私の知識不足もあるので、誤った知識を書いているかもしれません。
今回はブライダル企画の話です。たぶん前話である『怠惰な飴と駄洒落お姉さん』の続きっぽくなってます。そこらへんをご了承ください。
皆さんは6月と聞くと、どんなことを思い浮かべるだろうか。
例えば、学生や、社会人なら雨が多いだろう。雨は歩きによる通学や、自転車通学の学生にとっては見過ごせない問題となってしまう。おそらく、普段は天気予報など見ない人たちでも確認しなければいけなくなり、とても面倒な季節という印象だろうか。そして、さらにその面倒くささを助長させるのが、休日の少なさだろう。知っている者も多いと思われるが6月には祝日がないのだ。もちろん、何で国は祝日を作らなかったんだー、とかいう声もあるだろう。理由は簡単、特に国民の生活に関係ある出来事がなかったからだ。
画して、6月は嫌われる月になったとさ。ちゃんちゃん。
しかし、そんな6月を良しとする人もいる。
皆さんはジューンブライドという言葉を聞いたことがあるだろうか。
6月に結婚したカップルは幸せになれる。というジンクスじみたものだ。
何故6月に結婚すると幸せになるのか?諸説あるが最も有名な説としてギリシャ神話から派生したという説がある。ギリシャ神話の最高神であるゼウス。彼には妻が一人おり、その妻は正妻であり、名をヘラという。
ゼウスには人間の守護神、支配神としての役割があるように、ヘラには女性や子供、家庭の神とされていたらしい。さらにヘラの母乳は肉体を強くするとされており、そのこともあり、転じて結婚生活の神とされた、とされている。
そんなヘラはローマに伝わった際に『ユーノー』(juno)と名前を変えた。そうして伝わったユーノーは6月1日に祭られるようになった。結婚の神が6月に。そこからjunoは6月を意味するjuneへと伝わり、6月に結婚の神を祭っていることから、結婚を意味するブライド(bride)がくっ付き、ジューンブライドとなったわけだ。
「ふーん、それはわかったけどさ。なんでそれを杏に言ったの?」
私はメモを書いてきた手帳を閉じる。外は今のこの時期にしては珍しく、数日ぶりに晴れており、気温は先日の雨が蒸発して蒸し暑くなっている。私たちは社用車を使い、次の現場に向かう途中だった。しかし、先方の予定が狂ったので、少し空き時間が出来てしまい近くのコンビニで車を止めて時間を潰すことにしたのだ。流石にアイドルを外に出すわけにはいかないので、車内で、だが。
「いや、まぁわかるだろ?」
私は運転席から杏に一枚の紙を手渡す。後部座席に座っている杏はそれを受け取ると、露骨に嫌がった。
「ブライダル企画かぁ・・・、なんで杏なんだか・・・」
「俺にもわからん」
先方による、是非双葉さんも使ってみたい、という要望があったのだ。なんでも少し前にきらりちゃんたちによるブライダルCMは、中々の反響だったらしく、続編を出してみないか?という話が上がったらしい。そこできらりちゃんは杏と二人でしてみたい、と言ったらしく、この企画が回ってきたのだ。
しかし、この企画を見たときの私の心情としては穏やかではなかった。理由としてはまず、きらりちゃんの頼みとは言え、それは難しいからだ。予定を組みなおさなければならないし、予定が合っても一日しか会えない可能性がある。さらに見た目の問題だ。前回の企画では背の大きめのアイドルが集められたらしいが、杏は139センチだ。さすがにどこかの団体に怒られそうな見た目なのだ。
と、ここまで否定をしてきたが、結局のところ杏の一存だ。杏がやりたければ、私は全力でスケジュール調整をするし、どこへでも頭を下げにいく所存だからだ。
「それで、その企画受けたいか?」
私は流し目で杏を見る。杏はうーーん、と唸ると私をちら、とみて質問してきた。
「プロデューサーは・・・どう?見てみたい?」
「なんで俺に聞くんだよ・・・。でもそうだな・・・」
杏の花嫁衣裳か・・・。杏の親族より先に見てしまうというのはいかがなものかとは思うのだが。それにしても、いつかは、私も杏の結婚式に参加することになるのだろうか。そのころには杏も少しは落ち着いて家事なども出来るようにはなっているのだろうか。結婚のときの衣装はどんなものだろうか。結婚相手はどんな男だろうか。杏を支えられる人物か、それとも引っ張って行ける人物か。
私が頭を抱えて悩んでいるので、杏が少し顔を覗き込んできた。
「プロデューサー・・・、もしかして見たくない?」
私はその言葉に、頭を抱える動作が止まり、顔を上げた。そして再び少し唸った。
「うーん、見たい・・・かな」
色々、杏の将来を想像できそうだ。見てみるとするか。
「そっか。なら杏、この企画やるよ」
「え、そんな簡単に決めんのかよ」
「こういうのはフィーリングだよ、プロデューサー」
適当だな・・・。しかし、私が決めてしまったようなものなのだが、大丈夫だろうか。とりあえずどうにか当日までスケジュール調整をしなければ。
「うっきゃー!杏ちゃん、かわゆーい!!」
「ちょっと、きらり抱きしめる力が強くて痛いんだけど」
「杏さん、とぉってもお似合いですよぉ」
部屋の中から姦しい声が聞こえてくる。その女の子たちによる声は、私が思わず扉を叩く手を止めてしまうほどだ。中にいるのは諸星きらりちゃん、杏、佐久間まゆちゃん、の三人だ。まゆちゃん・・・、いや、佐久間さんは何故参加したのかはわからないが、おそらく前のブライダル企画に参加していた響子ちゃんの伝手だろう。そう考えておく。
私は、扉をこんこんと二回ノックして中にいるアイドルたちの名前を呼ぶ。
「杏さんのプロデューサーさんですかぁ?杏さんの衣装を見てあげてください」
「え、ちょ!いいよ別に!」
「そうだにぃ!杏ちゃん、今日はハピハピになる日だにぃ、大事な人にも見てもらわなきゃ、勿体ないの」
なるほど、この二人がここまで絶賛するとは、相当なのだろう。衣装自体は、前回のブライダル企画のきらりちゃんの衣装がなくて大変だった話を聞いていたので、私は事前に色々なところを回りお目当てのもの探していた。まぁ、サイズが合っているのはわかっているが、実際に着るのをみるのは初めてなので見てみることにしてみよう。
「じゃ、お邪魔しまーす」
入ったときに目に入ったのは妖精、もしくは天使の姿だった。ウェディングドレスはシンプルに、いつもは二つにまとめている髪の毛を編み込んでアップにしている。そしてその髪にはティアラがあしらわれていた。そんな杏の花嫁衣装に私は少し見とれてしまっていた。
「プロデューサー。ど、どうかな」
杏は不安そうに私の顔を覗き込む、前に車で覗き込んだ時と違い、少し化粧をした杏の頬は赤くなっていた。それがたまらなく、私の心を揺さぶらせた。
「あの、なんか言ってほしいんだけど・・・」
私はやっとのことで意識を取り戻すと、少し顔をそらしてから小さな声で話した。おそらく私の顔も赤くなっているだろう。
「綺麗だ」
私は言うだけ言うと恥ずかしくなってきた。
「と、とにかく、会場の準備できたから!後でな!」
私はそのまま会場に走り去ってしまった。
会場では、多くのスタッフが走り回っていた。今回の企画は第二弾ということで、前回のときほど力は入れていないらしいが、それでも多くの人がいた。やはり、企画とはいえ、女の子にとっての大事なイベントを演出するのだ、念には念を入れる必要がある。そしてその走り回っているスタッフの中にはきらりちゃんPや佐久間さんPもいる。
会場はとあるチャペルを借りて行われている。今回はそんなに予算を割けないので全員一緒の会場でやってもらうことになっている。チャペルはこじんまりとしてはいるが、どこか神秘的な雰囲気が漂っている。
アイドル達が会場入りすると、一層慌ただしくなる。私はまだ先ほどの気恥ずかしさがあるので、アイドルたちから離れつつ、周りのスタッフさんたちに挨拶をする。
「今日はよろしくお願いします。すいません、無理を言ってしまって」
「あぁ、杏ちゃんのとこの。いや、いいんだよ。女の子の晴れ姿さ、力を貸さないわけにはいかないからね」
「はい、ありがとうございます」
私は丁寧にお辞儀をすると、時計を見てそろそろ始まるころだな、と思う。
撮影は順調に進んでいる。佐久間さんもきらりさんも流石である、やはりこういう女の子らしい企画は得意なのだろう。しかし、杏は今まであまりこういう企画には取り組んでこなかったので少し手間取っているのだ。
私は現場監督さんのところに近づき、相談を持ち掛ける。
「どうですかね、杏。手間どっているようですが」
「うーん、なんかね、こう、感情移入が出来てないのかな。まぁ、難しいことではあるんだけどね」
「・・・なるほど、ちょっと休憩良いですか」
私休憩をいれさせ、杏に近づく。椅子に座っている杏は相当集中していてやっていたのに、okをもらえないのでイラついているようだ。まぁ、杏は普段こういう仕事をしないのでこうなるかな、とは思っていたが。
「どうだ、杏。難しいか」
私が近づいていたのに気づいてなかったのだろう。私に顔をを向けてため息をつく。
「だめだねー、杏には向いてないや。イメージが湧かないんだよね」
あんまり言ってはいけない言葉だが、言うしかないだろう。アドバイスのためだ。
「なんか好きな人とかいないのか?もしくは演出変えるか?」
私の言葉に杏はピク、と反応する。どっちに反応したかわからないが何かしらのイメージが湧いたのだろう。よかったよかった。すると杏は、私の顔を見てニヤッと笑った。
「なら、プロデューサーに手伝ってもらおうかな」
「・・・は?」
後日、完成した映像が届いた。あのあと杏が提案した変更はスタッフたちにどよめきを生んだが、概ね成功した。私はどうかと思うが。
私と杏は休憩室のソファに座り、その映像を見ていた。
杏が提案したのは、私を使うことだった。簡単に言えば、杏がずっとNGをもらっていたのは、花束を持って、カメラに向かってセリフを言うものだったからだ。それでは慣れてない人では感情移入しづらいだろう。そこで杏が考え出したのが、私を使うことだった。そもそもの撮影方法を変えて、ヴァージンロードを私と歩く形にしたのだ。もちろん、それでは批判や反感を買うことが目に見えていたので、私のところを映さないようにかつ私の方から映すことにより、新婦気分も味わえるという仕様だ。
それと、追加でヴェールも頼んでいた。
「はぁ、結構ギリギリの作戦だったな」
私の言葉に杏は飴を舐めながら答える。
「そーでもないんだけどね、杏なりに考えてたし。だいじょーぶでしょ」
「まぁ、それならいいけどよ・・・」
そのとき私は目を疑った。杏の横顔を見たとき、目に一瞬、ハイライトが宿っていなかったからだ。
「プロデューサーさ、ヘラは結婚の神様って言ってたよね。でもさ、ヘラにはもうひとつの一面があるんだよ?」
「・・・なんだよ」
私はゾッとした。杏はこんな薄っぺらい笑顔をしただろうか。杏は映像が映っているテレビの方を見ながら話す。
「嫉妬の神、だよ。夫であるゼウスが浮気性だったからね。それを基にした話なら、ヴェールをするってことはヘラを見習うってことなんだよ。だからさ・・・」
「お、おう」
「杏を・・・幸せにしてね?プロデューサー?」
ここからはただの蛇足的な話ですが、この話の杏に恋愛感情はありません。
要は大事な友達がどこかへ行かないように・・・みたいな感じなんです!ヤンデレとかじゃないんです!