ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~ 作:黒兎可
役所の子「ふむ。しかし、そもそも三人も居るなどと爆弾発言を投げられてしまっては、ますますだな・・・。まぁ一人は除外するとしても」皿の上のベーコンをひろい一口
????「・・・どうしてシーフードカレーのモダン焼きなのに、生地がパスタ・・・? カレー舐めてるんですか・・・?」
セイバーと打ち合うようになってから、我が家の道場は道場らしさを手に入れた。具体的にいうと以前よりしっかり手入れをするようになったし、時折手合わせをすることもある。
それはセイバーがいなくなってからも同様で、そういう意味じゃ、ここが静かな場所に戻る事は今しばらくはないだろうと思う。
具体的には。
「は――――っ――――!」
竹刀で打つのをさけ、時に受けて払い。
「そこ――――っ!」
「ひぐっ!?」
遠坂が当然のように、俺のみぞおちに一撃を入れたりするような。
日も沈んで、珍しく遠坂が俺の家に来ている。「そういえば士郎がどれくらいやれるのかって、みてなかったと
思って」とは本人の弁。
実際のところセイバーほどでないにしろ、俺を見事にボロボロにしてくれるあたりは流石に容赦がない。
「まだまだ。私、踏み込みしか八極使ってないわよ。
士郎は武器持ちなんだから、もっと粘る!」
「いや、リーチの内側に入られるとどうにも……。なんていうか、素手だからかモーションが早いんだよな」
「はやい?」
「ああ。なんていうか、こう、呼吸が違うっていうか。ここで踏み込んでくるか! って感じ」
立ち上がりながら説明する俺に「あー、確かにそーゆーのあるかもね」と遠坂。
「剣士の間合いというか、そういう領域よりも徒手空拳は薄い分、まず近寄ってから攻撃に移る速度が違うかもしれないわね。あんまり意識はしてなかったけど……。
って、何? もう一本?」
「うん」
竹刀をもう一つとる俺に訝しげな顔をしつつ「まぁいいけど」と、遠坂も再度構えた。
単純な話として、一本より二本の方が強いとか、そういう話ではない。
そろそろ「こういう方法を覚えるべきだ」と、俺の中の俺じゃないような、直感めいた何かがささやいているというだけだ。
打ち合う感覚は、やはりセイバーに稽古をつけてもらっていた時とは色々と違う。
もっとより、俯瞰的に見れているというか――――しかし、流石に回転させたりは出来ないのがお約束というか、構造上の問題というか。
流石に道場で二丁拳銃を振り回すようなのは邪道すぎるし、剣をしっかり投影できる俺がわざわざ拳銃にこだわる必要はないのだから。いや、まぁ、あんなのどう考えたって格好良いに違いないのだけれど。
ただ、そういうイメージが頭の中にも、肉体的にもわずかながらに残っているのか。体の動きは案外軽く。
「――――」
腕をあわせて回転させ、距離をとりながら足を進める遠坂。
「……なるほど、距離感がかわったわね。どっちも剣だけど、ある意味、片方が盾になると」
今までの状況を分析するに、遠坂にえぐられるよう転がされる時は、大体決まって打ち込みの直後に懐に入られてというパターンが多かった。ならば打ち込んだ後に、すぐ次の動きへ移れる様に出来ないかと考えて、二本。
セイバーだったらきっと、そんなの関係なく受けられてしまうのだろうケド。二本というのはやっぱり、意外と自分の戦闘形式には合っているらしい。
「だったら、私も少しやり方かえていいわね」
「へ?」
まぁもっとも、戦闘経験自体が足りて居ない事実に変わりはないのか、遠坂が構えをかえて、使う技を変えただけで簡単に打ち破られてしまうのだけれども。
……身体全体をつかって、刃を背中で受け流すってどういう動きだよ、ホント。
胸部に両手の平が合わさって、吹き飛ばされて転がる。
「そろそろ休憩にしましょうか。流石に二時間近く続けてると、私もつかれてきたし」
「同感。だけれど、あれ、そんなにもう経つか……?」
「興が乗ってたんじゃない? ほら、士郎も男の子だし、熱中すると、他の事が見えなくなるんじゃない?」
それにしても、と遠坂は手を口に当てて何かを考える。倒れている俺の立ち位置からして、ちょっと頭を傾けるとミニスカートの中が見えそうな気もするのだけれど、どういう魔術かニーソックスを穿いた脚以外は全て暗黒空間に包まれているような感じだった。いや、そりゃ積極的に覗こうとか思っているわけじゃないので、当たり前といえば当たり前なんだが。
しかし何というか……。美人で、勉強もできて、魔術師として一流で、おまけに物理的な攻撃力も充分満点という。なんなんだろうコイツ、才色兼備というにはうっかり度合いがそれを許さないし。
「何、士郎なにか変なこと考えなかった?」
「か……、考えてない。変なことではないはず」
「そ。なら何? 師匠を前に隠し事なんて出来ると思わないことよ?」
笑顔でそういってくれているところ悪いが、剣に関しては一応、セイバーが師匠ということになっているので、そこは訂正させてもらいたい。
「あとは、単に遠坂のそれ、八極拳なんだっけ? 一体どこで覚えるタイミングがあったのかって」
「ああ、それは簡単よ。これ、綺礼仕込みだもの」
――――――――。
「え?」
「だから、綺礼。今は亡きあの似非神父。
なんでも、元々は代行者だったかしら……? そっちで活躍しているくらいには、物理的にも強かったらしいのよ。アイツ。そもそもアイツが使ってたのって、魔術と武術の融合体みたいなものだったらしいけど」
「なんだそのマジカル八極拳」
「上手い事いうわね。俗っぽくいうとそうなるかしら。
士郎の話じゃ、最後まで終始拳を振るわなかったみたいだけど、それってきっと、聖杯の維持に気をとられていたからってことじゃないかしら」
「あー、ところで先生、代行者って?」
あ、と。流石にわかっていないことを察してなかったらしいけど、どこからか丸メガネをとりだして、すちゃっとかける。普段とはまた違う、ちょっとだけインテリジェンスに磨きがかかった状態で、得意げに話を始めた。
「私も専門って訳じゃないけど、聖堂教会そのものに対する認識として、士郎はどんな感じ?」
「あー、確か異端審問会みたいなところだったっけ……?」
「ニュアンスは間違ってないわ。聖堂教会が旨とするのは、普遍的な宗教の教義に違反するコト。
例えば吸血種とかみたいな、あからさまにそういうのとかね。
それらを消し去り、神秘をあまねく管理することを宗とするのが聖堂教会。代行者っていうのは、その中のさらに『物理的な方法をとる』異端審問官。悪魔祓いならぬ悪魔殺し、救済を目的とするのでなく殲滅を良しとするってところ」
「穏やかじゃないな……」
「元来、悪魔祓いが祓うことしか出来ないのは、造り、壊すのを成すのが偉大なる存在に限られるからよ。だからそれらに代行して、超越者の成すような壊すことを行うから代行者っていうの。
ちなみに他にも騎士団とか、埋葬機関とか、秘蹟会とかがあるわね。たぶん覚えて居ないでしょうけど、似非神父がこっちに来てから所属してたのは秘蹟会の方。聖遺物の管理、回収が目的ね」
頭に入ってくるような、入ってこないような……。
ただどちらにしても、頭に留めておく必要はありそうだ。俺が将来的に、吸血鬼とかを相手取るようなこともあるのかもしれないし。
「それはそうとして、士郎。さっきのアレってアーチャーのイメージ? 二刀流とかそういうのは抜きにして」
あー、やっぱりわかるか。
「セイバーほどじゃないにしても、やり辛さっていうか、そういうところがね。
思えば今の士郎がこれなんだから、あんなになってもセイバーと渡り合っていた以上、独力でそこまで上り詰めたってことなのよね……」
そう感慨深げに、遠い目をしながら俺をみる遠坂。まるで今の自分についても言われているような気がして、気恥ずかしいやらばつが悪いやら、どんな顔をしたらいいか。とりあえず顔を背けて、上げることが出来ない。
と、道場の扉が開かれる。
「二人とも、夕ご飯の準備できました」
「あ、ありがとう桜」
「って、先輩!?」
倒れる俺に駆け寄る桜。大丈夫大丈夫と手で制して立ち上がると、桜はこれまた意外なほどの元気さを見せて、遠坂に噛み着いた。え?
「遠坂先輩! 倒れるのは流石にやりすぎです!」
「え? いやだって、武器と徒手空拳で戦う以上、どうしても徒手空拳の方が不利だから、どうしても一撃が重くなるのは仕方ないのよ。それは士郎だって折りこみ済みだし」
「そういうことじゃないんです!
いくら聖杯戦争が開けて一月経ったからって、先輩、まだ本調子じゃないんですから! どうしてそれなのに、わざわざ拳闘なんてするんですか!」
おっと! 桜、それ以上いけない。
え、と驚いた表情から一転して、遠坂が俺に詰めよる。
「士郎、あんたもしかして……。ちょっと脱ぎなさい、上」
「はぁ!?」「姉さん!!?」
「変な意味じゃないわよ、あ~もうやかましい!
ほら……。やっぱり、薄々やってるかもしれないとは思ってたけど、まさか本当にやっていたとは。そこまで士郎が莫迦じゃないと思ってたけど、やっぱり筋金入りなのね」
遠坂は無理やり俺の上着を脱がせると、露になった左腕を見て呆れたようにため息を付いた。
「大分変色が進んでるわね、アンタ。あれほど私の見ている前以外でやるなって言ってるのに、投影の練習なんてしてるの?
いい、もう一度言っておくわ。アンタは一度、『あっちの』影響を直接受けた。だからその投影には、本来、今の貴方が扱いきれないレベルのものが混じっている。誰かがフォローに回って精度とか、状態とかを観察しながら慣れて行くのが今の訓練段階よ。
そりゃ、貴方の『世界』はかつてに比べてクリアになってるでしょうし。回路だって正しく動作してるんだから、投影自体は上手くいくでしょ。
でも勘違いはしないこと。魔術なんて、簡単に術者の限界を超えてしまうもの。おいそれと回復できた、聖杯戦争の時とは勝手が違うんだから」
「すまん、それは、注意する」
「注意するだけじゃないの!
まったく……。桜、ちゃんとコイツのこと止めなさい? また無茶するから」
遠坂に怒っていた桜が一転して、今度はしきりに頷いていた。どうやら味方が居ないらしい。ちなみにイリヤはある程度黙認しているのか、俺の様子を見ても何も言わなかった。
「壊死はしてないみたいだけれど、感覚はあるの? 士郎」
「流石にそこまでやばかったら、遠坂に最初から見抜かれてるだろ? お前なんだかんだで俺のコトよく見てるんだし」
「そ、そりゃあ不甲斐ない弟子が何か失敗したら、師匠の責任だし」
「わ、私だって先輩のこと、ちゃんと見てます!」
「それについては反論ないわね。今後ともブレーキよろしく、桜」
「はい、遠坂先輩!」
嗚呼美しきかな姉妹仲。唯一の難点は、向かう先が明らかに俺を貫通しそうな勢いであるというくらいだ。
少し待ってなさい、とため息をついて、遠坂が席を外す。
必然、桜と二人きり。
……? なんだろう。桜がちらちらと俺の方を見ては視線を逸らす、を繰り返している。って、いや、流石にその視線に気付く。
「悪い桜。今、着替えるから」
「あ、いえ! そういうことじゃないんです、本当に……」
「?」
「……先輩、前はなかったのに、所々に傷が……」
いかにセイバーの鞘の効果で身体が治ろうとも、流石に傷跡のあたりの色実は少し異なる。それゆえにか、こうやって肌を直に見られると、かなりの傷跡が見受けられる。
といっても、よく目を凝らさないと判らないくらいなので、そういうことなら桜はやっぱり、俺をしっかり見てくれているのだろう。
「あんまり気分良くないだろ。ごめんな、これ」
「先輩……、やっぱり、聖杯戦争で?」
「だな。でも、別に大したことじゃない。セイバーのお陰で死ぬようなことはなかったし、何より、桜を助けられた。
またここに戻ってこれたんだから、こんな傷、大したことはない」
「え――――」
驚いたように硬直する桜。と、再び道場の戸が開けられ、遠坂が帰って来た。
「早いな。で、……何だ、それ」
「はい。今後、私がいないところで投影をするんなら、最低限これを左腕に巻きなさい」
手渡されたそれは、赤い帯のような布だった。どことなく、何故か見覚えがあるような、ないような。
「綺礼の遺品ってことで、使えそうだからかっぱらってきたわ。
「……なんで左腕なんだ? いや、色が変色してるからっていうのは、なんとなくわかるけど」
「んー、話を聞く限り、貴方に干渉したボブの――――」
「それは、止めてくれ。本気で止めてくれ」
正体を知ってからだと、そのいじられ方は居たたまれなさ過ぎる。
「あら、じゃあデトロイト被れの方がいい?」
「どっちもどっちだ」
俺と遠坂のやりとりに、桜が疑問符を浮かべているが、説明するつもりはない。そんな、未来の自分の名誉のために足掻いている過去の自分のことなんで、誇れるようなことでもないのだ。
「まぁともかく。アイツが貴方に干渉した時、左肩に手をおいたって言ったでしょ? だからたぶん、発露の仕方に偏りが出たんじゃないかしら。左肩が起点になった分、世界の側に『貴方の世界』が発露する際、左を経由するんでしょう。
その証拠に、士郎。右腕の方はなんともなかったでしょ?」
「確かにそうだけど……」
「だから、一旦はこれを使いなさい。本物のアーチャーの投影とかに耐えられるほどではないにしろ、今の士郎くらいだったら、普通の投影の影響を最小限におさえてくれるはずだから」
ただし、と注釈をつける遠坂。
「原則は私か、イリヤが見ている前ですること。影響を抑えられるだけであって、あくまで根本的な解決じゃないんだから。そんな状態で無茶な投影を繰り返したら、言うまでもないわね?」
「りょ、了解……」
ともあれ、そんな流れで居間、夕食に向かう。
今日は朝夕二回とも、桜に手間をかけてしまって申し訳ない……。しかし、夜用に事前に仕込んでいた煮魚と味付け卵を上手い事とり回してくれているあたりは、流石に阿吽の呼吸というところだ。
ほんのりゆずの香りがするのにおっかなびっくりな遠坂と、そんな様子にちょっと楽しげな桜。
何となしにテレビを付けると、ローカルなグルメ系の番組が流れていた。
「鍾馗か。あそこのお好み焼き、しばらく食べてないなそういえば……」
「藤村先生、一度お好み焼きを作るのに失敗してから執念燃やしてますからね」
「何、食べに行くと文句でも言われるの?」
「食べるに食べられんというか、話を聞かれて涙目になるというか……」
「あー、なるほど。確かに、いじめっ子みたいな感じになるのは嫌よね」
……。え?
あの、遠坂さん?
「……何よその目。言いたい事があるならはっきりしなさい、はっきり」
「あ、いや、なんでもない。
……というか、あれ、これって氷室だったっけか?」
「沙条さんまでいるじゃない。世間って狭いわねぇ」
テレビでは、見覚えのある女子生徒二人が、メガネを曇らせながらお好み焼きを食べている。……と、その奥でカレーもんじゃ的な何かをつまんでいるメガネの女性と、テレビ画面内だけでもメガネ率100%だった。誰かの陰謀だろうか。
――――と。
「やーただいまただいまー。意外と会議長引いちゃって~。
士郎、ごはん!」
「お帰り、藤ねえ」
「「お疲れさまです、藤村先生」」
おっと、恐ろしいほどユニゾンする桜と遠坂。
桜から手渡されたご飯を受け取ると、きょとん、と、首を傾げる藤ねえ。
目の前の光景に違和感を抱いているのに、それが何かわからずもやっとしているような。そんな様子のまましばらく食べて。一杯ちょうど平らげるくらいにしてから、俺に耳打ちした。
「って、どーしてこんな時間に遠坂さんが士郎んとこにいるのかーーーーーー!!!!」
――――タイガー、緊急警報。
という、耳! 耳がッ!
「どうしてって、衛宮くんの家で、可愛い後輩の桜の夕食をご馳走されてるのですが。
そういう藤村先生こそ、勝手知ったる様子だとは思いますが、チャイムもならさないのはどうなのかと」
「うっ……、わたしは、この家の監督役なんです。
それに、衛宮くんとはお父さんから任されてるから、家族も同然なのっ!」
例のうわさのせいか、藤ねえの遠坂に対する警戒度は高い。
「そうなんですか。では改めて。
お邪魔しています藤村先生。本日は一緒に帰ってきて、衛宮くんの『勉強』を見てました。
夕食後、ほどなく帰るのでご容赦ください」
「むむぅ。そ、そんな真面目で礼儀正しい女の子アピールなんてしたって、先生は騙されないんですからねっ!」
ふしゃーといわんばかりの藤ねえの様子に、しかし余裕をもって優雅に微笑むあかいあくま。一体何を企んでいるのかという点では怖いところだが、下手に口を挟むと藪から出てくる蛇を虎がキャッチしてしまう。
まぁ、藤ねえさえ当然のようにひらりとかわす遠坂である。
その後のやりとり、結末は語るべくもない。
「的確に急所をついてくるその攻撃スタイル……、くぅ、こんなボクサータイプな教え子だとは思わなかったよぅ」
「なんだよボクサータイプって……」
色々とツッコミを入れたいところはあったものの、夕食が終わるとその虎対あくまという異種格闘技も一旦終了とあいなり。
玄関まで見送りに行く俺と桜。
「じゃあ、士郎は今日言った事を充分注意すること。桜も注意しなさい。
それと」
「?」
「――――士郎。明日デートいかない?」
「「ええ!?」」
どうしてこのタイミングで、そんな火種を投下して来るのか。
桜「ダメです! 絶・対・ダメ――――!!!!」