ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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凛「・・・この礼装、ホントに後で請求しないわよね? イリヤ」
イ「当たり前よ。シロウを助けだすのなら、お金は惜しまないわ。遠坂と違ってアインツベルンはそういうの困ってないんだから」
凛「う、うちだって・・・、本当はもっとあったはずなのに・・・、おかしいなぁ、あの神父がそんなミスするとも思えないし」


自爆Dynamic! その1

 

 

 

 

 

 葛木が学校に行ったらしい。

 そんなことを言いながら、キャスターは俺の両腕を再度縛る。

 

「ええ。マスターの教え子ですもの。良心は咎められないかもしれませんが、後味は悪いでしょうし。今の内に済ませてしまいましょう」

「?」

 

 無理やり起こされた俺は、いまだに意識が不安定。ただ周囲を見渡せば、隅で、セイバーが動けないでいるのがわかる。体を這うようなそれは、俺の腕にあったそれに似ていて。

 

「セイバー?」

「あのサーヴァントは、坊やを逃がそうとした。ならそれ相応の罰は必要でなくって?」

「お前――――――」

「あら? ……あら、あら、あら?

 ふふ、なんだそういうこと。安心なさい? セイバーは私にとっても貴重な戦力。最期の最期までは使ってあげるのだから、そう無茶には扱わないわ」

 

 くすくすと、見透かしたように笑うキャスター。フード越しで表情は見えず、そのからかいは不快だ。ただ、その言葉は真実なのだろうと判断できるくらいには、こいつは合理的に動いている。

 

「あの子には『私をマスターとして受け入れる』と令呪をかけたわ。――よっぽど抵抗力があるのでしょうね。まだ自我が持っているなんて、すごいじゃない。

 ――もっと啼かせたくなるけど、それは後回し。いえ、それよりあの子も、貴方にすることを見ていたら、きっと良い声を上げてくれるわ」

 

 そう言いながら、キャスターは日用品のマジックを取り出す。なんでそんなものが? と意味がわからない俺を無視して、額に線を引く。定規のようなもので長さを計りながら、徐々に点を打っていく。

 

「安心なさい? どうなってるかなんて判ったら辛いでしょうから、それくらいは配慮してあげる。

 ただ光景だけは目に入るでしょうから、そこだけは簡便なさってね? ――――まぁ、それが何を意味するか、判断できるようになる頃には――――」

「――――や、めろ――――」

 

 セイバーの静止の声が聞こえる。が、その直後に苦しむようあえぐ声が聞こえて、俺もセイバーの名を叫ぶ。

 

「そこで見ているといいわ? そして諦めなさいセイバー。貴女が既に誰のサーヴァントなのか、はっきり判らせてあげる。

 あ、でも残りカス(ヽヽヽヽ)くらいはあの小姑に供養くらいさせてあげようかしら。せっかく寺なのですし」

 

 言いながら、キャスターは短剣を取り出す。周囲に立ち上がった骨のような使い魔たちが差し出すグローブを手に付け、マスクをつけ。まるで何か、手術でもするような格好になり、刃を振り被る。

 その刃は何だろう――セイバーに使ったそれとは形が異なるが。しかし、それは彼女が今使えるものではないということだけは判る。なぜなら、それは対になる概念が元になったもの。故に、それをもってして疵を与えるのならば、宝具としての意味を成さない。

 

「――――――?」

 

 それをキャスターが振り被った瞬間、空気に違和感が生じる。

 その直後、倉庫が爆発した。

 

 

「おいおいおっかねぇな、嬢ちゃん。だが思い切りが良いのは気に入ったぜ!」

「後は任せるわよ、リン」

 

 

 いや、厳密にはそうとしか思えないほどに、豪快に破壊されたが正解か。破壊の爆音にまぎれて、なんか聞き覚えのある、にしてはありえない組み合わせの声が聞こえた気がしたけど。

 あまりに突然の破壊力にキャスターでさえ結界を(小規模ながら)張り、使い魔たちは消し飛ぶ。

 セイバーはあんぐりとしながら、その破壊の主を見ていた。

 

 

 

「――――って、うそ!? 計算間違えた!

 士郎、セイバー、大丈夫!!?」

 

 

 

 ……この、いきなり出現と同時に味わう安堵と、何を間違えたんだという微妙な頭の痛さ。

 慌てたように、土煙にゲホゲホ言いながら現れたのは、遠坂凛。俺達を見て安堵すると、途端に表情を変える。この切り替えの速さはさすがというべきか、直前の失敗をなかったことにしたいのだろうか、というべきか。

 

「来たわよキャスター。色々考えたけど、貴女には消えて貰うことにしたわ」

「――ふん。いまどきの魔術師は皆こう猪頭なのかしら。人がこれから工房らしい作業にいそしもうって時に。さっきのといい、優雅さが足りないのではなくって?」

「――――くっ」

 

 言い返せない遠坂。

 

「行きなさい、セイバー」

「――――」

 

 セイバーが、申し訳なさそうに、苦しい表情を浮かべながら立つ。さっきの爆発の直後、鎧を装備してたらしい。ただ表情はわずかに令呪のせいで苦悶に歪んでいる。

 と――――。

 

「悪いけど、こっちも手ぶらって訳じゃないわ。

 ――行くわよ、ランサー(ヽヽヽヽ)

「――――」 

 

 息を呑んだのは果たして誰か。俺とセイバーは間違いないが、そこにはキャスターも含まれていた。

 現れたのは、いつかどこかで見覚えのあるあの男。赤い槍を肩に下げて、セイバーとキャスターの方を薄く睨んでいる。

 

「ランサー……、」

「よぉ、どいつもこいつも久しぶりってか? そこのお前さんはどーも長生きしすぎみてぇだけどよ」

 

 キャスターが、明らかにランサーの姿に動揺している。薄ら笑いを浮かべるランサーは、かなり余裕があるようだ。いや、考えて見れば全てのサーヴァントに対して、一度は戦闘を挑んで逃げているのだったか。とすれば、この動揺は、俺達以上にキャスターがかつてこっぴどくやられたことを示すか。

 

「どうして貴方が――!」

「協力関係ってヤツだ。まぁ安心しとけ。別に今回のことで、後々まで情を持つようなことにはならねぇし。

 元はと言えば、そっちに二体も集中したのが原因だ」 

 

 いや、そもそも。クー・フーリンはルーン魔術の使い手としても名が通っていたはず。戦士としての能力に咥えて魔術師としても卓越しているのならば、文字通りキャスターにとって相性は最悪なのかもしれない。

 

「じゃあ、手はず通りに頼むわよ、ランサー」

「それは良いが大丈夫なのかい? 疑う訳じゃねぇが」

「あら、ならなおのことじゃないかしら? 正面からでそうならば、ってところよ」

「へっ、つくづくアンタがマスターじゃねぇのが持ったいねぇ」

 

 ……む?

 なんだろう、遠坂が敵同士のはずのランサーと仲良くしてるように見えるのが、何だかちょっともやもやするような。

 

「じゃあ、……ありがと」

「おうよ。

 しっかし、マスターもサーヴァントも、いいじゃねぇか。青春って感じで。だがセイバーよ。お前さんには同情するぜ」

「…………侮辱か、ランサーっ」

「いやこれ本心だ。お互い、『二人目』には頭を悩まされちまってるみたいだし。

 それでもお前は、どこぞの金ピカ裁定者サマと合ってないだけマシだろうさ?」

 

 二人目? 金ピカ? ランサーが妙な言い回しを取った瞬間には、セイバーは斬りかかっていた。

 

「――――当然、偉く必死だなぁオイ」

 

 笑いながらも、受けたのはさすがと言うべきか。セイバーの返しを槍で流したランサーは、そのまま大きく距離を開ける。しかし遠坂よりも後方にいかない位置取りは、上手いとしか言い様がない。

 

「こう言うと嬢ちゃんには顰蹙だろうがな、俺は別に坊主を助けに来たとか、おまえを無力化するとか、そんな高尚なこと考えてる訳じゃねぇんだ。元より、そんな理由なんかねぇ。

 ――数少ないこの身に許された自由だ。おまえみたいなのと殺し合いをする。それだけのために俺は現れた」

 

 言葉自体に偽りはないのだろう。それがこの、光の御子が目指したもの。この英霊にとって、おそらく初めてとなる”本気”の戦いなのだ。

 英霊としてふさわしい戦い。武人として当然の望みか、しかしそんな望みさえ今の今までこの男には与えられなかったのだ。ランサーからすれば、いくらでも滾ってしかるというべきだろう。

 

「――いいでしょう。ならば今は、御身ごと叩き斬るのみだ」

「よく言った――そんじゃまぁ、行きますかねぇ!」

 

 ――閃光のごとき槍と、正面から立ち向かうセイバー。

 

 振り被り回転するセイバーと、半身をひねるランサーの突きとが激突。正面から弾き合い、しかし距離をとらずそのまま接近戦を始める両者。

 一撃一撃が見えないというものじゃない。セイバーの剣が不可視である以上に、ランサーの動きがもはやニンゲンの目で追えるものじゃなくなっていた。

 

 荒れ狂う様は暴風。ないし、機関銃のごときそれだ。……おまけに浮かべる表情は獰猛で、酷く楽しそうなそれ。

 だが、対するセイバーも尋常じゃない。ほぼ篭手先の動きしか見えないが、その一撃一撃が、強引にランサーの手を押し、攻め方を奪い狭めているのがわかる。なまじセイバーと打ち合う経験をしたせいか、流れを俯瞰できている。

 突きに対してはその内側の間合いに入り込み、払いに対しては反対方向から強引に叩き付ける。それを支える速度をバックアップしているのは、彼女の身に満ちる魔力と令呪か。いまだキャスターを守る、という風に制約されたそれが働いているらしい。

 

 その動きだけで、自分とキャスターとの、魔術師としての格の違いを思い知らされる。

 

「――――ハッ、いいじゃねぇか。

 加減なしで正面から打ち合えるなんざ、願ってもねぇぜ――――――!!!」

 

 更に加速する両者。と、後方でも、どこかで聞こえる金属音に意識が逸れる。

 それにキャスターが反応し、忌々しそうに顔をゆがめた。

 

「チッ――あの小娘!」

「あら、優雅さなんてどこに行ったのかしら、大先輩!!」

「――――!?」

 

 遠坂とキャスターの魔術師としての技量は当然、かけ離れている。その差を埋めるために、相当無理をしたのだろうことは途中の流れを見ていれば容易に想像がついた。

 だが、そっちはそっちでかなり戦況が一変していた。

 

 というか、ぱりん、とかいう音が聞こえた。思わずあんぐりするくらいには驚いている。

 遠坂の拳がキャスターの守りを貫通していた。

 

「魔術師のくせに殴り合いなんて……!」

「おあいにくさま……! 今時の魔術師ってのは、護身術も必須科目よ――――冲捶、プラス、アンセット!」

 

 踏み込むと同時に一撃。さらにインナーマッスルの動作だけで衝撃を加算。

 弾けとんだキャスターに向けて、その踏み込んだ足を軸に回転。さらに踏み込み、頸を連ねる。

 体勢を取り戻しかけたキャスターに、両手を床につけ、キャスターの膝元まで屈みこみ。とんでもない速度で足払い。突然視界から消えて足払いされたと勘違いしただろう。

 

「きゃ――――!?」

「大浙江、オルタ、プログレス……、ぶっ飛べ!」

 

 回転を止めると同時に、その勢いを全て腕に残し、横方向からなぎ払うように腕を振るう。その一撃に、たまらずキャスターは壁まで飛ばされた。

 

「取った! セイバー、士郎に斬りかからないよう、ちょっと耐えて――――――て!?」

 

 だが、遠坂も俺も、見通しが甘かった。

 セイバーが全力で戦えるような状態という、その事実の意味を理解していなかったらしい。

 

 

 

「――――約束された勝利の剣(エクスカリバー)――――!」 

 

 

 

 

 眼前に映るは、上空に打ち上げられたランサー。驚くべき事に、槍を握っていた左手は今、丁度俺の目の前に落下してきた。

 空中に打ち上げられたその周囲には、嵐のような風がまとわりついている。嗚呼、セイバーの、風の宝具に囚われてしまったのだろうか。その様はいつかのライダーを思い出させる。

 

 そして、その打ち上げた瞬間。風の鞘から解放された聖剣に、一気に魔力を乗せて叩きこんだのだろう。当然、バーサーカーを相手にしていたときほどの威力は見込めないが――――だが、あれはかの大英霊をして、七度その身を滅ぼすもの。例え威力を制限されたところで、どうして、その直撃をして致死でないと言いきれるか。

 

 

「――――悪ぃな、嬢ちゃん。坊主。

 アンタの名誉も晴らしてやれなかった――――バゼット(ヽヽヽヽ)

 

 

 朝焼け、雲りの空を晴らすよな光の柱をして、それでも半身が残るのはこの英霊の戦闘技術の成せた業か。しかし、それも意味はなく。胴体が地面を跳ね、数秒後には光として消えた。

 

 

「――――ッ」

 

 瞬間、遠坂の体が動く。セイバーがキャスターを庇うよう剣を構えて走りだした時点で、その判断が出来るのはさすがというべきか。

 咄嗟に顔を守って後ろにとんだ瞬間、黄金の剣の「面」が、胴体をなぎ払った。

 

「っ――――!」

 

 俺とは正反対の方に付き飛ばされる。

 

「……あら、やっぱりまだ抵抗できるのね。でも結局は同じなのだから、早い所殺してあげるのが慈悲というものではなくって? セイバー」

「シロウ……、凛……、私は――――」

 

 セイバーは、泣き出しそうな顔をした。内にどれだけの葛藤と、どれだけの怒りがあることだろう。

 再び表面に出てくる、目に見えるほどの呪いの戒め。セイバーをして声を荒げるだけの威力があることに、今一度、令呪というシステムの強制力をまざまざと思い知らされる。

 

「……今のは危なかったわ。

 でも残念ね。――――殺しなさい、セイバー」

 

 

 

「――――――動くな、そこの全員」

 

 

 

 この絶望的な状況下で。しかし、何かが現れる。

 その声は聞き覚えのあるもので、しかし、その姿の異様さは見知らぬものだ。

 

 原型は残っている。黒ずんだ肌。白く、剃り込まれた頭。長身に黒い外套を腰に下げているのは、まだわかる。

 

 意味が分からないのは――――全身に走る金色の亀裂(ヒビ)と。

 

 

「宗一郎様――――!」

 

 

 葛木を肩にぶら下げ、塀からこちらを見下ろしていること。

 

 

「アー、チャー?」

 

 何かがおかしい。その直感にかられてか、遠坂がそう男に尋ねる。嗚呼、だけれども。俺は何故か、そいつがどう答えるのかを知っている気がした。

 

 

「――――誰だ? アンタ」

 

 

 男は平然と、そう言って嗤った。

 

 

 

 

 




山を出た直後

 葛「・・・」
 
 ――――I am a born of my sword...
 
 葛「・・・っ!」ぐさり、と何かが刺さった感覚と共に、その場に倒れる。

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