怠惰な飴のプロデューサー   作:輪纒

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鷺沢さんです。先週雨の話書いていたのに、もう暑くなってきて一話分潰されました。

ふみふみの言葉遣いは難しいですね、もし違うと思った方は、どうか教えてください・・・。

みなさま、デレステのシンデレラフェスはいかがだったでしょうか?
私は7人当てました(60連)

Little POPSのメンバーはいいですね。飛鳥くんと杏のふたりは特に好きなので嬉しいです。コミュの水着も可愛かったですね。


怠惰な飴と本の虫

「杏さん・・・この文はこちらに・・・」

 

 事務所にカリカリ、とペンがノートを走る音が微かに聞こえる。そちらを少し覗くと赤い足跡が黒い足跡を上書きする。赤ペン先生をここで見ることになるとは思わなかった。

 

「うぅぅぅ・・・」

 

 ここ、事務所の休憩室には様々な機能が備わっている。これはアイドルの年齢の幅を広く取る、という方針の関係上。様々なアイドルからアイデアをもらい休憩室をプレイルームへと改造していったのだ。アイドルのニーズに答える。それは並大抵のことではなく結果として事務所の私たちプロデューサーの作業場よりも大きくなったほどだ。そんなプレイルーム兼休憩室には大きく三つの分類に部屋が分けられる。ひとつは元々の休憩室の意味通り、ベットが数床ある休憩室、ひとつは主に中高生組が使うテレビが一台(85インチ)が置いてあるテレビ部屋、そしてもう一つが、こちらも中高生組が使うことがある勉強部屋だ。

 

「文香の教え方は上手いんだけどさぁ・・・」

 

 今私たちはその勉強部屋にいる。仕事に優劣を付けるつもりはないが、元々は今日は大した仕事もなく。午後からは暇になる土曜日だった。というのも杏も受験期に入り少しずつ仕事を減らしている影響だった。それに加え、杏は数日前まで高校のテスト週間だった。大学受験を決めてからの杏は勉強を少しずつだが頑張って来た。その結果が報われるといいが・・・。そして今日は暇が出来たので、その復習をしようとしていた。まぁ私は要はこの部屋を使うためのお目付け役だ。

 

「確かに、わかりやすい説明とゆっくり伝わる速度で話してくれるからな。わかりやすいだろうな」

 

「あ・・・、どうも、、ありがとうございます」

 

 そして事務所にたどり着いたとき、出会ったのが鷺沢文香さんだった。この人は有名国公立大に入学している方なので杏に何か得意科目でいいから教えてあげてくれないか?と頼んだところ、快諾してくれたので今に至るのだ。実際鷺沢さんは教えるのが上手く、杏の苦手科目である文系科目をカバーしてくれた。

 

 鷺沢さんが杏に何かを言う。すると杏は少しだらっとしだした。

 

「それにしても・・・杏が文系科目苦手とは思わなかったな」

 

 私の言葉に鷺沢さんが同意の言葉を述べる。

 

「そうですね・・・。私の杏さんのイメージは、勝手ながら、何でも出来る方だと思っていたので・・・」

 

 私と鷺沢さんの言葉に杏は眉をひそめる。まぁ私の中でさえ、勝手なことに杏は文系人間のイメージがあるのだ。勉強もしないニートのイメージが強いが。

 

「杏は元々勉強そこまでしなくてもそこそこの点数は取れるはずなんだけどさ・・・」

 

 杏の言う通り、学校の定期テストの点数は悪くはない。杏の通っている高校はなかなか偏差値が高かったはずだが、その中でも仕事を嫌々ながらこなし、きちんと二桁代の順位に入っているあたり、杏の詰め込み力というか、底力の強さを感じられる。あまり詰め込みは褒められたことではないが、アイドルの仕事をさせている以上、私の方からも強くは言えないのだ。しかし、杏は天才型に見せかけた努力型なので、もしかしたら私の知らぬところで勉強しているのかもしれない。

 

「確かにそうだな。俺もそれは知っている」

 

 私の同意の言葉に、杏は私の方をチラ、と見てから、はぁ、とため息をつく。何か変ことを言っただろうか、と思い鷺沢さんの方を見ると、少し困った顔をして、首を傾げた。

 

「プロデューサー・・・。いやなんでもないや」

 

「なんだよ、気になるな・・・」

 

 杏は回転椅子でくるくると回り私と目線を合わせようとしない。私の言葉を無視する気か。

 

 鷺沢さんが腕の時計を見て、杏に声をかける。すると杏がまた机に向かい、勉強を再開する。私も腕時計を見ると15分ほど経っていた。おそらく今のは休憩時間だったのだろう。となると私は二人の休み時間を邪魔してしまったわけだ。次からは気をつけると同時に謝っておく。

 

「それにしてもさぁ・・・。今日暑くない?まだ夏本番には早すぎると思うんだけど」

 

 杏の言葉に同感なのか、鷺沢さんはハンカチで額の汗を拭い、ふぅ、と一息つく。杏は下敷きでパタパタと仰ぎ、とてもファンには聞かせられない声をあげる。ほんとにこいつは最悪だ。だが、今日が暑いのは同感だ。杏と鷺沢さんは私の方を見て、少し嫌な顔をする。おそらく私のスーツを見てそう思ったのだろう。私でも客観的に自分を見たら最悪の格好だと思う。

 

「二人ともそんな嫌そうな顔をしないでくれ。結構傷つくんだ」

 

「あ・・・。申し訳ございません・・・」

 

 鷺沢さんの申し訳なさそうな態度を取り、なるべく暑そうな態度を出さないようにしていたのとは違い、杏は露骨に暑がり下敷きでは満足できなかったのか、下敷きをしまい、シャツの襟元をバサバサとする。・・・アイドルってなんだよ。

 

「おい杏、あまり襟をバサバサするな。胸が見えるぞ」

 

 私の言葉をセクハラだと思うかもしれないが、私は杏に遠慮しないで言うように言われているし、逆に杏も私に対して遠慮せずに言うように言ってある。杏はシャツをバサバサさせる手を止めると口を、うの形にして尖らせる。思ったよりも勉強部屋は暑いのかもしれない。壁に掛けてある温度計を見ると部屋の室温が30℃を超えていた。これでは暑いはずだ。

 

「よく見たら30℃超えてたのか。そりゃ暑いわけだ。扇風機でも出すか」

 

「その判断遅いよ!プロデューサー」

 

「私も・・・溶けてしまいそうです・・・」

 

 おおう、アイドル二人に無理させていたとは私もプロデューサー失格だな。私は二人に、ちょっと待っててくれ、と言い扇風機を倉庫から持ってくる。少しホコリを被っていたが雑巾で綺麗にして、扇風機のスイッチを入れると、生ぬるい風がむわっと流れ出した。が、それでも先ほどのムシムシとした不快感が少しは和らいだ気がした。

 

「さぁ、これでいいか?頑張ってくれ。すまんが鷺沢さんもう少し杏の勉強に付き合ってくれ」

 

「はい、任せてください」

 

「文香ー、ここ教えてー」

 

 杏のhelpに鷺沢さんが向かう。案外仲が良いのかもしれないな。

 

 

 

「そういえば―――」

 

 鷺沢さんの声に私はハッとする。どうやら少し寝落ちしてしまったようだ。私は持っていた本を挙げたまま、腕の時計を見ると短い方の針が2から4へと移動していた。2時間も寝てしまっていたのか。小説で顔を隠しながらも杏たちの方を見ると、どうやら勉強を中断し雑談に入っているようだ。二人は真剣な顔をしているので声を掛けずに聞き耳だけ立てることにした。

 

「杏さんは・・・どうして、国公立を目指しているんですか・・・?」

 

 それは私も気になっていたところだ。確かに私は大学へ行け、とは言ったが国公立へとは言っていないので不思議に思っていたのだ。なにか心の中で変化でもあったのだろうか。杏は顎に指を当てて、うーん、と言って、回転椅子でくるくると回る。

 

「逆に文香はさ、なんで今の大学に行ったの?」

 

 杏の問いに、今度は鷺沢さんが、うーん、と唸る。

 

「何故・・・と言われると困ってしまいますが・・・。本が好きだからでしょうか。もちろん、他にも様々な理由はあるのですが・・・。主な動機としては、これですね」

 

 なるほど、本が好きというだけでそこまでたどり着けるとは素晴らしいとしか言いようがない。杏も納得したのか、うんうん、と頷いている。

 

「じゃあ、なんでアイドルになったの?」

 

「アイドル・・・ですか。それは・・・」

 

 ここらへんはアイドルごとに色々だが、デリケートな部分だ。私と杏の出会いくらいサッパリしてるならいいが、人によっては担当とアイドルだけの秘密ということになっていることもある。だから私は鷺沢さんが話すときは耳をふさいだ。

 

「―――――――――――、――――。――――――」

 

「―――――――――――――――」

 

「――――――、――――――――――――――――」

 

 何を言っているかはわからないが、そろそろ大丈夫だろう。

 

「――うなんだ。杏はさ、プロデューサーに騙されたんだよね」

 

 おい、あいつは何人聞きの悪いことを言っているんだ。だがどうやら話を聞き直すタイミング的にはバッチリだったようだ。ああいうのは聞かない方がいいのだ。しかし、杏のアイドルの話はなんども聞くが面白い。

 

「最初はさ、印税で楽できるから、みたいことで釣られてアイドルを始めたんだけど。蓋を開けてみたら全然違うんだよね。レッスンは辛いわ、仕事で夜遅くなるわでさ。杏は何回もやめようとしたんだよ?」

 

 杏は、最初はまったくこっちの話を聞く気がないし、働きたくないの一点張りだった。確かに怪しい人物が急に声をかけて来て、『アイドルにならないか?』は怖すぎる気もするが。それを考えると杏は話を聞いてくれただけありがたい方なのかもしれない。とんでもない精神力なのか、危機管理がないのか。

 

 鷺沢さんはクスリと笑い、すいません、と謝る。

 

「私のときとは全然違うんですね」

 

「そりゃそうだよ、でもさ、やっていくうちになんやかんや楽しくなってきてさ。今ではこうやってアイドルとしてやっているんだけどね」

 

「・・・そうでしたか」

 

「それでさ、やっていくうちに気の合う友達も出来たんだよね。ユニットまで作って、曲まで出してさ。杏の世話までしてくれんの」

 

 私にはそれが誰なのか想像が付いている。確かにあの娘にはとてもお世話になっている。

 

「アイドルってさ、みんないつかは引退すると思うんだよね。そいつも杏も、文香もさ。そのあと何をしようか杏は全然考えてなかったんだけど、冷静になってみたら杏もいつかは引退するんだよ」

 

 私も、鷺沢さんも何も語らない。ただ杏の話を聴いている。

 

「そのとき、私はやりたいことが見つかってさ。つい数か月前なんだけどね。そこからは将来のために、とりあえず大学には行こうかな・・・ってね。・・・あー、杏らしくない」

 

「いえ、そんなことなかったです・・・。とても・・・とても、素晴らしい動機ですよ」

 

 私も同意する。さて、そろそろ杏も鷺沢さんも帰らなくてはならない時間だ。

 

「二人とも、話は終わった?送っていくよ」

 

 私が急に声を掛けたからだろう。二人はビクッとしてこっちを向く。鷺沢さんは筆記用具を急いでしまって、バックを更衣室に取りに行った。杏もゆっくりノートや筆記用具をしまっている。こっちを向かないのは、聞かれていたかもしれないという気持ちからだろう。仕方ない、ここは聞かなかったふりをしてやろう。

 

「杏、まだ外は暑そうか?」

 

 私の言葉で、杏は私と目線を合わせないように振り向き、そろっと窓の外を見る。

 

「うーーん・・・、暑そうだね、まだ」

 

「そうか、ならアイスとか奢ってやろう。その代わりテスト頑張れよ」

 

 杏はやった!と言い、鷺沢さんのところに走っていく。私は財布を確認してお金があるのを確認してから少しずつ沈んでいく太陽を見ながら、明日からの仕事を考えて一人笑った。

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