ボブの聖杯戦争 ~F/sn Unlimited Lost Works~ 作:黒兎可
黒剣「……!? くっ、シロウが助けを求めている……!」
黒槍「いやお前、契約もしてないのにどうやってそういうの察してるんだよ」
黒弓「伊達に直感Aではないってことだろ」
黒杯「やっぱり愛の力かしらね~」
黒狂「……ッ!」(お嬢様、ファイトでございます)
「山の下――――、聖杯の逆に位置している場所っていうのが、気になるわね」
沙条の話を伝えると、遠坂はあからさまに面倒そうな表情をした。
「聖杯の逆?」
「ええ。より厳密には、柳洞寺において聖杯を召喚した場合の逆位置っていうことかしら。山頂と山の下だったら、まさに真反対でしょ?
それに、立地的には柳洞寺の地下ってことになるのかしら? とすると、おかしくなったアーチャーと遭遇したのが柳洞寺だっていうのも意味深かしら」
「――――――」
そういわれてみれば、遠坂の言っていることに心当たりはある。
あの時、アーチャーは確か、ここに悪性腫瘍ができていると言った。そのここという言葉がさすのが冬木だと思ってはいたが――――土地をより限定していても、おかしくないかもしれない。
堕ちた竜脈、とセイバーはいっていた。
またキャスターが街から魔力を吸い上げるのにも利用していた点からすれば。おそらくあの山は、俺達が考えている以上に霊的に意味があるのかもしれない。
そして、そんなことを考えながらも、今にも舌打ちでもしそうな表情の遠坂には、もっとメンタル的な意味があるのかもしれない。
「いや、なんでそんな忌々しそうなんだ?」
「そりゃ忌々しくもなるわよ。……いえ別に、沙条さんが悪いってわけじゃないんだけど」
「さっぱり話が見えないんだが……。遠坂、沙条のこと嫌いなのか?」
びしり、と一瞬石になった遠坂。
視線を逸らしながら、しょうがないでしょ、とでも言いたげに言い訳を始めた。
「個人的には、魔術師としては悪くないと思ってるわよ? 何かこう、微妙に畑違いなことをやってるような気はしてるけど」
「畑違い…・・・?」
「士郎で言うところの強化みたいなものね。沙条さんのやってるのが植物使用を前提、専門とした
そもそも儀式において生贄に捧げるのに、生物を用いるのが苦手なら、別な道を模索するのが妥当だと思うのよ。それが本人にとって王道であるなら、忌避する感情は徐々に減っていくはず。それでも無理やりに実現する道を選んだとすれば、もうそれは、本当のことを言えば向いていないってことだと思うのよ」
にもかからず、基礎能力だけでそれを補い尽くしてるように見えるのよね、と遠坂。
いや、それだと俺とは事情が違うんじゃ……。
「ちゃんとした師から、ちゃんとした教わり方をしてるかどうかくらいじゃないかと思うわ。士郎のお父さんは、士郎に魔術を教えるつもりは初めからなかったんでしょ?」
「そりゃ、確かにそうだろうけど……」
「まぁ……士郎の投影が、召喚とかに見られてるっていうのが良いのか悪いのかってところよね。どっちにしても良し悪しは、後日、色々やってるみたいだし直接問い詰めるとして……」
だからなんでそんな、好戦的に握り拳をつくるのか。
既に日が沈んだ冬木の街。この間の一件もあって、俺と遠坂、ついでにキャスターとで見周りをしている。
「じゃあ、何が理由だっていうんだ?」
そんな俺の当然の指摘に、遠坂は片手で顔を覆った。
「…………まぁ、大体は綺礼のせいなんだけど」
「言峰?」
なんでそこで、その名前が出てくるのか。
「アイツが私の後見人だったって話はしたかしら。お父様が聖杯戦争のせいで死んだ後、綺礼が権利関係とか、色々代理で取りまとめていたのよ。アイツ、お父様の弟子だったから」
「へぇ……」
「ただ、私から見てもアイツ、その手の才能は、ない」
きっぱりとした断言だった。
「――――大体、普通、一等地の土地の契約書と、単なる別宅の契約書間違える!? しかもアイツにしては珍しいことに、心底驚いた顔して『スマン』とか言ったのよ!? ありえないわ、あの似非居神父が自らの非を認めて謝罪するレベルなのよ!!?
その類の女神から運命、見放されてるとしか思えない……! 私が中学に上がる頃になってようやく安定したけど、下手すると私達の家の土地さえ風前の灯だったとか、意味わかんないわよ!」
そしてその断言を皮切りに、遠坂の中で蓄積されていた何かに火がついてしまったらしい。
反応できない俺に向かっても、その攻撃は留まることを知らない。
どうやら言峰、財産管理とか経営とか、その類の才能はからきしだったようだ。
生きてても死んでてもロクなことをしない、あの似非神父。
いっそのこと、そういった財産関係のものは英雄王の枕元にでも忍ばせて置いた方が、まだご利益があったかもしれない。
「で、えっとつまり。遠坂の財産関連を、沙条の家が買い取ったとかそういうことか?」
「正解。……というより、第三次聖杯戦争の時から予備として持っていた土地だったらしいし、私としても手札を一つ減らされたようなもんよ」
「どれくらいだったんだ?」
「私が魔力を溜めていた宝石があったじゃない? あれが、倍は軽く作れるわね。
量的に作れるってだけだから、実際は作れないけど」
「ば――――!?」
聖杯戦争時のパワーバランスが、いともたやすくひっくり返りかねない発言だった。
「いえ、それはまだいいのよ。
そんな私の事情を知らなかったことも、この際どうでもいいわ」
「じゃあ、何が」
「――――言うに事欠いて、泥田坊よ泥田坊!」
ついに着火した何かが、四方八方に爆発してしまった。
「おい遠坂、近所迷惑だぞ? っていうか妖怪扱いか……」
確か、田んぼ返せ~ってやつだったと思う。
「そこまでは言ってないわよ! ただプレッシャーかけてたら、『何、泥田坊?』とか真顔でぼそっと言いおってからにっ! しかも私の態度見て、『その猫被り、非効率じゃない?』とか! なんなのよまったく!」
「――――――」
どうやら俺が沙条に抱いた、飄々としているという性格はあながち間違っているわけでもないらしい。
いや、それ以上に素で容赦がないだけかもしれないが。
だけど、その流れで一緒にクリスマスパーティしてるくらいなのだから、そこまで関係がこじれてる訳でもないんだろう。
「明日からまた学校だし、あー、考えたらまた遭遇するじゃない……、せっかく良い具合に忘れてたんだから、嫌な事思い出させないでよね士郎!」
「お、思い出させたのは俺が悪かったから、胸倉を掴むのを止めてくれ……。あと、キャスターもいい加減とめてくれ」
俺の言葉に、姿を表すキャスターはくすくすと笑っていた。
「いえいえ。仲が良いのは良いことですから♡」
頼む。セイバー助けてくれ。
夜の街の警戒を続けながらも、俺の願いはきっと彼女には届かなかった。
※
夜の十時を回るくらいになって、帰宅する俺。それに何故か、当然のようについてきていた遠坂。
「で、実際問題、間桐の家の方はどうだったんだ?」
「空振りもいいところよ。予想はしてたけど。
でも、少しだけ実りがなかったわけでもないわ」
道中の会話が途中だったからこそ、なんだかんだでついてきたのだろうと判断していたのだが、ここにおいて俺の認識は甘かったと言わざるをえない。
それは俺達の帰宅に気付いて、桜が入り口に来たときに発覚する。
「先輩、お帰りなさ――――」
「こんばんわ? 桜。すっかり板についてきてるじゃない」
楽しげに笑う遠坂と、ぽかんとした様子の桜。
そしてその顔がすぐさま満面の笑顔になったのを見て、ああ、この二人は姉妹なんだなーとか、平和なことを考えていた。
「先輩……、こんな時間まで、姉さんと一緒に、何をしていたんですか?」
「――――ぅっ」
まぁ、実際平和とは程遠い世界がそこにはあるのだけれど。
だが、その地雷処理をするでもなく、遠坂は当たり前のように蹴り飛ばしてきた。
「ああ、桜? 今日から私もまた下宿するから、部屋の準備とか手伝ってくれる?」
「「ええ!?」」
遠坂の爆弾発言に、俺と桜、絶叫。姉を思わせる怖い笑顔が消えて、桜も俺も戸惑う戸惑う。
「あ、あの、先輩。これはどういう……」
「いや、俺も何がなんだか……」
「何よ。状況が状況なのよ? どう考えても拠点を一緒にするのは必要でしょ? それに、ちょっとした『監視』の意味もあるから」
「監視、ですか?」
「そう。桜、あなたのね」
平然と、そして当然とばかりに言い放つ遠坂。
「貴女の状態が不安定だっていうのは、士郎とかこの間のデートのときとかでおおむね察したから。何かあっても士郎じゃ対応できないでしょうし、私も一緒にいてあげるわ」
「姉さん、でも……」
「藤村先生の説得なら、私がなんとかするわ。
まぁ、そうね。一泊くらいすれば既成事実? として言い訳が成立するわね」
いや成立しないだろ、という俺の反論に対して、遠坂はにこにこと笑う。
そしてリアクションがとれないでいる俺達二人に「早く来なさい」と我が物顔で今に上がりこむあかいしんりゃくしゃ。
「……とりあえず、話は上がってからだな」
「あ、はい。お茶の準備してきますね」
そうこうして居間で当たり前のようにせんべいを齧る遠坂。……何故だろう、我が家に合っていないようでありながら、しかし実に板についている。ここら辺は流石に、聖杯戦争中の流れが続いているのか。
いや、そういう意味ではまだ聖杯戦争はしっかり終了していないのだから、むしろ流れは続いているといえる。
そして俺達が会話するにしても、今もっとも危急なそれは桜を交えてするレベルの話ではないとして。それを避けるように話題を選ぶ。
「遠坂、聞いてないぞ? 泊まるって話。あと太るぞ?」
「このくらいで太らないようバランスは見てるから大丈夫よ。ヘルスコントロール、ヘルスコントロール。
それと、下宿は実は前々から考えてたのよ。色々重なったし、いい機会かとも思って。事後承諾で悪いけど、今から方針を変更するつもりはないわ。
……あ、そうそう! テレビつけよっか!」
「なんでそんな楽しそうなんだよ……」
確かに遠坂の家でその手のものを見た覚えはないが。そういえばセイバーも、なんだかんだでテレビは楽しんでいたように思う。
ただし、映った内容に対して遠坂も俺も渋面を作らざるを得なかった。
「あっちゃー ……。今日は新都の方だったか」
ニュースで取り上げられている昏倒事件は、俺と遠坂が今日深山町を回っていたのと正反対の方向を示していた。
「被害状況からして、代行者がなんとかしてくれたって感じかしらね。……どうしよう、後日、正式に支払わないといけないのかしら。協会の方になんとかして擦り付けられないものかしら……」
「なんかボソっと恐ろしいような台詞が聞こえたような気が」
「冗談はともかく。まずいわね。人数が全体的に増えて来てる……。あのシスターたちでも、被害状況を隠蔽しきれなくなってきてるってことかしら」
そうだ。明らかに今日、報道された人数は多い。
沙条たちが言っていた比率に比べ、今報道された人数自体が、いきなり100を超えた。場所が駅だったというのも大きいかもしれないが、今月に入ってから72人とはいっても、いきなり72人全員倒れたという言い回しではなかったろう。
つまり、それだけあの影が飢えて来てるということか。
「自前でサーヴァントなんて召還するくらいなんだから、根っこは明らかに異常なのはわかってたけれど……」
「……遠坂。俺、明日学校を休む」
「は?」
「イリヤに話を聞きに行こうかと思う。もはや電話を入れるとか、そういうレベルの状況じゃない」
「…………それもそうかしらね。まぁ、あんまり学校休んでると色々困るとは思うけど」
「優先度の問題だ。効率的である必要がある」
「……周りを助けるためだけに効率的ってことじゃなくて。私は士郎が幸せになってくれることに効率的でなきゃいけないと思うけど」
じゃないと、あの貴方に顔向けできないし、と。
それに対して何か言おうとするタイミングで、桜がやって来た。
「姉さん……、こんな時間に御菓子なんて、太りません?」
「二人とも、確実にそこ聞いてくるわね……。せっかくだし、私の健康法というか、ダイエット法とか教えてあげよっか、桜」
「是非!」
ごう、と疾風のごとく遠坂の手を両手で掴む桜。あまりに勢いに、思わず遠坂も身を引いていた。
気を取り直して、三人してそれぞれコの字型に座り、遠坂主導で話が進む。
「端的に言えば、間桐臓硯が裏で色々やってるっていうじゃない? ニュースとかでも、こういう昏倒事件が多いことからして、敵が大量の魔力を集めてるんじゃないかって踏んでるのよ」
当然のことだが、桜に俺達が知ってる情報の全てを伝えるわけにはいかない。桜も既にマスターではなくなってるのか、キャスターの存在に感づいている気配はない。カバーストーリーでも、なんらかの情報を伝えることは大丈夫だろうと判断だ。
そしてこれを言う以上は、今日、間桐の家を調べたことに対するカバーストーリーの意味合いもあるんだろう。
「それで、私は――――」
「これもまぁシンプルなんだけど。いくらあの似非神父が調整したからっていったって、桜? 貴女、一度暴走してるじゃない。そして私の見立てでも、今の貴女もちょっと不安定よ?
おおかた、臓硯から少し魔力をとられてるんじゃないの?」
「それは……、…………」
「別にそれをしてる貴女が悪いっていってるんじゃないの。ただ、無理をしてるのなら一声かけて欲しかったかなって思って。
私、そんなに頼りないお姉ちゃんかしら?」
「そ、そんなことありえません! 姉さんはいつだって――――――はっ」
勢いに任せて自分が口走ったことに、照れる桜と楽しげな遠坂。
「私としても状況が悪化してる以上は、手をこまねいてるつもりはないわ。だから士郎と一緒に調査しようと思う。だったら、拠点を一緒にするのは妥当でしょ?
幸か不幸か、二ヶ月前に置いてきたものはそのまんまだし、入植の手間もはぶけるしね」
「入植とかいうなよ。植民地じゃあるまいし」
遠坂は大英帝国か何かなのだろうか。……しゃれになってない。遠坂が進路を検討してる協会も英国にあるとかなんとかだし、我が家に「東遠坂会社」でも作りかねない。
只その言葉を聞いてから、桜の表情が曇った。
「……だったら、私は、間桐の家に帰りますね」
それは、完全に俺達の予想を超えていた。
「ちょ――――、話聞いてた!? 桜」
「聞いてました。でも……、だったらダメですよ、姉さん。だって私は、いつ何があるかわからなんですから!
もし私が操られでもして、姉さんたちに不利になる情報をお爺様に知らせでもしたら…・・・! それで先輩たちを追い詰めて、もし死んでしまったら……! 私、そんなの耐えられません!
私のことなんていいんです! 姉さんたちにもしものことがあったら、私――――――」
――――――思えば、今、間桐臓硯に決め打ちで敵対している以上、桜が状況を知ってるというのは、確かに得策ではないと言える。
いや、桜も今の話が、ある程度は虚実入り乱れたものだとは察しているのだろう。でも、そうであっても自分が俺達を害するくらいなら、と言っている。
「……賛成はできないわね。慎二が桜をこっちに来させたのとは別な思惑で、臓硯も桜がここに滞在するのを許可したんでしょうけれど。それ以上に、桜が間桐の家に戻って、こっちに不利益が発生しないと言う補償はない」
「姉さん――――」
「貴女、なんだかんだ言って自分が特殊な状況にあるってわかってないでしょ。そんな状況下で、そうね……。自分の知らないところでリスクを放逐するなんて真似は、魔術師としても出来ない。
それに、今更『あんなところ』に戻すつもりもさらさらないわよ」
「――――――――! 姉さん それは」
「まぁ、私が言うだけで足りないなら、士郎もなんとか言いなさい」
促されるまでもなく。遠坂の手を引くと、驚いた顔をされるが、それを無視して、桜の左右を覆うように、俺達は座りなおした。
「先、輩――――?」
桜が何かと言う前に、俺は、桜を抱きしめた。
息を呑む声を聞き、視線を遠坂に向ける。アイコンタクトは伝わらなかったようだけど、それでも意図はさっしてくれることを期待する。
「お前が、俺とか、遠坂とかを大事に思ってるのはわかった。
だけど――――俺達だって、お前が大事なんだ。お前にもしものことがあったら、俺達だって悲しい」
「せん、ぱ……っ」
「だから、全部飲み込まなくてもいいんだ。遠坂もいったけど、それこそ、俺達はそんなに頼りないか?」
「わたし、わたし――――、
わたし、ここに居てもいいですか?」
震える声。視線をさまようわせる桜に、遠坂が俺とは反対方向、つまり背中側から桜に腕を回す。
「何、今更なこと言ってるのよ。私達、家族でしょ?」
「――――――っは、はい……!」
そんな震える声を、俺と遠坂の二人で抱きしめながら、そして――――。
「――じゃ・じゃじゃ~ん! 大・復・活!
って、あれ? シロウたちどうしたの?」
「「「………………」」」
流石にこの状況で、堂々と出現したイリヤに。俺達三人は見事に絶句していた。
「って、あれ? シロウたちどうしたの? ……ふぅん」ちらりと凛、桜を見て、視線を細めるイリヤ