ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~ 作:黒兎可
?ビ?「あっ」
?ビ?「奇遇ね」
ザ??「うん」
?ビ?「……ひょっとして、私達って前世本当に双子だったりするのかしら」
ザ??「よくわからないけど、ここまで発想が近いとむしろ同一人物とかの方がしっくり来るのでは?」
「士郎?」
「――――――?」
土蔵にて。いつものごとく桜が起こしに来たのかと思って目を開けると、そこには遠坂が居た。
おかしいな。なんだろうこの光景は。さらりとこちらを見下ろして、不機嫌そうに半眼の遠坂。
ぼうっとした頭で二三度瞬きし、嗚呼夢か、と再度瞼を閉じる。
「――――って、何二度寝しようとしてんのよ、アンタ!」
「おわ!?」
背筋に電流が走るような痛みを感じて、思わず立ち上がる。と、遠坂はそのまま俺の襟元を引き寄せて、鼻先がくっつきそうになるくらいの距離で怒鳴ってきた。
「アンタ、だから性懲りもなくまた投影してんでしょ! これ以上やるっていうのなら、私にも考えがあるんだから、覚悟しなさい!」
「こ、これ以上て一体――――」
と。ここで段々と頭がはっきりしてきて、今の状況が夢でもなんでもないという認識が出来る。遠坂との顔の距離の近さに、感じる感触とかに飛び退きそうになって、でも遠坂がそれを許しはしない。
「だ、大体遠坂、どうして!?」
「何、私が起こしに来たことがそんなに変だってこと?」
「いや、そういう訳じゃ……、いや、そういう訳だけど」
「言ってる事前後で矛盾してるじゃない。士郎、寝ぼけてる?
簡単に言うと、桜が藤村先生の朝食準備しているのを見計らって、暇だから来たのよ。そしたらこのザマなんだから、そりゃ怒りもするわよ」
言われて周囲を見渡せば、大量の干将莫耶の山。
そういえば、投影するだけ投影して、そのまま力尽きたんだっけか……。
「まぁ、それについてはもういいわ。後々どんなに後悔しても仕方ないようなことにしてあげるから」
「なんでさ。いや、その、出来る限り周囲への被害が少ないやつで頼む……」
「大丈夫よ。それくらいは士郎の甲斐性でなんとかなる程度にはしてあげるから。
でも、桜が寝た後にされてちゃ、流石に難しいわね……」
ぶつぶつと何かを検討しているらしい遠坂。その恐ろしい光景は別にして、俺は抱いた違和感の正体に気付く。
つまるところ、なんで朝に弱い遠坂がこんなに早くこっちに来ているのかということ。ひょっとして徹夜でもしたのだろうか。
「あ、そういえば。さっきリーゼリットから電話きてたわよ」
「リズから?」
「うん。確か……」
一度咳払いをしてから両手を合わせてスカートの手前におき、無表情になって遠坂は言った。
「イリヤ、逃げ出せなかった。
セラ、新しい作戦を立てた。イリヤも、しょけん。私もしょけんだから、かわせなかった」
「……似てるな、意外と」
こういう小芝居には、何故か結構力を入れる遠坂だった。
それはともかく、そんな訳で。
朝食と書置きを残して早々に移動を開始した結果、時刻は未だ十時を周っていない。
明らかに不慣れな俺や桜に、遠坂は得意げに笑った。
「とりあえず、桜、行きたい所とかある?」
「へ!? わ、私は……、先輩が行きたい所だったら」
「ふぅん。じゃあ、士郎は意見ないわね?」
俺に意見を窺わないあたりが、流石に遠坂だと思う。というか、既にそこら辺全く慣れてないあたりは把握されているとみていいだろう。
と思っていたら。
「あら、そうでもないかしら。セイバーとデートした時、そういえば士郎が一応先頭だったのよね。
面白かったところとかってある?」
「んな!?」「ええ!?」
唐突に、今まであえて意識してなかったような話題を出す遠坂と。それに何故か過剰に反応する桜。「あら知らなかった?」みたいな軽いノリで、桜にセイバーと俺がデートしたコトを明かす遠坂。
「うそ、先輩……」
「じゃ、そういうことなら士郎に先導してもらうかしら」
「出来るか、この状況で!?
だ、大体、あの時だってそもそも、俺もセイバーも全然なれてなくてだな……」
「その割にはセイバーの部屋にあったライオンのぬいぐるみを持ってきてるわね。たぶん、セイバーの代理ってことなんでしょ?」
代理って言い方は絶対意味が違うとは思うが、まぁ、その意見は否定できない。
実際、あの時買ったこのぬいぐるみを持ってきているのは、セイバーも一緒に遊びに連れていってやりたかったという俺の意思の現れに違いはないのだから。
「ま、そういうことなら二人とも、私の意見には絶対服従ってことでいいわよね?」
「物騒な言い方するなよ……」
「ぜ、絶対って言っても限度がありますから!」
「あら、それくらいは当然じゃない。二人とも私のサーヴァントじゃないんだし、百パーセント本気にはできないでしょ」
「……」
つまりなにか? こいつのサーヴァントの場合は、本当に絶対服従だってことか。
今更ながら、あのアーチャーがよく苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた理由に思い当たる。この何とも言えない心境は、あいつと今の俺とで完全に共有されたことだろう。
「じゃ、行くわよ? ほら桜も反対側を」
「は? 何を――――って、えぇ!?」
遠坂が唐突に、俺の左腕に抱き着いて来る。呆然としてる俺と桜。だったがやがて何かを察したように、決意を表情に秘めて桜がその反対側の腕に抱き付く。
「こ、これでいいですね遠坂先輩!」
「ちょ、二人とも何やって――――」
「こうしてると宇宙人の写真みたいよね。
じゃ、とりあえず直進ね」
そんな風に連行されるかのごとく、本日のデート? ははじまった。
一番最初に服を見て周る事に。
……、早速だが俺の場違い感がすごい。別に女物専門店という訳じゃないのだけれど、桜と遠坂が楽しそうにしているのを目の当たりにして、こう、反応がうまいこととれない。
「でも先輩、基本的に予算で服を選んでいますから……」
「最大のネックはそこなのね。そりゃ経済的でしょうけど、デート服くらいはちゃんとしたものを選びたいわよね」
「ええ!? えっと……」
「桜はそういう意見、もっとはっきり言っていいのよ?」
「遠坂先輩……」
「だそうよ、士郎」
「って俺の話か、今の!?」
「ほら、これなんか似合うんじゃない? チョイ悪みたいな感じで」
「なんで上から下まで完全に黒一色なんだよ!? いや、まぁ格好良い気はするけど……」
「遠坂先輩、これは胸元がちょっと……」
「あら、この着こなしがいいんじゃない。桜も、士郎の鎖骨が見えた方がおいしいでしょ?」
「遠坂先輩!?」
「いや、何の話をしてるんだよそれ……」
と。遠坂たちの服を選ぶより、俺が着せ替え人形と化すという混沌とした事態が発生する。
それだけで消費時間は二時間近く。小さい頃、藤ねえに引っ張られて親父と一緒に周ったときを思い出す。
げんなりしたい心境をやせ我慢して、二人に連れられ。
「で、喫茶店か……」
対面の席に遠坂と桜。それぞれスポンジオレンジとマンゴーラッシュ、あと座席中央にデビルズサンデーが鎮座しているというこの状況。一人黙々とサンドウィッチを齧っている俺に対して、遠坂は余裕そうな表情。
「先輩、大丈夫ですか?」
桜の気遣う表情に、大丈夫と笑う。
気疲れして気落ちしてる訳ではないのだが、ただ単純に、セイバーと昼食をとったときのことを思い出してしまうというだけで。
ちなみに俺の右横には、ライオンのぬいぐるみと一緒に、セイバーがかつて頼んだスポンジオレンジが一つ。
「ほら、士郎も一口。
あーん――――」
「と、遠坂先輩!?」
「あ、ごめんごめん桜。ほら桜も一緒にスプーン持って」
「え? あ、えっと……、え、え、は、はい!
先輩? あ、あ~ん……」
眼前に迫る長いスプーンと、そこに乗ったケーキとマンゴー相手にどうしろというのか。
いや、食べたけど。混乱して判断力の低下した脳みそには、辛うじて甘いくらいしか認識できなかった。
昼食の後も色々出回ったけど、目立つ目立つ。
そこそこヒトの居る駅前。本屋に入ったり、クレープ買ったり、またショッピングモールに入ったり、雑貨を見たり……。朝一番みたいに両腕に抱きつかれはしなかったが、しかしそれでも目立つ目立つ。遠坂の色合いが赤で目立つというのもあるけれど、それ以上に、二人そろって明らかに美人なのだ。姉妹だから当然といえば当然かもしれないが……、後々のことが少し怖い気もしないではないような。
でも、とりあえず桜が楽しめているのなら良いだろうと判断する。
「どう?」
そんな風に眼鏡ショップ内で、くいっとメガネをかける遠坂。赤い、フレームが上についていないそれは、たまに遠坂がかける先生風のそれとも違って似合っている。
似合っているが、ストレートに褒められるだけの余裕は既にない。
「桜はこれかしら。こう……、うん、知的知的! いいじゃない、ナース服とかも似合いそう」
「それ、コスプレになってますから!
あの、どうですか先輩?」
「う……、似合ってる、と思うけど……」
こう、教師風の格好とかも似合うような気がする。
なにせ普段から真面目というか、品行方正な桜なのだ。メガネをかけると、こう委員長的な気質が出ているような気がする。くしくもそれは、セイバーとかに装備させても同様の印象を抱くということだろう。
じゃあ士郎はどれかしら、と桜と遠坂が二人そろって探し始めた瞬間のことだった。
「――――では、衛宮先輩にはこれを推します」
ぬっと、背後から現れた手が俺にメガネを一つかけさせた。黒いフレームのそれを見て、遠坂と桜が絶句。
「な……、すごい、冗談抜きで似合ってる。っていうか……っ」
「先輩、これは……は、反則です! こんなのダメです!」
明らかに二人の反応が過剰だ。
「っていうか、貴女、えっと……」
「霧島です」
そして、再びぬっと、俺の背後から現れた彼女。生徒会の現書記である霧島だった。
ちなみに彼もいます、と指を指せば、その先のベンチの上で、いつものように副会長たる角隅がうつらうつらしていた。
「あら、デート?」
「いえいえ。生徒会の仕事終わりに完全に別れて、寄り道をしたらたまたま合流しただけです。その後に寄ろうとしていた目的地も一緒だったので、たまたまです」
「やっぱり息ぴったりなんじゃない、あなた達……」
「それはともかく、衛宮先輩も隅におけませんね。遠坂先輩は噂に上がっていましたけど、まさから間桐さんまでとは……。ぬふふ、軽く爆ぜれば良いと思います」
「いや、そういうんじゃないからな? というか爆ぜろって……?」
なんだろう、その数年後にでも流行りそうな言い回しは。
あんまり詳しい話、例えば遠坂と桜が実は姉妹だとか、そういう話を突っ込むわけにもいかないので、どうしても説明は要領を得ないものになってしまうのだけれど。
一旦メガネを外そうとすると、しかし突如、霧島がストップをかけた。……いや、なんでさその、愕然とした表情は。
「ダメです、外さないで下さい、というか外すな、それがないと魅力が9割消えてしまいます!」
「口調滅茶苦茶になってるぞ……。というかそれ、ほとんど眼鏡の魅力じゃないのか?」
「今後もそれを着けてくださるというのなら、別に私を先輩に捧げても構わないレベルで似合ってますから!」
何だその、俺が眼鏡をかけることに対する妙な食いつきっぷりは。
というか、女の子がそういうこと言っちゃいけません。
「それはダメー!」
桜からも当然のようにストップがかかると、霧島さんは口元を「ω」みたいなようにして、ぬふふ、と笑った。
「しかしお二人とも、多少は私の意見に同意するところがあるのでは?」
「「…………」」
いや、なんでそこで黙るのか。何だろうその眼鏡への愛は、誰かの陰謀でも働いているのだろうか。
その後、角隅くんが「邪魔になるから」と彼女を引きつれて離れてくれたので、再び遠坂が主導権を握るコトに。
と、そんなタイミングで空は雨天。
「あー、これじゃ出歩けないわね」
「残念です」
「急に雨か。弱ったな、傘とか準備してなかったぞ?」
「んー、さっきの家電ショップのテレビいわく、もっと遅くなれば晴れるみたいだし……。
あ、じゃあこういうのはどう?」
そう言って遠坂が指差したのは、珍しくヒトの少ない映画館だった。
……不意に、セイバーのデートの時には寄らなかったなーという記憶が過ぎる。
「俺はいいけど、藤ねえに連絡入れないとな。
どれくらいのやつを見るか?」
「んー、桜どれが見たいとかあるかしら・」
「へ? えっと、じゃあ……」
そういって、桜が指差したのは……、明らかにホラー映画だった。日本のホラー映画で、呪われた家屋が出てくるらしいってやつの。
はて、桜、そういうのが好みだっただろうかと、ロードショーを見てるときの桜の趣味を頭の中で検索する。
「…………桜、露骨すぎない?」
「へ? な、何のことですか!?」
「いや、士郎はいまいち気付いてないみたいだけど……。ま、いいわ。
じゃあ行きましょうか」
そんな風にして、俺達は映画館に入る運びとなったのだが……。遠坂がいやな感じに笑いながら顔を手で覆っているあたり、また絶対、変なコト考えていやがるな、これは。
まぁそう思ったところで、現時点で俺が理解できなきゃ、回避する術はないのだけれど。
虎「切嗣さん、士郎ったらなまいきにもデートなんてしてるのよー。ちゃんと成長してるって反面、ちょっと寂しいかなー」微笑みながら、墓に線香をあげ手を合わせる。
虎「さて、帰りますか……って、あら?」
メリィ「た、助け……ッ」森の方から現れる。
虎(?)「――――ダメにゃ。君は既に一度、グレーを突破しているニャ」ネコミミを生やし、かなり冷徹な目で。