ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~   作:黒兎可

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【謝辞】投稿時、間違えて一瞬メモ書きを事故ってしまったのですが・・・まぁ、後の展開バレが多分にあったんで、見てしまった方はお楽しみいただくためには、一事忘却お願いします;


吹き抜けるBlue Sky のごとく! その3

 

 

 

 

 

 ここが行きついた袋小路。己の辿った道の果て。

 例えどのような運命を辿ろうと、己が一体何であるのかという事実が変わるわけでもない。所詮はただのまがい物。本物の煌きに追いすがる事も出来ず、必要のない精神性を斬り捨てた。

 

 不可逆のはずの、決して戻り得ない結末。

 

 己に近づいたところで未だに目の前のこれは未熟。使えないならば魔力と髄液(アンプル)を回収するのみだと断定して戦っていた。削る事は片腕と言えど容易。

 相手は己を否定するが、己は決して相手を否定しない。もとよりそんな念は、過去に置き去りにした。例え置き去りにできなかったのだとしても、己の中を滅茶苦茶にしたのだ。今更どう繋がる事もない。

 

 失った物は帰って来ない。磨耗しきった感情は、手を伸ばしても届かない。

 

 ――――斬りかかる体は、目に見える以上に満身創痍。己の世界を受け入れるということは、「今は辿っていないはずの」世界を己の内側に格納するということ。容積を超えたそれは、その身の内で既に動き始めている。

 でも――――次の一撃は、今までのどのそれよりも重かった。

 

 砕かれた刃。弾丸を媒介にした以上、元は己が提供した投影が原型のはずだ。だからこそ、だろうか――。一方通行だったはずのパスが。刃が砕かれた瞬間に、まるで堰を切ったように雪崩れ込んでくる。

 

 ありえないと。未だ認識することのできない、その未熟な世界をありえないと。 

 

 ――――望んだ正義の味方など、何処にも居ないと。(おまえ)の理想は偽りでしかないと、誰よりも、誰よりも思い知っているはずなのに。こんな今でさえその原型を理解できているというのに。

 歪な願いで心が砕けることは明白。にもかかわらず。どうして今一度、こちらに刃を向けたのか。

 

 果てろ、と。認めろと。こうするしかないと――――こうするしかなかったんだと。

 それは、誰に乞うた許しだったか。

 

 それを理解していたのは、果たしてどちらか。――ツギハギを埋めるように、刃は、溶ける。

 

 既に瀕死の肉体と、既に瀕死の精神と。

 お互いが振るう刃は、しかしそれでも差があり、開きがある。

 

 故に――――少年は、自らの心を手に振るうことを決意したらしい。

 

 正規の要素が残っているからこそ、辛うじて投影が使える今の自分だ。本来、腐った精神ではまともな形を維持する事さえ困難。弾丸に己の心を宿すのは、あくまで他にできることもなく――贋作にすらならない、出来そこないの世界でも「使えた」から。

 

 悪い夢だ。――古い鏡は、今、割れようとしている。

 

 砕かれた刃に変わる物を掴み、構える。あるのはただ、全力で搾り上げる一声。

 

「――――――!」

 

 刹那。

 その叫びが、焼きついた。

 

 胸に刃が刺さったその瞬間に――――空が、わずかに晴れた。

 

 

 

「――――――――」

 

 当然と言えば当然か。この自分の歪んだ心に、正常だった心が刺さったのだ。無色の水を汚すように、自分を少年に注いだにもかかわらず。今度は完全に、真逆のことをされてしまったらしい。

  

 だがそれでも。雲間から差し込む光は星の煌きのごとく。

 濁ったこの場所を、わずかに洗い流すがごとく。

 

 

「――――嗚呼――――――――」

 

 

 アレは誰が想い、誰が受け継いだユメだったろうか。安心したその顔に、何を誓ったか。何を覚悟したか。

 忘れようとしても忘れきれなかった――そんな星のような煌き。自分が見惚れたのは、その気高さが美しかったから。あまりに眩しかったから。

 誰もが幸せであって欲しいと――その岐路に立たされてなお、選んだ選択に。大切なヒトたちを殺し、それでも知らぬ誰かの笑顔を守れたらならと。

 出来そこないのままに、目に見える悪を殺して周っても。そうせざるを得なくなるほどに、生き方が追い詰められたのだとしても。

 死した身体でさえ、それをなお超えて。抱いた想いが既に意味を無くしてしまっていたのだとしても。

 

 それでも――――それでも、その先があるというのなら。この雲を晴らすような、そんなまだ見ぬ(さき)があるというのなら。

 

 

「―――――――なるほど―――」

 

 

 ――この赤い空にも意味があった。

 

 吹き抜ける青空を前に――――俺は、間違えてなどいなかったのだ。

 

 

「――――――――――――――眩しい訳だ」

 

 

 だったら、この涙に理由は要らない。

 この身が悪であることは、永劫、変わる事はないが――――それでも。積み重ねてきた全てを背負う、この身を、なかった事になどしてはいけないのだから。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

「―――――――嗚呼なるほど、眩しい訳だ」

 

 目の前の男の胸に刺さった剣は。まるで元からそうであるかというように、ザラザラと散り。いくらか男の胸の傷跡の中に残った。

 そのまま、刃が這い回るように傷を塞ぐ。

 

 そんなバケモノじみた有様を目の前に、しかし俺は、もう緊張はしていなかった。

 

 決断してしまった、という実感がある。

 今しがた。わずかに自分の全身を貫くような、強大な向かい風を幻視したような気がする。

 

 だが、構うまい。俺は超えると誓ったのだ――――その程度、着いていけなくてどうする。

 

「あ――」

 

 ただ、そう意気込めるのは心だけらしく。実際気付いてはいなかったが、左腕は折れて、足だって肉がいくらか削れてる。どういう基準か、骨より肉の回復が早いような感じがする。だからどうしたという話なのだが、要するに足の方が回復したのに倒れたのは何故かという話だ。

 ……単純に緊張の糸が切れただけなんだろう。

 

 そして、そんな俺を背後から抱き支えるセイバー。

 半眼で、いつものように文句をつけてくるのが遠坂。

 

「シロウ――――ここからは私が、」

「いや、いいんだセイバー。

 俺は、もう戦う意味はない」

 

 そう、何気ないように声をかけたのは俺じゃない。 

 目の前のアーチャーが、少し困ったような笑いを浮かべている。――悪い夢を見ている。鏡に映った俺の有様はなんとも酷いような容貌で。だっていうのに仕草は全く変わっていないのだから。

 

「アーチャー、アンタ……、胸、大丈夫なの?」

「なんでさ。追求するところがおかしいだろ――遠坂」

「えっ――――」

 

 その物言いは。その態度は。何から何までが男の外見からは異常で。だっていうのに、俺達は何故か、そのことに違和感を抱かなかった。 

 

 言葉からは毒が取れている。まるでもう、それを紡ぐ必要がないとばかりに。

 

「正義の味方か。……なんでか、涙が出てくるな」

 

 声の響きはどこか暖かでさえあって。

 

「……答えてください。アーチャー、貴方は――」

「…………聞いてくれるなよ、セイバー。なんだか、お前を見てるとこう、申し訳ない気分になってくるんだよ。

 後悔とか、不甲斐なさとか……、なんでかは判らないが」

「記憶は、完全には戻ってないのね」

「戻ってないんじゃなくでだな。その……、えっと……。

 あー、何て言ったらいいんだか……。おい、俺、説明頼んだ」

「なんでさ、我ながら軽いぞ……」

 

 ついさっきまで殺しあいをしていたと思えないほどの豹変ぶりだ。だが、なんとなくわかった。さっきまでの俺がアイツだったように――今のコイツは、俺なのだ。

 

 なんでこう言いよどむのか、その理由を俺は知っている。

 目の前の俺は、セイバーを守ることが出来なかった。セイバーは、気が付けば消えていた。

 暴走した桜を、救う手立てがあの時はなかった。だから殺さざるを得ず――結果、遠坂と最期の最期できっちりと殺し合うことになった。

 

 相手が事情を知らないとはいえ、合わせる顔がないんだろう。

 いや、むしろ知らないからこそなおさら立つ瀬がない。

 

 ただ言いたくはないが、俺だってコイツのせいで、その被害は被っている。つまり。

 

「俺だってお前なんだから、なおさら説明できるわけがないだろ。それくらい判れ、この馬鹿」

「な――――貴様、俺を超えると言ったのだろ!? だったら、これくらいの苦境は軽々飛び越してみせろよ! それでも正義の味方目指してるのか、オイ」

「なんでさ! おまえ、さっきまでの原型が完全になくなってるぞ。

 まぁ遠坂もセイバーも……、古傷をえぐるみたいなことになるから、今は止めてくれると助かる」

「えっ? あ、はい」

 

 素直に俺の言葉に応じてくれるセイバー。もっとも、

 

「へぇ……。うん、じゃあ貸し一つね? 士郎♪」

 

 愉しげな表情から一転し、満面の笑みを浮かべたこのあかいあくま。俺達はそろってため息をついた。これは絶対、後々、どんな手段をとってでも聞かれる運命に違いない。

 

 目の前の俺でさえこの反応なのだ。

 どうやらエミヤシロウは生涯、遠坂凛に頭が上がらないらしい。

 

「で? なんだか『正直になってくれた』ところ悪いんだけど。貴方、何をしようとしていたの?

 てんでそこのところがはっきりしなかったから、全然話が展開していかなかったんだけど」

 

 気を取り直したように、冷静に会話を再開する遠坂。セイバーも同意という意見を示していた。

 

「何をしようとしていた、か。……説明はしていたつもりだったんだがな。

 理解されなかったということは、俺が、説明するための知識を欠いていたと考えるのが妥当か。

 捕足を頼む」

「いいわよ。

 それで? 守護者から一瞬とはいえ開放された貴方が、街一つなかったことにするくらい危険なものって、何なの?」

 

 アーチャーは一瞬、セイバーの顔を見て。申し訳なさそうに笑った後――――。

 

 

「え――――」

 

 

 誰しもが、アーチャーの語る脅威に耳を傾けようとした。その緊張は、逆に言えば戦闘に対する緊張の欠損。

 空から繰り出された剣は複数。その雨に、全く気付かなかった衛宮士郎の身体は串刺しに――――。

 

 弾け、転がされる。

 

「――――」

 

 突き飛ばされたのは1メートル程度。俺だけでなく遠坂まで、ついでとばかりに蹴り飛ばしていたようで。腰を抑えながら、助けられた事実よりも不満そうな遠坂だったが。

 目の前には――――串刺しになった、壊れた俺。

 

「……とっておいて正解だったな」

 

 それを、痛いとも何とも言わず、面白くなさそうに視線を向ける。何者、と恫喝するセイバーの声が、広間の二階に向けられていた。

 

 それは、黄金の男だった。

 金色の甲冑で武装したその男は、沈む太陽を背に、酷薄な笑みを浮かべていた――――。 

 

 夜が訪れる。

 

 俺も、遠坂も二の句が継げない。既に見て判るように、明らかにこいつはサーヴァント。だというのに、全く心当たりもなにもない。

 強いて言えば、8人目のサーヴァント。

 

 まさかルーラー? と遠坂が呟く。

 

「さて、久しいな(ヽヽヽヽ)セイバー。(おれ)が下した裁定、覚えているか?」

「――そんな、馬鹿な、何故貴方がこの場にいるのです――――アーチャー(ヽヽヽヽ)!」

 

 親しげに言う男に、セイバー一人が睨み。その言葉に、俺も遠坂も驚きを隠せない。

 アーチャー? だが、俺達の知るアーチャーはこの場で串刺しになっている男に違いない。だというのに、これは――――。

 

「何故も何もなかろう。杯は我が物、起源はウルクにありて。今更その忘れ物を取りに来たところで、何がおかしいか」

「ふざけたことを。いや、そうじゃない。そもそも――――」

「今、その先を口にするのは止めておけ。我とて今は興が乗らぬ故な――――」

 

 セイバーを見つめる蛇のようだった目は、アーチャーを中心にとらえ、いっそ憎悪こそみなぎらせるように変貌した。

 

「――――――下らぬ。実に下らぬ。真作が存在せぬばかりか、それに迫ろうということさえ諦めた出来そこないが。気に入らぬ。本来ならば「過程だけでも」評価するべきだが、それすら及ばぬ。我が宝物庫を振るうことさえ分不相応だ。

 だが今宵、贋作者へ至る道筋が出来ただけで、それは許してやろう――ぬ?」

 

 

「――――――――是・修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)

 

 

 いつの間にとったのか、三つあった弾丸から、アーチャーは一つとっていたらしい。

 そしてそれは――それを砕いた瞬間、ヤツの身体が劇的に変化した。

 

 刺さっていた武器は抜け落ち、穴などなかったように再生。

 金色の亀裂はほとんどが補修され。失ったはずの腕は、獣の腕を覆うように現れ。背中には、何故か刻まれる赤い数字。

 

 翻る黒い外套。服装はどこか、遠坂のサーヴァントをしていたときよりも現代的でない、「らしい」ように見えるものになっていて。

 

「外側と魔力が補填されても、いいかげん髄液(アンプル)不足か……。

 で? 次はどんな手品を見せてくれるんだ」

 

 その表情は嗤ってはいるが、でも、どこか不敵なそれで――まるで皮肉屋が浮かべているようなそれで。声音ににじみ出る余裕も、何故か不思議と、しっくりくるものだった。

 

「たわけ! 我が宝を、奇術師風情の大道芸とのたまわったか!

 セイバーを迎えるには確かにこの場はちと貧相ではあるが――――それ以上に煩わしい。

 我が裁定(ヽヽ)を言い渡す。塵に還るが良い、鉄屑が!」

 

 再び撃ちだされる無数の、弾丸のごとき武装の数々。

 

 それらに対して、再生した左腕の莫耶の銃から。

 

 

I am the bone of my sword(体は剣で出来ていた。).

 ――――熾天覆う七つの円環(ローアイアス)

 

 

 当然のように、そんな風に「盾」の弾丸を撃ちだした。炸裂したそれは、重なった七つの花弁。

 黄金のサーヴァントが怒りで我を忘れているからか、その攻撃は直線的で。それを正面から、ほぼ完全に封殺している花弁の盾。

 

 唖然としている俺達に、アーチャーは苦笑いを浮かべて言う。

 

「少し足止めをする。今のうちだ」

 

 嗚呼、そうだな。なんとなく、この状況で俺がどんなことを言うか、俺自身が一番わかっていた気がする。

 ちょっと、と怒る遠坂に、戦う意思を見せるセイバー。そんな二人のうち、セイバーの肩に手を置く。

 

「シロウ?」

「行くぞ。セイバー。この状況で、出来る以上、俺は『止めたって聞くわけがない』」

「さすが、よく判ってるじゃないか」

 

 嗤うアーチャー。いや、字を変えた方がいい。ニヒルに笑うアーチャーは、「盾もそう長くはない」と断言する。

 

「何。俺が倒れたところで、すぐ聖杯戦争が終わる訳ではないだろう。どちらにせよピースは足りない。

 それにだセイバー。あれを打破するには条件がいる。それは……、あー、こんなことが思い出せない」

 

 今のは俺にもわからない。俺だってアーチャーの記憶、全てを共有しているわけではないのだ。

 

「ともかく、今は時ではないし――正規の俺でなければ、アレは正面から打破は難しい。

 現状、拮抗してるわけじゃないんだ。勘違いするなよ、遠坂凛」

「でも……、だけど……!

 それじゃアンタは、結局、やってることが――」

 

 また私に見捨てさせるのかと。あの時と違い、令呪で守りをかけることも出来ないのだと。……嗚呼、思い返せば、どうしてバーサーカーから逃げていたとき、既に令呪が消えていたのかということについて、今更ながらに思い当たった。

 あの時、遠坂はアーチャーに「生き残れ」と令呪をかけたのだろう。それは自ら契約を切った――自分のありったけの魔力を敵にぶつけるため、「マスターの魔力を喰らい尽くさないため」にした――その後も。令呪を受けたという事実が、この男を今の今まで生き残らせたのだと。

 

「そういう意味じゃ、もう何度も、俺はおまえから命を救って貰ってる。

 だったら、俺がそうしない理由はないさ」

「――――――」

「それでも何か思うのなら……。いや、それは後にしよう」

 

 今にも泣きだしそうな――いや、でも、こらえ切れていないその目に。

 

「――――時間を稼ぐとは言ったが、別にアレを倒してしまっても構わないだろ? マスター」

 

 放たれたとんでもない強がりに。マスターと己を呼んだ男に。遠坂はそれを堪え、胸を張った。

 

「……ええ、構わないわ。きついのをお見舞いしてやりなさい、アーチャー!」

「なら、期待に応えるとしよう。

 ――――()。セイバー。そこの俺を頼む」

  

 ――――嗚呼。それは。

 万感の想いが篭った言葉であり。他人事のような言葉でもあり。

 

 

 そして同時に――――この男から、俺達への。この上ない別れの言葉でもあった。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

「倒す、と言ったか。

 くはははははっはは――――――!!!!! 滑稽よ、これぞ道化よ! まさかその類の才能があったとはなぁ出来そこない風情にも!

 褒めて遣わそう。我が宝物の雨を受け切った事は! この二つをもって何か褒美をとらせてやらねばなるまいな。飴でもやるか?」

 

 心底、馬鹿にしたような物言いではあるが、実際に飴を取り出して見せてくるのがこの英霊である。わずかに調子が崩れるのを感じながら、アーチャーはその男を見て、納得した表情を浮かべた。

 

「なるほど。こりゃ、『アレ』に呑まれても不思議ではないか」

「――――なんだと?」

「いや、なんでもない。気にするな、どの道長くはない」

 

 自虐するよう笑う弓兵。いくらかその表情も、在り方も守護者としてのそれではなくなったが、本質的に腐ってしまったその立場を崩すことは出来ないらしい。

 そして、先ほどから眼前の英雄が、己の何が気に入らないのかもおぼろげながら理解している。

 

「不遜なもの言いだな、この我に向かって」

「そりゃな。若造って年ではないが、眩し(わか)ければそれだけ敬意は薄いものだ。

 何、俺も馬鹿になってみようと思ってな。お前が何をしようとしてるかは知らないが――本能的にか判るよ。結末は俺以上にロクでもなかろう。ならば、その前に『悪』の退治に挑戦してみようとね」

「は――――掃除屋が汚れる前に来るとは、阿呆の極みだ!

 もはや飴をやるのも阿呆とみた」

「その口ぶりだと、本気の本気でくれるみたいな口ぶりだな」

「たわけ! 当然であろう。だが今ので帳消しだ。

 ――鉄屑(トラッシュ)。貴様、何を知っている?」

「さぁ? 悪いが本当には知らないんだ。色々、混線している立場でね」

「まぁ良い。ならば貴様が嫌というまで、その身をバラバラにして聞きだしてやろう。我が蔵には、無理に傷を直す()薬も、正直になってしまうお薬も当然あるからなぁ」

 

 表情を愉しげに歪ませる黄金のサーヴァントに、しかし、黒い弓兵は何も答えず。ただ下を向き、口を動かす。

 

 ぬ? と。その異変に英雄王が気付くには、わずかな猶予。だが、この英霊は元来、守護者としてきわまったナニカ。詠唱(その)程度、いかに早く終わらせるかも心がけている。

 

 

「――――Yet, I will not never regret extend a saving hands(故に、我が生涯の意味は問わず).」

 

 ただ――その詠唱はわずかにかつてと異なっていた。

 

 

 

「――――So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS(その体はかつて、剣で出来ていた).」

 

 

 

 故に、放たれた弾丸が描く世界は。赤き歯車、担い手のない剣の丘。雲間からわずかに差し込む、生命の奔流のごとき光と、青空。

 

 

「貴様――」

「これは、単純な時間との戦いだ。

 俺が髄液(アンプル)切れで動けなくなるのと、アンタが俺に殺されるのと」

 

 腐った精神性は、わずかながらにかつての憧憬を取り戻し。故にわずか一時、この場限りといえどその成す幻想は、今まで自身を超える。

 

「もはや真も嘘も関係ない。

 ――――ついてこれるか、英雄王!」

「一撃で首を落とすか、じっくりと首を斬られるか――好みの方を選ぶが良い!」

 

 

 隔絶されたその世界で――――雨霰のごとく、お互いの刃が激突した。

 

 

 

 

 

 




凛「・・・で、何でイリヤはそんな子供向けの特撮番組なんて見てるのよ」帰ってきて一言
イ「あら、面白いわよリン。丁度これなんて、主人公が青くて剣を使うし」

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