。

 

「わたしはバーサーカーがいてくれたから。だから、バーサーカーはわたしのサーヴァントなの!」

 

 頭ではわかってる。桜を助ける事は出来ない。

 間桐と戦えば、桜を救う事も出来ず、結局は死人が出るだけ。せいぜい衛宮士郎に出来るのは、現状維持というくらい。

 

 でも、それだって、もし何かの拍子で桜が暴走すれば――――正義の味方に下せる決断は、そう多くない。

 

 だけど。

 

 

「……俺は」

 

 俺は、だから。

 一番最初のそれを、口にする。

 

「周りのみんなを、守りたいんだ。この目に映る、身近なヒトも――――見知らぬ誰かも」

 

 今の俺を形作るそれを、口にして。

 

 

 あれ?

 

 体が、動かない。

 

 

「――――可哀想なシロウ。ずっとそうやって、キリツグみたいな顔をして生きていくのね」

 

 イリヤはそんなことを言いながら、公園のベンチに俺の体を、無理やり座らせ。

 

「無駄だよ、シロウ。守りもなにもないんだから、簡単に金縛りにあっちゃうんだもの。

 そうなったらもう動けないわ」

「なに、を……、」

「そんなシロウに、自分自身を殺させなんてしないわ。

 だって、そんなことしたら、わたしが来た意味なんてないんだもの。シロウには――――シロウのままでいてもらわないと」

 

 

 にこりと笑うイリヤ。そして――――視界が途切れた。 

 

 手足の感覚は抜け、視覚は意味を放棄し。

 

 ……完全な闇に落ちながらも、俺の意識は途切れず。

 

 

 それでもやがて、そんな状態にあることを体が認めず。やがて考える事が停止し、思考が眠った。

 

 

 

  

 

 




BAD END

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タイガ「はい、こんにちはー! ちょっとした手違いで最悪の結末に至った貴方の最期の希望! タイガー道場でーす!」
イリヤ「助手の弟子一号でーす!」
タイガ「さて、今回の失敗はなにかね? 弟子一号」
イリヤ「はい! ずばり、身辺警護大事ってことであります!」
タイガ「ほうほう。まあわかりやすく言っちゃうと、セイバーちゃんを自宅に置き去りにしてるっていうのが駄目ね。士郎の心境は察するけど、頼りになるパートナーは引きつれていないと。
 だけれど、切嗣さんみたいなことを言ってないのに、イリヤちゃんどうして士郎をキャトったの?」
イリヤ「行きつく先は一緒よ。だってこのままだと、シロウはシロウ自身を殺しちゃうんだもの。しょーがないじゃない。心は硝子のままじゃないと、腐っちゃうのよ?」
タイガ「うわぁ、なんか核心ついてるっぽいこと言ってるような言っていないような・・・?」
イリヤ「わたしとしては不満はあるけど、それでもシロウがシロウでいるなら、セイバーも先輩もいないと――――」
ジャガ「だけど、私、私、この裁定には異議を申し立てるニャ?」
イリヤ「え、なんで?」
イシュ「でも士郎、生きてるから」
ブルマ「マジっすか先輩!? なんか衣装も豪華になってるぅううう!?」
タイガ「おー、なんか今神託があったぞ? そんなわけで、また次回~? って、あれ、これ本編中道場みたいね」
 
 
※次回も普通に続きます

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